50年前、このプロセスはほぼ全て物理的なモックアップやマネキンに依存していたでしょう。1960年代後半になると、何百もの人体が測定され、測定結果は巨大なデータベースに保存され、人体の典型的な形状とサイズを定義するために使用されました。これらのデータベースから人体の物理的なモデルが作られ、ハンドルの位置やペダルへのアクセス性などを計算するために使用されました。
近年では、バーチャル技術がこの伝統的なプロセスを一変させました。デザイナーやエンジニアは、バーチャル環境で実際の人間の反応をテストすることで、自動車と人間の相互作用をはるかにリアルにシミュレートすることができるようになりました。
トヨタ自動車 のある革新的なチームは、Unreal Engineのオープンな特長とVR の力を活用することで業界をリードするソフトウェアと技術を連携させ、自動車の開発コストとリードタイムをさらに低減させることにチャレンジしています。
この新しいプロセスは、現在のトヨタ自動車の製品の品質を向上させるだけでなく、将来の自動運転車のコンセプトを実証するためのメソッドを提供しています。
ヒューマン・ファクタ・エンジニアリングのためのリアルタイムツール
一般的に、自動車が設計の初期段階から販売店の店頭に並ぶまでには3年を要します。人間工学に基づいた検証は、デザインとエンジニアリングを両立させるコンセプトやアイデアを検証するために、多くはその最初期に行われます。松本美起也氏は、トヨタ自動車モノづくり開発センター 試作部 デジタル開発推進の室長です。現在では、インタラクティブなコンフィギュレータにリアルタイム技術をショールームの現場で活用するのが一般的ですが、彼のチームは自動車のライフサイクルのはるかに早い段階からUnreal Engineを活用して、車の使いやすさを評価し、改善すべき課題を特定しています。
プロセスは、3D モックアップを Unreal Engine で構築された仮想環境に取り込むところから始まります。VRヘッドセットを装着した人が仮想環境内の車のシートに座り、一連のシミュレーションシナリオを体験して、車両のデザインや使い勝手を検証します。
トヨタ自動車のチームが開発した検証シナリオのひとつに、次世代自動車のリアクォーターウィンドウから他の道路利用者が視認できるかどうかをテストするというものがあります。「歩行者と自転車に乗った人を仮想の都市環境に用意しました」と松本氏は話します。「評価者はVRヘッドセットを使って、運転席からリアクォーターウィンドウ越しに車両に接近する歩行者や自転車に乗った人のシミュレーションを見ることができます。この評価により視認性を向上させるアイデアを検討することができ、従来のやり方より早く、低コストで開発を進めることができました。」
また、チームはこのセットアップを活用してアクセシビリティの検証としてトラッキンググローブを使用して、さまざまなボタンやコントロールにどれだけ手が届きやすいかを評価しています。 HTC Vive ヘッドセット、車両ダイナミクスには CarSim、ハンドトラッキングには Leap Motion コントローラー を使用し、評価に応じて、時にはさまざまな物理的な試作品と VR シミュレーションを組み合わせています。
Unreal Engineはオープン プラットフォームであるため、松本氏のチームは、業界をリードするこれらのサードパーティ製ツールとの連携に苦労する必要はありません。多くのソフトウェア プロバイダは、プラグインを介してツールやシステムを Unreal Engine プラットフォームに接続することができます。このチームが使用している Mechanical Simulation CarSim プラグイン も同様です。
自動車モデル データは Datasmithを介して Unreal Engine にインポートされます。Datasmith は、コンテンツをエンジンに取り込むためのツールとプラグインの集合体であり、そのツールとプラグインの多くは、自動車業界で使用されるCAD や製品ライフサイクル管理 (PLM) システムと相互運用します。Datasmith を使用することで、トヨタ自動車のチームは、サードパーティ製のソフトウェアを使用することなく、数回のクリックで CAD から Unreal Engine に直接移行することができます。
バーチャルの車両や人間キャラクターを含む複雑なシナリオを作成できるゲームエンジンツールセットは、仮想環境でのリアルタイムの人間工学テストを実行するには最適です。トヨタ自動車のチームは、Unreal Engineの ブループリント ビジュアル スクリプティング システム を活用して、各テストでこれらの仮想シナリオを作成しています。
ブループリントは、非プログラマーでもプログラミング機能を利用できる強力なビジュアルコーディングツールセットです。トヨタ自動車の人間工学検証に必要な独自のテストシミュレーションなど、非常に特殊な要件に対応したカスタム機能を柔軟に構築することができます。
自動車業界で使用されている他の人間工学ツールは、通常VR機能を提供していません。ユーザーは第三者の視点で人間工学的作業を検証しなければならず、VRのような没入感のあるリアリズムは欠けています。高価であることに加えて、これらのシステムは閉鎖的な傾向があり、サードパーティ製のソフトウェアとの組み合わせでは使い勝手がよくありません。
リアルタイムの人間工学に基づいた未来の自動車テスト
今日でも多くの自動車人間工学研究は、実際の自動車の物理的なモックアップを使って行われています。これらのモックアップは、コストと時間がかかる上に非効率的であり、物理的なモックアップが入手できるまでに設計が変更されていることが多くあります。松本氏のチームが開発したワークフローは、従来の人間工学的評価方法と比較して時間とコストを削減し、より柔軟な開発プロセスを提供します。
「リアルタイム技術により、仮想的なユーザー体験の検証を行うことができます 」と松本氏は説明します。「これにより概念実証にかかるコストと時間が低減され、より迅速な開発推進につながります。」
さらに松本氏は、未来の自動車のコンセプトを証明するためには、リアルタイム技術が極めて重要になると考えています。「未来の自動車は、従来のハンドルではなく、まったく別のものでハンドリングを制御するかもしれません。リアルタイム技術とVRを活用することで、あらゆるタイプのHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)やユーザー体験を評価することができます。」
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