2019年11月7日
スウェーデン初の高速鉄道のビジュアライゼーションをリアルタイム テクノロジーで作成
ÅF Pöyry は、ボイラーの点検を行う小規模な企業として出発し、多分野にわたってエンジニアリングのコンサルティングを提供する国際的な企業へと成長しました。現在、ブラジルからベトナムまで、50 か国で 16,000 人以上を雇用しています。複数ある子会社の 1 つ、ÅF Infrastructure は、道路の計画から公共輸送機関の設計まで、幅広い事業を展開しています。
スウェーデン初の高速鉄道の準備にあたってコンサルティング会社を選定する際、ÅF Infrastructure が真っ先に候補に挙がったのも自然なことでした。ÅF Infrastructure は、地域開発コンサルタントの Tyréns と協力して、East Link 線の第一段階におけるエンジニアリング 計画を策定しています。この路線は、まず Södertälje、Trosa 間が開通することになります。
同社は、設計のビジュアライゼーションに必要となる 2 つのリアルタイム アプリケーションを Unreal Engine で作成しました。1 つはエンジニアが設計を確認するため、もう 1 つはプロジェクトについて世間に伝えるためのものです。
BIM、CAD、GIS のデータを 1 つの環境で活用
East Link はストックホルム周辺地域のいくつもの町をつなげます。Nyköping 地区がストックホルムの労働市場と住宅市場に含まれるようになり、路線上のすべての町からストックホルムに通勤できるようになります。開発の規模は、この地域では 20 世紀初頭以来なかったほどの規模のものです。電車は最速で時速 250 km で走行し、ストックホルムから終点の Linköping まで 1 時間で乗客を運びます。ÅF Infrastructure はこの計画に深く関与していて、環境への影響の評価を実施したり、システムのドキュメントを作成したり、設計プログラムの詳細な計画を練ったりしています。
プロジェクトを成功させるには、スウェーデンのこの地域の環境に設計を合わせることが重要でした。この路線は、人口密度の高い地域や農村地域を通るほか、遺跡を避けて通るところもあります。地質学上の複雑で多様な問題に対処するために、大量のデータを分析する必要がありました。
チームでは、アプリケーションの設計レビュー用のバージョンに大量のデータセットをインポートして、視覚化と理解の促進を目指しました。ÅF Infrastructure の BIM/VR デベロッパー、Ludvig Lovén 氏は次のように述べています。「このアプリケーションは、技術的なディテールを多く含み、BIM 情報と CAD ソフトウェアのレイヤーを保持しています。また、遺跡、環境、土地利用などについての GIS データを含んでいます。さらに、プロファイル データと、路線を軸にするリニア リファレンス システムを利用することによって、位置と方向を把握しています」
これらの情報すべてをリアルタイムで処理するために、チームでは Unreal Engine を活用しています。Lovén 氏は次のように述べています。「データセットは大きくなるばかりで、忠実度も向上し続けています。取得できるデータの密度に制限はなく増加する一方です。それが Unreal を選択したそもそもの理由の 1 つです」
Pixel Streaming で最新の設計にチーム全体がアクセス
継続的に更新を加える都合上、すべてのエンジニアが最新の設計に簡単にアクセスできるようにすることが重要です。Lovén 氏のチームは社内向けに毎週アプリケーション パッケージを作成し、200 人からなる設計チームに配信しています。そのためには、Pixel Streaming を利用して、アプリケーションをプロジェクトの SharePoint のページに埋め込んでいます。Pixel Streaming を利用すると、Unreal Engine アプリケーションをクラウドのサーバーで実行し、レンダリングされたフレームと音声をデスクトップとモバイル デバイスのブラウザにストリーミングできます。ÅF Infrastructure のチームのメンバーは、ファイルをダウンロードしたりソフトウェアをインストールしたりすることなく、最新の設計データにアクセスできます。その結果、中心となっている従業員の時間を節約でき、ROI が向上しています。「ピーク時で月 1,000 時間ほど Pixel Streaming を使っています。このサービスのおかげで、さまざまな用途ごとにモデルをパッケージ化したり、確認のためのミーティングを開催したりするなどの手間が省けて、BIM コーディネーターの負荷が大幅に減少しています」と Lovén 氏は述べています。
ÅF Infrastructure のビジュアライゼーション アプリケーションの外部向けバージョンは、全長 160 km におよぶ路線の完全なモデルを表示します。そこには草葉や、アニメートする自動車、列車などの他にも野生動物まで含まれています。このアプリケーションを使って、予定されている路線が人々や地域にどのような影響を与えるか、一般の人々や、自治体、その他の外部の関係者に伝える予定です。「コミュニケーションの問題が生じないようにして、計画のプロセスをスピードアップできることでしょう」と Lovén 氏は述べています。
FME から Datasmith へ
ÅF Infrastructure は、アプリケーションを開発する際の基礎となるリアルタイム テクノロジーとして Unreal Engine を選択しました。これにはいくつかの理由がありました。Lovén 氏は次のように述べています。「大規模なオープン ワールド向けのものとしては最も優れたゲーム エンジンだと感じました。Unreal は大量のフォリッジの表示に優れているとともに、大量のデータセットをストリーミングする場合には World Composition システムが役立ちます。ブループリント システムも採用の大きな要因の 1 つでした。経験を積んだ C++ プログラマーではないチーム メンバーもプロジェクトに貢献しやすくなります」ブループリントは柔軟で強力なビジュアル スクリプティング システムです。普通はプログラマーだけが利用できるような概念やツールを、開発経歴がない人でも充分に活用することができます。ÅF Infrastructure のチームでは、プロジェクトのすべてのゲーム ロジックにブループリントを使用しています。C++ のコードを使っているのは 1 つのユーティリティ プラグインだけで、それは主にファイル システムの管理に利用しています。
当初、ÅF Infrastructure は、チームが必要とするデータを Unreal Engine にインポートするために、独自に開発したツールを使う必要がありました。インポートするデータには、たとえば、ポイント クラウドから生成した高さマップや、ビオトープ、既存の道路や鉄道路線、湖、河川などの GIS データがありました。Lovén 氏は次のように述べています。「Datasmith が話題になるずっと前に開発を始めたので、まず、インポートのパイプラインを独自に作成する必要がありました。設計のモデルは FBX フォーマットでインポートしました。また、FBX ファイルにマッピングされた BIM データを含むデータ テーブルもインポートしました。今では、設計モデル用の FBX のインポートには Datasmith を使うようになりました。Datasmith の大きなメリットは、オブジェクトで BIM データを直接使えることです。データ テーブルをルックアップする必要はありません。おかげで、エディタでオブジェクトを管理、表示、フィルタしやすくなります。さらに、設計ソフトウェアにおけるオブジェクトの階層も維持できるのです」
ÅF Infrastructure のチームは、Revit や AutoCAD Civil 3D などの Autodesk のソフトウェアや、OpenRail Designer や Promis.e など、Bentley の MicroStation ベースの設計アプリケーションから設計ファイルをインポートしています。そうした各種アプリケーションのファイルは、Safe Software のデータ変換プラットフォームである FME を使って Datasmith のファイル形式に変換しています。データの準備のほとんどが FME で自動化されるので、FBX のインポート パイプラインから Datasmith への移行はシンプルで簡単でした。
リアルタイムでのテレインの変形
チームがその他に多用している機能には、環境を構築するためのランドスケープ システムや、レベル ストリーミングのためのWorld Composition システムなどがあります。チームのプレゼンテーション アプリケーションには約 300 種類のストリーミング レベルがあり、必要に応じてリアルタイムで入れ替えられます。ÅF Infrastructure のチームは、Unreal Engine を試してみてすぐに、そのテクノロジーをニーズに適合させることによって、時間を大幅に節約できることに気が付きました。その一例が、テレインをリアルタイムに変形させるために開発したソリューションです。「プロジェクトを始めた時点では、設計が変更されるたびに毎回テレインを再加工再インポートするため、数時間かかっていました。GPU でリアルタイムにテレインを変形させることができるとひらめいて、その処理がとても簡単になりました。いくつもの設計オプションを切り替え、テレインを直ちに適合させることができるようになったのです」と Lovén 氏は述べています。また、テレインをリアルタイムで変形することが可能になったため、毎週の更新のたびに 4 時間以上に及ぶ単調な作業をしなくてもよくなったと述べています。
ÅF Infrastructure は、ほかの領域でも Unreal Engine でツールを開発し始めています。Lovén 氏は次のように述べています。「このプロジェクトでは、CAD ベースのコーディネーション モデル を提供しなければならないので、それらをさらに更新し確認する必要があります。コーディネーション モデルには、UE4 にインポートしていないデータが含まれる場合があります。UE4 でワールドを歩き回るのに合わせて CAD ソフトウェアのビューを UE4 と同期させるシンプルなカメラ ビュー プラグインを開発しました。CAD ソフトウェアでは移動がとても面倒なので、レビューのためのミーティングには便利です」 また、ÅF Infrastructure のチームは、Unreal Engine を使っているうちに、ニーズに合わせてシーケンサーを活用する画期的な方法を見つけ出しました。Unreal Engine のマルチトラック エディタであるシーケンサーは、シネマティック シーケンスをリアルタイムで作成してプレビューするために使われるものです。ÅF Infrastructure のチームがあるコミュニケーション エージェンシーと協業していたときのことです。そのエージェンシーは ÅF Infrastructure が作成したインタラクティブな環境からビデオを作成する方法を必要としていましたが、リアルタイムのワークフローについての知識が限られていました。そこで、ÅF Infrastructure はカスタムのビデオ編集ツールを開発しました。エージェンシーは、このツールを使うことで、ÅF Infrastructure がパッケージ化してエージェンシーに送ったプロジェクトから、基本的なシーケンスを実行時に作成できるようになりました。コミュニケーション エージェンシーのディレクターがクリップごとのキー フレームをエクスポートすると、ÅF Infrastructure のチームがそれをシーケンサーにインポートして仕上げることができます。このように、両者がうまく協力して作業できるようになったのです。
リアルタイムの新しい可能性
East Link の開発でリアルタイム テクノロジーの利用が成功したことを受けて、ÅF Infrastructure はいくつもの新しいプロジェクトで Unreal Engine を使い始めています。その一部は社内向けのものです。たとえば、マルチ ユーザー対応の VR 道路設計ツールを実験しています。これは 4 人のユーザーが VR 内でネットワークを介して協力しながら道路を設計できるというものです。Oculus Rift と HTC Vive で実行でき、初期段階のスケッチ ツールとして道路の設計について複数の選択肢を評価することを目的としています。別の興味深いプロジェクトとして、European Spallation Source (ESS) 向けに開発中のものが挙げられます。ESS は、世界で最も強力なパルス中性子源を探求し、それに依拠した研究を行うための学際的な研究施設です。ÅF Infrastructure は、施設内でキャスクを移動させるために使う複雑で大型のクレーンの操作について、エンジニアがより良く理解できるように支援しています。天井クレーンをモデリングして、ゲームパッドで操作できるようにして、器材の積み込みと積み出しのプロセスを VR で視覚化し、計画を策定できるようにします。
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