© Kengo Kuma & Associates

ゲーム開発と建築ビジュアライゼーションがコラボするとき、画期的なインタラクティブ バーチャル ギャラリーが生まれる

2021年4月19日
隈研吾建築都市設計事務所 (KKAA) は、受賞歴に輝く日本の建築家 隈研吾が主宰する建築設計事務所です。KKAA は東京を本拠とし、プレゼンテーション用の CG パースはもとより (CG パース専用にインハウスの CG チームを擁しています)、映像やインタラクティブ コンテンツの制作にも力を入れています。そのようなプロジェクトの一つが Multiplication です。この作品では、バーチャルなギャラリーと幻想的な建造物をリアルタイムにインタラクティブに見て回ることができます。 

Multiplication を制作するにあたって KKAA は、 Unreal Engine によるソリューションに特化したソフトウェア デベロッパーのヒストリア (historia Inc.) と共同でこのプロジェクトに取り組むことにしました。ヒストリアの主力はゲーム事業ですが、そのエンタープライズ部門は、自動車/建築/放送業界のノンゲーム プロジェクトを対象としています。 

次のサンプル映像は、Multiplication のインタラクティブ空間を歩いてゆく様子を示しています。ヒストリアのウェブサイトからも実行可能な体験としてダウンロードすることができます。
 

Multiplication のプロジェクトは、2 つの会社による真のコラボレーションでした。KKAA は企画/コンセプト アート/展示物のデザイン/3D モデリング/ベースのライティング/ウォークスルーのプロトタイプを担当し、ヒストリアは、仕様策定/プログラムの実装/グラフィックスの洗練/サウンドの追加/シーンの最適化/PV の制作を担いました。

今回私たちは、KKAA とヒストリアに取材し、このユニークな展覧会がどのようにして実現したのか尋ねてみました。

Multiplication がバーチャル プロジェクトとなった経緯について教えていただけますか?

KKAA:
2020年私たちは、隈研吾作品のための巡回展に取り組んでいました。この巡回展は複数の美術館での展示が予定されていました。その展示物には、Unreal Engine で制作された VR 体験や映像などのバーチャルな要素が含まれることになっていました。つまり、私たちはその時点ですでに Unreal Engine を使って仕事を開始していたことになります。

そのような中、私たちは、東京銀座にある LIXIL ギャラリーで定期開催されている「クリエイションの未来展」 にも作品を出品することになっていました。これは現実の展覧会として開かれることになっていて、KKAA は、それまでにもこの展覧会に数回参加していました。ところが今回は、世界的な情勢により一般公開が不可能になりました。私たちは、それでも LIXIL への出展を続けることにしました。ただし、出展する作品はバーチャルなものにして、Unreal Engine で制作することにしたのです。
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Unreal Engine を使って隈研吾展を制作していたことが、Multiplication を仮想化することへの追い風となっていました。LIXIL ギャラリーへの出展を仮想化することによって、より多くの人たちに体験してもらえると思うと、非常に楽しみにもなりました。
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Multiplication が完成した後、隈研吾展のための制作も完了しました。この隈研吾展は 2020年11月に高知県立美術館で開催されました。また、2021年1月から3月まで長崎県美術館で、さらに、6月から9月までは東京国立近代美術館でも開催される予定になっています。

Multiplication に込められているコンセプトは何でしょうか? 

KKAA:
私たちは、Multiplication をデジタル体験とすることに決めたことにより、デジタル的手段によってしか可能にならないものにすることを目指しました。つまり、ユーザーがバーチャルにインタラクトすることによって、自ら構築/解体できるものにしようとしたのです。
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しかし私たちは、社内のリソースを活用するだけでは、インタラクティブな要素を制作することが難しいと気づきました。ヒストリアさんについては、Unreal Engine を学ぶためにそのブログを度々訪れていたので知っていました。私たちは、自分たちの知識だけで実現できるものの範囲を拡張してくれるある種の化学反応を期待して、コラボレーションという道を選択しました。

ヒストリア: KKAA さんからコラボレーションのお誘いを受けたとき、私たちはとてもワクワクしました。私たちの建築部門の仕事は、その大半が図面をビジュアライズするだけのものでしたが、このプロジェクトはそれにとどまらなかったからです。私たちはゲームも制作しているため、そのノウハウをこのプロジェクトに活かすことができるはずだと確信がありました。

Unreal Engine を利用してデザインをプレゼンテーションすることの利点を教えていただけませんか? 

KKAA:
Unreal Engine を使うことの最大の利点は、空間のシーケンスを伝えられる点です。空間の見方は人それぞれであり、「空間の中を自由に動いて回る」というのは建築体験の原点です。このことは、デジタル表現でもぜひ実現していきたい点なのです。
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ヒストリア: Multiplication には、この作品を体験する人たちがその世界に没入できるようにするための工夫が複数施されています。あるタイミングで再生される動画、空間にかすかに流れる BGM、歩くたびに再生される足音の SE などが挙げられます。UI などは、最低限で些細な効果だけにとどめて、体験への没頭を邪魔しないように設計されています。.

デジタルならではの体験を提供するためには、ユーザー自らが操作して能動的に空間を構築できる機能を加えました。このような仕組みはすべてブループリント スクリプトとマテリアル エディタによるシェーダーで実装されています。 
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もしかすると、これが最も重要な Unreal Engine の利点なのかもしれませんが、タイトなスケジュールという問題が Unreal Engine によって解決できたのです。Unreal Engine を利用した開発スピードでなければ、ここまでコンテンツのクオリティを上げることは出来なかったはずです。

Unreal Engine に含まれているツールの中で、特に便利だと思われたものは何でしょうか?

KKAA:
まず、そもそもブループリントが便利です。プログラミングの知識なしで、ほとんどの動きが制御できるのは非プログラマーとしてはとてもありがたいです。 

ヒストリア: 私たちもブループリントを挙げたいです。私たちの場合、制作期間が短いことがしばしばあり、たとえ C++ でのプログラミング知識を持っていたとしても、ブループリントで素早くコンテンツを作れることは非常に重要なことなのです。
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KKAA: それから、ランドスケープ関連ツール全般が非常に役立ちます。建築物自体は DCC ツールで作るのですが、周辺環境、特に自然環境を Unreal Engine 内で素早く作れるのは嬉しいことです。Quixel ライブラリが無料で使えるのも大きいですね。このあたりのツールは今後もぜひ機能拡張を続けていってほしいです。 

あとは、Unreal Engine 5 の Nanite と Lumen が非常に楽しみです。どちらも複雑な建築表現には大きな助けとなりそうです。

ヒストリア: Unreal Engine には他にも便利な点があります。それは、アーティストがエンジニアの手を借りずに、レベル エディタやマテリアル エディタを使ってクオリティの向上に注力できるという点です。このような環境は、アーティストにとって何より重要なポイントだと感じています。Unreal Engine を日常的に使っていると当たり前に思えますが、実はこれはすごいことなのです! 

そして、今後のコンテンツ制作に大きく影響を与えそうな Nanite と Lumen には我々も非常に注目しています。

今回異業種間でコラボレーションを行って、何か新しい発見はありましたか?

KKAA:
今回の一番の肝は、動的な空間生成がプレイしていて気持ち良い体験になるかどうかでしたが、建築設計視点でのコンセプトや動きのイメージに対して、ヒストリアという Unreal Engine の専門家から、知見を交えた提案をして頂けたことは大きな収穫でした。
特に、足音と建築部材による「音」が Multiplication 体験に加わりましたが、その作り込みには嬉しい驚きがありました。実際の建築空間では自然発生する「音」というものが、没入感のある空間体験にとっても重要な要素であることを再認識させられたからです。 

また、ビジュアルのクオリティを保ちつつ、少しでも多くの方に同時にプレイしてもらえるように、描画負荷が最適化されたマテリアルやライティングの設定など、インタラクティブ コンテンツを作る上での勘所が非常によくわかる設計となっていて感銘を受けました。

ヒストリア: 今回 KKAA さんという名だたる建築事務所とのコラボレーションが実現でき、普段どのように建築デザインと向き合ってらっしゃるのかということを肌で感じることができました。特に抽象空間については、本質的なコンセプトの形状やイメージを KKAA さんに頂き、私たちの方で動きや一部の配置をプログラムで組む形で進めていったため、普段 KKAA さんの手掛けられている建造物が、細部からではなく、非常に本質的なイメージから創造されているということがよく理解できました。ゲーム制作では一つ一つの建造物にここまで深い意図を込めることはあまりないため、非常に刺激的な体験でした。
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今後も、Multiplication で用いた方式によって、さらに作品を制作することになりそうですか? 

KKAA:
はい、今後の KKAA としての建築プレゼンテーションには、映画的な要素やゲーム的要素を大いに取り込んでいきたいと考えています。そのためには、他の会社とのコラボレーションを積極的に行っていく必要があります。技術も人も、もっと幅広く混ぜ合わせていった方が良いものが生まれやすいと思います。 
次にヒストリアさんとご一緒する際には、スマホアプリ化や VR コンテンツ化など、さらに多くの方に触れてもらえる媒体での展開を視野に入れています。

ヒストリア: 次はぜひ VR コンテンツを作ってみたいですね。VR 空間で、Multiplication の抽象空間のようなインタラクティブ コンテンツならではの体験を作ってみたいです。バーチャルな空間で普段ものづくりをしている我々は、一つ一つのオブジェクトをユーザーにリアルに感じてもらえるように、リアル世界の要素を取り入れようとして作品を作りますが、通常は、現実の制限がないバーチャルな環境でゲームを作成しています。今回 KKAA さんとご一緒させていただいて、リアル世界とバーチャル世界の狭間にある VR というジャンルを一緒に作ってみたら、また新しい体験が生み出せるのではないかと思っています。

KKAA: これまでのところ、建築業界における CG というのは、あくまで現実の建築ありきでした。よりよい建築を生み出すための意思伝達ツールといったような役割を担ってきました。もちろん、それはそれで続くのですが、昨今「空間」という概念は拡張されてもいます。フィジカルを伴わない「仮想空間の設計」が一つの産業となる日も来るかなと思います。今はゲーム業界が先行しているそうしたジャンルですが、建築設計事務所として培ってきた知見をもって参入できたら面白い方向に進みそうです。

ヒストリア: 今回の制作は、お互いのクリエイティビティがうまくかみ合いました。このインタラクティブ コンテンツでは、建築のアートコンセプトから体験可能です。これは、今まであまり世に存在しなかったタイプのコンテンツだと思っています。

今回のコラボレーションは、Unreal Engine という共通言語を持ったことをきっかけに実現しました。Unreal Engine の広がりとともに、今回のように Multiplication によって具現化された新しい価値が世界に増えていくことがとても楽しみです。

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Multiplication プロジェクトのチーム メンバーのご紹介: KKAA からは、松長知宏、森遊耶、土江俊太郎、叶子萌の各氏、ヒストリアからは、佐々木瞬、小林誠、真茅健一、片平大誠の各氏で構成されていました。
 

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