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PXO がスタートレック:ディスカバリーのために現実のホロデッキを作成した理由

Paramount+ のスタートレック:ディスカバリーのシーズン 4 では、画面上とレンズの向こう側の両方で、スタートレック シリーズで初めてとなる大胆な取り組みが行われました。

2017 年に始まったこのシリーズでは、視覚効果とバーチャル プロダクションを手がける企業であり、受賞歴のある Pixomondo (PXO) がそのビジュアルを長編映画レベルへと引き上げてきました。PXO は、視聴者と批評家からそのデザインを称賛され、2021 年のエミー賞にノミネートされました。また、2014 年の映画、スター・トレック イントゥ・ダークネスでは、J・J・エイブラムス監督とスタッフがアカデミー視覚効果賞にノミネートされる手助けをしました。スタートレックの世界を正確に作ることができるスタジオであると言って差し支えないでしょう。

しかし、そのような地位を確立しているにもかかわらず、スタートレック:ディスカバリーの最新シーズンでは、PXO はまったく新しい方向性を取り入れました。ブルー スクリーンとグリーン スクリーンを使った実績あるやり方にこだわらず、バーチャル プロダクションを導入したのです。手始めに特別仕様の巨大なセットを建設し、多数の LED パネル、複数のモーション トラッキング カメラ、そして Unreal Engine を導入しました。

このセットについては、ホロデッキを現実のものにしたと言う人もいました。
 


ホロデッキの実現

1987 年に始まった新スタートレックで、象徴的な (ときには魔法のような) 場所であるホロデッキが登場しました。娯楽にも研究にも使われる道具であるホロデッキは、世界全体を 1 つの室内に作り出すことができます。当時はフィクションの意味合いが強いものと考えられていましたが、バーチャル プロダクションの登場で事情が変わってきました。

PXO の新しいバーチャル プロダクション ステージは、その名前をとって「ホロデッキ」というニックネームを付けられています。トロントにあるこのステージは、William F. White Int'l と共同で制作されたもので、壁に約 2,000 枚、天井に 750 枚の LED パネルがあり、広さは約 22 × 26 × 7 メートルとなっています。ステージの周囲には OptiTrack のカメラが 60 台以上あり、トラッキングを可能にしています。40 以上のハイエンド GPU と Unreal Engine の nDisplay を利用し、2,750 枚以上のパネルを同期させています。クリンゴンのバトラフをどこからともなく出すということはまだできませんが、もう少々お待ちください。
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セット自体も順応性が高く、現実のプロップやセットの飾りを利用できます。ステージに立つ俳優は非常に洗練された地球外や未来の世界を見て没入感を得ることができます。ボタンを押すだけでビクトリア朝のインタラクティブなミステリーを呼び出したり仮想的な水を作り出して地球外の川でカヤックに乗ったりすることができるわけではありませんが、PXO のバーチャル プロダクション ステージと「AR ウォール」はホロデッキを最も忠実に再現したものと言えるかもしれません。
スタートレック:ディスカバリーStar Trek:Strange New Worlds のエグゼクティブ プロデューサー、Frank Siracusa 氏は次のように述べています。「AR システムには多数のコンポーネントがありますが、魔法のような効果をもたらしているのは広い面に 3D イメージを投影するために使われている Unreal Engine です。そのイメージによって、スクリーンとボリュームあるいは「フットプリント」でシーンの演出やセットと俳優の準備ができるようになっています。
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これらのコンポーネントを組み合わせることで、映像制作のクルーを遠い場所まで移動させることなくシーンを作り出せるようになっています。もちろん宇宙に行く必要もありません」
 


32 世紀の探索

ホロデックの運用開始を飾るために、スタートレック:ディスカバリーのシーズン 4 では、13 話のほとんどすべてで何かしら AR ウォールを使った撮影を行いました。ディスカバリーのシャトルベイのような馴染みのある場所や、水中深くにある Kaminar Council Chamber のような風変わりな場所を扱いました。
 
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AR ウォール用にそれぞれ新しい環境を作成するプロセスはプリプロダクションの段階から始まり、PXO のバーチャル アート部門 (VAD) が各環境のプロトタイプを作成しました。ブロッキングのためにラフな環境をすばやく作成する必要があったので、Unreal Engine マーケットプレイスから要素を調達して必要に応じて作り替え、シーンに追加しました。

それから PXO でデザインを分析してアーティストの大規模なチームに届け、全員で協力して最終的な環境を Unreal Engine 内で開発しました。その後は、撮影監督を含む制作チームが必要に応じて変更を加えることができました。撮影の 1 週間ほど前にアーティストが最終的な仕上げを施しました。撮影後に少し修正の作業 (多くの場合は天井と壁の継ぎ目の修正) が必要になることもありましたが、撮影が終われば作業は概ね終わっていました。
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PXO のスタジオ責任者兼 VFX スーパーバイザー、Mahmoud Rahnama 氏は次のように述べています。「Unreal Engine は PXO のバーチャル プロダクションと VFX のパイプライン全体で重要な役割を果たしています。リアルタイムの分野で業界標準の既存のパッケージとこれほどうまく連携できるものはほかにありません。Unreal Engine を選ぶのは当然のことと思えました」
 

バーチャル プロダクションの隠れたメリット

Maya、Houdini、Photoshop、Substance Painter、ZBrush、Nuke などの業界標準のツールと Unreal Engine を完全に連携させるために、PXO はアセット制作のアプローチを見直すことにしました。最初はアーティストが 2 種類のアセットを作成するやり方を考えました。1 つは従来の VFX ツールで作成する高解像度バージョン、もう 1 つは Unreal Engine で作成する低解像度バージョンです。ブレインストーミングを少し行ってから、PXO はより良いソリューションを発見しました。それは、すべてを Unreal Engine で行うという方法です。

Rahnama 氏は次のように述べています。「プロシージャルのアプローチを Unreal Engine で直接使うほうが優れたアプローチとなりました。Unreal Engine 内のアセットの解像度が向上してオフライン レンダラと同等の結果が得られただけでなく、オフライン レンダラの平均処理時間よりもずっと短い時間で済みました」
 
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そういった明白なメリットとは別に、PXO はバーチャル プロダクションに Unreal Engine を使うと隠れたメリットがいくつもあることを発見しました。PXO はクリーンアップの作業に対するオフライン レンダリングのアプローチを完全に排除することができました。これは VFX アーティストの仕事のなかで最も感謝されることがなく、しかし欠くことのできないものの 1 つでした。そこからドミノ倒しに影響が及び、ほかのグループの作業も簡略化できました。

「チームがつまらない作業に取り組むのではなく、楽しいと思えるショットに力を注ぐことができるようになりました。バーチャル プロダクションに従事するアーティストにとっては、ほかにもいろいろとクリエイティブ面でのメリットがありました」と Rahnama 氏は述べています。

特に大きな変化を経験したのはライティング チームでした。スタートレック:ディスカバリーのシーズン 1 では、ライティングのベイクが完了するまでに最長で 14 時間かかりました。現在では、Unreal Engine の GPU Lightmass Baker を使うことで、高品質のベイクを最短 30 分で完了できるようになりました。

最も重要かつ大きな変化の 1 つは目に見えないものでした。以前のシーズンでは、各ロケーションが複数のタイルに分割され、個々のタイルが 1 人のアーティストに割り当てられていました。でき上がったタイルが個別にレビューされ、レビューの最終段階で初めて環境全体が組み立てられていました。シーズン 4 では、PXO のアーティスト全員が同時に同じシーンの作業を行うことができました。これによって、環境の一貫性が向上しただけでなく、アーティストがコラボレーションして互いからインスピレーションを得ることができました。さらに追加のボーナスとして、日々自分の作業をほかの人が見ることができるとアーティストにわかるようになると、組織として大幅な改善が見られました。
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次のフロンティア

PXO とそのホロデッキの予定表は埋め尽されています。スタートレック:ディスカバリーのシーズン 4 の制作が完了し、PXO は 2022 年 5 月 5 日に公開される新シリーズ Star Trek: Strange New Worlds の作業を開始しています。このシリーズでもバーチャル プロダクションを利用しています。ほかにも、スーパーヒーローが登場するヒット番組ザ・ボーイズの最新シーズン、ビデオ ゲームが原作のテレビ シリーズ Haloゲーム・オブ・スローンズのスピンオフ作品ハウス・オブ・ザ・ドラゴンや、いくつかの長編映画を手がけています。PXO が見据えているのは、エンターテインメントがより大きなまとまりの一部分となる未来です。

Rahnama 氏は次のように述べています。「3D コンテンツの制作に関してはおもしろい時代を迎えています。すべての業界が 3D コンテンツのメリットを理解しつつあり、製品への導入が迅速に進んでいます。現在はテレビと映画向けのワークフローを改良していますが、私たちのアセットとテクノロジーはさまざまな業界で使うことができるでしょう」

「シーケンスを撮影してから、ショットの 80 % が完成した状態でつなぎ合わせることができ、最終的な VFX を確認するのに何か月も待つ必要がなくなりました。これは画期的なことです。近いうちに、これ以上のスピードで完成させてスクリーンに届けることが標準的になっていくでしょう」
 

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