リアルタイムのヘアとファーが使われた Weta Digital の短編「Meerkat」の舞台裏

Mike Seymour
ニュージーランドに拠点を置く革新的な VFX 企業、Weta Digital は、CG による髪や毛皮についてよく知っています。アカデミー賞を複数回獲得したことがある Weta Digital は、これまでに、キング・コングジャングル・ブック猿の惑星フランチャイズなどの傑作に携わってきました。プリビジュアライゼーションから最終ピクセルまで、リアルタイム テクノロジーが映画制作プロセスの重要な一部となるなか、Weta Digital は、リアルタイム ツールを使ったリニアなストーリーテリングで映画レベルの髪、毛皮、羽をどこまで追求できるかを探っています。その結果できあがった短い映像が、Meerkat です。この映像は全編が Unreal Engine でレンダリングされています。
 

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リグ、グルーム、アニメーションが完全に設定されたキャラクターと、環境、カメラ、エフェクト、オーディオが含まれます。さらに、Maya のファイル、最終的なテクスチャ、マテリアルなどもあわせて提供します。


Unreal Engine のストランドベースのヘア、ファー システムが 2019 年に初めてリリースされてから、Weta Digital は Epic Games と緊密に協力し、その制作と改善を支援してきました。Unreal Engine 4.26 では、このツールセットを実制作でリアルタイムのシミュレーションとレンダリングに使用できるようになりました。その過程では、Weta Digital のチームの経験と知識、それに Meerkat の制作を通じて得られた知見が貢献しています。

Weta Digital のこれまでの作品と、国際的に高く評価されてきた独自の高度なツールのことをよくご存知の方は、Weta Digital のチームがこのような優れた作品を制作したからといって驚きはしないでしょう。しかし、このプロジェクトの特筆すべき点は、少数のアーティストが、すぐに使えるツールを利用して作成したというところです。Meerkat は、十分な才能を持つストーリーテラーと十分な才能を持つデジタル アーティストが集まれば、誰でも同じような作品を作れるということを示しています。

それでは、Meerkat の制作の舞台裏を紹介しましょう。
 
過去 4 〜 5 年にわたり、Weta Digital は、インタラクティブかつリアルタイムのイマーシブな空間と Unreal Engine でのコンテンツ制作に取り組んできました。Weta Digital では、バーチャル プロダクションの研究でも Unreal Engine を使っていますが、この短編映像では、チームがリニア コンテンツを制作するために最新の Unreal Engine の標準ツールをどの程度うまく使えるかテストすることが目的でした。

Weta Digital の特別プロジェクト チームでクリエイティブ ディレクター兼ビジュアル エフェクト スーパーバイザーを務める Keith Miller 氏は、次のように述べています。「これを大規模な制作とするつもりはありませんでした。背後にあるワークフローとプロセスに重点を置き、どうなるか試してみるつもりでした」

Weta Digital は、ヘアとグルームについて革新的な仕事を多数成し遂げ、従来の方法で制作された世界で最も先進的な長編映画のいくつかで、ヘアとファーのアセットを開発してきました。このプロジェクトでは、スタジオ独自のパイプラインを使うのではなく Unreal Engine の標準のツールについて調査することに加えて、リアルタイムのワークフローを重視しました。Weta Digital のチームは、ファーが付いた状態でキャラクターについての作業を進めることができ、直ちにフィードバックが得られる状態でショットについてのイテレーションを重ねられることがアニメーターにとってどのような意味を持つかを探ろうとしました。

2019 年に、映画、猿の惑星の 2 体のキャラクター、シーザーとモーリスを使って最初のテストを開始しました。映画では、これらのキャラクターにはデジタルのファーとして最高水準のものが使われていましたが、既存の複雑なアセットを使うのではなく、一般に公開されているソフトウェアを使ってキャラクターをゼロから作成し、パイプラインをテストすることにしました。
Image courtesy of Weta Digital
Autodesk Maya でキャラクターのモデルを作成し、それから、Peregrine Labs が作成した Maya のプラグイン Yeti を使ってファーのグルームを作成しました。そしてグルームを Alembic ファイルとしてエクスポートし、Unreal Engine にインポートしました。

最初のテストの成功を受け、チームは新しい短編作品のストーリーの作成に移り、Molly という名前を付けたミーアキャットと、その敵となるワシを登場させることを決めました。正確な参考資料を得るために、特別プロジェクトのチームは、Weta Digital と緊密な協力関係にあるウェリントン動物園を訪れ、実際のミーアキャットについて研究しました。

従来のストーリーボードでアイデアを練ってから、「チェスの駒でのプリビジュアライゼーション モーション ステージング」と呼ぶシンプルなレベルの品質で、大まかな計画を立てました。これによって、アニメーションだけでなく、環境についての作業も明らかになりました。巣穴はカスタムモデルですが、背景、岩はすべて Quixel Megascans を使って作成されました。Quixel Megascans は Unreal Engine で無料で使用できます。環境で調整が必要な場合や、特定のカメラ アングルで「手入れ」が必要な場合に備えて、これらのアセットは Unreal Engine でアクティブになっていました。

キャラクターとアニメーションの作成の初期段階では、イテレーションが最大の要因となります。Weta Digital のアニメーターは、Maya と Unreal Engine の両方でシーンを開き、Maya で Molly にアニメーションを付けて、Unreal Engine でリアルタイム レンダリングの結果を見ることができました。これは Unreal Engine の Live Link 機能によって可能になった方法です。Live Link は、外部ソースから Unreal Engine にアニメーション データをストリーミングし、そのデータを利用するための共通のインターフェイスを提供します。 
チームは、ライティング、マテリアル、アニメーションを適用した状態で、シーンをあらゆる角度から見ることができました。動物たちのモデルとグルームの作成を担当したシニア デジタル アーティスト、Nathan Farquhar 氏は次のように述べています。「うまくいっていないところ、改善が必要なところを見つけて、通常の映画のパイプラインにあるようなオーバーヘッドなしでとても速くイテレーションを行うことができます」

CG スーパーバイザーの Thelvin Cabezas 氏は次のように述べています。「Live Link はこのプロジェクトを可能にした要因の 1 つです。Maya でアニメーションの制御を調整し、Unreal Engine で表示を確認することで、作業の進め方を制御できます」

ショット固有の作業とは別に、アニメーターは、2 体の動物で適切なパフォーマンスを得るために必要だったアニメーション リグを開発しました。ワシの翼は特に複雑でした。飛んでいるときに表示されるだけでなく、正確に折り畳んで体にしまう必要もあるからです。Farquhar 氏は、ワシのスケルタル メッシュの一部として、ジオメトリベースの羽軸のために複雑なセットアップを作りました。これによって、チームは羽枝をストランドとしてバインドし、ワシの美しい羽を作ることができました。 
アニメーターにとっては、羽にコリジョンの問題がなく、リアルタイムで実行できるワシの作成は、極めて複雑な仕事でした。Molly のグルームは 40 万のストランドであるのに対し、ワシのグルームは 370 万以上のストランドになりました。これまで、ゲーム エンジンで鳥の翼を作成するには、アーティストはカードを使用する必要がありました。しかし、Unreal Engine 4.26 の新しいヘアのレンダリングとシミュレーションのシステムを使うと、長編映画レベルの、精密な羽が生えた翼を作ることができました。 
チームの大部分にとって分岐点となったのは、アニメーション スーパーバイザー、Ludovic Chailloleau 氏が Molly について作成したターンテーブルとウォークサイクルでした。このプロジェクトには自信を持って臨んだものでしたが、新しいヘアとファーのテクノロジーを追求し続けるものとなりました。Chailloleau 氏による繊細なアニメーションと Cabezas 氏によるシェーダーを組み合わせると、非常に印象的な結果が得られることがわかりました。

「Thelvin がシェーディングについていい仕事をしてくれたので、Molly がその場で歩くところを見たとき、とても説得力がありました。その時点で、これはうまくいくと思いました」と Farquhar 氏は述べています。

Unreal Engine のシェーダーは、チームが使い慣れていたものとよく似ていることがわかりました。これはリアリズムを追求するうえで役立ちました。リアリズムの実現について、Farquhar 氏は、全体のコンセプトについて理解することの重要性を指摘しています。「たとえば、Molly は砂漠を走り回っています。地面は乾燥し、荒涼としています。また、巣穴を出入りします。ですから、キャラクターのルックについては、そういったアニメーションとコンテキストを考慮してグルームを作成します」

そこで、Molly の足の周りの毛には、かたまりになっている部分が加えられました。これは、砂漠という設定上、Molly が砂ぼこりの中を走り回っているなら、毛が汚れ、油分が失われると想定されるためです。「そういった要素をグルームに取り入れることで、環境内でリアルに見えるようになり、その個別の環境とのつながりを与えることができます」と Farquhar 氏は述べています。
アニメーションでは、特にミーアキャットが卵の上でバランスを取る場面でチームのスキルが求められましたが、ライティングも制作上の課題となりました。アンビエント オクルージョンにはライトマスを使い、間接光は Lightmass Importance Volume を使ってベイクしました。合わせて、直接光には動的ライティングを利用しました。こうすることで、チームは高品質のライトを作成できました。地表から反射するやわらかい光をミーアキャットにあて、ワシの羽については美しい逆光を描写できました。

Cabezas 氏は次のように述べています。「Unreal Engine で、まず物理的なリアリティから取り組みました。Weta Digital ではいつもそうしています。たとえば、フォトメトリック ライティングの特性が正確であること、太陽の明るさが 10 万ルクスほどであること、カメラの露出が現実的であることなどを確認します」

Weta Digital のチームは、リアリティを確保してから、「映画のライティング」と呼ぶものを取り入れていきます。たとえば、ワシに襲われた Molly が巣穴に隠れて、後ろを向いたところをカメラがとらえる場面があります。Cabezas 氏にとっては、これはライティングが最も難しいショットとなりました。Unreal Engine では、極めて現実的で物理的に正確なライティングを作成できますが、この場合は現実的ではないエフェクトを適用することになりました。現実であれば暗すぎて Molly の表情は見えないはずだからです。
そのような映画的なライティングをリアルに見せるのは、Weta Digital のような企業を特別な存在にする芸術的な技です。先ほどのミーアキャットの場合は、赤みを帯びた間接の反射光をあて、わずかに目を動かすことで、Molly の気持ちと反応を伝えました。「巣穴の内部のショットはとても難しいものでした。いつも、誰も気にかけていなかったようなシンプルなショットが最も難しいものになります」と Cabezas 氏は述べています。

最終的な作品を作成するにあたっては、Unreal Engine の 3D ノンリニア編集ツール、シーケンサーのアニメーションの機能を使用しました。最後に、ムービー レンダー キュー を使用して出力しました。この機能を使うと、蓄積したアンチエイリアスとモーション ブラーを使い、最高品質でレンダリングできます。リアルタイムよりは少し時間がかかりますが (それでも従来のオフライン レンダリングよりははるかに高速で)、リニア出力に適しています。映像はオンラインで試聴されることを意図したものだったので、1920 x 1080 でマスタリングされました。しかし、チームでいくつかテスト ショットを 4K で出力してみたところ、非常に美しい出力が得られました。
小さなチームが証明したとおり、適切な人の手にかかれば、Unreal Engine 4.26 の新しい標準のツールで Weta Digital のような最高レベルの作品を作ることができます。Weta Digital のチーム自体も、プロジェクトの開始当初にそこまで高いレベルを期待していたわけではありませんでした。プロセスを通じて、Weta Digital のチームは、作成したキャラクターと、リアルタイム ワークフローがもたらす自由の両方をとても気に入りました。

Cabezas 氏は次のように述べています。「このプロジェクトはとても楽しいものでした。最終的な成果に誇りを持てるものの 1 つとなりました。誰でも自宅でクールな小動物を作り始めることができます。重要なのは、人間がもたらすクリエイティビティ、スキル、芸術性です」

「Unreal のストランドベースのレンダリング テクノロジーは進歩しました。既製のツールと併せて使えば、才能のあるアーティストが非常に美しい作品を作ることができます」と Miller 氏は述べています。

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