アイデアは、意外なところでひらめくことがあります。Steamroller Animation の最高クリエイティブ責任者、Jalil Sadool 氏にとって、それはテレビ シリーズParts Unknown で繰り広げられる Anthony Bourdain 氏による世界の食を巡る旅でした。
Sadool 氏は次のように考えました。Bourdain 氏がスタートレックのエンタープライズ号に乗り、地球規模ではなく銀河系を巡るグルメの旅を繰り広げたらどうなるだろう?
この大胆な発想が、過去数年で最も革新的で成功を収めた短編映画の 1 つを生み出す原動力となりました。
3D エンジンで 2D ビジュアルを実証
Spice Frontier は、料理人ケントが地球の料理を復活させるスパイスを求めて宇宙を旅する物語です。
番組のルック&フィールは、チームが 80 年代の土曜日の朝に放送されていたアニメーション番組のファンだったことに影響を受けており、高度にセルシェーディングされたグラフィックのキャラクターと絵画的な背景を組み合わせたレトロなスタイルを模倣しています。
このビジュアルは従来の 2D スタイルをベースとしていましたが、Steamroller は番組制作に関して革新的なアイデアを持っていました。それは、より多くの創造の自由と柔軟性を求めてゲーム エンジンを導入するアニメーション スタジオが増えている中で、Steamroller もその流れに加わるというものでした。
Sadool 氏は、より迅速で、協調的かつ反復的なリアルタイム ワークフローでアニメーションを制作できるという見通しに大きく期待していました。
ただし、Sadool 氏は次のような小さな疑問も抱いていました。新しいパイプラインのメリットは、既存のパイプラインを置き換えるコストを上回るのだろうか?そして、3D エンジンで必要な 2D ビジュアルを実現できるのだろうか?
こうした懸念を軽減するために、Sadool 氏は慎重なアプローチを取ることにしました。このアプローチでは、チームが従来のパイプラインを使用して、目的の 2D ビジュアルをデモするショットを 1 つ作成します。次に、少数のメンバーが Unreal Engine でそのショットの完全な再現に取り組み、3D 環境で目的の 2D ビジュアルを実現できるかどうかをテストします。
どれが従来のパイプラインのショットで、どれが Unreal Engine のショットか区別がつかなければ、成功となります。3 か月後、Unreal Engine で作業を進めていたチームが作成したショットとともに戻ってきました。Sadool 氏は次のように述べています。「Unreal Engine のチームが戻ってきたとき、どちらのショットをどちらで制作したか正直なところ見分けがつきませんでした。本当に素晴らしい結果でした」
ゲーム エンジンで 2D ビジュアルを実現するテクニック
3 か月間、Unreal Engine で試行錯誤するために離れて作業していたチームは、特定の課題の解決に取り組んでいました。Steamroller Animation の共同設立者兼アート部門責任者である Adam Meyer 氏は、その課題を的確に表現しています。
Sadool 氏は、次のように説明します。「インスピレーションの源は、昔のディズニー映画や Don Bluth 氏のアニメ作品です。それらはすべて 2D でした」と「では、どうすれば 3D で 2D のビジュアルを再現できるのでしょうか?」
その答えは、チームが 3D エンジンを使って 2D スタイルを実現するあらゆる手段を模索する中で、次々と見出されていきました。
背景のビジュアルを完璧に表現するために、チームは 2D の手描きのアニメーションによるマルチプレーン エフェクトを使用しました。これにより、ショットでアートワークの異なるレイヤーを異なる速度で動かすことで、奥行きの錯覚を生み出すことができました。
キャラクターの適切なビジュアルを実現するために、チームは同様に革新的なアプローチを採用しました。ライティングの使用を控え、シャドウやディテールを削ぎ落とすことで 2D スタイルを維持しました。
独自のオフセット リムライト ツールを使用することで、アーティストはキャラクターのシルエットの周りに光のエッジを作り出し、その形状と輪郭を強調することで、背景から切り離すことができました。
「基本的に、この取り組みで行っているのは、高度なグラフィックのセル シェーディングに基づくキャラクターと、より絵画的な背景という、従来の手法の模倣です」と、Steamroller Animation のクリエイティブ責任者、Josh Carroll 氏は述べています。
アニメーションにリアルタイムのメリットをもたらす
チームはすぐに、2D 技術と強力な 3D ワークフローを組み合わせる方法を見出しました。その一例が、撮影した背景をイテレートする方法です。
Meyer 氏は次のように述べています。「すべての背景を 2D で描くのではなく、ロケーションを素早く探したり、カメラ アングルを変更したりできます。しかも、描き直しは必要ありません。 カメラを動かすだけで、すべてをやり直さなくても素晴らしい 2D 背景を作成できるのです」
実際、この瞬時に変更できる機能は、制作全体に大きな影響を及ぼしました。
従来のアニメーション パイプラインで作業する場合、特にプロジェクトの初期段階で、最終的なライティングや背景の状況を把握できないまま、クリエイティブな決定を行う必要があります。
Unreal Engine によりこのプロセスが一変しました。最終的な環境で作業を行えることで、アーティストはアニメーションがライティングやシーンの各要素とどのように相互作用するかを正確に把握できるのです。
Sadool 氏は次のように振り返ります。「従来のパイプラインでは、後戻りするのは困難でコストもかかりました。ですが、Unreal Engine を使うことで、非常に迅速に、つまり 1 日以内でさまざまなバージョンを作成できるようになったのです。そのため、クリエイティブな作業に集中して取り組めるようになりました」
従来のアニメーション パイプラインでは、締め切りが迫ると、作業は終わりです。監督が締め切り間際でクリエイティブなひらめきを思い付いたとしても、それが採用されることはありませんでした。オフライン レンダラを使用した場合、レンダリングに長い時間がかかるため、そのアイデアを取り入れて、締め切りに間に合わせることは通常は不可能です。
リアルタイム エンジンで作業すると、最後の瞬間まで、シーンのあらゆる側面を調整できます。
Carroll 氏は次のように話します。「イメージとしてはプッシュ レンダリングですね。 アニメーション、エフェクト、環境構築、シェーダーなど、これらすべてをプロセスのどの段階でも細かく調整できます」
Steamroller はまた、ゲーム エンジンで作業すると、従来のリニア アニメーション プロセスから脱却できることも発見しました。代わりに、チームが単一の常時稼働環境で連携して作業する、はるかに相乗効果の高いワークフローが実現します。
Meyer 氏は次のように述べています。「私にとって、このリアルタイム環境で Unreal を使用する最大のメリットは、全体のコラボレーションですね。 従来は、ある部門から次の部門へと順番に移動するだけで、誰も互いに話し合うことはありませんでした。これは、優れたクリエイティブ作品の本質とは相反するフローです」
こうした障壁が取り除かれたことで、アーティストは同時に連携して作業を行い、自分の作業が他の作業にどのような影響を与えるかを確認できるようになりました。また、それぞれのアーティストが、アニメーション制作プロセス全体において、より大きな主体性を持って作業することができます。
「これまでは他の部門に引き継いだ後は、発言権を失っていたアーティストが、突如として、プロセスの最後まで携われるようになったのです」と、Meyer 氏は語ります。
Meyer 氏は次のように述べています。「UEFN の素晴らしい点は、Unreal で作成したすべてのアセットを使用して作業できることです。 「パイロット エピソード用に作成したアセットを UEFN に 1 対 1 でインポートすることができ、ゲーム内でもエピソードと同じビジュアルになります」
こうして制作されたのが「Spice Frontier: Cosmic Rush」です。この作品は、惑星ヴァルテガーで最も貴重な鉱物であるキーラをめぐって 2 つのチームが競い合うフォートナイトの島です。
この体験は、Spice Frontier のファンに、没入感のある一人称視点でストーリーの世界をさらに深く探求する機会を提供します。
アニメーションとゲームを組み合わせたパッケージでオーディエンスを魅了することで、Steamroller Animation は、彼らを突き動かすクリエイティブなモチベーション、つまり素晴らしいストーリーを伝えることに取り組んでいます。
Carroll 氏は次のように述べています。「Steamroller Animation は常に非常に先進的でした。 Unreal Engine は、Steamroller Animation の技術を前進させながら、ストーリーテリングの能力を拡大する機会を与えてくれました」