Cesium の正確な 3D 地理空間データがさまざまな業界でのトランスフォーメーションを推進

2024年12月11日
過去数年で、3D フォトグラメトリは大幅に進歩し、世界の広大な範囲をデジタルで撮影し、記録できるようになりました。ただし、このプロセスでは、巨大なデータセットが生み出されます。 

これまで、この規模のデータセットを活用してきたシミュレーションや防衛などの業界では、その処理に対応するために、カスタマイズされた高性能のプラットフォームとツールが開発されてきました。こういった分野以外の、通常のハードウェアを使用する一般的なデベロッパーにとって、大規模な 3D 地理空間データを活用することはほぼ不可能でした。 

2021年にリリースされた Cesium for Unreal によって、この状況は一変しました。ゲーム エンジン テクノロジーを使用して、3D 地理空間モデリングの巨大なスケールと複雑性を初めてリアルタイムで視覚化できるようになったのです。

これにより、誰もが、市販のソリューションを使用して、きわめて詳細で正確な 3D 地理空間データを活用できるようになりました。その結果、航空宇宙、商業不動産、都市計画、飛行計画・運航、自動運転、地中・海底探査など、幅広い業界でインタラクティブな 3D 地理空間アプリとエクスペリエンスの開発が急激に増加しました。

特に、建築業界では、3D 地理空間モデリングとリアルタイムのビジュアライゼーションを組み合わせて利用することで、多大なメリットが得られます。たとえば、企業が建設予定の実際の正確な状況で自社の設計を提示することができます。 

そして先日発表された Cesium と Bentley の業務提携により、Cesium を利用するデベロッパーは、世界最大級の最も重要なプロジェクトやアセットで活用されているインフラストラクチャ エコシステムにアクセスできるようになりました。 

Cesium の地理空間プラットフォームと Bentley の iTwin プラットフォームを組み合わせることで、3D 地理空間データをエンジニアリング データ、地中データ、IoT データ、実世界のデータ、エンタープライズ データとシームレスに連携させ、陸、空、海、宇宙、そして地中の奥深くから見た個々のアセットの広大なインフラストラクチャ ネットワークからミリメートル単位の精度のディテールまで網羅するデジタル ツインを作成することができます。 

この記事では、Cesium と Unreal Engine が建築におけるビジュアライゼーションにどのような変革をもたらすかについて説明し、可能性の限界を押し広げつつあるエキサイティングな新開発について確認します。

3D 地理空間データを多くの人が利用可能に

Cesium は、3D 地理空間データを使用するソフトウェア アプリケーション開発のためのオープン プラットフォームです。デベロッパーはこのプラットフォームを使用して、正確でインタラクティブな 3D 地理空間アプリケーションを作成します。

このプラットフォームは、当初、航空宇宙ソフトウェア企業である Analytical Graphics, Inc. (現 Ansys) で、宇宙空間で物体を視覚化するために設計されたアプリケーションでした。コンピューター グラフィックスのエキスパートであり、Cesium の創設者である Patrick Cozzi 氏が率いるこのプロジェクトは、世界で最も正確で高性能なバーチャルの地球を作り出しました。 

Cozzi 氏は次のように述べています。「航空宇宙以外で活用が広がる可能性を考え、オープン ソースとしてコミュニティに公開することにしました。 その後すぐに、さまざまな業界でのユース ケースが急増しました」
 
最初のユース ケースの 1 つは、世界一過酷なアドベンチャー レースである Red Bull X-Alps です。この大会が、パラグライダーが山々を縫って移動する様子を追跡するために CesiumJS を使い始めました。以来、CesiumJS は 1,000 万ダウンロードを突破し、現在では何千もの用途で活用されています。 

サンタも CesiumJS を活用しています。CesiumJS は、12月24日にサンタが世界中を旅する様子を追跡するために NORAD Tracks Santa によって使用されています。 


2019年、Cesium は独立企業として分社化され、3D 地理空間データをホスティング、タイリング、ストリーミングするための SaaS プラットフォーム Cesium ion の提供を開始しました。その後数年かけて、CesiumJS に加え、Unreal Engine を含む複数のプラットフォーム向けのオープン ソース製品を追加していきました。

ストリーミングで重いデータの問題を解決

「3D 地理空間データの問題点は、巨大で扱いにくいことです」と、Cozzi 氏は話します。
 
Cesium はこの問題を 3D Tiles で解決しています。3D Tiles は、巨大な 3D 地理空間データセットをストリーミングするために、Cesium が作成した Open Geospatial Consortium Community の標準です。 

3D Tiles により、ディテールや精度を損なうことなく、3D 地理空間データを軽量化し、ストリーミングすることができます。Cesium プラットフォームでは、多くの異なるタイプの 3D 地理空間データを取り込み、3D Tiles に変換することで、場所を問わずストリーミングできます。 

データはローカル データセットを通して事前にロードされ、管理されるのではなく、ストリーミング可能であるため、ユーザーのワークフローがはるかに簡素化されます。Cesium for Unreal のリリースにより、忠実度が高く、複雑で非常に大きな地理空間データセットを、Unreal Engine でより簡単に視覚化できます。 

このオープン ソースのプラグインは、Unreal Engine に正確な 3D のバーチャルの地球の作成を実現し、防衛や諜報からシミュレーションやトレーニングに至るまで、幅広い業界で高度なビジュアライゼーションやシミュレーションの作成に使用されています。
「Cesium では、3D 地理空間処理を進化させることを使命としているため、Unreal Engine の強みと、Cesium のグローバルなスケール、精度、パフォーマンス、相互運用性を組み合わせることは自然の流れでした」と、Cozzi 氏は語ります。 

最近では、AEC 業界の多くの企業が、設計ビジョンをより効果的に伝えるために Cesium を活用しています。Cozzi 氏は次のように説明します。「Cesium を使用すると、AEC 専門家は、正確な 3D 地理空間コンテクストでプロジェクトを探索することができます。関係者とのコミュニケーションに 2D の画像や図のみを使用するのではなく、ユーザーは正確で没入感のある 3D 環境を作成し共有することで、計画された実際の状況をより詳細に把握できるのです」

最近の AEC クライアントの例では、BIM および 3D モデリング ソリューション プロバイダーである Palatial 社が、Cesium for Unreal を使用して、リアルなエクスペリエンスを提供し、建設前の構造物に対する賛同を得ています。Drip Visual 社は、Cesium for Unreal ベースのプラットフォームで、必要なコミュニティの意見を収集し、オランダの都市計画を推進しています。また、APlace 社は、このプラグインを使用して、見込み客が、建築前の自分の家の建物を視覚化し、カスタマイズすることができます。

Cesium for Epic エコシステム ツール

Cesium for Unreal 以外にも、Cesium では、RealityCapture、Sketchfab、Unreal Editor for Fortnite など、Epic エコシステム内の他のツールとの統合を積極的に進めています。 

フォトグラメトリ ソフトウェア RealityCapture は、数百万ポリゴンで構成される非常に詳細な 3D モデルを作成することができます。多くの場合、このようなモデルを通常のハードウェアで表示することはできません。トライアングルの数を減らして単純化することで、よりスムーズに実行できるようになりますが、それと引き換えにディテールが失われます。 

現在、RealityCapture では、Cesium の 3D Tiles 形式へのエクスポートと Cesium ion へのアップロードをサポートしています。これにより、非常に複雑なモデルを、リンクを共有するのと同じくらい簡単にウェブ上で共有できるようになりました。3D Tiles では、任意のビューに必要なデータのみをストリーム インすることができるため、数 GB のモデルであっても、ディテールを損なうことなくウェブ上で共有することができます。

同様に、Cesium と Sketchfab の統合により、ユーザーは 70 万を超える無料の Sketchfab モデルをプロジェクトにインポートし、正確な地理空間コンテキストの中に配置して探索することができます。

現在、Unreal Editor for Fortnite (UEFN) は、Cesium for Unreal のような C++ プラグインをサポートしていません。ただし、Cesium ion のクリッピング機能により、3D Tiles の一部を UEFN に取り込むことができます。 

クリッピングを使用すると、3D Tiles の一部を指定して、オフラインまたは非ストリーミングのユース ケースでダウンロード可能にすることができます。Cesium ion では、指定されたタイルを単一の glTF モデルとしてダウンロードし、UEFN を含む glTF をサポートするアプリケーションに取り込むこともできます。

クリッピングを使用すれば、フォートナイトの島々に正確な実世界の地形と高解像度のフォトグラメトリを取り入れることができます。是非、この記事を確認して、実世界のスタジアムのモデルを UEFN にインポートし、サッカー場を設置して友だちとプレイする方法をご覧ください。
Courtesy NBC Sports

メタバースへ、そしてその先へ

昨年、建設分野における飛躍的な成長を予測する報道が複数ありました。その一方で、パンデミック期の供給過剰や、サプライ チェーン、安全規制、資金調達に伴うコスト上昇により、新規建設が減少傾向にあるという記事もありました。 

Cozzi 氏は、地理空間コンテクストと 3D ビジュアライゼーションおよびシミュレーションの統合が、業界の足かせとなっているこれらの問題を軽減するのに役立つ可能性があると考えています。

Cozzi 氏は次のように述べています。「未来を見通す力を持っているわけではありませんが、建設業界のデジタル トランスフォーメーションは、この業界全体の効率性、安全性、コスト効率を向上させることで、こういった潜在的な問題の一部をすでに解決しつつあります。当社がパートナーとともに構築しているソリューションで、労働力不足、コスト管理、環境への影響といった問題への対処を進めています。全体的に、建築業界の将来の見通しは明るいと考えています」

Cesium は、実世界の建築の一端を担うだけでなく、バーチャル ワールドでも重要な役割を果たすことを目指しています。Cozzi 氏は次のように続けます。「Cesium は 3 とおりの方法で、メタバースにインパクトをもたらします。 1 つ目は、実世界のデータを 3D エクスペリエンスに簡単に取り込めるようにすることで、デジタル世界と実世界の橋渡しをします。当社は、デジタル ツインを表現し、大量のデータを格納して、ストリーミングするためのソフトウェア コンポーネントを提供しています。 

「2 つ目は、オープン標準である 3D Tiles を作成、発展させることで、このデータをより広い世界にストリーミングするソリューションを提供しています。3 つ目は、当社は、公正かつオープンで相互運用可能なメタバースを推進するために、意見を述べ、時間をかけて取り組んでいます」

メタバースはまだ黎明期にありますが、現在、Cesium for Unreal を活用した注目のプロジェクトが増えつつあります。
Courtesy NBC Sports
最近では、2024年パリ夏季オリンピックの公式放送パートナーである NBC Sports が、このプラグインを使用して生放送中に放映される 3D グラフィックを生成し、オリンピック会場の地理空間環境を視聴者に伝えました。 

こういったプロジェクトや Ocean Exploration Trust では、リアルタイムの水中モデリングや没入感溢れるプロジェクトに Cesium for Unreal を使用しており、今後このプラグインの活用が見込まれる分野の一端を確認することができます。

Cesium for Unreal を試してみませんか?

実世界の 3D コンテンツや高精度のフルスケールの地球を Unreal Engine に取り込み、プロジェクトで使用することができます。

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