Image courtesy of Cory Strassburger

YouTube ショー Xanadu がパフォーマンスベースの CG を使ってメタバースの一角を作り出す

もう一人の自分を持つのはとてもクールなことです。その性格が自分と真逆であればなおさらです。それがどのようなものかは、Cory Strassburger 氏に尋ねるのがいいでしょう。ビジュアル エフェクト アーティストである Strassburger 氏は、YouTube ショー Xanadu を 1 人で制作するクリエイターでもあります。Strassburger 氏の分身である Blu は、自分の宇宙船 Xanadu に住むエイリアンです。Blu はメタバースの一角に自分の帝国を築こうとしています。
 

Strassburger 氏は次のように述べています。「現実の世界では、生まれつきクールな人がいますよね。私はそういったタイプではありません。私自身はダサくて冴えないタイプです。ですから、Blu が私の分身となることで、現実には決してしないような形で自分を表現できるのです。Blu の世界で Blu になることで、自分の夢を叶えることができます」

Strassburger 氏は自分のことをダサくて冴えないと言っていますが、ほかの人はもう少し優しいようです。Strassburger 氏の YouTube の動画のコメント欄は、「革新的」「スーパーマン」「すばらしい」などの言葉であふれています。
Image courtesy of Cory Strassburger

作品の品質がそういった称賛に値するというだけでなく、同様に注目すべき点として、Strassburger 氏は 1 人で 1 話あたり平均 3 週間というスピードで Blu の冒険のエピソードを制作しています。

Xanadu への道

Strassburger 氏が 1 人で番組を制作できるようになったのは以前のキャリアのおかげと言えるでしょう。カリフォルニアに移り住み、ILM や Digital Domain のような、エフェクトを扱う大きな企業に勤務することを目指していた Strassburger 氏でしたが、現実には、「とてもクールな零細 VFX 企業」で働くことになりました。Strassburger 氏はそこで VFX の全体を学びました。その範囲は、3D のあらゆる側面 (Strassburger 氏によると、Maya 以前の時代で、ソフトウェアの価格が 3 万ドル以上で、実行するには Silicon Graphics の高価なワークステーションが必要でした) から、Flame と Inferno のシステムでの合成とポストプロダクションにまでおよびました。

2011 年ごろ、拡張現実が一般的なものとなり、リアルタイム レンダリングに触れる機会が訪れました。友人の Ikrima Elhassan 氏が iPad を持ってきて、AR エクスペリエンスの作成にどうやって使えるかを見せてくれたのです。「小さなクマが踊るのを見せてくれて、そのときから夢中になりました」と Strassburger 氏は述べています。2 人は力を合わせて映画のような AR エクスペリエンスの制作を開始し、Elhassan 氏がプログラミング、Strassburger 氏がアートを担当しました。

そんなとき、Elhassan 氏が新しいおもちゃを手に入れました。Oculus Rift の VR ヘッドセットのプロトタイプ、DK1 です。Strassburger 氏はそれに圧倒されました。「世界で最高のものだと思いました。VR を経験してからは、VR 以外のことはしたくないと思いました。VR なら自分の宇宙を作ることができるのです」

VR への移行に伴い、2 人は作業環境を Unreal Engine へと切り替えることになりました。その決断のきっかけとなったのは、Epic がソース コードへの無料でのアクセスを認めたことでした。Strassburger 氏は次のように述べています。「それは企業としてはとても重要な決定だったと思います。私たちにとっては、力を与えられるできごとでした。何かに行き詰まったときには Ikrima が回避策を発見できますし、新機能が必要なときには Ikrima が追加できます」

Unreal Engine で作業を行うようになった 2 人は、大企業向けの VR プロジェクトの制作を始めました。それから VR ゲームのアイデアを思い付き、Bebylon が生まれました。戦う赤ちゃんのキャラクターを映画のようにアニメーションさせるというのは、チームの時間と予算の制約を考えると途方もない夢でしたが、深度センサーを搭載した iPhone X がリリースされたことで事情が変わりました。当時の最新機種だった iPhone X では、ARKit を使ってフェイシャル キャプチャを行うことができました。Strassburger 氏は、手に入れた iPhone X を GoPro のアームを使ってペイントボール用のヘルメットに取り付けて、独自のフェイシャル キャプチャ システムを作りました。このセットアップを Xsens のスーツと組み合わせることで、自宅で使えるフル パフォーマンス キャプチャ システムができました。
Image courtesy of Kite & Lightning
それを Unreal Engine でリアルタイムに動かした結果、できたばかりだった 2 人の会社、Kite &Lightning は、2018 年の SIGGRAPH の Real-Time Live! で最優秀賞を獲得することができました。

「それからはさらに集中していきました。何ができるか、どうすれば最大限に活用できるかを考えました。その時点では、そろそろコンテンツについて考えよう、どうすればキャラクターのストーリーを生き生きとしたものにすることができるだろうか、と思っていました」\

Blu の誕生

そうしてできたのが Blu と Xanadu です。「私のクリエイティビティを表したものであり、自己表現でもあります。自分の好きなこと、つまりストーリーを伝えることとキャラクターを作ることの組み合わせとも言えます。私はサイファイとリアルタイムの世界が好きで、そうしたものすべてを 1 つのプロジェクトに集約することで、自分の好きなことすべてを一度にできるようになりました」

Strassburger 氏によると、Xanadu のエピソードの制作プロセスはアニメーション短編映像のものとよく似ています。まず、大まかなスクリプトを作成します。Unreal Engine でボイスオーバーを使ってブロッキングを行い、ラフ編集を考えていきます。それからスクリプトを手直しして、自宅のガレージのパフォーマンス キャプチャ スタジオに入ります。現在では、iPhone と Xsens スーツに加えて、指のキャプチャのために Manus のグローブも使っています。データを組み合わせて Live Link 経由で Unreal Engine に送ります。顔のアニメーションは Epic Games の無料の Live Link Face アプリで iPhone からストリーミングします。Xsens と Manus は Live Link がサポートする数多くのシステムに含まれています。そして、ブロッキングしておいたシーケンスはストリーミングされたモーションで更新されます。
次に、カメラと編集に手を加えて、ライティングを完了してからシーケンスをレンダリングします。最終的な編集とサウンドの調整は Adobe Premiere で行います。

思考のスピードでのクリエイティビティ

Unreal Engine で作業を行っているおかげで、Strassburger 氏は最後の段階になって変更を加えることができます。「多くの場合、最後に加えた変更がそのエピソードの一番いいところになっています。そして、プロセスのその部分に頼るようになりつつあります。問題があって、どうしたらいいかすぐにはわからない場合は、あとで何か思い付くだろうと、そのまま進めておきます。そして、思い付いたアイデアをぎりぎりのところで取り入れます。Unreal Engine ほどスピーディなものを使っていなければ、そのようなことはできないでしょう」

「Unreal Engine は思考のスピードで動作するので、未完成なアイデアでも、あれとこれとを組み合わせて、何か面白いことはできないかと考えることができます。週末にいろいろ試しているうちに、クールなものを完成させることができるか、あるいは優れた概念実証ができて、あとで発展させることができるでしょう」
Image courtesy of Cory Strassburger
Strassburger 氏は完全に 1 人で作業を行っているため、1 つのエピソードの制作に 3 週間半ほどかかっています。参加するアーティストを増やしてこの期間を 1 週間に短縮したいと考えていますが、一方で、特に Unreal Engine を使う場合には、1 人で作業を進めることにはデメリットだけでなくメリットもあることがわかっています。

「編集とカメラのセットアップを行っているときに、ライティングを調整したり、アニメーションを動かしたり、撮影監督の立場から一連のものをまとめて演じ直させたりすることができます。これは大幅なスピードアップにつながっていると感じています。また、クリエイティブな作業を 1 人で行うことには、とても個人的なところがあります。いつでも好きなところに行くことができ、いつでも好きなものを好きなように作ることができます。これはとても自由で、楽しいものです」
Image courtesy of Cory Strassburger

魔法のソースとしての MetaHuman の追加

Xanadu の第 2 話で、Blu がリアルに描かれているのは MetaHuman Creator によるところが大きいということが明かされました。当初、Strassburger 氏は、ヒューマノイドである Blu が「不気味の谷現象」を引き起こしてしまうのではないかと懸念していました。
Image courtesy of Cory Strassburger
「そうしているうちに MetaHuman が登場して、ああ、これはすごい、と思いました。そして、この魔法のソースをいくらか吸い上げて Blu に加え、より良いものにすることができるとわかりました」

Blu はエイリアンであるため、実際には MetaHuman Creator で作成することはできませんでした。MetaHuman Creator は、実際の人間から得られたスキャン データのライブラリに基づき、特徴をブレンドしています。そこで、できるだけ Blu に似せた MetaHuman を作り、肌のテクスチャ、スケルトン、ブレンド シェイプなど、多くのデータを抽出して、キャラクターに取り込みました。
Image courtesy of Cory Strassburger
「MetaHuman Creator のおかげで Blu がよく表現され、リアルになりました。Epic によって、私たちが MetaHuman を使えるようになった結果、最高レベルのアーティストたちがキャラクターを作ってくれて、それにアクセスできるという状態になっています。いくつかクールなことができるようになったというだけではありません。こうしたアセットの作成には、数十年分の経験が活かされています」

エンターテインメントの新しいジャンル

Xanadu は、バーチャルなキャラクター、Vlog、コメディの寸劇を組み合わせたユニークなもので、Unreal Engine のヒントやコツがおまけとして加えられています。また、デジタルのペルソナを作るクリエイターのコミュニティにもなりつつあり、そういったペルソナたちは Blu の元に集うよう招待されています。

Strassburger 氏にとっては重要な場所となっています。「ほかのプロジェクトでは、今ほどの楽しみや自由を味わったことはありません。ある意味では、これは私が好きなものすべてを 1 つのパッケージに詰め込んで、テクノロジーの進化、そして Xanadu と Blu の進化に合わせて継続的に進化させていくものです」

その進化に期待しましょう。
Image courtesy of Cory Strassburger

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