お気に入りの飲み物を冷やしておき、ピザを注文し、友人たちを招きましょう。何か月も待ちわびたのちに、ようやくテレビをつけるときがきました。NFL の新しいシーズンが開幕し、数百万のアメリカ人が FOX NFL Sunday を視聴します。試合の前に FOX Sports で放送されるこの番組は、過去 30 年ほどにわたり試合の日に欠かせないものであり続けています。番組は、試合のプレビュー、分析、パネル ディスカッションで構成され、エミー賞を 4 度獲得しています。
今年はこのすばらしい番組の舞台裏で変化が生じています。今年の FOX NFL Sunday は、Unreal Engine を活用した新しい LED バーチャル プロダクション施設で制作されています。革新的なマルチカム機能が特徴のこの施設は、6 か月以上、労働時間にして延べ 3 万時間以上をかけて作られました。
新時代の幕開け
FOX Sports でエグゼクティブ バイス プレジデント兼クリエイティブ ディレクターを務める Gary Hartley 氏にとっては、この新しい施設への移行は、ストーリーテリングとユニークなビジュアルを組み合わせるという FOX 持ち前の性質を示す一例に過ぎません。Hartley 氏は次のように述べています。「スポーツ部門ができたばかりのころ、David Hill という人が責任者を務めていました。Hill のアプローチは革新的なものでした。彼は常に問いかけていました。たとえば、どうしてスコアがわからないのかと問いかけ、放送のグラフィックスで画面にスコアを追加しました。当時の私たちのミッション ステートメントは、『同じ試合、新しい姿勢』でした。FOX Sports では、30 年ほど経ってもその気風が引き継がれています。ただ試合を見せるだけではなく、スポーツ放送の限界を押し広げています」
その気風が発揮されたのは 2019 年のことでした。放送業界向けの展示会 NAB Show で Unreal Engine のデモンストレーションを見た FOX Sports は、ゲーム グラフィックスの導入を大規模に進めた先駆的な放送事業者の 1 つとなりました。その結果でき上がったのが、ノースカロライナ州シャーロットに作られた NASCAR の仮想的なセットでした。これはリアルタイム テクノロジーを試す絶好の機会となりました。唯一問題となったのは、このスタジオでは LED ではなくグリーン スクリーンが使われていたことでした。グリーン スピルが発生し、出演者はセットでビジュアルを見たり、ビジュアルとインタラクションしたりすることはできませんでした。
FOX Sports でグラフィックス テクノロジーおよびインテグレーション担当シニア バイス プレジデントを務める Zac Fields 氏は次のように述べています。「それからまもなく、LED と XR が話題になっていることに気が付きました。映画やシリーズ物の番組で LED が使われていることはわかりましたが、生放送ではまだ誰も試していないようでした。初期のデモをいくつか見て、この新しいテクノロジーを試す必要があるとわかりました。LED を使うことで、出演者をどのような環境にでも簡単に連れていくことができ、セットでフォトリアルなライティングのエフェクトを適用できました。グリーン スクリーンでのキーイングや、選手のグラフィックスなどの複雑な要素のプリレンダリングについて心配する必要はありませんでした」
マルチカム プロダクション
FOX Sports の新しいバーチャル プロダクション スタジオは、ロサンゼルスにある FOX の敷地に建てられました。2 階建てで、5,130 平方フィート (約 476 平方メートル) の LED ウォールと床面のパネルを備えています。25 台のマシンで Unreal Engine を利用してクラスタでレンダリングを行い、ビジュアルを 4K で表示できます。セットには AR 対応のカメラが 7 台あり、そのうち 4 台は LED ボリューム内で AR/XR をリアルタイムに処理できます。トラッキング、AR の合成、カラー マッチングはすべて StypeLand で処理します。また、セットでのスタジオ コントロールには Erizos を使います。LED ボリューム外の LED スクリーンでは 11 の Vizrt エンジンを利用します。
Image courtesy of FOX Sports
このプロジェクトのリード テクニカル アーティスト、Alex Seflinger 氏は次のように述べています。「新しいスタジオの LED ウォールは、床面を除いても 1 万ピクセルあります。巨大なものであり、4K で出力できます。それだけでも複雑なセットアップですが、さらに多くのことを望み、ボリュームでマルチカムを利用できるようにしたいと考えました」
Image courtesy of FOX Sports
ただし、LED ボリュームでのマルチカム機能の構築は、生放送ではそれまで試みられていませんでした。「それまでの LED では、普通は LED ウォールに表示される前にディレクターがリアルタイムのプレビューを見ることはできませんでした」と Seflinger 氏は述べています。仮想的なステージの挙動を放送のようなものにするために、プレビューと制御が可能な複数のカメラのフィードを作成する必要がありました。また、生放送中にディレクターがさまざまなカメラからの映像を切り替えて利用できるように、LED ウォールのどの角度からの映像も見た目がよくなっている必要がありました。