上空 5 万フィート (約 15 km) での空中戦をどのように訓練すればいいのでしょうか。数十年前に初めて戦闘機が飛び立って以来、軍隊はこの問題について考えてきました。アメリカ空軍はこれまで、地上では VR シミュレーターを利用し、空中では同僚同士で模擬戦を行ってきました。しかし、どちらの方法でも、実際に敵機と遭遇した場合にどうするか、パイロットが完全な心構えをすることはできませんでした。
このために活用できるのが、2018 年に創業した AR プラットフォーム企業、Red 6 による機内 AR システムです。このシステムでは、パイロットはカスタマイズされた AR ヘルメットとバイザーを装着して飛行します。航空機には、Windows 10 の PC、いくつかのセンサー、Unreal Engine が搭載されます。
AR バイザーを装着したパイロットは、実際の環境に加えて、コンピューターが生成した 1 機または複数機の敵機を見ることができます。敵機は立体映像としてプロジェクションされます。敵機は現実の戦闘機のように動き、パイロットは自身や機体を実際の危険にさらすことなく脅威について現実的な経験を積むことができます。このシステムがあれば、パイロットは反応が完璧になるまで同じシナリオを何度でも繰り返すことができます。
Red 6 が飛行中の AR プラットフォームの開発に乗り出したとき、最初に直面した技術的な課題は、トラッキング システムでした。このプラットフォームでは、トラッキングを通じて、任意の時点でパイロットの頭が 3D 空間のどこにあり、どちらを向いているかを把握します。パイロットが敵機のいる方向を向くと、トラッキングの情報に基づいて、システムが AR バイザーに敵機の画像を送ることができます。
Image courtesy of Red 6
Red 6 の創業者兼最高製品責任者、Glenn Snyder 氏によると、地上ではなく上空での正確なトラッキングを行うことが問題となっていました。「地上に立っているのではなく、空中にいて、時速数百マイルで上下左右に動き、バレル ロールやバック フリップなどをしているとしたら、頭の現在位置をどうやって知ることができるのでしょうか。また、センチメートル単位の精度が求められるとしたらどうでしょうか」
Red 6 のチームは、既製のソリューションでは適切なものを見つけることができず、自社で開発することにしました。航空機については空間での絶対的な位置をトラッキングし、パイロットの頭は航空機に対する相対的な位置をトラッキングしました。
Image courtesy of Red 6
絶対と相対、2 種類のトラッキングを組み合わせることで、システムを実現できました。Bićanić 氏は次のように述べています。「この 2 つを組み合わせて、UE4 でカメラをバインドすると、時速 300 マイル (約 480 km) の環境で実用的な AR ソリューションができます。私たちが作ったのがまさにそれでした」
Image courtesy of Red 6
また、nDisplay テクノロジーを使うことで、1 台の PC から複数の画面に複数の画像を送信できることもわかりました。たとえば、パイロットに立体視用の左右の画像を送り、機体のダッシュボードにはレーダー スコープを表示できます。こうすれば、システムのフットプリントを小さく抑えながら、必要に応じていくつものディスプレイに画像を送ることができます。
飛行中の AR システムを作成するうえでは、遅延も課題となりました。ここでの遅延とは、頭の動きに対応するビジュアルの表示の遅れです。「どのように遅延を抑えるかということが、当初から解決を試みている最大の問題となっています」と Snyder 氏は述べています。
Snyder 氏によると、空中の高速 AR システムでは、移動速度が遅い地上のシステムと比べて、遅延がユーザー エクスペリエンスに与える影響が非常に大きくなります。地上の AR システムでは許容される程度のわずかな誤差であっても、空中のシステムでは同程度の差異から 0.25 マイル (約 400 m) ほどのずれが生じてしまいます。飛行中のパイロットのトレーニングでは、そのような精度を許容することはできません。
Red 6 のチームは、最初は別のリアルタイム ツールを使っていましたが、Unreal Engine に切り替えてみると、遅延がすぐにそれまでの 3 分の 1 に短縮されました。Snyder 氏によると、これが AR ソリューションのために Unreal Engine を使うことを決めた大きな理由の 1 つでした。その後も、許容範囲である 20 ミリ秒未満を目指して遅延の短縮に取り組みました。
Image courtesy of Red 6
軍隊の説得
自身も元軍人である Red 6 のチーム メンバーは、空軍などの軍隊が何を求めているかを知るうえで優位な立場にあります。Bićanić 氏は次のように述べています。「アメリカ空軍は訓練の仕方に課題があることを強く意識していましたが、その問題を解決できるということはわかっていませんでした。10 年前からこのようなソリューションを求めていたと言って、とても気に入ってくれています。アメリカ空軍は、できるだけ早く、できるだけ多くの機体に当社のソリューションを取り入れたいと望んでいます」
Robinson 氏も同じ意見のようで、次のように述べています。「私たちが AR で目指してきたのは、上空での敵役の機体とパイロット、そしてそれらに関連するコストを不要にすることでした。今はその目標を達成できるようになりました。AR と Unreal によって、必要とするあらゆる脅威をシミュレートできます。これは非常に大きな価値提案となります」