クリエイティブ プロセス
FRAGMENT の構想が作られ始めたのは昨年のことです。当時、私たちは、デジタル アート、アニメーション、デザインを教えるモントリオールの学校、NAD で最終学期を迎えていました。プログラムを卒業するために、最終プロジェクトを提出する必要がありました。制作プロセス全体の期間は、1 月から 5 月までのおよそ 4 か月ほどしかありませんでした。プロジェクトを開始する時点では、どのような方向性にするか決まっていませんでしたが、それまでのプロジェクトと同じチームを維持することでは全員が同意していました。以前に協力して作業を行い、いい時間を過ごすことができたチームです。全員が常に互いを自由に批評でき、エネルギーに満ちていて、クリエイティビティ、モチベーション、情熱を引き出すことができました。次のマイルストーンに向けて、このシナジー効果を維持したいと考えていました。
このプロジェクトでは、自分たち自身への挑戦と個々の才能を示すことを目的にしました。将来の雇い主の目に触れるはずのものだからです。制作期間が 4 か月で、小規模なチームという事情から、プロジェクトをゲームにするかバーチャル プロダクションにするかについてはすぐに判断を下す必要がありました。
映画に対する情熱があったことと、将来的なプロフェッショナルとしての意欲から、Unreal Engine で短編映画を作成することを決めました。Unreal Engine の堅牢なインターフェイスと強力なパフォーマンス ツールがあれば、私たちのビジョンを体現するすばらしいものを作成できるということはわかっていました。
ムード
2 週間かけて参考資料を集め、ムードをプロジェクトに合わせて調整する準備をしました。画像、映像、コンセプトの資料を集めました。Sava Zivkovic 氏による短編映画、IFCC がインスピレーションの源泉の 1 つとなりました。また、カメラの動きとリズムについて詳しく検討しました。この点については、デヴィッド・フィンチャー監督とウェス・アンダーソン監督の映画からインスピレーションを得ました。テーマのコンセプトを考えるための資料を 2 週間かけて集めてから、制作の方向性を決めるためにムードボードを作成しました。

メイズ・ランナーに登場したモノリス状の形状や、Jean-Pierre Ugarte 氏の絵画などが、プロジェクトの全体的なムードについてのインスピレーションを与えてくれました。また、アート ディレクターの Raphael Lacoste 氏や、コンセプト アーティストの Martin Deschambault 氏の作品からも影響を受けました。それらのアートをガイドラインとして、短編映画のテーマを決めました。廃れたようで、霧がかかっていて、時間を超越した感じです。

プロジェクトのトーンを定めるために、色を限定したカラー パレットを準備し、グレーと緑、対になる 2 つを作成しました。映画の前半ではグレーのみを使い、巨大で頑丈な構造と、とても汚れた霧を表現しました。映画が後半に進むと、自然な緑の要素が現れます。
物語
世界を旅するために、さまざまなレベルの複雑さを持つ物語を作成するとともに、単純な追跡のシーケンスを表現したいと考えました。物語の主なコンセプトは、「ピボット ショット」と呼ぶものから始まりました。「ピボット ショット」は、物語の最初と中盤に登場します。このシーケンスは、物語の全体をまとめるものであると同時に、視聴者による自由な解釈を可能にするものです。視聴者には、この映像は氷山の一角、大きな物語の一部に過ぎないと思ってもらえるようにしたいと考えていました。また、キャラクターの役割を曖昧にして、どのキャラクターが主人公で、どのキャラクターが敵役なのか、視聴者の判断に委ねました。


シーケンスを構成するショットのアイデアを整理するために、ストーリーボードを作成しました。ストーリーのリズムと世界観を検証するために、ストーリーボードに従って編集の最初のパスを行いました。そうすることで、プロットを理解しやすく面白いものにするために、ストーリーから何を除外し、ストーリーに何を追加する必要があるかが明らかになりました。
シーケンスをリアルタイムで作成するために、Unreal Engine のシーケンサーを使用しました。ゲーム業界の標準に従い、十分なフレームレートを確保して、ポストプロダクションを不要にしました。Unreal Engine の技術的な性能のおかげで、標準に従いながら、必要としていたものを作成できました。

また、プリミティブや指向性ライトの角度を利用して、形状やコントラストを迅速にテストできました。ショットの一部には上塗りを施して、利用できるものを改善していきました。
キャラクター
ドローン、獣の一群、奇妙なデバイスにつながれた男、これら 3 種のキャラクターが関与する追跡劇を中心に据えて、ストーリーのリズムを保つことにしました。より深いレベルでは、遍在する企業と舞台となる都市も重要なキャラクターであると言えます。キャラクター同士につながりを持たせて、作品を時間で 5 つのまとまりに区分しました。

シーケンスとレベルを複数に分割することで、チームの各メンバーがそれぞれのパートの作業を行えるようにしました。このワークフローのおかげで、シーケンス全体を組み合わせる前に、全員で小さなセグメントについて作業を行い、それぞれ異なる場所をテストできるようになりました。
男


この男は、企業の元従業員です。浴槽内で手作りの機械につながれていて、自分の意識を身体から取り出し、アップロードしようとしています。この男については、浴室のショット内に詳細な情報が示されています。何をしているのか、その理由、どこへ向かおうとしているのか、その試みの成否については、曖昧さを残すようにしました。
肌を作成するために、Unreal Engine の [Learn] タブにあるスキン シェーダーを使用しました。チームにはアニメーターがいなかったので、この点では苦労しましたが、楽しいところでもありました。
頭につながれたワイヤーを動かすために Unreal の物理を使用しました。男とドローンのアニメーション作成を支援するために、私たちの友人である Charles-Etienne Gouin が、プロジェクトの最後の 2 週間、チームに参加してくれました。

ドローン

ドローンのアイデアは、制作の終盤に、私たちのメンターである Sebastien によってもたらされました。シンプルな円盤を作成して、その動きによって追跡のリズムを強調できる、という提案でした。そのアイデアを元に私たちの友人である Louis がデザインおよび作成したドローンが映画で使われています。ドローンは、企業が遍在しているということと、映画全体のリズムを示しています。ドローンを強力な隠れた首謀者としたいと考えました。ドローンの動きを決めるにあたっては、Massive Attack の Voodoo in My Blood を基準にしました。ドローンが登場する 2 つ目の「ピボット ショット」がこちらです。

映画のこの段階で、男がハッキングしたデバイスを起動したせいで起動したドローンが、獣たちを操って男を探そうとしている、ということが視聴者にわかるようになっています。
シーケンサーは柔軟性が高く、リグなしで、Unreal Engine だけでドローンをアニメーションさせることができました。ドローンは 1 つのブループリントで構成されていて、ライトと、衝撃波およびマテリアルのためのポストプロセス エフェクトが含まれています。
生物
獣たちは、この短編映画のストーリーにおいて大きな役割を担っています。野生の危険な動物に見えるように、そして、どこにでもいて誰にとっても脅威となる存在として感じられるようにしたいと考えていました。獣たちは、都市の街頭における、企業にとっての目でもあります。視聴者が疑問を抱き、それぞれの結論を導くようにしたいと考えました。この獣たちは企業によって作られたのか、それとも飼い馴らされたものなのか?どこか別の現実からやってきたのか?ホログラムなのか?鹿は、予測されていなかった驚くべきアイデアでした。最初の計画中に実を結び、結果的には最大の喜びとなりました。鹿が企業のロゴと重なることで、かつてあらゆる生命を滅ぼした人類がテクノロジーの進歩に応じて自然を再現しようとしている、ということを暗示します。
生物を作成するために、ゲームに対応するパイプラインを使用しました。それから Houdini でプレーンを散乱させて、Unreal Engine のヘア シェーダーを使って望んでいたビジュアルを実現しました。大きな課題でしたが、この経験を通じて多くを学ぶことができました。




環境
6 週目
10 週目

14 週目

方向性を決める前に、Unreal Engine での環境のさまざまな例について研究しました。霧がかかっていて時間を超越した感じを描写したかったことに加えて、ポストプロダクションなしで映画のようなビジュアルを描きたいと考えていました。
視点についてはいろいろと試して、指向性ライトを大きなもので隠して影を作りました。また、メッシュのサイズを大きくして、ショットの視点を誇張しました。さらに、シーケンサーの機能を多用して都市の全パーツをスポーンしたり、指数関数的高さフォグと指向性ライトをタイムラインで移動させたりしました。ポストプロセス マテリアルと LUT の設定を活用して、希望するビジュアルの品質を達成しました。
ビジュアルの品質と作品の整合性については、Sebastian Primeau と Martin Deschambault が大きく貢献してくれました。2 人はあらゆるミスを発見し、調整して解決に導きました。10 週目から 15 週目にかけて、週に一度、少人数のグループに映像を観てもらい、新しい視聴者の視点からのフィードバックを集めました。その評価に基づいて各ショットを再調整できました。

ゲーム業界で働きたいという希望があったので、ゲームの標準に従って、アセットとマテリアルはモジュールのものだけを使用しました。Substance Designer を使用して汎用のマテリアルを作成し、Substance プラグインでバリエーションを簡単に作成しました。アセットにノイズと粒子を作成するためにデカールを多用しました。
また、ワールド位置マテリアルを使用することで、非常に巨大なアセットと形状を作成して都市を構築でき、アセットのサイズに関わらずテクセルの比率が適切なものになりました。こうすることで、シーケンサー内で公開されたパラメータを使用してマテリアルを調整できるようにもなり、すべてのショットにおけるすべてのアセットの品質を確保できるようになりました。

植物のテクスチャは、Quixel Megascans と Unreal Engine マーケットプレイスのフォトグラメトリー パックを組み合わせたものです。それから SpeedTree を使用してアセットを作成し、Substance Designer を使用してマップを組み合わせて改善しました。Unreal のシェーダー、スプライン、フォリッジのタイプは、雑然としたリアルな植物の巨大なサーフェスを迅速に作成し、パフォーマンスを低下させないようにするために、非常に便利でした。風にカスタムのノイズを使用して (シーケンサーで公開されたパラメータを利用)、環境に特別な雰囲気をもたらしました。
この環境を作るのは非常に困難でしたが、そこから多くを学ぶことができました。ゲームに対応できる環境に期待するものを実現するために、多くの近道を利用できました (視点の詐称、ショット単位で変更するためのパラメータの公開、フォグと指向性ライトの移動)。
映画の短いシーンをビルドしてパッケージングし、視聴者が一人称視点テンプレートを利用してショット内を移動し、指向性ライトを動かせるようにしました。最初の観客向けの公開では、VFX を利用するプリレンダリングされた短い映像 2 本の直後に、私たちの作品の出番が予定されていました。それはすばらしい経験であると同時に、ベストを尽くす動機にもなりました。ほかの 2 つの VFX チームに負けない品質を実現し、短い映像の世界を観客が FPS のように自由に動き回れるようにすることを目指しました。
技術的な課題
制作上最大の課題は、主要なツールであるシーケンサーについて集団で詳しく学ぶことでした。カメラやタイミングから視覚効果の具体的な制御まで、シーケンサーのすべての機能を詳しく知ろうとしました。リアルタイムのアプローチによって、ショットの編集は極めて高速になりましたが、それに伴って生じる、興味深い技術的な難題もありました。それは、時間ベースの視覚効果は制御やプレビューを適切に行うのが難しいということです。時間ベースのループが開始するタイミングは、表示するたびに異なります。たとえば、5 秒間の振動効果は、ユーザーが [Play] を押すタイミングによって、ループの 1 秒目に始まることもあれば 4 秒目に始まることもあります。これは、時間が正確に決まらないという厄介な問題につながります。
Time ノードに依存するが正確性が求められるシェーダーと効果については、別の方法を使用しました。シェーダーの Time ノードはすべて、キー設定できる変数に置き換えられました。この変数は、マテリアル パラメータ コレクションを通じてシーケンサーと直接リンクします。このアプローチによって、複数の変数を作成し、シェーダーの各部分を制御できるようになりました。時間、色、衝撃波の泡が時間の経過に伴ってどの程度揺れ動くか、などを制御します。これには驚くほど多くの用途がありました。ポストプロセス マテリアルを含めて、ビジュアルをリアルタイムで制御しながらアーティストが編集できたのです。

簡単にキー設定できるプロパティ。



衝撃波とグリッチの効果の中心となるのは、水平方向の帯を移動させて、対象エンティティの UV を歪めることです。マスクされたマテリアルにそれを適用することで、シルエットが歪みます。また、ポストプロセス マテリアルのスクリーン スペース UV に適用することで、イメージ全体がグリッチが生じたように歪みます。ジオメトリやマテリアルのタイプによって制限を受けることなく、次のような効果を生むことができました。

ノードへのコメントとノードのグループ化は欠かせません。


最も難しかったのは浴室のシーンでした。スクリーンでは、私たちが作成した短い動画ファイルが (一度に複数) 再生されています。しかし、その動画のデコーダーと Unreal のデコーダーが一致していなかったので、フレームレートを適切な値に合わせるのが難しくなり、手作業による多くの調整が必要になりました。最終的には、ビデオを (Unreal が管理する) 一連の画像に変換することで、時間を合わせることができました。
お読みいただきありがとうございました。みなさんが FRAGMENT からインスピレーションを得て、UE4 で独自のプロジェクトを作成されることを期待しています。FRAGMENT は Vimeo でご覧いただけます。詳しくは、Adrien Brunella の Artstation をご覧ください。
リアルタイム レンダリングの基礎かブループリントの基本的な概念について学習したいとお考えの方は、Epic Games によるオンデマンドの Unreal Engine オンライン学習ビデオ チュートリアルを無料でご覧ください。
チーム

制作総指揮:Sebastien Primeau
Sandy Chow (環境のモデリング、テクスチャリング)
Pierre-Alexandre Côté (ライティング、環境のモデリング、テクスチャリング)
Adrien Paguet-Brunella (撮影監督、レベル アート、環境のモデリング)
Pierre-Alexandre Pascale (テクニカル アーティスト、FX、シェーダー、アニメーション)
Stéphan Provost (音響効果、音楽)
Alexandre Turcotte Gervais (コンセプト アート、環境のモデリング、テクスチャリング)
Isabelle Verdon (キャラクターのモデリング、テクスチャリング、アニメーション)
協力
Louis-Alex Boismenu (ドローンのデザイン)
Jimmy Di Nezza (生物のアニメーション)
Charles-Etienne Gouin (男とドローンのアニメーション)
Pierre-Luc Jacques (FX、パーティクル)
Josianne St-Pierre (FX、パーティクル)
David Gagne (Houdini)