Tracy Fullerton 氏は、実験的なゲーム デザイナーであり、南カリフォルニア大学ゲーム課程の教授でもあります。彼女の研究センター (Game Innovation Lab) からは、影響力の大きいインディーゲームが多数作り出されてきました。たとえば、『Cloud』、『flOw』、『Darfur is Dying』、『The Night Journey』、『Walden, a game』などをあげることができます。
Sjoerd De Jong 氏は、Epic Games のシニア エンジン エバンジェリストです。AAA ゲームの開発、自身のゲーム スタジオの経営、教育など、多用な職種に従事してきました。それによって、リアルタイムで作業することの複雑さについて、広く深い見識を身につけることができました。
「ハードウェアと高速なインターネット アクセスにより開発に課せられていた制約はなくなります。しかし、それ以上に、ゲームを開発する際に、ツールとワークフローがますます重要視されるようになってきています」と Sjoerd De Jong 氏は言います。「少人数のデベロッパーでも単独のデベロッパーでも、今日 Unreal Engine のようなエンジンを利用して出来ることは、驚異的です。ほんの 10年くらい前に業界全体で出来たこととは雲泥の差があります。チュートリアルの数や授業、マーケットプレイス、コミュニティ、Quixel Megascans のようなコンテンツ ライブラリも、これまでにないほどの充実しています。開発への入りやすさと開発のテンポがものすごく向上しました。そのため、私たちは一層多彩なゲームと一層変化に富んだゲームを目にするようになりました。新たなニッチも成長しています。ゲームの制作は、大いに取り組みやすくなり、その変化は継続するように運命づけられています。」
De Jong 氏は、高度に技術的なスタイルから、既存の機能を利用する創造というスタイルへの変化を、写真術の進化になぞらえます。写真という表現手段は、技術的な制約とプロセスによって支配されていたけれども、今日では、テクノロジーの進歩のおかげで、すごい写真が非常にスムーズに撮れるようになったと彼は言います。
De Jong 氏の見立てでは、テクノロジーの持続的な進歩と、ゲームが本流の表現形態としての飽和点に達することによって、ゲームは偏在的な存在となり、あらゆる表現形態のエンターテイメントを最も力強く牽引するようになるとのことです。
「映画/テレビ/音楽/スポーツとゲームの境界線はあいまいとなり、IP やコンテンツは、簡単にこれらの多用な表現形態の間で共有されることになりそうです。ますます多くのハイブリッドなものが誕生したり、少なくても、コラボレーションが広範囲で行われそうですね」と彼は予測します。「現在私たちが『フォートナイト』でコンサートや IP のクロスオーバーなどによって目にしているものは、今述べた予測の始まりと言えるでしょう。そして最終的に、このような試みは格段に深化することになるでしょう。」
「ゲーム エンジンは現在さまざまな業界で活用されています。多くの自動車産業、建築業と工学、シミュレーションと訓練、映画とテレビ、銀行などでも利用が見られます」と De Jong 氏は指摘します。「このような状況によって、将来私たちが経験することになるものはどのようなものでしょうか。それは、ゲーム以外の業界へのコラボレーションとクロスオーバーがさらに進んだものでしょう。そして、このことによって境界線がさらにぼやけるという最初の議論に戻ります。」
最後に、De Jong 氏は、さらにリアルなコンピュータ グラフィックスを追求する競争は、これまでと同様に今日でも重要であると考えています。彼は、レイトレーシングや Nanite を通じて実現するポリゴン数の増加などにより、ライティングなどの分野における最近の進歩について指摘しています。
Naomi Clark 氏は、20年以上にわたり、ゲームのデザイン、著作、プロデュースを行ってきました。また、さまざまなプラットフォームとユーザーを対象とするゲームを制作するために必要となる支援を行ってきました。そのゲームは多岐にわたり、LEGO Group の子供のための建設ゲーム、楽しいストラテジーゲーム、モバイル用シミュレーション/経営ゲーム、カンファレンスと教室のためのゲームなどが挙げられます。彼女は NYU Game Center の教員であり、ゲームデザインの基礎やユーザーのリサーチ、テーブルトップ ロールプレイング ゲームの知られざる側面などについて授業を行っています。彼女の最新のゲームは、『Consentacle』です。これは、2 人のプレイヤーが行うカードゲームであり、親密さや信頼、コミュニケーションが題材となっています。
「ビデオゲームの主要な牽引力として喧伝されてきたテクノロジーは、30年という長期にわたり使われてきましたが、ついにその最終地点に達しつつあるようです」と Clark 氏は語ります。「その水脈はほぼ枯れようとしています。PC 向けビデオゲームのためのハードウェアの新たな計画と、Microsoft と Sony の次世代コンソールについて思いを巡らせば、その主役となるのは、バーチャルな世界の迫真性を向上させる極上のテクノロジーになると思われます。しかし、どのようなタイプのゲームが作成されつつあり、人々がゲームについてどのような話をしているのかということを考えてみれば、私は、収穫逓減の法則が発動している過程にあると確信するようになりました。つまり、演算能力が飛躍的に増大しているにもかかわらず、それに見合う効果が急速に小さくなってきたのです。」
「この世代のあとは、コンソールのメーカーがさらに競争力のあるハードウェアを開発することは難しくなるでしょう。このことは、Microsoft も Sony もわかっているようです。今後は、そのことによって、ゲーム制作で重点を置くべき場所や、ゲームに入れるべきエンターテイメントの価値が変化することになるでしょう。」
将来的に、重要視されるのは一層ユーザーということになります。ユーザーをどのように分割するか、どのようにターゲッティングし、その需要に応えていくか、ということに焦点が移行すると Clark 氏は考えています。
「ゲーム業界は全体として急速に複数の業種に分かれつつあります」と Clark 氏は言います。「1 つの業種として留まることはもうないでしょう。GDC に参加してみれば、聴衆が一種類ではなくなってきたのが感じるはずです。聴衆はさまざまな人々から構成されており、サービスに注目する人もいれば、製品に注目する人もいます。これらの人たちを結びつけているのは、ゲームという単語です。しかし、たとえば、インタラクティブなナラティブは、本当にゲームと言えるのでしょうか?このようなものをすべてゲームとして扱うようにしてきたのが、これまでの私たちの考え方でした。」
「それがゲームであるのか、ゲームでないのかを定義するには、プレイとその製品を見るべきでしょう。未来のゲームメーカーは、おそらく、プレイを設計し具現化するとはどういうことなのか、ということにもっと注目することになるでしょう」と Clark 氏は述べます。
Ian Bogost 氏は、ライターであり、受賞経歴をもつゲーム デザイナーでもありす。彼は、メディア学における Ivan Allen College の殊勲教授であるとともに、Georgia Institute of Technology でコンピューティング/建築/ビジネスの教授も務めています。また、Bogost 氏は、インディー系ゲーム スタジオ Persuasive Games LLC の共同設立者であり、The Atlantic の寄稿編集者でもあります。著作または共同著作は 10 冊にのぼり、最新作は『Play Anything』です。また、手掛けたインディー系ゲームには、『Cow Clicker』という Facebook のゲームを風刺した悪名高い Facebook ゲームと、Atari VCS 向けのビデオゲームのポエム集『A Slow Year』があります。後者は、2010年の IndieCade Festival で Vanguard and Virtuoso 賞を受賞しました。
「この考えが浮かんだのは、」と彼は言います。「Naughty Dog の『The Last of Us』がテレビ シリーズになるという HBO のニュースについて考えていたときです。それによって、Netflix の『The Witcher』による成功や e スポーツの人気、ゲームのストリーミングが一般的に行われていることが頭に浮かんだのです。」
Jade Raymond 氏は、Google の Stadia Games and Entertainment でバイスプレジデント兼ヘッドを務めています。氏は、過去 20年にわたり、ゲーム開発のあらゆる面に情熱を傾けてきました。プログラミングやデザイン、制作、スタジオの代表、重役としての仕事において重要な役回りを演じてきました。彼女の活動で最もよく知られているのが、『アサシン クリード』シリーズと『ウォッチドッグス』シリーズの制作を支援したこと、そして、Ubisoft Toronto スタジオを設立したことです。Google に加わる前は、Electronic Arts の PopCap Vancouver と、彼女が 2015年に設立した Motive Studios において、シニア バイスプレジデントおよびグループ ジェネラル マネージャーを務めていました。氏は、Videogame Critics Circle から 2019 Legend Award を、また 2018 Guggenheim Museum Games Festival において Pioneer Award を受賞しています。
「ゲームがそれほどゲーム的でなくなりつつあることを、私たちはすでに目にしています。余暇やつながりをもつための手段や、社会的な交流をもつための手段、社会的な交流をもちながら行うようなことに変わりつつあるのです」と Raymond 氏は言います。「大人たちが集まってゴルフをするときのことを考えてみましょう。確かにゴルフはプレイしますが、実際のところは、歩きまわったり、会話したり、友人たちと過ごす機会を得たりすることがゴルフをするということなのです。集まってするどのスポーツもそれと同じことが言えます。」
Raymond 氏は、Ubisoft の『ファークライ』シリーズが、早いうちからこの手法を適用したゲームだと指摘します。これらのゲームではサンドボックスが提供され、プレイヤーはプレイヤー自身をある意味反映させた経験を作り出すことができます。その結果、しばしば、井戸端会議的なコミュニケーションに発展し、ゲームに関するユーザーの認知度が上昇することになったのです。
インターネットにとって今後大きな問題となるのは経験だと Raymond 氏は予測します。ビデオが推進力になった時代から離れて行くのです。