東京の魅力を引き出し、独自のゲーム体験を作り上げた『Ghostwire: Tokyo』

Tango Gameworks は、世界中のゲームアワードを受賞してきたゲームデザイナー、 三上真司によって2010年に設立された、東京に拠点を置くゲーム開発スタジオです。 
  
Tangoは「いいものを創って、ユーザーを楽しませる」ことを何よりも大切にしています。 また、若い才能を育て、チャンスを与えることを重視しており、『バイオハザードシリーズ』や『メタルギアシリーズ』など、数々のAAAタイトルの開発に携わってきた経験豊富な ベテランクリエイターがサポートし、次世代の優れたゲームクリエイターの育成にも力を入れています。 
  
また、スタジオ設立からこれまでに『サイコブレイク』『サイコブレイク 2』をリリース、 2022年には、初の次世代機タイトル『Ghostwire: Tokyo』を発売しました。

Tango Gameworks は『サイコブレイク』の発売から7年、恐ろしいサバイバルホラーゲームの開発スタジオとしての名声を築き上げました。そのスタジオの第3作目の作品がホラーではなく、東京の街や都市伝説、霊と伝承に満ちた箱庭型のアクションアドベンチャーゲームであるという、スタジオの創設者、三上真司氏の発表は皆を驚かせました。

そして今年、新作となる『Ghostwire: Tokyo』がリリースされました。東京という都市の妖怪譚などを深く取り入れた、印象的なビジュアルスタイルと密度の濃いデザインを特徴とする魅惑的なゲームです。開発チームに「id Tech から Unreal Engine への移行、ホラーの要素を持つアクションアドベンチャーゲームの制作について、そして将来の技術に望むことについて」などのお話を伺いました。
Tango Gameworksの前 2 作『サイコブレイク』と『サイコブレイク 2』 は id Tech の Tango Gameworks カスタムバージョンで開発されましたが、『Ghostwire: Tokyo』では Unreal Engine に変更されました。これはどのような理由から決定されたことなのでしょうか?
リード プログラマー 辻 利彦氏:新しいグラフィックスの機能が比較的速く実装される、レベルデザイナー自らがロジックを組む事ができるブループリントが存在する、複数のプラットフォームへの対応コストを抑えられる、開発後半など、スタッフの増員が求められる時期に UE4 経験者を募集できるので(特にアーティストなどの)有能な開発スタッフを集めやすい、といった利点がありました。

『Ghostwire: Tokyo』のために新エンジンに移行することは大変だったでしょうか?

システム プログラマー 宮下 英主氏:idTech カスタムバージョンは『サイコブレイク』に合わせて大きく改造しているため、新しいプロジェクトを実験するには扱いにくいという問題がありました。

Unreal Engine への移行ではブループリントなどのラーニング時間が必要でしたが、idTech と設計が似ている部分もあり移行の際に大きな問題は発生しませんでした。

Tango Gameworks が『Ghostwire: Tokyo』の構想を実現するために Unreal Engine のテクノロジーはどのように役立ちましたか?また、その構想は時間とともにどのように進化しましたか?

グラフィック プログラマー 杉山 充氏:Unreal Engine を使うことで『Ghostwire: Tokyo』独自の特殊表現"パラノーマル"を表現するための様々なマテリアルやポストプロセスをアーティストだけで試行錯誤できる部分が大幅に増え、開発イテレーションが効率化されました。
Image courtesy of Tango Gameworks
Tango Gameworks と三上真司氏は、素晴らしくも恐ろしいホラーゲームを長年制作し、これまで成功を収めてきました。では、ホラーゲームの要素を取り入れながらも、ホラーゲームではなくアクション アドベンチャー ゲームを作ろうと思ったのはなぜでしょうか?

ディレクター 木村 憲司氏:Tango Gameworks の理念であり三上さんの基本方針として、ジャンルに拘らずに面白いものをしっかり作ろうという考えがありました。また、本プロジェクトにおいては僕ら自身が生まれ育ってきた東京の魅力を体験できるものにしたいという想いもありました。東京という街は、古い伝統文化と新しい文化が混在した独自の魅力を兼ね備えた都市であると思っています。そのような対照的な要素が詰まった東京の魅力を、僕ら自身が再発見しながら、独自のゲーム体験として昇華したいと思いました。 その結果、本作では“普段は見えないけど日常のすぐ隣に存在する非日常の体験をする楽しさ“を目指しました。

『Ghostwire: Tokyo』がホラーゲームではないのは、なぜでしょうか?また、『Ghostwire: Tokyo』には、どのようなホラー要素が残っているのでしょうか?

木村 憲司氏:現代の東京に今でも残る伝統文化の1つとして、都市伝説や妖怪譚を取り上げることにしました。これらは必ずしもクリーチャーが人を襲って喰い殺すといった話ばかりではなく、路地の先にはっきりしない人影がいて、何だろうと思って近づくと顔のない人間のような怪異だった!というように、ちょっと不気味に感じるものが多いと感じました。こういった伝承や逸話は、日常生活において人々が抱える不安やストレスが起因しているとも思います。このような不気味さや日常の中の違和感といった現象や感情を、ゲーム体験として作り出したいと考えました。

Unreal Engine は、登場する様々なキャラクターたちに生命を吹き込むのにどのように役立ちましたか?

杉山氏:強力な描画エンジンによってさまざまな質感表現をすることができました。

日本の霊に関する語彙は膨大であり、振る舞いも見た目も西洋のものとは全く異なります。ゲームに登場させる怪異や妖怪は、どのようにして決めたのでしょうか?

木村 憲司氏:日本で育った僕らからすると、妖怪は非常に馴染みのあるものでした。僕が小さい頃、夕方に妖怪を題材にしたアニメがテレビで放映されており、好んでよく観ていました。そんな経験から、日本で人気のある妖怪をピックアップして取り入れることにしました。最初に決めたのは河童です。これは知名度も高いということもあったのですが、芥川龍之介の小説「河童」に影響を受けています。この小説は、河童を追いかけた末に価値観が人間界とは逆転している異世界へ迷い込む男の物語です。このお話しが『Ghostwire: Tokyo』の内容とリンクしているところが有り、まず河童を選びました。

また、妖怪は自然現象をキャラクター化したものとも言え、自然への畏れや敬意を込めたのだと思います。そのため、本作では妖怪は人間に危害を与えるような存在ではなく、身近で親しみあるものとして描いています。
Image courtesy of Tango Gameworks
このゲームの魅惑的なビジュアルは、ゲーム中に遭遇するクリーチャーだけで無く戦闘も特徴的です。日本で古くから伝わる「九字切り」のような手の所作を取り入れ、それを現代風に作り変えたそうですが、従来のものを超えて、戦闘の見栄えを進化させるためのインスピレーションを得ることができたのは、なぜでしょうか?また、戦闘の見栄えに Unreal Engine がどのように貢献できたのか、という点についても教えてください。

木村 憲司氏:様々な文化が混ざり合い独自の魅力を作り出している東京と同様に「九字切り」や「忍術」、「武道」など古来より伝わる伝統文化を念頭において、現代に生きる僕ら制作陣自身が思う「かっこよさ」を突き詰めました。具体的な何かをそのまま参考に再現するのではなく、あえて実際に手を動かして「それかっこいいね!」「それ、悪霊払いそうだよ!」など、チーム内で意見を言い合って動きを作り上げていきました。こういった制作プロセスによって、制作陣それぞれの文化的背景が混ざり合って独自のものができたのではないかと思っています。非常に苦労した部分でもありましたが、楽しんで作ることができたと思っています。

リード VFX アーティスト 菊池 公瑛氏:戦闘におけるVFXでは、パーティクルエフェクト及び、ポストプロセスを使用した表現を多用しました。アーティストが直接マテリアルやパーティクルを調整でき、即座に画面に反映できる UE の環境は、限られたスケジュールの中での膨大な調整作業を可能にしました。
 
Image courtesy of Tango Gameworks
『Ghostwire: Tokyo』では、アクションアドベンチャーとしては特殊なヴィジュアルアプローチがとられていると感じます。また、ライバルも多く激戦地帯とも言えるアクション アドベンチャーの分野において、独自の立ち位置を確保したように思われます。プレイヤーの期待を裏切ることなく、このようなユニークな外観とゲームプレイを実現できたのは、どうしてでしょうか?

木村 憲司氏:とくかく大事にしたのは「パラノーマルな東京観光を楽しんでもらいたい」ということでした。そのために、まず東京という魅力的な街を作りました。ただ観光スポットを寄せ集めたものではなく、実際に東京に暮らして生活をしている我々自身が東京を歩き回り、各々が感じた東京らしい、面白いスポットをピックアップして取り込んでいきました。そしてその出来上がった東京を舞台に、シナリオやゲームデザイン、演出を詰めていきました。このような通常のゲーム制作とは違った制作プロセスを取ったことで、本作ならではの魅力溢れる東京を作り上げることができ、日常の中に潜む非日常体験をゲームとして実現できたのではないかと思っています。

本ゲームを開発していく中で、Unreal Engine のどのような要素が特に役立ったでしょうか?

杉山氏:レイトレーシングの基礎実装ができていたので、クオリティ改善と最適化に専念できた点は大きいと思います。このような最新技術が次々と実装されていくので、その技術を使ったコンテンツ制作に集中できる点が良かったですね。

Unreal Engine のおかげで克服できた課題が具体的に何かありましたら、その克服のプロセスを教えていただけますか?

グラフィック プログラマー 奥川 剛氏:我々が『Ghostwire: Tokyo』用のLODシステムを作っているとき、メッシュやマテリアルマージをどうするかが大きな課題になっていましたが、ProxyMesh の登場で解決する事ができました。
Image courtesy of Tango Gameworks
質問にお答えいただきまして、ありがとうございます。Tango Gameworks と『Ghostwire: Tokyo』についてもっと知るには、どこを見ればよいでしょうか?

プロデューサー 木村 雅人氏:今回は、私共の方こそ、色々な質問をしていただき、色々とお話しさせていただき、ありがとうございます。

『Ghostwire: Tokyo』や我々Tango Gameworksの最新の動向や情報につきましては、下記の公式 Website公式 twitter にて、発信してまいります。

また、今後も、ちょっと今までのTango Gameworksの作ってきたものからは想像できないような、皆さんにびっくりしてもらえるゲームも制作、発表してまいりますので、是非ご期待くださいませ!

    Ghostwire: Tokyo の講演をチェックしましょう!

    本作の世界を表現するために Unreal Engine を使い行われた取り組みの詳細について講演動画を公開しています。
    ぜひ合わせてご覧ください!