画像提供:Lockheed Martin

Lockheed Martin が航空宇宙分野のシミュレーションの研究開発に Unreal Engine を活用

Lockheed Martin にはイノベーションの長い歴史があり、史上初となるものを多数作り出してきました。たとえば、1955 年には世界初の偵察機 U-2、1962 年には当時の最高高度を最高速度で飛行した Blackbird、1976 年には火星への着陸に初めて成功した宇宙船バイキング 1 号を開発しました。現在では、Lockheed Martin はさまざまなソフトウェア ベースのソリューションも手がけています。その対象は航空宇宙業界に留まらず、イマーシブなトレーニング、デジタル ツイン、サイバーセキュリティなどの一般的な用途にも及んでいます。

時代の先を行き、最高レベルの製品を提供するために、Lockheed Martin はテクノロジーの新しい有望な使い方に目を向けています。現在は長期的な研究開発に取り組み、Unreal Engine をベースとした次世代のシミュレーション ソリューションを開発しています。

Lockheed Martin の戦略的テクノロジー アーキテクト、Adam Breed 氏は次のように述べています。「Unreal Engine を使うことで、大きな飛躍を遂げ、航空電子工学システムの統合やイマーシブな学習環境の作成など、得意なことに専念できます。ビジュアライゼーションやシミュレーション環境のアーキテクチャなどを気にかける必要はなくなります。Lockheed Martin が得意とする分野での差別化要因に力を注ぐことができるのです」

共同の世界の作成

Breed 氏によると、通常は、複数の物理的な領域を対象とするイマーシブなトレーニングでは、複数の仮想的な環境を用意し、それぞれを分離する必要があります。たとえば、地上の車両についてのトレーニング デバイスでは、地上の視点からの高品質なビジュアルが重視されますが、飛行のトレーニングでは広い視野からの景色が必要です。これまで、この 2 種類のトレーニングは別々に開発する必要がありました。1 つのグラフィックス エンジンではどちらか片方の環境しか処理できなかったためです。しかし、現在では、Lockheed Martin はすべてを Unreal Engine で処理し、共同の世界を作ることができるようになっています。
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このように共同の世界を作成するということは、単に複数の用途がある 1 つの環境を作成するという以上の意味があります。「2 種類の重要な用途を考えることができます。1 つは特定のプラットフォームのユーザーによる使用です。たとえば車両の運転手や航空機のパイロットがこれにあたります。このような場合、高い忠実度と優れたビジュアルが求められます」と Breed 氏は述べ、これは 1 人用のゲームに相当するものだと指摘します。

もう 1 つの用途は、ストレスのかかる状況での連携のテストです。Breed 氏は次のように述べています。「操縦士と副操縦士が民間人と連携するトレーニング、大人数のオペレーターを管理するトレーニング、航空システム全般とのやり取りについてのトレーニングには、大規模な環境が必要です」

これは Breed 氏が「タペストリー (複雑なもののたとえ)」と呼ぶ、Unreal Engine で実行される 1 つの環境につながります。1 つのディスクを利用する 1 つの OS、あるいは高レベルのアーキテクチャ インターフェイスに数十のプラグインを接続して機能を失ったり忠実度を低下させたりすることなく、インストラクター向けのすべての仮想的な機能を Unreal Engine が処理できます。たとえば、ほかの役割のプレイヤーの行動や反応をトリガーし、シナリオに関係するすべての役割のプレイヤーに影響を与えることができます。

「すべてを Unreal Engine で処理することで、永続化、拡張性、集団でのトレーニングなど、欲しかった機能を手に入れることができます」

モノリシック対オープン アーキテクチャ

Breed 氏は、複数のアプリケーションから単一のプラットフォームへの移行は、30 年前に使われていたモノリシックのシミュレーション アプリケーションへの回帰を意味しないと強調します。プロセスが簡単であったり、パフォーマンスが高かったりするなど、モノリシック アーキテクチャには多くのメリットがあります。一方で、Unreal Engine のオープンな性質を活用すると、デベロッパーが個々の部品を作成し、必要に応じて入れ替えることができます。

モノリシックとオープン、両方のアーキテクチャの利点を活用できる状態にある Lockheed Martin は、ソリューションの開発に一方あるいは両方のアプローチを利用でき、以前よりもより良く、早く、低コストで開発できると Breed 氏は述べています。「両方の利点を本当の意味で活用して、いずれにしても顧客のニーズに応える製品を開発できたのは、これが初めてだと思います」

このアプローチにより、Lockheed Martin はこれまでより多くのパートナーシップを結び、業界の力をかつてないほど活用できるようになりました。「Unreal Engine を使うことで、協力したり作業を分担したりしやすくなりました。2 つのチームが並行して作業を進めてから成果を持ち寄っても、問題なく動作するという確信を持つことができます」と Breed 氏は述べています。

航空宇宙業界では、安定性、正確性、再現性が重視されるということを Lockheed Martin は理解しています。Lockheed Martin が目標としているのは、既存のシステムを捨てることではなく、機能しているものを維持しながら、徐々に改善していくことです。Breed 氏は次のように述べています。「細々とした作業をこなしていき、そのなかでシステムを強化していく予定です。時間が経つうちに、システムの簡素化と強化を進めることができるでしょう」

「私たちは数十年存続するシステムをサポートします。10 年前のシステムで、まだメンテナンスしているものもあります。Unreal Engine は、新しいものを加えることで古いやり方を強化できる可能性を示しています」

 
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新しいプラットフォームのための人材確保

新しいプラットフォームに移行する際は、人材の確保が課題になるのが一般的です。しかし、Unreal Engine は大学や人材のパイプラインで一定の地位を確立しているため、Breed 氏によれば、一定の経験を持つ候補者と会うことができており、そうした候補者は航空宇宙分野のチームですぐに役割を担うことができています。このように人材を確保しやすいことも、Lockheed Martin による Unreal Engine への移行を推進する原動力となりました。「経験豊富な人材をゲーム開発業界から集めて、そうした人材が航空宇宙業界で影響を及ぼすきっかけを提供できるのはすばらしいことです」と Breed 氏は述べています。

Lockheed Martin でのプログラムに取り組んでいるチームの進化と多様性は、デベロッパーとアーティストの新しいコミュニティを引き付けています。また、Breed 氏は新しいスタッフに親しみを感じています。Breed 氏の兄弟と祖父は軍隊で働いた経験があり、家族は長い間にわたって軍隊と関わりを持ってきました。一方で、Breed 氏は目的を持ったゲームを作りたいとずっと考えてきました。ゲームをプレイするスキルと航空宇宙業界での経験の組み合わせが自分を現在の位置に導いたと Breed 氏は考えています。

「私たちが接する人たちの多くも同じ意識を持っているようです。ゲームを作るのが好きであると同時に、何か社会に影響を与えるものを作りたいとも考えています。Lockheed Martin での仕事はその目的に合致しているでしょう」

Lockheed Martin では、Unreal Engine デベロッパーを雇用した結果、文化の面でも変化があったと Breed 氏は述べています。「航空宇宙業界で働くことが楽しくなったと思います。その多くは、ゲーム エンジンを導入したおかげです」

シミュレーションにおける芸術性

航空宇宙業界で芸術性という言葉を目にする機会は長らくありませんでしたが、時代は変わりました。Breed 氏は次のように述べています。「ゲーム業界がビジュアルのレベルを引き上げたため、顧客は次世代のビジュアルを期待しています。経験豊富なゲーム アーティストと仕事できるようになり、そうしたアーティストがビジュアルのレベルを引き上げています。以前よりもずっと低コストで、ずっとリアルなソリューションを作成できるようになりました。Unreal が作り上げたエコシステムによってこうしたことが可能になっています」

以前はゲームのビジュアルとシミュレーションのビジュアルでは質に差がありました。これは、シミュレーションではデータの読み込みの負荷が大きいためでした。数年前までは差があっても大目に見てもらえましたが、今はもうそうではないと Breed 氏は述べています。

「今はもう、差があるという言い逃れはできなくなっています。ライティング システム、物理、特殊効果など、多くの面でエンジンが成熟しました。エンジニアリングの面からの正確さとフォトリアリズムが固く融合しています」

重要なのはアートだけではありません。Breed 氏は、エンジンのコードをカスタマイズしたり、GIS データを処理したりするために C++ のプログラマーは依然として必要だと指摘しています。それでも、スキルを持つアーティストはプログラマーと同様に重要です。「アーティストとプログラマーが協力することで、トレーニングの優れたエクスペリエンスを作成できます」

Unreal Engine でポリゴンを超える

航空宇宙業界における Unreal Engine の重要な機能の 1 つは、アセットに関連するデータを格納し、AI を導入して仮想的なセンサーとやり取りするセマンティックな環境を作り出す能力です。

Breed 氏によると、以前作られていた大規模な仮想の地球は 3D モデルに色を付けただけのもので、Breed 氏はそれを「ポリゴンのスープ」と呼んでいます。Unreal Engine を使うことで、チームではモデルの任意の部分にアノテーションを付けたり、マテリアルに反射や熱吸収などのプロパティを適用したりすることができるようになりました。そしてそのデータをトレーニング製品に取り込むことができます。
 
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「3D の道路があったとして、それは単なるポリゴンではありません。速度制限があり、さまざまな種類のマテリアルで作られています。標識や信号もあります」と Breed 氏は述べています。そしてそのデータを AI システムに送り、リアルなトレーニングエクスペリエンスを作成できます。

しかし、最も優れている機能は、多様なユースケースをサポートできる点だと Breed 氏は言います。「作っているものは単発のソリューションではありません。それらを集めて、以前にはできなかった統合アプローチをとることができます。一度作成すれば、それを 100,000 人以上の従業員と共有できます。こうすることで効率が大幅に向上します」

Unreal Engine がもたらす可能性により、Breed 氏はシミュレーションによるトレーニングの未来に期待を寄せています。主要な機能はすでに導入されています。また、Unreal Engine により、かつてないほどリアルなビジュアルが実現されているほか、相互運用性、コードのカスタマイズ、拡張性、雇用可能な人材の大きなプールなどの特長を活かせるようになっています。Lockheed Martin はこうしたメリットを持つプラットフォームを現在も将来も利用できます。

「Unreal Engine の機能は非常に優れており、個々のプラットフォーム レベルから宇宙レベルまでのユースケースに対処できます。私たちは、Unreal によってすでに可能になっていることに取り組む必要なく、アピールしたい差別化要因に集中できます」

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