DNEG が『マトリックス レザクションズ』の道場のシーンを Unreal Engine で制作

『マトリックス』 の最も印象的なシーケンスの 1 つとして、日本式の道場で、モーフィアスが隠された能力に関する大事な教訓をネオに教えるシーンがあります。モーフィアスが説明しているように、これはマトリックスの物理特性を疑似体験できるよう作られたスパーリング プログラムであり、そこでネオは非現実的な世界で可能なことについて自分の先入観を疑問視することを学びます。

DNEG のスタッフは、昨年公開された『マトリックス レザクションズ』で、この象徴的なシーンの再現を依頼されたとき、環境構築にはゲーム エンジンを使用するのがふさわしいと感じました。この映画の VFX スーパーバイザーである Huw Evans 氏は、「ストーリーの観点からいえば、道場とはネオが足を踏み入れる仮想世界の構造物であり、ビジュアル エフェクトのマトリックスの中に独自のマトリックスを作り出せたこと、言い換えれば、このゲーム エンジンを VFX パイプライン内で使用できたことに、とてもワクワクしました」と語っています。

ビデオ ゲームの魅力的なワールドや環境を作り出すために長年使用されてきたゲーム エンジンのテクノロジーは、現実世界と見分けがつかない CG ビジュアルを制作できるまでに進化しています。要するに、現実世界そっくりに見える完全にインタラクティブな仮想環境、つまり正真正銘の「マトリックス」を作り出せるようになったのです。

この映画における DNEG の作業に携わった VFX のエキスパート数人に取材を行い、リアルタイム テクノロジーがゲーム チェンジャーとなりつつある理由を探ると同時に、Unreal Engine から得られる最終ピクセル イメージがスクリーンに映された道場のシーンになったプロセスを知ることができました。 


リアルにシミュレートされた環境

Dan Glass 氏は Warner Bros. のシニア VFX スーパーバイザーです。彼のチームは、『マトリックス』第1作の道場のシーンに対するオマージュを制作することを任されましたが、今回は思わぬ展開がありました。「Lana (Wachowski 監督) の要望は、この道場自体を木々に囲まれた小さな湖の上に建てることでした」と彼は語ります。

脚本家兼監督である Lana Wachowski 氏は、Epic と協力してその環境を開発しました。「道場が置かれた環境は、美しい秋の森に囲まれ、2 つの橋でつながった 3 つの湖で構成されていました」と Evans 氏は語っています。

この映画に取り組んだ CG スーパーバイザーである Roel Coucke 氏が指摘しているように、このコンセプトはそのままエンジンの能力の試金石でもありました。「道場が湖の真ん中にあるため、望みどおりの反射を実現できるようにしなければなりませんでした。また、水面はこの環境の重要な要素であり、納得できるものにする必要もありました」と彼は語っています。

水面のシミュレーションが難しい作業であることは、周知の事実です。水面には特有の物理特性と反射特性があり、人間の目は不自然な箇所を簡単に見抜いてしまいます。Epic Games のリード テクニカル アーティストである Quentin Marmier 氏は、「レンダリングの技術的な観点からいえば、水面のシミュレーションはかなり難易度が高く、ゲームエンジンを使うのであればなおさらです」と説明しています。

Unreal Engine のリアルタイム レイ トレーシング機能のおかげで、本作の主要関係者の高い基準も満足させられる、信じられないほどリアルな水面のビジュアルを作り出すことができました。「シミュレーションはすべてリアルタイムで行われるため、環境を作ってしまえば、あとはすべてうまくいくのです」と Marmier 氏は語っています。
フォトリアルなリアルタイムのレイ トレーシングは、ここ数年でゲーム エンジンが遂げてきたいくつかの技術的飛躍の 1 つにすぎません。リアルタイム合成、映画品質のポストプロセス エフェクト、高度なパーティクル、物理、破壊と組み合わせることで、クリエイターはライブアクションとアニメートされたコンテンツの両方の最終ピクセル出力を作り出すのに必要となるあらゆるものを、手軽に利用できるようになっています。

Coucke 氏は、語っています「そのシーケンスの最終イメージで見えているもののほぼすべてが Unreal から直接得られたものです。これは他に類を見ないことです。これまでプレビズやポストビズでは必ず Unreal を使っていましたが、今回初めて、完成した映画においても Unreal Engine から提供されたものを観客が目にすることになりました」。
 

ビジュアル エフェクトのリアルタイム レンダリング 

最終ピクセルの品質を達成するための唯一の方法がオフライン レンダリングであった頃、ショットがレンダリングされるのを長時間待たねばならず、VFX 業界では評判が悪かったのです。
ゲーム エンジンのテクノロジーによってもたらされる速度と効率によって、状況は一変しました。「レンダリングされた VFX で、どのようにレンダリングされるかを確認するのに、これまでは数時間、ときには数日かかっていましたが、それをリアルタイムで行い、十分な品質で確認できることは衝撃的でした」と Evans 氏は語っています。
 
リアルタイム テクノロジーによって、変更内容を即座に確認できるようになっています。自分の想像力と同じ速度で試行錯誤でき、一番求められるタイミングでクリエイティブな選択をすることができます。DNEG の環境ジェネラリスト スーパーバイザーである James Tomlinson 氏は、「シーンで光を調整したいときや、特定のショットで太陽の角度を変えたいときに、直ちにフィードバックが得られるのです。レンダリングのボタンを押してから 25 分待ったりすることもなく、結果をすぐに確認できるので、全員が満足しています」と語っています。

Coucke 氏が説明しているように、ビジュアル エフェクトの業界は時間との勝負です。「レンダリング時間はコストが非常に高いのです。リアルタイム テクノロジーによって、通常は 1 つのノートに丸一日かかるのが、全工程をほんの数分か数時間にまで短縮できます」と語っています。

アーティストにとっては、技術面から制約を受けるのではなく、より多くの時間を芸術面に費やすことができることを意味します。そのことは Unreal とリアルタイム ワークフローの大きなメリットだと思います」と Evans 氏は語っています。
 

映像制作向けのゲーム エンジン

Unreal Engine は、映画用の高品質の 3D コンテンツを提供しようとしている VFX スタジオの要に急速になりつつあります。このエンジンには、特にビデオ制作を考慮に入れて開発された多くの機能が搭載されています。

ムービー レンダー キューはその好例です。「以前は、1 人のライティング アーティストや 1 人の環境アーティストが、運がよければ 2 つまたは 3 つのショットを送信できていましたが、Unreal Engine と、パイプラインに組み込まれているムービー レンダー キューを使うことで、毎日数十ものショットを送信できるようになりました」と Tomlinson 氏は語っています。

ムービー レンダー キューは、蓄積されたアンチエイリアスとモーション ブラーを使ってムービーや静止画像をレンダリングする能力を利用して、高品質で映画基準のメディアをポストプロセスなしで Unreal Engine から直接作成できるようにする機能です。

Unreal Engine 4.27 以降では、シーケンサーの複雑なセットアップを行うことなく、ムービー レンダー キューを使ってバッチ処理で複数のカメラからレンダリングできます。これにより、バリエーションやイテレーションに取り組む際に、異なる視点からの一連の多数の静止画像を繰り返し作成することが容易になります。

DNEG のチームは、これまで実現できなかった方法でエンジンを活用するように、この機能を適応させることができることがわかって驚いていました。あるケースでは、標準のプリセットとして提供されていないようなボリュメトリック フォグに対して個別のレンダリング パスを作成する必要がありましたが、ブループリントのロジックを使ってプリセットを作成し、すべてのアセットを黒くするとういう方法でシーンを変更することができました。「これにより、合成部門への EXR に記述されているボリュメトリックで、ショットでの望ましいフォグがどの程度であるかを合成部門が完全に制御できるようにしていました。このプロセスはアーティストにとってまったくシームレスでした」と Coucke 氏は語っています。
 

リアルタイム映像制作のワークフロー

DNEG のような業界のパートナーと共同作業することで、Epic は映像制作のワークフローをより円滑に進めるための新機能や改良を Unreal Engine に継続的に加えています。最近のリリースでは、次世代のインカメラ VFX、強化されたバーチャル カメラ システム、バーチャル セット ライティングを変更するための大幅に簡単な方法など、多数の機能がもたらされています。「Unreal のツールをプロダクションの映画制作向けに移行および開発する手助けができることはエキサイティングな体験でした」と Glass 氏は語っています。 

ゲーム エンジンで達成できるようになったビジュアル品質によって、そのテクノロジーを利用して制作される映画やテレビのコンテンツが今後ますます増えることは確実です。先見性のある多くのスタジオでは、VFX に対するアーティストの考え方が変わってきています。「リアルタイム ゲーム エンジンを使用して最終品質のレンダリングを量産するというアイデアには大きな期待を寄せています」と Evans 氏は語っています。
 
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