VR化にも期待!ナラティブ&環境アーティ ストが創り出す日本の懐かしい風景 『 NOSTALGIC TRAIN』の制作背景。開発者 とUnreal Engineの出会いから技術習得のコツも。
以前、#EpicFriday に登場した『NOSTALGIC TRAIN』。風情ある景観はどこか懐かしく子供の頃を思い出させます。『NOSTALGIC TRAIN』を手掛けるのは、ナラティブ&環境アーティストである畳部屋さん。もともと十年ほど国内外のゲーム業界で背景モデラーとして働き、現在は海外の某会社に所属しながら副業としてオリジナル作品を作っています。
在籍中の会社も含め、海外のゲーム企業は従業員の副業OKというところが比較的多く、同僚にインディー開発をしながら働いている人も多いことで刺激を受け、自分の中で溜まっていた作品のアイデアをUE4を使って形にしようと活動始めたそうです。
今回は、そんな畳部屋さんに作品に関する具体的な制作背景やこだわり、Unreal Engineとの出会いから実際の採用過程におけるノウハウなどお話を伺いました。
ーーー まず、突然ですが畳部屋さんの肩書きが気になりました。「ナラティブ&環境アーティスト」ってちょっぴり聞きなれないのですが、どのような意味が含まれているのですか?
ナラティブというのは物語、というような意味です。環境アートというのは、日本で言う背景デザイナー/モデラーの職種を英語でEnvironment Artist (環境アーティスト)と呼ぶんですね。この場合の環境は、環境保護、というような意味とは少しニュアンスが違って、キャラクターに対して、部屋や建物、自然地形など、周辺の包み込む世界全体、というような意味合いだと思います。「背景」というとキャラの「後ろ」にあるもの、というイメージなので、Environment/環境のほうが個人的には少しだけ主張が強い感じがして好きです(笑)。
ーーー インディー開発者として、どのような思いで制作に取り組んでいますか?作品を通してユーザーに届けたいことをお聞かせください。

この第一作目のプロジェクトNOSTALGIC TRAINも含め、私がインディー開発者として作っていきたいのは、空間や世界、つまり「環境」と、物語性が化学反応を起こして生まれる作品世界、のようなものです。
ちょっと大げさな例えになってしまいますが、和歌や漢詩って遠くに山があって湖があって月が出ていて小舟が浮かんでいる、とか、それだけを言っているのにそこに様々な感情や、時に人生の一瞬を切り取ったような物語性まで込められている。だれでもそういう景観の中に物語性がリンクした感覚って多かれ少なかれ持っていると思うし、文学や映画ではそういう手法をよく利用しているのだから、自分で作るゲームだってもっとそんな作品にしていきたい、と思っていました。
…と、あまり言葉で説明しすぎるのも野暮な感じなのですが、単純にきれいで詩的な感じの世界を作り、遊ぶ方にはその中を浸って色々感じていただける作品を作って行きたい、そんな夢を持って制作しています。
ーーー 第一作目のプロジェクト『NOSTALGIC TRAIN』は、どのようにして生まれたのですか?ウォーキングシミュレーターにする予定とお聞きしましたがとても相性が良さそうですね。なぜ取り入れようと考えたのですか?
このプロジェクトは、既存のゲームのジャンルとかを一旦忘れて、自分が本当に作りたいCG世界は何かと見つめた時に出てきた一つの形です。
子供の頃から鉄道模型とか、ジオラマとかが好きだったんですね。そして親の地元の寂れた田舎の何気ない景色とか、学生時代に愛車の原付リトルカブで旅行して心に残っている景色とか。田舎の蝉の音、木造の小さい駅舎、駅前の商店、水田、ひんやりした河原、木造校舎。そういう景観を、まるで鉄道模型のレイアウトをCGにしたように、誰もが懐かしいと感じるような情景をコンパクトな空間の中に密度の濃いオープンワールドとして詰めこんだのがNOSTALGIC TRAINです。
そういった世界の中に浸って歩き回った時に感じる言葉じゃない感情、そんなものを作品を通して伝えられたらなと思います。そして、その世界を素通りせず一歩一歩を踏みしめて、景色をより味わえるように、ウォーキングシミュレーターとしてテキストベースの物語要素を付けて完成させる予定です。
ーーー 『NOSTALGIC TRAIN』はメディアにも取り上げられていましたね。クラウドファンディングに参加しコミュニティからはどのようなフィードバックがありましたか?また、プロジェクトに反映させた部分があったら教えてください。

やはり日本の田舎を舞台にしたオープンワールド、という設定、組み合わせに高評価をいただきました。オープンワールドゲームというとGTAに代表されるように海外の大規模で結構殺伐とした世界のものなどが多かったりするのですが、落ち着いた癒し系オープンワールドを求めている人は自分以外にも多くいるのかと嬉しかったです。ご意見は可能であれば反映させたいと思うのですが、例えばオープンワールドなのにマップが狭そう、という声もちらほら聞こえてきました。これはもちろん個人制作の限界でもありますし、広くて変化の少ない景色が広がるのは僕自身のオープンワールドゲームを遊んでいるときの不満点だったりもするので、コンパクト過ぎるくらいの世界の中にいろんなものが高密度に詰まっているという良さを全面に出していきたいと思っています。
他には、VRにしてほしいというご意見も耳にしました。僕自身がVR開発未経験なのでどの程度大変なのか未知の世界なのですが、面白そうなので一度通常PC版を完成させた後になるべく対応したいと思います。
ーーー アセットは使用しましたか?マーケットプレイスでおすすめがあったら教えてください。

はい、個人制作であるため自分で作りきれない部分はアセットにかなり頼っています。Landscape Auto Materialという、自然地形をスカルプトするだけで自動的にいい感じの地面マテリアルをブレンドしてくれ、草木が生えてくれるという製品はとても役立ちました。ちょっと深く見ていくと、あまり日本の田舎っぽい植物やマテリアルではないので、これをベースにかなりカスタマイズしてほぼ別物として使用しているのですが、短期間でクオリティが高い地形を作れるので初期段階に全体の感じをつかむのに重宝しました。
あとはEpicさんのKite Demoを元にした Open World Demo Collection も、こんなハイクオリティのものが無料で使用できて良いのかと思うほどでありがたいです。他にも、小物や植物類のアセットなどを購入したものも幾つかありますし、今後の製作で追加する可能性もあります。
ーーー どういう表現に対して、どの機能を使って実現しているか特にこだわった実装箇所などがあったらその手法を教えてください。
割とスタンダードな機能ばかり使っています。自然地形はランドスケープのスカルプト、イベント(電車が近づくと踏切が降りるなど)はボリュームでOnOverlapのイベントを取って…など。建築物などのマテリアルに関してはテクスチャの解像度を出しつつメモリを節約するために、最近のゲーム開発でよく使われるレイヤーマテリアル の手法を使っています。Substance PainterのAllegorithmicさんが公式にSubstanceで作ったものをUE4に簡単に読み込むプラグインを公開されているので自分の作品のワークフローにも取り入れています。
画像は突堤の階段のモデルなのですが、マテリアル1つにつき4種のタイリングしたマテリアルレイヤーを持っていて、Substance Painterから出力した比較的低解像度のマスクを使ってレイヤーをブレンドすることで形状による材質の変化を出しつつコンクリートテクスチャ自体をリサイクルしています。レイヤーごとの色付けや法線の強さなど、各種パラメーターも設定できます。
ーーー Unreal Engineに触れるきっかけはなんだったのでしょうか?畳部屋さんとUnreal Engineの出会いを教えてください。
初めて触ったのはUE3の時代です。かなりレアなきっかけだと思うのですが、僕は海外のゲーム業界に飛び出して武者修行のように仕事をしたくて、ある企業に背景モデラーとして応募しました。すると、海外企業は在宅でできる採用試験を課してくることが割とあるんです。その会社の試験というのが、まずコンセプトアートとその会社のオリジナルアセットが送られ、UE3 (UDK)の中で、渡したアセットとUE3デフォルトの素材やツールを使いコンセプトアートにあるような印象的なステージを作り上げろ、と言うものだったんです。Unreal Engineについて聞いていたことはあっても当時は今ほど日本語の書籍や情報ブログが充実していなくて、確か1週間という期限の中でUE3をインストールして使用法を学びながら良いテスト結果を作り上げるという大変なものでした。結局その会社とほぼ同時に別の会社からも採用通知をいただき、そのもう一つの会社で働くことになったためしばらくUnreal Engineとご無沙汰になります。
仕事をしているうちにUE4が発表され、基本無料になり、日本でブームになっているようなことも伝え聞き、自分の作りたいタイプのゲームがUE4を使えば個人制作出来るんじゃないか、と思い始めました。UE4をダウンロードして使ってみるとその使いやすさの進歩も凄まじく、これはいける!と(笑)。
ーーー 実際に『NOSTALGIC TRAIN』の制作でUnreal Engineを使用し、どのような印象を受けましたか?
UE3の頃は、集中的に触る機会があって短期間で完成度の高いステージを作れることが印象に残っています。UE4もダウンロードしてみたらさらに使いやすくなっており、全体的にとてもアーティストフレンドリーなエンジンだということが言えると思います。
デフォルトのレンダリング設定がすでにアーティストが気分良く作業できるきれいな描画結果になることや、各種のハウツー情報を発信しておられる方が多くおられたり、エンジン自体もテクニカルな知識が最低限で住むような工夫がそこかしこに見られて、アーティストがゲームを作る上でクリエイティブなこと以外に頭を悩まされる心配が最低限で済むような印象があります。
ーーー Unreal Engineの使用履歴はどのくらいなのか、どのような習得方法だったのか、これから触る人に何か貴重な教訓や知見があれば教えてください。
UE3に初めて触れたのは5年以上前ですが、UE4をダウンロードして少しずつ触り始めたのは無料化してからですので1、2年ほどでしょうか。
習得は独学です。独学でも十分やっていけるくらいの各種情報の豊富さ、ユーザーフレンドリーさが現在のUE4にはあると思います。例えば株式会社ヒストリアさんのUE4ブログ やalweiさんのLet's Enjoy Unreal Engine というブログではブループリントの組み方など技術的な面で助けられましたし、湊和久さんの著書『Unreal Engine 4で極めるゲーム開発』 では、UE4の機能を解説する所から一歩踏み込んで、海外企業のゲーム開発パイプラインがこうだからUE4もこのように設計されている、ということとも絡めて本が構成されていて、ゲーム作品を一つ作り上げる中で初めから終わりまでの流れを体験しながら読むことが出来てとても有益だと思います。
ーーー 開発全体を通してUnreal Engineを通してリソースやコスト面など特に役立った部分はありましたか?逆に思いのほか難しかった部分はどのように解消しましたか?

現時点では完全に一人ですべてこなしていますし、それはもうUE4様様です(笑)。一昔前ならリアルな3D空間を一人で作り上げる、その中をゲームロジックを組んで歩き回るなんてことは夢でしかなかった。企業にとっても「最近のゲーム開発は技術の進歩とともに開発費が高騰し…」という枠組みで語られるようなものだったと思うんです。
僕の場合は自分で建築物や列車のモデリング(Maya LT)、テクスチャ作成(Substance Painter)など行いますが、逆に言えば最低限オリジナルなものを自作するだけで、後はツールの力やマーケットプレースの力を借りてそれをブーストできる、そういう助けをしてくれるのがUE4だと感じています。 逆に難しかった部分はほとんど自分のUE4に対する勉強不足からくるものなので、先程挙げたブログや書籍、公式フォーラムさんなどで答えを探しています。例えばブループリント間の通信やイベントのバインドなどは概念の理解に手間取りましたが、なんとかいろいろな情報に助けられて使いこなせるようになってきました。
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自分の作りたいものを作りたいクオリティで個人制作するのにすごく良い時代になって来た。だからこそこうして個人作品が発信でき、それを期待してくださる方も多いと分かり嬉しいと畳部屋さんは自らの体験を最後に話してくれました。
作品は現在、クラウドファンディングでパトロンを募集している。また、『NOSTALGIC TRAIN』の最新情報、進捗は畳部屋さんのTwitter からもチェックすることができます。
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