東京藝術大学と三菱地所(株)が丸の内からアートを発信するイベント「藝大アーツイン丸の内2017」が10月16日(月)~10月29日(日)に丸の内エリアにて開催された。今年のテーマカラーを「金赤」とし、東京藝術大学が放つ革新的発想、技術、知力が丸の内に結集した。展示された数々のアート作品の中で注目したのが東京藝術大学学部2年生の近藤銀河さんによって作られた『掛け軸、丸の内、遊境』だ。
『掛け軸、丸の内、遊境』は、ドットで描かれた人物とリアルな背景で映し出された映像からは、ある人物の日常シーンをリアルタイムに表現され、何かを訴えかけているかのようにも思えた。本稿ではUnreal Engine採用の背景や意図、きっかけを取材した。
「ゲームの景色の中を歩くことが好きなんです」その世界に移入できる山水画とゲームの関係性に魅了された

近藤銀河
東京藝術大学の芸術学科で、美術史と哲学を学んでいる。藝大主催で三菱地所様と共同で開催される「藝大アーツイン丸の内」の学生応募企画にて学内コンペが行われ、そこで企画が選出される。作品は、掛け軸をモチーフに、ゲームエンジンであるUE4を使って新しい映像作品を作ろうとしたもの。
ーーー はじめに、どのような思いからこの作品が生まれたのか教えてください。
トレンドに敏感で洗練されたイメージのある丸の内という場所に合わせて、新しいものと古いものを重ねたいと思いました。ゲームと山水画の関連に以前から興味があり、それを生かした作品にしようと考え、また意味の上でも掛け軸にマイノリティのような概念を導入しました。私自身、車椅子を使っておりバイセクシャルで、こうしたポイントは自分にとって重大な要素です。近年、ゲームでもこうした概念は熱いトピックですよね。
銀河さんは「ゲームの景色の中を歩くことが好きなんです」と、その世界に移入することができるゲームと山水画の関連に以前から興味があったこと明し、今回それを生かした作品にしようと考えたことを語りました。特にウォーキングシミュレーターといったインタラクティブ要素がなく、ただただひたすら歩きクリアをするジャンルの『Dear Esther』には強い影響を受けたそうだ。
『Dear Esther』は、GDC 2012「The 14th Annual Independent Games Festival & Awards」にて最もビジュアルに優れたものに贈られる「Excellence in Visual Art」を受賞した作品だ。
▲『Dear Esther』
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ゲームの独特の味わいは、その場で起きている感覚にある

ーーー 単純に映像のループではなく、リアルタイムの表現にこだわった理由はありますか?メッセージ性が含まれていたりするのでしょうか?
ゲームの独特の味わいは、その場で起きている感覚にあると思います。また、日本の障壁画のような建 築と組み合わせられる作品は、その場の環境を利用したり、季節に合わせたりといった要素がありまし た。また襖絵であれば、開くことによって位置が変化しますし、建築の中に置かれた作品にあたる光が、日時の移り変わりにより変化していくことは、作品に大きな影響を与えていました。そうしたその場、その時の持つ感覚に加え、気が全てに変化する、という山水画を支える思想に、起きる、起きていく、というようを重ね合わ せました。登場人物である車椅子ユーザといった人々が、今目の前にいるのだ、ということを強調した かったのもあります。

ーーー どういう表現に対して、どういう機能を使って実現したのか教えてください。
4.16から追加されたボリューマティックフォグによるライトシャフト効果は全体で利用しています。掛け軸、山水画を意識した表現にこの点は重要でした。また、ポストプロセスも利用しています。ただ全体で最も利用したのはパーティクル表現です。ボリューマティックフォグの延長として、用いたのは勿論ですが、群れて飛行する生物の表現にも利用し、全体としてはループしつつ違うものが見えるような表現に利用しました。UE4ならではの簡単なセッティングで複雑で立体的な反射表現を可能にするマテリアルも、正確さを逸脱した形で利用しました。
また、GimpやBlenderなど主にフリーソフトを利用たり、スマートフォンのドット絵制作アプリ、マーケットプレイスなど比較的金銭面で負担のかからないものを利用したと学生ながらの切実なふところ事情も打ち明けてくれた。
大学で高まるゲームへの関心
ーーー そもそもUnreal Engine を知るきっかけは何だったのでしょうか?
もともとゲームが好きで、以前よりゲーム情報はチェックしていました。そこで知りました。ある程度のスペックのあるノートPC(SurfacePro2)の購入と同時に導入に踏み切りました。
また、東京藝術大学ではプログラムの授業も多く、今年はスクエア・エニックスさまとゲーム学科を持つ南カリフォルニア大学と共同で、「東京藝術大学にゲーム学科ができたとしたら」をテーマとした 企画展 が行われるなど、ゲームへの関心は高まっていると話しました。
ーーー どのような方法でUnreal Engineの知識を取得したのですか?
”UE4歴は一年ちょっとです。取得方法は、やりたいことがありその方法を調べるという方法ですね。本当はきちんと一通りを習ってからやったほうがいい気もしますが…。モチベーションは続きやすいです。コミュニティが巨大で、わからないことを調べればおおよそのことは回答が載っています。また、開発方法ですが、私は小さなプロトタイプを適当なアセットで作り、それを元に機能を作り、という風に開発過程自体を細分化するようにしています。個人だととにかくモチベーションがなくなるのが辛いので、わかりやすい目標を立てていくのが何よりのコツのように思えます。美術で言うところのエスキース、スケッチ、習作を重ねる、と言う感覚です。ちなみに、個人的に何より理解に時間がかかったのはCast to とリファレンス変数の仕様の理解でした……。”
今後について
ーーー 最後に今後の活動と、その他アピールしたいことなどありますか?
今後もUE4を使ったゲーム作品、映像作品を作っていきたいです。具体的な展示の予定などはありませんが……!また、Itch io で販売ページを持っていますのでよろしければ覗いてみてください。
作品をどう売るか、というのが個人的な悩みです……。と最後に心の内を明かしていた。
▲ 近藤銀河さんの Itch io 販売ページ
▲初めてゲームを作った時に応募したぷちコン作品『My/Your story』
▲新丸の内3Fに展示されていた『掛け軸、丸の内、遊境』