Black and white stage shot of ‘La Haine: Jusqu’ici rien n’a changé’.

スポットライト

2025年9月17日

UE5 で舞台に蘇る La Haine のパリ

La Haine

Silent Partners Studio

ブループリント

放送 & ライブ イベント

La Haine はフランス映画のカルト的名作です。硬質なモノクロ映像で描かれるのは、友情や若者の成長、そしてパリ郊外の貧困にあえぐ団地 (les cités) を舞台とする荒廃した日常です。

そこには警察の暴力、人種差別、社会的排除といった現実が色濃く刻まれています。物語は、移民の背景を持つ 3 人の若者たちの 1 日を追いながら、これらの困難をどのように乗り越えていくのかを描きます。

そして今、この物語が映画から舞台へと飛び出しました。ダンス、映画、ラップ、ライブ パフォーマンスを融合させた新しい没入型シアター作品として蘇ったのです。
 
La Haine: Jusqu’ici rien n’a changé は、La Haine の撮影地を 3D スキャンし、Unreal Engine 上に取り込むという大胆かつ野心的な試みです。
 
こうして作られた環境は動画コンテンツとして巨大な LED スクリーンに映し出され、舞台演出と緻密にシンクロします。

俳優たちのライブ演技と物理的なセット、そしてデジタル環境が融合することで、舞台美術と没入型テクノロジーの新たな地平を切り開いています。
 
Silent Partners Studio による本プロジェクトの舞台裏を覗けば、技術的にも感情的にも深く響く没入体験がどのように形づくられたのかが見えてきます。
Police and youths in ‘La Haine: Jusqu’ici rien n’a changé’.
Image courtesy of Anthony Ghnassia

パリの建物を丸ごと 3D スキャン

 
Natan Couture Dumais 氏は Silent Partners Studio の Unreal Lead です。彼によれば、没入型シアターの形式を導入したことで、オーディエンスを物語の中心に配置し、従来の映画や舞台形式では実現できなかった生々しくダイナミックな体験を創り出せたといいます。

「リアルタイム環境の活用により、シームレスなシーン転換、動的ライティング、そして広大なバーチャル セットが可能になりました。それによってオリジナル映画の持つ荒々しい都市の雰囲気を再現できたのです」と Dumais 氏は語ります。「このアプローチにより、オーディエンスはパリの街中に入り込んだような没入感を得られ、物語の感情的な重みと即時性がより強調されました」

物語がパリ郊外の団地を舞台にしていること自体が、オリジナル映画における最も象徴的な要素の一つです。

Mathieu Kassovitz 監督のレンズによって永遠に刻まれたこれらの街並みの美学は強烈であり、Silent Partners Studio はそれらの建物をスキャンし、再トポロジ化して最適化することで、映画の引用性と舞台演出の両方に対応する都市の背景を再構築する決断をしました。
 
Silent Partners Studio はドローンを用いたフォトグラメトリで建物全体をスキャンし、オリジナルの La Haine の撮影地にあった本物の環境や小道具を細部まで再現した都市風景のバーチャル レプリカを制作しました。
A realistic CG depiction of Paris in ‘La Haine: Jusqu’ici rien n’a changé’.
Image courtesy of Gabriel Coutu-Dumont
チームは完成した環境に、1990 年代のストリート アーティストたちによる本物の写真アーカイブをもとにしたグラフィティ デカールを加え、オリジナルの映画が制作された当時の雰囲気を再現しました。 
 
小さなオブジェクトや主要なランドマークについては、高解像度のフォトグラメトリを DSLR カメラで行い、さらに柔軟性を高めるためにスマートフォンを使ったスキャンも取り入れました。
 
そしてチームは 3D スキャンを Unreal Engine に取り込み、それらを使ってバーチャル環境を構築しました。そのワークフローはバーチャル プロダクションに非常に近いものでした。
 
 

ランニングマシンでのバーチャル カメラ撮影

 
Silent Partners Studio は Unreal Engine のバーチャル カメラを使い、3D 環境内でシーケンスを記録しました。俳優がランニングマシンを組み込んだ回転台の上を歩く際に、カメラの動きをバーチャル シーンと同期させる必要があったのです。
 
これはプロジェクトにおける最大級の技術的課題の一つとなりました。そこでチームは Unreal Engine を利用し、OSC (Open Sound Control) プロトコルを通じて回転台からモーター データをリアルタイムで受信し、バーチャル カメラの動きを制御しました。
 
名前の通り、OSC はもともと音声やマルチメディア向けに開発されましたが、今日では柔軟なネットワーク プロトコルとして発展し、ライティング、プロジェクター、リギング コントローラーなど、リアルタイム制御やデバイス間でのデータ交換を必要とするあらゆるソフトやハードで利用されています。

OSC プロトコルは低レイテンシー通信に最適で、ライブ パフォーマンスのような用途に理想的です。Unreal Engine は OSC プラグインを通じて標準で対応しています。

これにより、バーチャル環境と物理的な舞台が完全に調和し、シームレスかつ没入感のある体験が実現しました。
 
「Unreal Engine がなければ、このワークフローを実現するのは非常に難しかったでしょう」と語るのは、Silent Partners Studio のクリエイティブ プロデューサー Jonathan Masterson 氏です。
A train whizzes by on the LED screen of ‘La Haine: Jusqu’ici rien n’a changé’.
Image courtesy of Gabriel Coutu-Dumont
その後、チームは Smode をメディア サーバーとして使用し、Unreal Engine でレンダリングした映像を再生、さらにトランジションやカラー補正を行いました。

オーディエンスが会場のどの席に座っていても、全体を破綻なく成立させることは大きな課題であり、あらゆる角度から自然に見える遠近法上の工夫が必要でした。

また、シーン構成ではアナモルフォーシス錯視の罠に陥らないよう妥協が求められました。この錯視効果は、中央付近の数列の座席からしか得られないためです。
 
環境の構築と統合にあたっては、バーチャル レンズと装飾要素のスケーリングや角度付けとの間で、巧みな調整が行われました。
 
前景の要素はあえて不均一にスケーリングし、不自然な角度で配置することで、正面からも LED ウォール上からも自然に見えるよう工夫されています。
 
「映画を名作たらしめた二重映像のような効果を舞台に移すには、UE のカメラ システムとリグが不可欠でした」と Masterson 氏は語ります。
The Eiffel Tower on the LED screen of ‘La Haine: Jusqu’ici rien n’a changé’.
Image courtesy of Anthony Ghnassia

ライブ イベントを支える Unreal Engine


La Haine:Jusqu’ici rien n’a changé のように技術的に極めて複雑な没入型シアター作品は、その成否がテクノロジー スタックの力にかかっています。

当初から、リアルタイム技術がプロダクションの中核を担うことは明らかでした。

Masterson 氏は「従来のプリレンダリング パイプラインで同じ没入感を再現するのは、極めて複雑で創造性も制約されてしまいます」と説明します。
 
「物理的なセットを使って環境を再現しようとすれば莫大な費用がかかり、ディレクターたちは静的なシーンに縛られてしまい、クラシック映画の遺産を損なうことになったでしょう」と Dumais 氏は補足します。

そこでチームは Unreal Engine を選びました。リアルなビジュアルを実現するための最良の選択肢であると同時に、ライブ パフォーマンスの現場ですでに検証されてきた実績を持っていたからです。
 
「Unreal Engine が唯一の選択肢でした。比類のないビジュアルの忠実度と堅牢な性能があるからです。数千ものオブジェクトや高解像度の 3D ジオメトリを扱える能力は、このプロジェクトにとって不可欠でした」と Dumais 氏は語ります。

さらに Unreal Engine のリアルタイム レンダリングは、リハーサル中の即時修正を可能にしました。
A rainy Parisian estate in ‘La Haine: Jusqu’ici rien n’a changé’.
Image courtesy of Gabriel Coutu-Dumont
この仕組みによって共同作業は驚くほどスムーズになりました。チームはステージ上でリアルタイムにコンテンツを表示でき、ディレクター、アーティスト、ミュージシャンがその場でフィードバックを行い、テクスチャやライティングの修正を直接エンジン内で反映できたのです。

「これは他のエンジンやプリレンダリング型のツールと比べても大きな利点です。Unreal Engine の多様性と、Nanite や Lumen といった豊富なツールセットの組み合わせにより、私たちが構想した高品質で没入的な体験を届ける理想的な環境となりました」と Dumais 氏は説明します。

Nanite は Unreal Engine 5 の仮想化ジオメトリ システムです。これがなければ、パリの膨大な 3D スキャン データをゲーム エンジンに取り込み、効率的に扱うことは困難だったでしょう。
 
「Nanite はまさにゲームチェンジャーでした。これによって高解像度の実在ロケーション (映画 La Haine に登場するパリの街並みなど) の 3D スキャンを取り込みつつ、パフォーマンスを損なわずに済んだのです」と Dumais 氏は述べています。
 
Lumen の動的なグローバル イルミネーションにより、バーチャル環境内のライティングをシーンの変化に対して確実かつリアルに反応させることが可能となりました。さらにチームは Unreal Engine のブループリント ビジュアル スクリプティング システムを活用して素早いプロトタイピングを行い、シーケンサーでムービー シーケンスを精密に制御しました。
 
「これらの機能により、ライブ パフォーマンスとシームレスに統合された、視覚的に驚異的で応答性の高い環境を実現できました」と Dumais 氏は語ります。
Urban dance against moody backdrop in ‘La Haine: Jusqu’ici rien n’a changé’.
Image courtesy of Anthony Ghnassia

リアルタイム環境が俳優の体験を高める

 
La Haine:Jusqu’ici rien n’a changé がオーディエンスにとって没入的な体験であるならば、それは俳優にとっても同様です。彼らは上演中、まるでパリの街に実際に入り込んだかのように演技をすることになります。

「俳優たちはリアルタイムで描かれるビジュアルを革新的だと感じました。ダイナミックに変化する背景が、演技に豊かで没入的な文脈を与えてくれたのです」と Dumais 氏は語ります。「従来の静的なセットとは異なり、ライブ レンダリングされた環境は彼らの動きや物語に反応しました。この仕組みが最終的に、俳優たちが自らの演技の背景を理解する力を高めたのです」

オリジナル映画では、俳優たちは物語全体を通じて街を歩き回り、その演技は周囲の環境に大きく影響を受けています。同様に、バーチャルなパリの街を歩けることにより、俳優は La Haine の世界に完全に没入し、オーディエンスをその体験に引き込むことが可能になりました。
 
「もしデジタルの舞台装置の中で演技しているように感じていたなら、この映画を舞台に持ち込むことは不可能だったでしょう」と Masterson 氏は語ります。
Characters hang out in a train station in ‘La Haine: Jusqu’ici rien n’a changé’.
Image courtesy of Gabriel Coutu-Dumont

テクノロジーが拡張する没入型シアターの新時代


今回のプロジェクトによって、デジタル パフォーマンスに対する Dumais 氏の視点は大きく変わりました。特に、バーチャル カメラの動きがストーリーテリングをいかに強化できるかを実感したのです。
 
「従来、ライブショーでは技術的な複雑さを避けるため固定カメラを使ってきました。しかし La Haine は、Unreal Engine が安定性を損なうことなく高度なカメラ ワークを実現できることを証明したのです」と Dumais 氏は語ります。「これに触発され、今後のプロジェクトではよりダイナミックなセット拡張やバーチャル撮影を探求していきたいと考えています。技術的な精度と創造的な自由のバランスをとることで、オーディエンス体験をさらに高められるのです」

リアルタイム技術の可能性を目の当たりにした Dumais 氏は、革新的なシアターの未来に大きな期待を寄せています。Unreal Engine が包括的なショー制御プラットフォームへと進化し、デジタル コンテンツだけでなく、舞台照明、コンポジティング、メディア サーバーの運用までも統合していく姿を思い描いているのです。

「私の夢は、Unreal がプリビジュアライゼーション ツールとして活用され、仮想の俳優、ライティング、音響をすべて含んだ完全なデジタル環境で、本番前にショー全体をシミュレートできるようになることです」と Dumais 氏は語ります。「リアルタイム技術が進化するにつれて、没入型ストーリーテリングはますますインタラクティブになり、オーディエンスがリアルタイム入力を通じて物語に影響を与え、本当にパーソナライズされたシアター体験が生まれると考えています」

Silent Partners Studio のような才能あるスタジオが、リアルタイム技術の可能性を最大限に探求している今、未来には数多くのエキサイティングな展望が広がっています。La Haine:Jusqu’ici rien n’a changé が証明するのは、私たちがまさにテクノロジーによって拡張された没入型シアターの新時代の幕開けに立ち会っているということです。
The cast of ‘La Haine: Jusqu’ici rien n’a changé’ address the audience.
Image courtesy of Anthony Ghnassia

ライブイベントで広がる Unreal Engine の可能性

Unreal Engine は、実写と CG をシームレスに融合させ、視聴者を驚かせる「えっ、今の本当にやったの!?」という瞬間をライブ イベントに生み出します。
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