技術ブログ

2026年9月3日

レトロ アニメの世界を舞台にしたゲーム開発の舞台裏:『オービタルズ』のレンダリング手法

こんにちは!Shapefarm のアソシエイト アート ディレクター、Johannes Varmedal です。東京オフィスでオービタルズのリード環境 & テクニカル アーティストを務めています。

『オービタルズ』は、2026 年 9 月 3 日に発売予定の Nintendo Switch 2 向けの 2 プレイヤー協力型宇宙アドベンチャー ゲームです。本作は、Unreal Engine 5 で過去 3 年かけて、丹念に作り上げてきたレトロ アニメを彷彿とさせるビジュアルを特徴としています。

『オービタルズ』の独特のワールドは、Marcos Ramos (クリエイティブ ディレクター) が構想を練り、きわめて才能豊かなアートチーム リーダーの Casper Wermuth (アート ディレクター) が制作しました。 80 年代と 90 年代のアニメへのオマージュとして制作された『オービタルズ』のアート ディレクションは、私たちアーティストに影響を与え、そしてある意味では、私たちがともにスタジオを立ち上げるきっかけとなった往年のアニメの雰囲気を再現することを目指しています。 
Unreal Engine のソース コードへのアクセスと柔軟性のおかげで、デフォルトのレンダリング パイプラインをカスタマイズし、レトロ アニメを想起させるアート ディレクションを実現することができました。これはプロジェクトの最大の技術的課題の 1 つでした。プリプロダクション段階において、Thomas Söderlund (テクニカル アート担当) と Tony Holmsten (コンセプト アート担当) が、この実現方法の基盤となる調査研究を行いました。 
 
当時のアニメを調査して得られた結果は、アナログ パイプラインに伴う制限事項とアーティファクトに関するものでした。 
  • 当時の背景は、通常、シーンごとに白い紙にポスター カラーで描かれており、動きは主に絵の固定されたパースペクティブに基づくパンに限定されていました。 
  • フレームごとに動きのあるコンポーネント (キャラクター/インタラクティブ オブジェクト/VFX など) は、一般的に 1 秒あたり 24 フレームで 2 コマ打ちでアニメートされ、セルロイド シート (つまり、セル) に手描きで描かれていました。通常、セル画は、事前に描かれた線画の背後に配置されていただめ、フレーム間の陰影 (シェーディング) に揺らぎの不正確さが生じていました。
  • 合成作業では、セルを背景の手前に重ねて、前面から照明を当てることで、合成された画像の層の中でガラス板の間に微妙な分離感や陰影効果が生じました。 
  • エミッシブ ライト効果は、多くの場合、背景やセルに穴を開けて、光を透過させることで行われ、未塗装の紙よりも明るい光が得られました。
  • 各フレームは、結局のところ、フィルムに写し出された写真であり、フィルム特有のアーティファクト (粒状感、ハレーション、色収差、ボケ、ブルームなど) を伴うものでした。  
 私たちが自らに課した課題は、プレイアビリティと没入感を優先しながら、Unreal Engine でのリアルタイム レンダリングのコンテキストでこれらの調査結果を可能な限り忠実に適用することでした。  

開発段階では、目指すビジュアルを実現するために、カスタム シェーディング モデルの作成、独自のレンダリングバッファの追加、既存のバッファの変更を行い、ポストプロセッシングを多用する必要がありました。

セル シェーダー 

 
Shapefarm が開発したシェーディング モデルは、上記の制約事項に従って分割されました。従来のアニメ合成における「前面」のレイヤーが、Shapefarm のセル シェーディング モデルになりました。これは、ゲームでよく使用される手法であり、セル シェーディングは、シェーディングを制限された値 (通常は、3 つ) に分割します。本作の開発では、アセットで定義された色に基づいて 3 つのステップを設定し、追加のレンダリング バッファを利用して、シェーディングのアート面を完全に制御できるようにしました。 
  
Taliesan Arnold (リード アニメーター) が、多くの時間と労力を費やして、ステップ フレーム式のキャラクターの動きのルック & フィールを調整しました。VFX や、アニメートされたスケルタルメッシュ以外のセルの動きのあるコンポーネントはすべて、シェーダー内で同様の方法でステップ処理され、動きを 12 fps (エフェクトによっては 6 fps まで低下することもある) までに制限しました。その一方で、ゲーム カメラのレンダリングは 30 fps 以上を維持しました。
内部ラインのレンダリングは、サーフェス インデックス フィールドで定義され、カスタマイズされたバッファの 1 つに読み込まれました。その後、深度バッファとともに共通のライン生成 UV オフセット畳み込み設定でサンプリングされ、内部ラインと外部ラインの両方をマスクとして取得されました。ライン マスクの結果は、ラインの太さのアルファ エロージョンの違いと、ノイズが除去された線の途切れに対応するために、さらにぼかされました。 
 
アニメーターがセル画を描く際に生じる、陰影の曲線の不正確さや、フレーム間の線の正確性のばらつきを再現するため、セルのシェーディングと線にノイズによる歪みを加えました。
ゲーム内では、セルのアクタやカメラが動いているときにのみ、揺れや線の途切れが更新されます。これは、従来のアニメのフレーム制作におけるセル画の「描き直し」に相当すると考えました。

参考にしたアナログの手描き感に着目し、さりげないながらも、こうした不完全さがゲームのルック & フィールにとって重要だと考えました。 
   
また、当時のセル画によく見られる技法を取り入れるため、セルの影のステップにハイライトを追加しました。
セル レンダリングの最終的な仕上げとして、従来のフロント ライトを使ったセル画レイヤー合成でよく見られる、細かい陰影のアーティファクトを追加しました。
セル シェーディングされたアクタが環境に計算されたシャドウをキャストすることはありません。なぜなら、これは、レンダリングにおける「前面」のセルと「背景」の環境の差異と矛盾するからです。 
 
これに対処するために、セル シェーディングされたアクタをライティングする際に、セル固有のライティング チャンネルを使用し、ベイクされたボリュメトリック ライトマップを活用したセル固有のライト アクタによってライティングを施しました。 
 
また、キャラクターと隣接するフロアのセル メッシュを地面に接地させるために、単純に抽象的な形状のセル シェーディングされたシャドウ デカールを使用しました。

環境シェーダー 

 
「背景レイヤー」(アニメの場合の固定パースペクティ ペインティング) では、環境シェーダーを「ペイント シェーダー」として定義しました。プレイヤーが操作するカメラでは、固定パースペクティブの制限を実現することは不可能でした。そこで、ペイント シェーディングされたコンポーネントとそのライティングは決して動かないというルールを決めました。ここでプレイヤーに感じてもらいたかった感覚は、セル オブジェクトにおける段階的な動きと似ています。つまり、プレイヤーがポスター カラーの絵の中に入り込み、ゲーム カメラを通してアニメ フレームの内部を探索しているような感覚です。 
 
セル シェーディングが施されたオブジェクトのライティングについては、繰り返しになりますが、動くシャドウ キャスティングである必要がないため、リアルタイム ライティング ソリューションのコストはこのプロジェクトに見合わないと判断し、すべてのライトをベイクすることにしました。 
 
ペイント シェーダーは、サーフェスのライティングを完全に制御できるように設定しました。最も大きく影響するモディファイアは、ブラシ ストローク テクスチャを使用して光の拡散を調整できる機能です。
DCC ソース アセット設定ツールで、頂点カラーを使用してエッジとコーナーのハイライトを定義しました。エディタでは、エディタ ツールでアクタごとに制御できる擬似的なスペキュラ光源ロケーターを使用して、これらのハイライトを制御しました。 

以上のようなさまざまなモディファイアが、アート チームがアセット作成時に使用したパイプライン ツールセットに組み込まれ、3D 環境で手描きの「2D」感を出しました。私たちのモットーは「デジタルの完璧さ」に抗うことでした。意図的に中心からずらしたり、繰り返しや対称性を避けるためにディテールをランダムに配置したり、完全に直線のシルエットや丸いシルエットを歪ませたりしました。

フィルム エフェクト


Unreal Engine のカスタマイズの柔軟性により、独自のポストプロセス フィルターを使用して、パイプラインでのセル レンダリングと環境レンダリングの分割を完全に制御することができました。 

ブルームの使用においても同様のアプローチを採用しました。発光面がセル シェーディングまたはペイント シェーディングされたままマスク処理を行い、ブルームはその周囲に適用されるようにしました。
レンダリングの最終レイヤーはフィルム ポストプロセス フィルターでした。これらには、フィルムの粒状感、ハレーション、色収差、ぼかしなどが含まれており、ゲーム画面において、フィルムで撮影されたような質感を再現します。
私たちのパイプラインでは、Unreal Engine の強み、特にカスタマイズの柔軟性を最大限に活用しています。シェーディング モデルとレンダリング バッファの変更に加えて、マテリアル エディタを活用して、ほとんどのシェーダーをエディタで直接開発およびイテレートすることで、アーティストの目指した最終結果をほぼ実現することができました。 

パイプラインは、アート チームがこのスタイルの制約の中で、可能な限り自由に表現できるように設計されました。過去のプロジェクトで Unreal Engine に精通していたチームは、このパイプラインにより、確立されたワークフローを維持しながら、『オービタルズ』のビジュアル ディレクションをサポートするために必要に応じて、ワークフローを拡張することができました。

『オービタルズ』の詳細については、本作の公式ウェブサイトをご覧ください。