Image courtesy of SUBARU
Unreal Engine を活用した VR で、SUBARU におけるユーザーリサーチの課題を克服
2022年8月1日
SUBARU
VR
スポットライト
デザイン
ブループリント
自動車&輸送
自動車メーカーが、ユーザーが求めるデザインのニーズや新しい提案に対する感度を知るためには、従来であれば、実物大モデルを制作し、ユーザーに直接確認してもらう必要がありました。
この手法は、制作や輸送にコストがかかるだけでなく、機密を守るために、ユーザーが普段クルマを目にする環境とは程遠い閉鎖された環境が必要になるなど、様々な制限や妥協を強いられていました。
SUBARU
では、これら制限や妥協を解消するために、ユーザーリサーチにゲームテクノジーとVRを融合・活用する新しい手法を研究・実施しています。
ゲーム開発のスキルを自動車業界に
ゲーム開発のバックグラウンドを新たな産業にもたらす ― 宇木 孝太郎氏は、そのような新世代の担い手の一人です。宇木氏は、SUBARU に入社する前に CG ムービー デザイナーおよびエフェクト デザイナーとして、
タイム クライシス
シリーズなどのコンシューマー ゲームに約 10年間携わっていました
ゲーム エンジンのテクノロジーによって、建築/土木/建設から映画やテレビに至るまで、あらゆる分野において従来のワークフローが変革されるにつれ、
ゲーム開発のスキルの需要がますます高まっています
が、宇木氏は、ゲーム業界で得たスキルと経験を日本の自動車大手の研究開発に応用し、Unreal Engine を利用した自動車デザインの新しい手法を追求しています。
Unreal Engineを活用したVR によるユーザーリサーチ
一般的に自動車 のデザイン開発プロセスは、「リサーチ」、「スケッチワーク」、「モデリング」、「評価/ビジュアライゼーション」、「設計検討」の 大きく5 つの工程で構成されます。 「モデリング」や「ビジュアライゼーション」にデジタル技術を活用することは、よく知られていますが、SUBARU では、開発中のデザインモデルを使用してターゲットユーザーの感度や嗜好を調査する「クリニック」と呼ばれるユーザーリサーチのプロセスにも積極的にデジタル技術を活用しています。
従来のクリニックでは、実物大のクレイモデルを制作していました。この手法は、モデルを制作するコストや輸送費がかかる上に、輸送期間中は実質的にデザイン開発が停止するなど、様々な課題がありました。
また、できるだけヘッドランプやホイールを製品と同じ見た目とするために高価な試作品を追加で制作したり、その予算や時間が確保できない場合は、紙やフィルムなどでそれらを補うといった制限や妥協が必要でした。
そこで SUBARU は、これらの課題を解決するため、日本を代表する Unreal Engine のコンテンツ デベロッパーに数えられる
historia
と共同で、クリニックにおける全工程をVRで再現するアプリケーションを開発しました。
具体的には、VRヘッドマウントディスプレイを装着し、デジタル試作モデルの前でアンケートやインタビューに答えるといったものですが、単純に従来の手法をデジタルに置き換えただけではなく、VR であっても、快適にアンケートの回答できる独自のユーザーインターフェースの開発など、従来と遜色ない調査結果を得るための様々な工夫が施されました。
また、モデルや会場もデジタル化することによって、これまでは再現が出来なかった部品や質感も容易に再現できるようになったり、機密保持のための特殊な環境も用意する必要がなくなったりなど様々なメリットを生み出し、最終的には、コストの面で従来の約 1/7 に、デザイン開発からクリニックまでの準備期間を約 6 週間から 3 日に短縮することに成功しました。
より深くユーザーの嗜好を理解するために
SUBARU にはクリニックをデジタルプロセスに変更するにあたって、もう一つ克服したい課題がありました。ユーザーの嗜好をより深く理解し、ユーザーのデザイン評価をより詳細に把握することです。
この課題に取り組むために、SUBARU はユーザーのデザイン評価時の姿勢や視線に注目しました。HMD やコントローラーの位置や方向から、これらの情報を取得することで、より深くユーザーの嗜好を理解できるようになるのではと考えたのです。
これらの情報は従来型の物理モデルを利用したアプローチでは取得することが出来ません。SUBARU は、これらの情報を取得することを目指し、historia と共に「評価時の姿勢」と「評価時の視線(アイトラッキング)」を取得する機能と、それら取得した情報を可視化し、アンケート結果と紐づける機能を開発しました。
そして、これらの姿勢と視線の取得と可視化によって、例えば、あるユーザーはタイヤが大きく、スポーティに見えると回答していたにも関わらず、実はそれほどタイヤには注目しておらず、むしろ他のパーツを注視していたなど、アンケート回答と実際の行動には差異があり、従来の手法では、ユーザーの本音のデザイン評価まで深く調査できていないことがわかってきました。
また、このVRアプリケーションでは、「ユーザーがデジタル試作モデルのどの箇所を、どのくらいの時間見て、どういった評価を下したのか」といったデザイン評価の過程を完全に追体験できる機能も開発しており、従来以上に密度の高い情報をデザイナーやモデラーにフィードバックすることに成功しています。
但し、こういった結果を受け、より深くユーザーの嗜好の把握が可能になっていくと SUBARU では考えていますが、まだ課題は残っています。
それは、ユーザーのデザイン評価時の行動が、どういった感情の基で行われたかという課題です。この課題を克服するために SUBARU では現在も引き続き研究・調査を進めています。
自動車デザインを進化させるUnreal Engine
SUBARU は 2016年以来 Unreal Engine をデザイン プロセスで使用しています。 「他のソフトウェアやゲームエンジンよりも Unreal Engine を選択した理由のひとつは、
ブループリント
です。ブループリントを使って直感的にインタラクションを構築できるということは、例えば、造形やスタイリングだけでなく、使い勝手も含めたユーザーシーン全体を再現・検討する場面など、様々な用途で非常に有効です。」と宇木氏は振り返ります。
Image courtesy of SUBARU
「そして、もう ひとつは、
Automotive Materials
(自動車用マテリアル) や、
Quixel Megascans
ライブラリなどのアセットが多数公開されていることがです。特に、リアルタイムレイトレーシングを使用したCGシーンを制作するビジュアライゼーション業務において、これらのアセットが非常に有効です」
また、SUBARU では、これら「クリニック」や「ビジュアライゼーション」以外にも Unreal Engine を使った開発をすでに開始しています。 まずひとつ目にあげられるのが、
ヒューマン マシン インターフェース
(HMI) の開発のための研究です。
「私たちは、HMI 開発において Unreal Engine を使用したフィジビリティスタディやプロトタイピングについてテストしています」と宇木氏は言います。 ふたつ目に、VRED では再現することが難しい、天候などの動的な変化が生じる環境の中で運転し、その中でデザインを評価するためにも Unreal Engine を利用しています。
宇木氏は、デザイン開発のプロセスを Unreal Engine によるリアルタイムのアプローチに切り替えることによって、SUBARU は多大な影響を受けていると考えています。「Unreal Engine を利用した新たなデザイン開発は、高速なイテレーションによる開発の効率化を生み出しただけでなく、従来の自動車会社が行ってきた造形やスタイリングのデザイン以外にも視野を広げるキッカケになっています。そして、このような意識の変化が、新たな付加価値を生み出せるようになることを、私たちは期待しているのです」
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