車そのものと同様、車の CM にも様々なスタイルや手法があります。華やかさ、安全性、頑丈さ、エレガントさ - アピール内容も様々です。ところが、CM 制作プロセスには、世界中の制作担当者が共通して頭を抱える問題がありました。それは、新車モデルの情報が入手できないこと。仮にあったとしても、競合他社や民間への情報漏えいの危険が伴うため、新車モデルを道路で走らせることはほぼ NG でした。
そして昨年、この状況を大きく変えたのが The Mill BLACKBIRD でした。BLACKBIRD は、ひとたびライブ アクションで車を撮影すれば、後で車体を簡単かつ完全に編集することができる画期的なカー リグです。ほぼすべての車に使用できます。これにより、アーティストは情報不足および情報漏えいの危険性を心配せずに、フォトリアルな新車モデルを CG でレンダリングできるようになりました。制作担当者の救いとなった BLACKBIRD ではありましたが、残念なことに 1 つだけ厄介な問題が残っていました。CG 背景の中に実際に置かれた車の状態を確認できないのです。ライトや周囲のものに対する車の外装の反射は、現実世界を表現できるかの鍵となります。通常、高解像度フレーム 1 つのレンダリングには数時間から数日を要します。つまり、デザインやライティングに関する問題が浮上するのは、撮影後しばらく経ってからなのです。
「BLACKBIRD という驚異的な発明のおかげで、制作ディレクターにかなり自由が生まれました。ただ、最終製品を見ることができない状況は変わらないので、弊社のリアルタイム エンジニアは The Mill と協力して BLACKBIRD をどう活用するか話し合いました」とエピック ゲームズ CTO の Kim Libreri は当時を振り返ります。「経験や知識を結集させて、セット上に再現した車をディレクターと撮影カメラマンが実物として扱えるような拡張現実のビルドに成功しました。」
アンリアル エンジンの高い忠実度のリアルタイム レンダリング技術が決め手となって、ライブ アクション撮影中に編集者は CG のカーモデルを即時に作成および適宜調整することができました。Chevrolet による Camero 50 周年記念のプロジェクトは、アクション中に技術をテストする絶好の機会でした。「The Human Race」と呼ばれたこのプロジェクトで The Mill は2 つの問題に直面することになりました。それは、最高機密である Chevrolet Camaro ZL1 と現実世界ではまだ存在しないコンセプト カーである Chevrolet FNR の 2 台を登場させなければならなかったのです。
「少なくとも Camaro に対しては BLACKBIRD を使うつもりでした。FNR の作成については新しい作戦を練っていました。エピックからの提案は非常に興味深いものでした。ゲーム業界で一般的に使われる背景というのは、CG アセットがリアルタイムでユーザーに反応し、ユーザーの動きに合わせてどんどん変化していくというのです。その技術をこのようなライブ アクション VFX スペースに適用したらどうなるのか、考えるだけでワクワクしました。アンリアルを使って、今利用できる技術だけで両車種のリアルタイム ビジョンをセットに作成することができました。撮影中に調整ができるように早めに準備しましたが、ルック&フィールに関しては誰もが大満足でした」と The Mill の EVP International である Alistair Thompson 氏は説明します。
エピックのエンジニアは、メディア フレームワーク機能を使ってソリューションのビルドに取り掛かりました。これによりユーザーは MPEG あるいは QuickTime ビデオをアンリアル エンジン 4 に取り込めるようになりますが、もう 1 歩進んで、業界標準非圧縮 EXR ファイル用のサポートも実装しました。この新機能は、最終の高解像度フッテージのリアルタイム レンダリングによってプロレベルの拡張現実を実現します。
車を CG でシームレスに拡張するためのデータ トラックとデータ管理も難しい作業です。ここで活躍したのが Mill が開発した仮想制作ツールキット Mill Cyclops です。RED カメラが 4 台搭載された The Mill BLACKBIRD、ARRAIY のトラッキング ソフトウェア、そしてアンリアル エンジンという 3 つの要素が集まって、これまで BLACKBIRD では不可能とされてきたリアルタイムでフォトリアルなライティングと反射コンポジットが実現できたのです。ディレクターと撮影カメラマンは、モニターの中の対象物でカメラ方向の調節ができるようになったのです。
ゲーム制作の反応的な性質を利用したことで、プロダクションとポストプロダクションの間の境界が取り払われ、編集者はフォトリアルなアセットをリアルタイムでライブ アクション フッテージに取り込んで合成することができました。 完成した映画は、曲がりくねる山道で 2 台の車が白熱したレースを展開する斬新な作品になりました。
「仮想制作が次の段階へ一気に飛躍したと思います」と Libreri 氏は言います。「データをアンリアルに取り込めば、 本物のようで、クオリティが高く、繊細なニュアンスも再現されている 2017 Camaro ZL1 および Chevrolet FNR が作成されます。変更も迅速かつ簡単です。すべてのライトと反射は法線で合成中に慎重に作られます。これはすべてライブで生成しました。AR シャドウだけを作成するよりもはるかに複雑なプロセスでした。本物と見分けがつかないほど洗練さを極めた CG イメージベースドライティングです。」
続けて Thompson 氏は、「アンリアルの技術を使って、背景全体、ライティングとフレームのすべてを正確に調整することができるので、CG 車体の仕上がりが一番良くなるようにセット上のカメラのデータをリアルタイム レンダリングしました。ディレクターは前にある BLACKBIRD で作成した車を確認し、その次いモニターで完全にリアルに描写された Chevy ZL1 と FNR を確認します。車が実際にそこにあるかのように撮影することができます。CG で作成されていないのは ディレクター、撮影カメラマン、俳優 だけ ですよ」と説明します。
映画とゲームの合成は車の宣伝にとどまらず、あらゆる分野でその可能性が期待できます。エンターテイメント関連であれば観客は自分が気に入ったテレビ番組や映画のパスを変更して、クリエイティブなストーリーテリングへの調整が可能です。ショッピング関連であれば、消費者は新車などの製品をカスタマイズする場合に、結果をその場ですぐに確認できます。
「The Human Race は、シネマティックスな ストーリーテリング とリアルタイム ビジュアル エフェクトを融合して、ナラティブの可能性の到来を告げました」と説明するのは The Mill New York の Chief Creative Officer である Angus Kneale 氏です。 「映画 VFX とこれからの拡張現実にとって重要な瞬間です。 Mill Cyclops をアンリアル エンジンの最先端ゲーム エンジン 技術と併用することで、映画制作会社はフォトリアルなデジタル アセットをリアルタイムで即時に確認することができます。観客はライブ アクション シネマ体験中に車、キャラクター、 背景にインタラクティブな調整をすることで、以前では考えられなかったような方法で映画に変更を加えることができます。」
アンリアルの虜になったプロ集団達は、ハイエンドな拡張現実コンテンツ作成中毒になって、様々なアプリケーション向けの制作に没頭してます。Libreri 氏はこう締めくくります。「アンリアル ユーザーのみなさん、このエンジンは無限です。唯一の制約、それは皆さんのスキルと空想力です。」
今回の環境に合わせて、アンリアル エンジンの効率性を最大限に引き出すべく我々がデプロイしたツールセットを紹介します。
- 非圧縮 EXR 画像複数のストリーム
- 車のライティング用の Dynamic Skylight IBL (イメージベーストライティング)
- エッジラップ、BG と FG 別々のモーション ブラーによるマルチ エレメント合成
- キラキラ度をさらにアップさせる高速フーリエ変換 (FFT)
- 指向性ブラー設定のある PCSS シャドウ
- 反射オクルージョンによる Bent Normal AO
- 次世代 Niagara パーティクルおよび FX 用プロトタイプ
- NVIDIA Quadro グラフィック カードとの互換性
- Google Tango が有効なデバイスへのサポート (現在は Lenovo Phab 2 Pro)