2018年6月19日

【前編】UNDEFEATED - ヒーローに憧れる思いが生み出した爽快オープンワールドアクションゲーム

作成 岸本 ひろゆき

「ヒーローになりたい!」強い思いがゲームとして結実

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市民に危機が迫る時、ビルの谷間を縫ってどこからともなく飛来し、あっという間にワルい奴らをぶっ飛ばす--その1分に満たない動画が投稿されたのは、2017年8月23日の夜。空中を自在に舞い、高速で駆け抜け、悪を討つ、そんな圧倒的なヒーローにこのゲームをプレイすればなることができる……ひと目みれば感じられるその明快なコンセプトはすぐさま海外にも伝わり、一晩のうちに1000を超えるRT・いいねを獲得。2018年5月現在ではそれぞれ約7000・約12000に及んでいます。

タイトルは『UNDEFEATED』--無敵・不敗を意味するそのゲームを開発するのは、Vantanゲームアカデミー大阪校の3年生、篠原友磨さんと兵藤大瑚さん、1年生の福士楓子さんです。
 

「もともとヒーローになりたかったんです。ゲームクリエイターではなくヒーローになりたかった。でも、なれませんでした」と語る篠原さんは、本作の企画・ビジュアル面の開発を担当。現在でも夢の中で空を飛び、そのあまりのリアルさに“本当に飛べるようになったのでは?”と思うこともあるという篠原さんは、専門学校に入学する以前からヒーローを題材にしたゲームの制作を考えていました。「バンタンに入学して1年間、UE4でのゲーム開発を学び、二年次の春にいよいよ念願の“ヒーローになりたい”という思いを込めて制作に取りかかることができました」

言葉少なながらも熱い語り口と眼差しの篠原さんを陰日向に支えるのは同級生の兵藤さん。篠原さんの企画・素案書が軸となっている本作の、システム面の開発を担当しています。「もともとは二人ともそれぞれ企画を持っていて、『UNDEFEATED』は一番最初は友磨一人で開発していました。ただ入学した当初からこの二人で2〜3作品ほど取り組んでいたこともあって、ごく自然に合流してプロトタイプ開発をはじめました(兵藤さん)」さらにキャラクターデザイナー専攻の福士さんが参加、タイトルロゴやビルの看板、アイコンなどの2Dデザインを担当しています。

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▲ [左]篠原友磨(しのはらゆうま)さん 兵藤大瑚(ひょうどうだいご)さん

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▲ 課題の中で二人が開発してきたゲーム

現在は開発開始から約1年が経過していますが、プロトタイプはそのうち最初の3ヶ月で開発されました。

区切りとなったのは『クエストシステム』の開発。都市の中で、悪の組織の出現やビル火災などのトラブルが不定期に発生、ユーザーがそれを解決するという定番ゲーム要素です。「とりあえずここまでできたところで、『進捗でーす』と中村先生にお知らせするくらいの気持ちで動画を投稿しました。お風呂に入ってあがったら、バグかと思うくらいの通知を着信していて、バズっていることを認識しました(兵藤さん)」

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▲ バンタンゲームアカデミー大阪校にてUE4の指導を担当する中村匡彦(なかむらまさひこ)氏

そこで兵藤さんは即座に篠原さんに連絡。当時SNSに明るくなかった篠原さんも、Twitterの拡散の威力を目の当たりにしてすぐにアカウントを取得したそうです。こうして一夜のうちに世界に注目されることとなった『UNDEFEATED』の開発が、今の二人の生活の中心にあります。「休みの日なんかは、起きたらまずUE4を立ち上げて、それからご飯を作りに行きます(篠原さん)」現在の篠原さんの自宅はバンタンから徒歩20分程度である一方、片道2時間超ほどかかる兵藤さんは、篠原さん宅に泊めてもらうこともしばしばだとか。「二人とも、両親はゲーム開発そのものには疎いのですが、二人のやりたいことを理解し応援してくれています」とのことで、学生ならではの“24時間ゲーム開発のことだけを考えていられる”環境を得てスピード感のある開発を続けています。

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篠原さんのデスクと、篠原さん宅での兵藤さんのデスク。昼夜を問わず最高のヒーロー像を追求すべく開発が進められています

メインツールであるUE4は、開発開始時のバージョンが4.16、その後17、18と順次バージョンアップ。インタービュー時点で19へあげるかどうか様子を伺っている段階とのことで、「今のところは、基本的には18で進めていける状況です。ただ、3月に配布が開始されたParagonのアセットは4.19以降対応となっていて、これが使えるメリットも非常に大きく魅力を感じています(兵藤)」

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UE4にはAlexandr Shatalov氏が開発しているのリギング・アニメーションプラグイン「Allright Rig」を組み込み、アニメーション作業はUE4内で完結。新たにDCCツールを学ぶよりも、習得度の高いUE4の中に集約してしまうのが最も効率的と判断したそうです。「何も知らないところから出発したからこそ、リソースに見合ったコンパクトな開発環境にできたと思います(篠原さん)」このほか、LOD制作にはSimplygon、テクスチャなど画像制作にGimp(または簡単な指示描きなどはWindowsペイント)が使用されています。

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ビジュアル面を篠原さん、システム面を兵藤さんが担当していますが、アセット周りはマーケットプレイスを最大限活用し、モデリングなどはどちらも行なっていません。「アセットに関しては、主に既存のもののマテリアルやテクスチャを本作用に調整して使用しています。Epicが標準で配布しているアセットを中心に、モデリング専任の人がいなくても開発を進められるのは大きいと思います(篠原さん)」「いいアセットはそれなりの金額ですが、誰かに発注して新たに作ってもらう期間や額と比べればはるかにお手軽だと考えています(兵藤さん)」

 

マーケットプレイスをフル活用しグラフィックを構築

キャラクターから建物、ヒーローが出す技や火災のエフェクトに至るまでアセットがフル活用されている本作。自らもヒーローをめざしていた(めざしている)篠原さんは長く空手に取り組んでおり、その筋肉質でスポーティーなルックスは本作主人公のヒーローにそっくり。てっきりそれを狙ったものと思いきや、購入したアセットのマテリアルを黒くしたらそっくりになってしまったというから驚きです(ちなみに後述するモーション作成時には、そのフィジカル面を活用し実際に回し蹴りなど身体を動かしてみて詳細を確認しているそうです)。

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街中を歩くNPCは購入したアセットをリダクションして使用。舞台となるビル群は購入した建物アセット「 DownTown 」の他、ラーニングコンテンツからの流用で構築されています。「無料のものでも優秀なアセットが多く助かっています。モックの状態からアセットを置き換えて見た目が変わるとテンションが上がりますね(兵藤さん)」ただし既存のビルは基本的に上から見下ろされることは想定しておらず、飛行すると何も置かれていない屋上が見えてしまいます。「屋根に一切小物がないことに気づき、自分で置いていくほかないのでしばらくひたすらコツコツとその作業に専念しました。それから、仕方のないことかもしれませんがアセットごとにコリジョンの仕様が違っていたりして、これも地道に直しています。アセットをフル活用している中での数少ない不満です(篠原さん)」エフェクト類はインフィニティブレードのアセットをベースに、ぴったりのものがなければテクスチャを描いて差し替えて組み込んでいるとのこと。

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11a_スーパーヒーロー着地エフェクト衝撃波テクスチャ使用_trim.png
11b_斬撃ヒットエフェクト_trim.png11c_衝撃波エフェクト用テクスチャ_trim.png
11d_通常攻撃ヒットエフェクト衝撃波テクスチャ使用_trim.png
篠原さんは、コースとしては「プログラマ総合」に属していますが、こうした作業を着々と消化する自身のことを“根っからのデザイナー頭”と評します。またバンタンへの入学を検討する際にはゲームグラフィック総合コースの資料を取り寄せていたそう。「入学前の面談時に、ゲームを作りたいということを強く伝えました。グラフィックを学ぶコースではUE4を触る機会がないことから現在のプログラム総合を勧められたのですが、これがその後を大きく分けたと感じています(篠原さん)」

本作は爽快なアクションを繰り広げるヒーローに注目が集まりますが、彼が都市中を所狭しと飛び回るオープンワールドゲームだという点も大きなポイントです。バンタン大阪校でUE4の授業を受け持つ中村氏は、その企画書をみたときの印象を次のように振り返ります。「いきなりオープンワールドなゲームを作るという企画書が上がってきて、教えたわけでもないのに作れるわけないじゃんという驚きはありました。すごいのが出てきたなと(中村氏)」ほかの学生がよりコンパクトで現実的なゲームに取り組んでいる中で、大風呂敷を広げても意味がない……という思いはありつつも、一方でヒーローのゲームを作りたいという強い思いを長らく目の当たりにしていた中村氏。「じゃあ、作ってみたらいいよという話はしていました。無理だからこういう風にしなさい、というようなことは言わないまでも、授業で教えた知識の範疇でやれることではないので時間はかかるだろうなと……。ですので、正直なところあんなに早く形になるとは思っていませんでした」と中村氏を驚かせたのが、すでに紹介したプロトタイプ版。アセット類は仮ながらもヒーローの飛翔などキーとなるアクション類は備わっており、マップもこの時点から現行版相当の広さで組まれていました。

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10b_CurrentSS_1.png10c_ProtoSS_5.png10d_CurrentSS_5.png
システム面を担当した兵藤さんは「知っている内容や調べた内容の範疇で作っていたので、プロト版時点では苦労という苦労はありませんでした」と涼しい顔。一方でキャラクターアニメーションなどのアクション面は、それほどキーの多くない簡単なものながらも、これまでの授業では触れることのなかった分野であり新しい挑戦だったようです。モーションを取りまとめてキャラクターを動かすアニメーションシステムは「Advanced Locomotion System」を導入、本作用にステートマシンを最適化を施して使用しています。

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https://www.unrealengine.com/marketplace/advanced-locomotion-system-v1

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前編では開発スタートからアセットを活用した開発の様子を伺いました。後編では最適化作業や今後の展開について伺います。お楽しみに!