Courtesy of Embers 2023

驚愕のビジュアルを備えたアクション ゲーム「Strayed Lights」の開発に 9 名のチームが Unreal Engine を選んだ理由とは

Brian Crecente
Embers の共同設立者であり、同社のゲーム ディレクターを務める Maxime Philipp 氏はビデオ ゲーム業界で 10 年ほどの経験を持ち、今までは教育向けゲームやモバイル ゲームなどを手掛けてきましたが、最近では Strayed Lights といったより大規模なゲーム作品に取り組んでいます。同氏はもともとプログラマーとしてスタートしましたが (Strayed Lights でも兼務して一部のプログラミングを担当)、キャリアを積む中で、ゲーム デザインに関連するスキルや知識を増やし、今ではマネージメントも行っています。
9 名からなるチームが開発した Strayed Lights は光り輝く世界を舞台として、新たに誕生した炎が光を取り戻すために内なる悪魔に立ち向かう旅にプレイヤーをいざないます。

本作品は言葉を使わない刺激的なストーリーとなっており、色彩豊かな戦闘が展開されます。戦闘ではパリィと反撃が非常に重要になり、その後に徹底的な攻撃を行います。Noisy Pixel は、本作品に対する レビュー の中で「Strayed Lights は初作品としては並外れて優れたもので、今後の Embers の作品には非常に期待できる」と賞賛しています。

本作品の洗練されたデザインと異世界を表現するビジュアル要素の中心には、本作品の明確なフォーカスを定義すると同時に、Epic MegaGrants を獲得するための手続きや、Unreal Engine の使用についても早い段階から準備に取り組んできた、固い絆で結ばれたチームが存在します。

Epic Games では、本作品のゲーム ディレクターを務め、Embers スタジオの共同設立者でもある Maxime Philipp 氏に、同社のチームによって本作品がどのように開発されたか、このようなビッグ タイトルの開発を小規模のチームでどのように管理したか、さらにアート志向の忠実度の高いゲームの制作を目指す他のインディー デベロッパーに向けたアドバイスについてお話を伺いました。
 

Embers のメンバーの多くはモバイル ゲーム デベロッパーである Voodoo.Io で勤務経験があるようですが、 新たなゲーム開発スタジオを設立しようと思ったきっかけや、インスパイアされたものはありますか?

Maxime Philipp 氏 (Embers 共同設立者兼ゲーム デザイナー):
Embers の 4 名の設立者は皆、以前からビデオ ゲームに情熱を抱いており、Voodoo 入社前にはフリーランスとして、または余暇を利用して趣味でゲームを開発していました。

Embers の CEO である Damien はその何年も前に 2 名のデベロッパーとともに Voodoo を共同設立しており、私たち 3 名は会社がまだ小さなスタートアップであったときに Damien たちと出会ったのです。その後、数年間は数十ものモバイル ゲームを一緒に開発し、会社は 200 名にまで拡大しました。そのころ私たちは、自分たちがゲーマーとしてより楽しめるゲームを、「限られた数のスタッフ」だけで運営する会社で開発するための良い機会であると感じました。

これが Embers を設立した経緯で、私たちの目標はメッセージ性のある、心に残る芸術作品のようなゲームを、情熱を持つ少数精鋭のチームで制作することにあります。

Strayed Lights の初期のアイデアはどのようなもので、どのようにひらめきましたか?

Philipp 氏:
Strayed Lights のアイデアは次の 2 つの点にフォーカスを当てています。
  • ゲームプレイ: 満足感があり、新しくも親しみのある、理解しやすいゲームプレイを制作したいと考えました。まず私たち自身がゲームプレイに満足感を感じるゲームを考え、次にそれに調整を加えてまったく新しいシステムへと進化させる方法について検討しました。こうして、私たちは、さまざまな色を切り替えるメカニクスを活用した、パリィ ベースのゲームのプロトタイプ作成にすぐに着手しました。このメカニクスはゲームの最終版でも採用されています。
  • ストーリーとメッセージ:私たちはプレイヤーが共感するストーリーを求めていました。パズルの主要なピースとなる要素をプレイヤーに与えて、さまざまな解釈の余地を残すストーリーです。私たちはゲームプレイの開発を続けながら、人生の中で皆が直面する難題を乗り越えること、いわゆる「レジリエンス (回復する力)」を称えるゲームにするというアイデアをすぐに思いつきました。このようにしてストーリーの制作が始まり、Strayed Lights に登場するキャラクターたちが生まれたのです。
Strayed Lights のルックとディレクションに関して、どのようなゲームや独創的な作品にインスピレーションを受けましたか?

Philipp 氏:
全体的な雰囲気については、風ノ旅ビト (Journey)ワンダと巨像 (Shadow of the Colossus) といったゲームにインスピレーションを受けました。これらの作品が持つ、ミステリアスで美学的でありながらも静けさのある感覚が気に入っています。

ゲームプレイの面では、パリィのメカニクスについては Sekiro から、カラー マッチング メカニクスについては 斑鳩 (Ikaruga) にインスパイアされました。これら 2 つを融合して、相手の攻撃を吸収して戦うアドベンチャー ゲームにするというアイデアが生まれました。

話し言葉を使わない、「セリフゼロ」のゲームにした理由は何ですか?

Philipp 氏:
先ほども申し上げたとおり、あらかじめ何の情報も与えられていないミステリアスな世界でプレイヤーの没入感を高めるゲームが私たちの目標でしたので、プレイヤーにパズルのピースを多少与えながらも、プレイヤー自身がそれらを組み合わせ、それぞれ独自のイマジネーションを使って隠された部分を解釈するゲームを開発したいと思いました。そして、ストーリーを伝え、各ステージの全体的な雰囲気を表現するうえで、没入感、アニメーション、音楽のみを使用するゲームにすることが面白いであろうと考えました。
Courtesy of Embers 2023
話し言葉を使わないストーリーを作成するうえでどのような課題がありましたか?また、それらをどのように克服しましたか?

Philipp 氏:
私たちは、ヒーロー ストーリーだけでなく、それぞれのボスに擬人化された感情をプレイヤーに理解してもらえるように、必要に応じてあらゆる手段を講じる必要がありました。同時に、プレイヤーには理解につながる重要な手がかりを与えて、それぞれ独自の解釈を行えるようにしたいと考えました。そのため、こうした部分的な情報の提供には、音楽、キャラクター アニメーション、シネマティックス、環境ナレーションを駆使しました。

開発時には、伝承の情報を伝えるために、アニメートされてペイントされたナレーションのシーケンスを用意していましたが、あまり重要性を見出せず、プロダクション コストの面でサポートできるものではなかったため、結局採用することはありませんでした。
 
私たちの方向性が間違っておらず、改善の余地がある部分があるかどうかを検証するために、ゲーム開発プロセス全体にわたって、各ゾーンとストーリー ビートのプレイテスト セッションを多く行いました。こうしたセッションではプレイヤーたちが理解したストーリーや、プレイヤーたちが直面した感情について尋ね、それらのフィードバックに応じて必要な調整や適合を行いました。
Courtesy of Embers 2023
新設したスタジオの初作品となるゲームに Unreal Engine を採用した理由は何ですか?

Philipp 氏:
私たちは以前にモバイル ゲームの開発に Unity を採用していたため、そのエンジンについては使用経験がありました。しかし、Strayed Lights (さらに開発を予定している次のゲーム作品) については、ゲーム デベロッパーだけでなくアーティスト チームも使用できる複雑なアニメーション システム、VFX、シェーダーが必要でした。私たちのプロジェクトのスコープには Unreal Engine が業界をリードするエンジンであったため、それを試すことになり、実際に私たちのほぼすべてのニーズを満たすことができました。また、特定のさまざまなプロセスを支援する独自のカスタム ツールを開発するうえで、Unreal Engine は高い柔軟性を提供するものでした。

このゲームのビジュアル要素は、純粋なグラフィックの面でも、異世界や違いを表現するという面でも驚愕に値するものです。 こういった特定の美的要素を選択するに至った経緯と、それらをゲームの世界で実現するために Unreal Engine をどのように使用したかを教えてください。

Philipp 氏:
画面上ではゲームプレイとそのビジュアル的な見やすさ (見読性) を何よりも優先しなければならないことを理解していたため、私たちは Team ICO のゲーム作品や Soul Reaver を参考にしました。これらの作品では一定のミニマリズムを維持しつつ、強力なアイデンティティがうまく組み込まれているからです。特に Unreal Engine では、キャンバスなどにさまざまなものをペイントでき、風景をすばやく遮ることができるだけでなく、今回は良好なパフォーマンスを維持しながらアセットを複製できることで、環境の制作が円滑に進みました。
本作品のルックを形成するうえで、Unreal Engine で特に役に立った要素はありましたか?

Philipp 氏:
私が思うに、私たちが求めていた Strayed Lights のルックを実現するにあたって、主に Unreal Engine の 3 つの要素が役立ちました。
  • マテリアル エディタ: 私たちが早期のコンセプト アートの中で描いていたユニークなアピアランスの Strayed Lights のキャラクターを提供する、複雑なシェーダーの作成に役立ちました。
  • Niagara パーティクル システム: キャラクター自体やゲームプレイ フィードバックに多く使用しました。また、これを使って、すべてのキャラクターの主要なアクションにさらなる活力を加えました。
  • アニメーション ブループリント システム: 滑らかなゲームプレイを演出するスムース ブレンディングで複雑なアニメーション グラフを作成するのに役立ちました。

本作品のストーリーは感情を扱うことに大きく傾いているように思えますが、 これがゲームのテーマとなった経緯と、ゲームプレイのメカニクスを通じてそれをどのように展開できたかを教えてください。

Philipp 氏:
開発初期には、人生において多くの人々が遭遇し得る困難を反映した旅を作成するというアイデアを持っており、人生のさまざまな段階で私たちが感じる感情を擬人化したボスを作成することが良いアプローチであると考えました。

ストーリーテリングは全体的に言葉なしで行われるため、言葉以外の手段、つまり音楽や態度、アニメーション、そしてゲームプレイ メカニクスを通じて、そういった感情をプレイヤーに確実に感じてもらう必要がありました。最新版では、それぞれのボスのプロトタイプ作成を数週間かけて重点的に行い、それぞれのキャラクターに最も適しており、楽しくプレイできるものを選定するために多くのプレイテストを行いました。
Courtesy of Embers 2023
ゲームの戦闘メカニクスの大部分の重点を、攻撃ではなく防御に置くことにした理由は何ですか?

Philipp 氏:
「パリィ (受け流し)」のメカニクスをゲームに取り入れることは開発当初からのアイデアでした。他のゲームでは、それを成功させることで大きな満足感を得られるためです。これらのゲーム (主に Souls のようなゲーム) での唯一のデメリットは、これが高度なメカニクスであり、学習や習得が簡単ではないことです。Strayed Lights はよりアクセスしやすいようにして、ハードコアなゲーマではなくても、戦闘でのこの流れを感じ取ってもらえるようにしたかったため、そのように工夫を凝らしました。

また、ゲーム内で自分のキャラクターよりもはるかに巨大なクリーチャーと直面した際に、パリィを使って敵の強さを吸収し、それを使って敵を攻撃するという流れのほうが、小さな腕で敵の HP を削って倒すまで相手の足先を攻撃し続けるよりも理にかなっています。
Courtesy of Embers 2023
9 名のチームというのは比較的に小規模ですが、 この少数のチームで優れたデザインのゲームを制作するにあたり、Unreal Engine はどのように役立ちましたか?

Philipp 氏:
このような小規模のチームでは、全員が自立して複数の役割をこなせる必要があります。Unreal Engine を使用することで、中間的な「統合を行う担当者」を省くことができました。たとえば、アーティストは自らの作業を自らで統合し、自分たちがベストと感じるアピアランスに調整することができました。また、プログラマーはその上に自分たちのロジックを簡単に統合し、利用可能なツールと一連のカスタム仕様のツールを使ってそれを即座に機能させることができました。
Courtesy of Embers 2023
Epic MegaGrants を獲得したことで、本作品と御社スタジオにとってどのような影響がありましたか?

Philipp 氏:
MegaGrants を獲得したことで、環境ツールとアニメーション ツールに時間を費やす余裕が生まれました。Strayed Lights では、それぞれのゾーンに独自のカラー パレットと全体的な環境/雰囲気が備わっており、それらを通じてライトの色や指数関数的高さフォグ、オブジェクト マテリアル、一部のエフェクトの切り替え (有効 / 無効) などを処理しています。私たちが開発したシステムでは、アーティストが独自の環境/雰囲気を創り出し、次にその「スナップショット」を作成します。これによってこれらすべてのオブジェクト プロパティが保存され、システムではこれらのスナップショット間でのブレンドを、スマートかつ最適化された方法で処理できます。

次回作に向けて最も使用したい Unreal Engine 5 の機能はどれですか?その理由も教えてください。

Philipp 氏:
Unreal Engine 5 には、私たちが今後もさらに良いゲームを開発するうえで役立つ新機能がたくさん備わっています。
アート志向の忠実度の高いゲーム作品を小規模のチームで開発することについて、インディー スタジオに向けて何かアドバイスはありますか?

Philipp 氏:
私にとって最も重要なのは、ゲームのエッセンスに常に焦点を当て続けることです。ゲームに大した価値をもたらさない二次的なシステムや細かなディテールに気を取られることもありますが、そうした時間は、ゲームを際立たせて楽しめるものにするための最善のことに費やしたほうが良い結果となります。ゲームに関する新しいアイデアが浮かんだら、それを可能な限りすぐにプロトタイプ化して、その限界を見極め、ゲームでの十分な可能性が見出せないのであれば、そのアイデアは破棄すべきです。多くのアイデアを破棄すること自体を恐れてはいけません。そうすることが、ゲームのエッセンスに適した最高のアイデアを選び抜くための唯一の方法だからです。

私としては、これがあらゆるゲーム開発プロジェクトに当てはまると思います。特に、私たちのような、プロダクション キャパシティに制限のある小規模なチームであればなおさらです。
Courtesy of Embers 2023
本日はお時間をいただき、ありがとうございました。 Strayed Lights と Embers の詳細はどこで見つけることができますか?

Philipp 氏:
Strayed Lights と Embers の詳細については、当社の Web サイト をご覧ください。また、最新情報を見逃さないように、ソーシャル メディアで当社をぜひフォローしてください。

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