その結果、ポーランドの巨匠 Stanisław Lem が 1964 年に出版した同名のハード SF の名作をベースに新たな趣向を凝らした The Invincible が誕生しました。生命の本質に向き合い、人類についての哲学的な厳しい問いを投げかけている小説 The Invincible には、未来のテクノロジーの創造や、宇宙空間および惑星の景観が不可欠であったため、映画化が試みられたものの、資金不足で実現しませんでした。
本作のビデオ ゲームでは、惑星 Regis III で消息を絶った宇宙船を探すという原作のストーリーとアナログでレトロなテクノロジーを重視しながら、ストーリーは小説とは別の視点および別のクルーを通して語られます。
The Invincible の原作は、多くの作品を残しているポーランドの SF 作家 Stanisław Lem の小説です。 Stanisław Lem の作品はいくつか映画化されていますが、一番有名なのは惑星ソラリスですね。また、SimCity、Stellaris などの幅広いビデオ ゲームにも影響を与えています。 Stanisław Lem の小説を原作としてゲーム化したのは本作が初めてだと思いますが、その経緯を教えてください。
Markuszewski 氏: 私たちは当初ゲームの文化的な参考資料を探していました。世界の見方を完全に変えた貴重なストーリーが話題にのぼったときに、私たちはすぐに、刺激とインサイトに満ちたストーリーが展開される The Invincible を思い浮かべました。私たちは Lem の先駆的な作品を読んで育ちました。Lem は作品の中でインターネットや VR など、現在使用されているテクノロジーの多くを予言しており、彼の作品は、人類の潜在意識に刷り込まれています。Lem は登場人物に未知と対峙させ、自分の限界や恐怖、人類の根深い問題と向き合わせました。私たちは、Stanisław Lem のご子息の Tomasz さんに、このプロジェクトを実現させてもよいか、聞いてみることにしました。幸運なことに、Tomasz さんはこのアイデアを受け入れてくれたのです (笑)。
ストーリーは原作にどのくらい忠実なのでしょうか?
Markuszewski 氏: 私たちは、小説の主軸であるストーリーに忠実でありたいと考えました。つまり、本作ではハード SF の知識が随所にちりばめられ、宇宙や進化の連鎖における人類のあり方についての常識を覆す、信じられないような科学現象が起こります。ただし、イベントやキャラクターの時系列は変更しませんでした。私たちは、Lem ファンの皆さんに、小説とは異なる視点を通してストーリーを再発見してもらいたいと考えました。また、ゲームプレイの全体的な体験を向上させるような要素を加えたいと思い、意図的にこの方針を選択しました。同時に、Lem が丹念に作り上げたキャラクターを変更したくなかったので、代わりに Yasna とそのクルーを提案しました。とはいえ、原作に登場するキャラクターを見たいと期待するプレイヤーは、本作でその何人かに出会えるチャンスがあります。
Courtesy of Starward Industries
原作のアクションは、ゲームプレイのメカニクスにどのように反映されているのでしょうか?
Markuszewski 氏: 私たちは、Stanisław Lem が心血を注いだストーリーとアナログでレトロなテクノロジーを重視しました。本作では、プレイヤーは Regis III の謎の発見とその根底にある危機感に基づく、深い心理描写のストーリーを体験します。ストーリーはプレイヤーと一緒に作ります。つまりプレイヤーの意思決定に応じて、多数用意されているエンディングのいずれかにつながっていきます。さらにゲーム中、プレイヤーは多くのレトロフューチャーな装置を使用できるため、本物の科学者になったような気分を味わいながら、Regis III のあらゆる不確定要素を探索し、宇宙船の操縦士に報告するミッションを遂行することができます。
スタジオ初の作品となるゲーム制作で Unreal Engine を採用した理由をお聞かせください。
CTO、Daniel Betke 氏: 私たちは、さまざまな理由から Unreal Engine が The Invincible の制作に最適であるという結論に達しました。まず、アニメーションを UE の ブループリント システム と統合できるため、アニメーションをまとめるプロセスが容易になり、時間とコストの大幅な節約になります。次に、ブループリントのおかげで、プレイグラウンドで遊んでいるような感覚でゲームのアイデアをイテレーションすることができます。クリエイティビティは、こういった環境でこそ発揮されるのです。3 つ目に、Regis III の広大なランドスケープやアトムパンクな機械類の作成が実現したのは、Unreal のマテリアル システムのおかげです。完全な物理ベースのレンダリングが可能なため、さまざまなサーフェスをリアルな石や金属のように見せることができるからです。また、数か月に及ぶ The Invincible の開発期間中、ワークフローと制作プロセスの管理において Unreal Editor が非常に役立ちました。
Courtesy of Starward Industries
本作では「レトロフューチャーなアトムパンク」アート スタイルが使用されていると Web サイトで説明されていますが、 その意味と、Unreal Engine がどのようにこの外観の実現に役立ったかについて教えてください。
アート ディレクター、Wojciech Ostrycharz 氏: レトロフューチャーなアート スタイルというのは、デジタル テクノロジーを多くの人々が想像すらしなかった 1960 年代における未来像を指します。当時は原子力時代の黎明期で、人々は原子力の力を利用したアナログ テクノロジーを夢見ていました。当時の人々は、原子力とアナログ テクノロジーの組み合わせが、人類の進歩につながると信じていました。機械類は重く、非常に巨大で、ハンドル、歯車、レバーなど、操作用の突き出たパーツをたくさん備えていました。Unreal Engine は、こういったパーツや、太陽に照らされ、Yasna の周囲の地形を反射しているクロムのリアルな外観を表現したマテリアルの作成に大いに役立ちました。反射の鮮やかな色彩と、クロムの表面と Regis III のくすんだ、砂色のランドスケープとの間で息を呑むようなコントラストが得られました。そのおかげで、こういった機械類の重量感と質感を表現することができ、よりリアルに感じられるものになりました。
デモを拝見しましたが、Regis III の赤みがかった埃っぽい環境の制作には大変苦労されたのではないかと思います。 異世界のような、この惑星に閉じ込められたかのような感覚になる Regis III の外観はどのように実現されたのでしょうか?
Ostrycharz 氏: Regis III は、誰もが発見したいと思いながらも、潜在意識では警戒しているような惑星にしたかったのです。アート ディレクターの Wojciech Ostrycharz は、プレイヤーの視界ではランドスケープが頻繁に見えなくなる環境デザインを作成しました。Yasna の頭上にはたくさんの岩が迫り、狭い場所を通り抜けなければなりません。向こう側には何があるのだろうと不安になりますが、同時に、前進して今まで見たことのない景観を発見しようという意欲を持続させることで、環境のビジュアルの美しさがさらに引き立ちます。
Ostrycharz 氏: Stanisław Lem の作品以外では、科学そのものと、人類の宇宙開発の歴史からインスピレーションを得ました。これは、The Invincible がハード SF に関する知識が満載のストーリーであるからです。その他、Firewatch でプレイヤーが経験する旅や、Alien: Isolation の根底にある脅威の感覚を、本作でも何らかの形で反映させたいと考えました。ただし、多くの参考資料を分析しましたが、本作では、独自のコンセプトである Lem のレトロ SF という壮大なビジョンにこだわり続けました。
本作のサウンドスケープをどのように思いついたのか、教えていただけますか?
音楽デザイナー、Brunon Lubas 氏: オーディオ デザイナーの Brunon Lubas と Łukasz Kindel とともに、私たちはいくつかの原則を設けました。ハイファイでサイバーな未来的なフィーリングは避け、代わりにラジオやテープのような古いテクノロジーに焦点を当てることにしました。ビジュアルでは完璧なリアリズムではなく、フィーリングを重視していたため、サウンド エフェクトには没入感が必要であるものの、過度にリアルであってはなりませんでした。アコースティック楽器の制作では、そういった楽器で人類とその功績、そして文化を表し、不気味で実験的なサウンドで Regis III の謎めいた雰囲気を強調したいと考えました。