Image courtesy of Square Enix

Square Enix による FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE での素晴らしい次世代最適化

Jimmy Thang
浜口直樹 共同ディレクター
浜口直樹氏、共同ディレクター
FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE において、ゲームデザインの監修 とUE4を使った環境構築の開発責任者を務めた。

池田修一 リードレンダリングプログラマー
リードレンダリングプログラマー 池田修一氏
波能智人 リードテクニカルプログラマー
リードテクニカルプログラマー 波能智人氏
昨年リリースされた FINAL FANTASY VII REMAKEThe Game Awards 2020 での Best RPG の受賞を含めて多くの称賛を集めました。先日、Square Enix は PlayStation 5 の次世代ハードウェアを活用しビジュアル、グラフィックをさらに向上させた FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE をリリースしました。4K 解像度で実行するグラフィックモード、毎秒 60 フレームで実行するパフォーマンスモードのオプションが追加され、どちらのモードもオリジナル版に比べてビジュアル品質が向上しています。これらの最適化を Digital Foundry は「FF7 リメイクのあるべき姿」と褒め称えました。

Square Enix が Sony の次世代コンソールをどのように活用したのかを知るために、Square Enix の共同ディレクター 浜口直樹氏、リードレンダリングプログラマー 池田修一氏、リードテクニカルプログラマー 波能智人氏へのインタビューを行いました。どのようにスムーズで安定したパフォーマンスを保ちつつ、大幅にテクスチャ品質を強化し、ロードタイムを短縮し、ライティングとシャドウを改善したかについて説明します。

Digital Foundry は FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE を、これまでに見られた最も満足度の高い PS5 アップグレードと称していました。技術的な側面から、この次世代ハードで本作を展開するにあたっての主な目標は何でしたか? 

共同ディレクター 浜口直樹氏: FINAL FANTASY VII REMAKE の続編タイトルを見据えて、次世代機の性能を肌で感じておきたいというのが私の中で最大の目的でした。3K や 4K のレンダリング解像度に対してどのくらいのシェーダー負荷が可能なのかや、高速 SSD によって I/O ネックがなくなったことでどの程度の高品質なアセットを読み込んでもユーザーストレスなくプレイが可能なのかなど、次回作にとって開発チームが非常に有意義な経験を得ることができたと手応えを感じています。 
 

PlayStation 5 版 FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE は読み込み速度が劇的に速くなっています。PS5 の NVMe SSD でロード時間が短縮されるように本作を最適化する作業は手の込んだものだったのでしょうか?

リードテクニカルプログラマー 波能智人氏: PS5ではSSDとなりI/Oがボトルネックではなくなりました。その代わりにタイムスライス処理やCPU負荷がロード時間の問題となりました。

そのため、特にボトルネック箇所ではデシリアライズにおける負荷を軽減するために独自のシリアライズを組み込んだり、読み込みフローの改善を行いました。この取り組みで約12秒から約6秒まで短縮ができました。

さらなる改善を模索する中でローダーの効率が悪いことがわかりました、そこで Unreal Engine 4.25 から導入された Unversioned Property Serialization、IOStore を導入することにいたしました。 本作では UE 4.18をベースに開発されているため、取り込むためには、多くの変更が必要でしたが導入したことにより約2秒まで短縮し組み込むだけの価値のある改善をもたらされました。  
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ロード画面が最小化されただけでなく、テクスチャの読み込みも非常に速くなった印象です。特に七番街スラムにそれが顕著に表れているようです。Unreal Engine を使ってそのあたりのストリーミングの問題をいかにして改善したのかお話しいただけますか?

波能氏: PS4 版ではメモリとディスク容量が制限により高品質フォーマットと高解像度のテクスチャを諦めなければならない状態でした。しかし本作でも高品質フォーマットと高解像度のテクスチャを組み込むためのディスク容量はありませんでした。

そこで Oodle Texture(圧縮)を導入し Oodle Kraken と組み合わせることにより高品質フォーマットと高解像度のテクスチャを組み込んでもPS5版のほうが少ないディスク容量を実現できました。 

またPS4からのメモリー増加と、先程の質問に関連した NonStreamableMipmap の改善によってもっと多くのテクスチャをロードすることができました。

ライトマップももっと高解像度のものを適用することができ、ライティングでの正確性が上げられました。 
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本作の様々なエリアの上空の描画(通称スカイボックス)も以前に比べて明確にシャープになっており、リアリズムが更に増しています。Square Enix では PS5 のより高い処理性能を有効活用するべく、よりシャープなアセットを使ったのでしょうか? 

リードレンダリングプログラマー 池田修一氏: グラフィックモードでは 4K 画質になった事もあり、従来のスカイボックスでは解像度の差が顕著に出てしまいました。その為、今作では日中のロケを中心にいくつかスカイボックスのテクスチャをアップグレードしています。またそれに合わせてレンダリングアセットにもディティールアップを施しました。 

FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE は改善されたブルームエフェクトを使い、以前は薄暗くなってしまっていたエリアもライティングがより精度を増したと思います。その結果、ネオンの溢れるウォールマーケットの街並みは特に煌びやかに見えます。FINAL FANTASY VII REMAKE INGERGRADE のライティングを更に向上させるにあたり、どの様にしてUnreal Engineを使ったか教えていただけますか?

池田氏: 今回の制作に当たっては、街中に配置されたライトは一旦すべて再検討されることになり、結果として配置数についても増加しています。ネオンの照り返しの元となる環境マップについては解像度を増し、静的ライトの焼き込み手法も見直されると同時に、ライトプローブによる輝度補正も修正が行われています。

細部にまで配置されたフォグ情報はすべてのライトソースに反応し、ウォールマーケットの雑然とした空気感の表現に貢献しています。ブルームはボリュメトリックフォグに加えてポスト処理によるものもありますが、デシメート手法やカーネルの見直しによって、わずかな火花の欠片にも反応するようになっています。
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ライティングだけでななく、 FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE では新たなライティングポイントが追加されていると Digital Foundry は指摘しました。これらが含まれた理由をもっと詳しく教えていただけますか?

池田氏: リソースに余裕が出来た事でいくつかのロケでライトアセットの追加をする事が出来ました。これはフラットなエリアの情報量を豊かにし、ミッドガルの雑然とした雰囲気をより強調する事が目的となります。 

FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE ではアップグレードされたスクリーンスペース反射を使っており、特に水面の反射がとてもリアルに見えます。このフィーチャーの強化にあたり、どの様な工夫がなされたのか教えていただけますか?

池田氏: 今回の SSR ではグロス面だけではなく、一般的に省略されることの多い、ラフなサーフェスからもレイを追跡しています。これにより、ジオメトリ的により正確な遮蔽が考慮され、地面にほど近い足元灯の照り返しや、クラウドの剣の鍔に映り込む柄なども表現されています。

また、心証的に悪影響を与える、目鼻などでの環境光の貫通エイリアスが劇的に削減されています。通常、法線マップによって得られた法線ベクトルは、視線上で可視ではない方向を向いていることが多々あります。SSR でこのベクトルを使用した場合、反射方向がサーフェス内部に向かうため、必ず追跡エラーとなります。今回はポリゴンサーフェス上の法線ベクトルもバッファに保存し、反射時にエラーピクセルを補正することで、この問題に対処しています。

通常の SSR では前フレームの画像が参照されるため、カメラの切り替わりなどでは反射処理の遅れが目立ちます。今回そのような場合では、描画の完成していない現フレームを先行して構成し、代替参照することでポッピングに対処しています。また、一般的な実装ではフォグ描画済みの前フレーム画像が参照されるため、SSR の参照部分ではフォグが二重に処理されることになります。

今回の絵作りではボリュームフォグの印象が強いものとなっているため、このエラーは特に遠景を写す水面などで非常に目立ちます。そこで今回は、フォグ有りとフォグ無しの2つの画像を保存しておき、反射レイの到達距離に準じてワールド空間上の適切なフォグ濃度を再構成することで、できるだけ自然な反射を再現しています。 
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FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE では、影のクオリティも高く、アウトラインもクリアで、本物さながらのようです。特にゲートなどの構造物の影がその分かりやすい例だと思います。影のクオリティを更に高めるにあたって、どの様な工夫がなされたのか教えていただけますか?

池田氏: シャドウの処理バッファのアロケーションについても見直されました。メモリ割り当ての変更により、全般に解像感が増し、失われていた細部のジオメトリも反映しているはずです。また、サンプリング処理のジッタリングやバイアスの修正により、破綻が減少しています。

以前からマイクロシャドウイングとしては SSAO を利用していますが、こちらもデノイジングを含めて書き直しており、よりシャープなディテールが感じられるはずです。
 
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FINAL FANTASY VII REMAKE INGERGRADE ではボリュメトリックフォグを使い始めており、例えばエアリスの家の外にある庭の雰囲気をガラッと変える事が出来ます。今回の次世代機での展開にあたりこの手法を採用する事が適していると思った理由を教えていただけますか?また、Unreal Engine を使ってどのようにして実装したのかご説明願えますか?

池田氏: 以前からボリュムメトリックフォグは使用していましたが、その配置や濃度など、アセットとしての設定が適切ではありませんでした。そこで恣意的なパラメータ設定は排除し、できるだけ PBR に準拠することで、統一した空気感でミッドガルを満たす選択をしました。

フォグの濃度等はワールド空間上にアーティストによってブラシのように塗られます。これはプローブ・データとして空間内に敷き詰められ、ランタイムでカメラ・フラスタム内の計算ボクセルにインジェクトされます。ここでは空気の揺らぎも考慮しているため、よく見ればライトシャフトが揺らめいているのに気付くでしょう。

フォグを照らすソースはパンクチュアル ライトだけではなく、やはり空間上に埋め尽くされたライトプローブも漏れなく考慮されます。スキャッタリングの計算モデルはミー散乱に準拠し、フロントリットも省略されずに表現されます。このフォグはエフェクトからもインジェクトすることが可能になっており、その様子はネロの攻撃などでも見ることができます。 

これら全てのビジュアル面での強化だけではなく、FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE では 4K グラフィックモードでは 30FPS、そしてパフォーマンスモードでは解像度は下がるものの 60FPS を安定して保つことが出来るようになっています。これらのパフォーマンスターゲットを達成するにあたっての最適化にはどのような作業を要したのでしょうか?

波能氏: PS4 版からの取り組みとして、処理負荷の改善のための確立されたワークフローが役立ちました。 まず修正必須となる処理負荷レギュレーションを決定しました。それに基づき QA チームからレギュレーションを守っていない箇所をバグ報告としてレポートされます。 そのレポートは最適化プログラマへ渡されます。プロファイリング結果、問題と改善方法を作業担当者に送ります。 これをレギュレーションの範囲内に収まるまで繰り返していきます。 この取り組みにより数多くの問題点をゲームプレイする視点から把握でき、安定したフレームレートを実現できました。
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自分のゲームを次世代機に移植したいと考えているUnreal Engineの開発者に向けて何かアドバイスをいただけないでしょうか?

>浜口氏: FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE の開発を通して、改めて Unreal Engine の汎用性の高さを感じずにはいられませんでした。というのも、PS4 版の FINAL FANTASY VII REMAKE は UE4.18 をベースとして開発を行っていた為、当然 PS5 などの対応はサポートされていない状態です。しかしながら最新の UE4 から、部分的にマージを行ったり、変更内容を参考にしつつ開発内で独自に実装を行うなどすることで、少し古いバージョンの UE4 であったとしても拡張できる柔軟性があります。当然、UE4 内部のネイティブコードを修正する部分も増えてくるためエンジニアの求められるスキルは必要とはなってしまいますが、今日の記事が少しでも参考になり、他のタイトルでの次世代機対応の参考になればと嬉しく思います。

FINAL FANTASY VII REMAKE INTERGRADE の詳細については、以下のサイトをご覧ください: 
公式ウェブサイト: www.ffvii-remake.com
Facebook: https://www.facebook.com/finalfantasyvii
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