そのチームのアーティストの 1 人が、映画のコンセプト イラストレーターである Alex Nice 氏でした。Nice 氏は、アート ディレクションの経験があり、VR/AR 体験を提供する企業 Magnopus にも 3 年勤めていました。Nice 氏は、第 3 幕の環境の 1 つが、特にデザインしにくいだろうとすぐに気づきました。
「ガラスのオフィス」は、何百万ドルもかけて、ほとんどガラスで物理的に組み立てられる巨大なセットで、ジョン・ウィックが敵と対峙する複雑な戦闘シーンに使われる予定でした。Nice 氏は次のように述べています。「このようなセットに関わるデザイン上の課題は膨大です。そのビジュアルから、ライティング、プリビジュアライゼーション、レイアウトまで、2D コンセプト アートでは不十分であることは明らかでした」
リアルタイム環境でのセットのデザイン
Nice 氏は、セット デザイナーによる CAD デザインを使ったコンセプト アートから取りかかりました。「CAD デザインを Unreal Engine に取り込み、VR 内でセットを確認できるようにしました」と Nice 氏は言います。リアルタイム テクノロジーの経験があった Nice 氏は、使いやすく、ビジュアルが高品質であることから、Unreal Engine を選びました。「UE4 はアーティストのことを考えて開発されていると感じます」
Nice 氏が開発したイマーシブな環境が、セットをビジュアライズするためにチームが使用するツールとなりました。チームは、物理的なセットに足を踏み入れる何か月も前から、ライティングやデザインを決めることができました。「難解なセットであったため、空間内での関係を特定の視点からイメージできることに大きな価値がありました」と Nice 氏は言います。この仮想環境が美術部門のハブとなりました。俳優、監督、撮影カメラマン、全員が VR モデルの中に入り、映像に含まれるすべてを視覚化できました。

Nice 氏は、ビジュアル スクリプティング システム ブループリントを利用して、制作スタッフがさまざまなクリエイティブなアイデアを試せるようにしました。「ブループリントを使用して、撮影カメラマンが HTC Vive のコントローラのタッチパッドを使い、ガラスのセットの中でさまざまなライティング シナリオをインタラクティブに切り替えられるようにしました。この方法で、映画全体で象徴的に使われている LED ライティングをどこに置くかを判断できました」
同様に、さまざまなセット デザインの選択肢がどのように制作の予算に影響するかをプロデューサーが判断できるよう、Nice 氏は、3 階建て、2 階建て、凝縮された小さなレイアウトと、建物のレイアウト デザインの選択肢を複数用意しました。Nice 氏は次のように述べています。「VR コントローラを使ってレイアウトの選択肢をインタラクティブに切り替え、コストの違いごとに空間がどう異なるかを確認できるようにしました。これは、それぞれの予算シナリオのなかで、うまくいくところとそうでないところを視覚化するのに最適な手段でした」

このイマーシブな環境は、スタント アクションがどのように進むのかスタント チームが理解するのにも大いに役立ちました。「シーンの中にインタラクティブなやられ役を置いて、殴ったら倒れ、階段を転げ落ちるようにしました。これはゲームのように楽しい体験で、スタントマンが VR ヘッドセットを付けた状態でパンチやキックを繰り出す様子は見ていて愉快でした」と Nice 氏は述べています。「VR にセットを作ったおかげで、全面ガラス張りで、ある程度意図的にわかりづらくしているレイアウトをスタント チームが理解しやすくなりました。この環境の中で多くのアクションが考案されました」

VR を撮影上の判断に活用
撮影日には、都市の夜景の背景幕で物理的なガラスのセットを 180 度囲む予定でした。Nice 氏は背景とステージを 3D で忠実に再現し、ガラスのオフィスの VR モデルを 3D のステージに置きました。これらすべてが UE4 で行われました。その後、2D の背景イメージのテクスチャを 3D の背景モデルに正確に適用しました。Nice 氏は次のように述べています。「これで、撮影日のセットの様子を 1:1 で再現できました。セット内で背景がうまくいっているところとそうでないところを VR で正確に確認できました。おかしな印象を与えてしまうカメラ アングルがあった場合、インタラクティブに確認できました」
こうしたテストや実験は、セットを物理的に組み立てる何か月も前に行われました。「映画制作では一般に、セット デザイナーがプランを立ててから、現実でその様子を目にできるまで、何か月も待たされます。そして、監督、スタントマン、撮影監督など全員が、撮影が実際に始まるまでわずか数日で前準備を完了する必要があります。美術部門のフィルム デザイナーとして、VR と UE4 のおかげで、撮影環境をチームとともに前もってインタラクティブかつ空間的に見て回ることができました。これは画期的なことでした。映画製作において研究開発の準備期間を取れるということは、大幅なコスト削減を意味します。また、誰もが環境のクリエイティブな可能性を最大限に引き出せるようになります」
イマーシブ テクノロジーと映画製作の未来
クリエイティブ面でのさまざまな選択肢の検討から、承認手続きの円滑化まで、イマーシブなリアルタイム テクノロジーがこの映画のビジュアルに大きな影響を与えたと Nice 氏は考えています。また、インタラクティブな環境が映画のプロダクション デザインの主流になると Nice 氏は予測して、次のように述べています。「VR を使うと、2D のコンセプト アートとセット デザインの境界を越えることができ、そこに実際にいるような感覚を得られます。業界に大きな変化をもたらすでしょう。プロジェクトに参加したときは 2D アーティストだったのが、終わったときには VR デベロッパーになっていました」
「これほど短時間で迅速かつ効率的にビジュアルを整えられることに驚きました。周りの VFX アーティストはみんな Unreal Engine について聞いてきます。その理由は、レンダリングのボタンを押さなくてもいい満足感です。リアルタイムで確認できるというのは、VFX アーティストにとって天国のようです」
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