『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』でノスタルジアとイノベーションを両立

2024年10月22日
GSC Game World について

ウクライナのビデオゲーム開発会社である GSC Game World は 1995年に設立されました。S.T.A.L.K.E.R. や Cossacks シリーズで有名です。最高レベルのゲーム エクスペリエンスを提供することに注力しており、現在は『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』のリリースに集中して取り組んでいます。
ゲーム業界が長い方ならすでにご存じの、オリジナルの S.T.A.L.K.E.R. 三部作が業界に旋風を巻き起こしてから 15 年以上たちました。大人気の『S.T.A.L.K.E.R: Shadow of Chernobyl』、『S.T.A.L.K.E.R: Clear Sky』、『S.T.A.L.K.E.R: Call of Pripyat』では、暗く、危険で、恐ろしいゾーンと呼ばれる場所をプレイヤーがさまよいます。プレイヤーはそこで、放射線、異常現象、恐ろしい生き物だけでなく、独自の目的と願望を持つ他の S.T.A.L.K.E.R と対峙することになります。

さて、『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』の待望のリリースが間近に迫っていますが、GSC Game World のチームは、雰囲気のあるストーリーテリング、緊迫したサバイバル メカニクス、オリジナル タイトルの緻密さにこだわった世界観を維持しながら、ノスタルジアとイノベーションを両立させるという課題に取り組んできました。

『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』では、ゲームの環境と雰囲気が没入感を高める上で中心的な役割を果たしています。手に汗握る生々しい戦闘や強化された敵の AI により、没入感の高いリアルな戦闘エクスペリエンスの提供を目指しています。 

GSC Game World は、最初の 3 つのタイトルでは社内エンジンを使用していました。しかし、こうした要素とプロジェクトの全目標を達成するため、Unreal Engine に切り替えることにしました。この記事では、リード AI プログラマーの Andrii Levkovskyi 氏とリード プラットフォーム ツール プログラマーの Maksym Yanchyi 氏にインタビューし、開発において Nanite、Lumen、World Partition などの UE5 機能がどのように役立ったのか、お話を伺いました。
Andrii Levkovskyi 氏 (リード AI プログラマー):私たちは、懐かしさと目新しさのバランスを取るようにしています。長年のファン向けには、雰囲気のあるストーリーテリング、緊迫したサバイバル メカニクス、細部までこだわった世界など、S.T.A.L.K.E.R. を S.T.A.L.K.E.R. たらしめる要素を中心に据えているので、楽しんでもらえるはずです。初めての方向けには、最新のグラフィックスと直感的なユーザー インターフェースを導入することにより、操作性を向上させています。これらは、今作における改善点のほんの一例です。ストーリーへの没入感を上げるために、数時間にわたるディレクター カットシーンも追加しています。この組み合わせにより、『S.T.A.L.K.E.R. 2』は従来からある良さを維持しながら、新しい世代のプレイヤーに受け入れられるような作品になっています。

『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』はダーク SF 的な終末世界を舞台にした物語で、ストーリー展開も複数に分岐します。没入感のあるストーリーを生き生きと表現する上で、環境や全体的な雰囲気はどのような役割を果たしましたか?

Levkovskyi 氏:環境と雰囲気が、『S.T.A.L.K.E.R. 2』の没入感を高める上での中心的な役割を果たしています。世界観は、実際のチョルノービリ立入禁止区域からインスピレーションを得て丁寧に作り上げられています。不気味なほど美しい風景、恐ろしい異常現象、そして変化の激しい天候が、物語をより雰囲気のあるものにしています。この設定がストーリーを推し進めるだけでなく、絶え間ない緊張感と予測不可能性を生み出しています。そのため、プレイヤーはこの終末世界に実際に入り込んだように感じられるはずです。
Image courtesy of GSC Game World
戦闘ゲームプレイの面で、どのようにしてオリジナル ゲームの雰囲気を維持しながら、現代のオーディエンス向けにエクスペリエンスを刷新したのでしょうか?

Levkovskyi 氏:オリジナル シリーズを常に特徴づけていたのは、激しい戦闘ゲームプレイでした。

『S.T.A.L.K.E.R. 2』では、遭遇するものすべてがプレイヤーの命を狙います。従って、常に緊張感があります。武器は、正確な弾道、反動、ダメージ モデルを使用しているのでリアルに動作します。オリジナルでの戦闘の荒々しく容赦のない性質も残してあるので、あらゆる攻撃が重要となります。高度な物理を用いているので、弾丸がサーフェスを正確に貫通したり、オブジェクトが爆発に自然に反応したり、敵が撃たれたときに現実に近い反応をしたりするなど、リアリティも向上しています。 

オリジナル シリーズでプレイヤーを悩ませていた AI の動作も改善されました。敵は変わらず巧妙な戦術を用いたり、カバーを効果的に使用したり、側面攻撃や前進攻撃を実行したり、手榴弾を投げたり、攻撃を回避したり、命懸けで攻撃してきたりします。なので、ファンの皆さんから好評だった戦略的な戦闘を行うことができます。

現代のオーディエンス向けに、AI によるインテリジェンスを大幅にアップグレードしています。敵はより複雑な決定を下すようになっています。脅威を評価し、ターゲットを優先順位付けし、プレイヤーの戦略に動的に適応できるようになりました。これにより、より魅力的で予測不可能な戦闘が実現しました。さらに、敵はプレイヤーの存在や行動に対してより自然に反応し、音を調べたり、目に見える脅威に反応したり、互いにコミュニケーションを取ったりするので、より没入感が高くリアルな戦闘エクスペリエンスが可能です。

『S.T.A.L.K.E.R. 2』では、より幅広い種類の敵が登場し、それぞれが独自の行動と戦闘戦術を備えているため、常に新鮮で難易度の高い戦闘が楽しめます。さまざまな派閥間の力学があるので、相互の関係や対立はより複雑なものになっています。派閥は AI で制御されており、独自に戦闘、パトロール、襲撃を行います。プレイヤーはそれをただ観察することも、関わることもできるので、世界観に深みが出ています。探索と戦闘はシームレスに移行します。AI の動作がゲームの世界にスムーズに融合しており、安全な場所と危険な場所の境界が曖昧になることが多いため、プレイヤーは常に気を抜くことができません。

ゲーム内の没入型サバイバル メカニクスについて、もう少し詳しく教えてください。

Levkovskyi 氏:『S.T.A.L.K.E.R. 2』では、ゾーンを移動する際にサバイバル メカニクスが重要な役割を果たします。プレイヤーは生き残るために、次のようなさまざまな悪影響に対処する必要があります。
  • 放射線:体力が継続的に低下します。回復するには、抗放射線薬やウォッカを使用するか、放射線レベルの低いエリアを探す必要があります。
  • 出血:体力の自己回復が停止し、血が止まるまでゆっくりと体力を奪います。出血を止めるには、包帯を巻いたり、医療キットを使用したりする必要があります。
  • 空腹:持久力の低下につながります。持久力レベルを維持するには、定期的に食物を摂取する必要があります。
  • 睡眠不足:視界がぼやけ、スタミナが低下します。集中力を維持し、スタミナを維持するには、十分な睡眠を取る必要があります。
ゾーンの過酷な環境に耐えるには、これらの要素に対して効果的に対処していくことが不可欠です。
 
Image courtesy of GSC Game World
最初の 3 作の S.T.A.L.K.E.R. では、自社製エンジンを使用していました。『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』で Unreal Engine への移行を決めた理由は何ですか?

Maksym Yanchyi 氏 (リード プラットフォーム ツール プログラマー):Unreal Engine 5 には、リアルタイム グラフィックスの可能性の限界を押し広げる最先端の機能スイート (Nanite、Lumen、Temporal Super Resolution、Virtual Shadow Maps、Niagara など) が搭載されていたためです。Unreal Engine は、マルチプラットフォーム サポートが強力であることも有名です。これは、PC と Xbox 両方のプラットフォーム向けにゲームを開発するのに役立ちました。エディタは汎用性が高く、ユーザーフレンドリーでカスタマイズ可能なため、開発効率が大幅に向上しました。

これらすべての機能により、プレイヤーが斬新で素晴らしいと感じられるようなエクスペリエンスを生み出すための新しいアイデアを、すぐにいろいろ思いつきました。多くのツールはアーティストや開発者がすぐに使用できる状態で用意されていました。そのため、よりプロジェクト固有のターゲットを絞った機能や最適化に集中できました。 

まったく異なるエンジンでの作業だったと思いますが、ワークフローにどのような影響がありましたか?

Yanchyi 氏:多くの Unreal Engine システムでは、アーティストが開発者から独立して作業 (アニメーション システム、マテリアル、プロファイラ、ビジュアル スクリプトなど) し、アイデアを自由に迅速にプロトタイプ化し、その結果をチームメンバーに提示することが可能です。従って、設計パラダイムは今までよりさらに反復的なものになりました。機能システムが豊富であることから、ワークフローにも大きなインパクトがありました。毎回「車輪の再発明」をするのではなく、バニラ バージョンに欠けている特定のものを正確に把握して、それに焦点を当てて開発計画を立てられるようになったのです。
Image courtesy of GSC Game World
Nanite は、ゲームの開発と外観にどのような影響を与えましたか?

Yanchyi 氏:Nanite により、手作業による LOD 管理とそのメモリ フットプリント、GPU パイプラインのボトルネックにまつわるアーティストの作業を大幅に削減できました。削減できただけでなく、ゲームの最終的なビジュアル品質も改善できました。また、メモリと最適化の面でも、Nanite が内部でどのようにリソースを管理しているかを把握できる点が便利でした。

チームが Lumen をどのように使用したのか、少し説明していただけますか?

Yanchyi 氏:Lumen のおかげで、手作りのさまざまな天候プリセットからの間接ライティングで満たされた、雰囲気のある素晴らしい地下や地上の空間を作成できました。
 
Image courtesy of GSC Game World
Unreal Engine 5 のその他の機能で、ゲームの開発と外観に大きな影響を与えたものはどれですか?

Yanchyi 氏:World Partition システムですね。間違いなく。複雑な場所が多くあったり、その周囲に自然が広がったりしているオープンワールド ゲームを開発する場合、レベル アーティストのワークフローで変更が競合してしまう問題を避けることはできません。World Partition の「One File Per Actor (1 アクタあたり 1 ファイル)」というコンセプトのおかげで、作業の「前」と「後」を明確に分けることができます。スタジオのアーティストは、ロケーションの存続期間におけるさまざまな段階 (グレーボックス レベルデザイン、美化作業など) で、共同作業をより快適に行えるようになりました。また、データ レイヤー サブシステムにより、「ストーリーの進行に合わせてさまざまな場所のビジュアルを根本的に変更する」という目標も達成できました。本当に素晴らしく使いやすい機能でしたね。

Unreal Engine への移行プロセスを進めている他の開発者に対して、アドバイスをするとしたら何ですか?

Yanchyi 氏:UE には、事前実装済みの豊富なシステムと機能が用意されています。それらの使い方を学んで最大限に活用し、プロジェクト独自の機能の開発だけに集中してください。独自のもの以外は、UE に任せてしまえばよいのです。ドキュメントを読むと、遭遇するであろう問題の多くは解決策がすでにあり、本番環境でもそれらが使用可能なことに気がつくと思います。従って、本当に多くの時間を節約できるはずです。
Image courtesy of GSC Game World
長年の開発を経て、ようやくこのゲームがリリースされました。今の気持ちはどうですか?

Yanchyi 氏:いろんな感情が渦巻いています。最高の作品にするため、可能な限り一生懸命に取り組んできました。完成まで長い時間を要しました。しかし、問題をすべて乗り越えて、このたび無事にリリースできるようになったことをうれしく思います。

お話を聞かせてくださり、ありがとうございました。GSC Game World と『S.T.A.L.K.E.R. 2: Heart of Chornobyl』の詳細はどこで見られるでしょうか?

Yanchyi 氏:https://www.stalker2.com をまずご確認ください。

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