2018年2月5日

AR 神様シミュレーション ゲーム、ARrived の開発ストーリー

作成 Oleg Chumakov

編集注記: App Store の Best of 2017 に選ばれた ARrived を開発した Luden.io のチームのメンバーがその開発について語ってくださいました。ありがとうございます。アンリアル エンジンを使った AR 体験に関する詳しい情報については、 ここをご覧ください。

サンフランシスコの 9 月のある日の午前 6 時、それは iOS 11 のローンチに間に合う最後のチャンスでした。期限に間に合わせなければなりません。チーム全体が地球の裏側で眠っていて、"Build Failed" のメッセージが私の目の前の画面に表示されていました。どうしてこのような状況になったのでしょう。これからお話します。
 

計画に従う

AI と描画の識別について色々試していて、VR で神様のシミュレーション ゲームを作ることに決めました。Luden.io のメンバーはみんな Black & White が大のお気に入りで、 自分たちの手で VR 内で描画するのを楽しんでいました。それで地球上の小さな人間をコントロールしたら面白いかもと思いついたんです。空に雨の記号を描画して雨が降り出したら楽しいと思いませんか?
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説明している時間はない

今回の開発を語るうえで話しておかなければなりませんが、実は我々は VR 分野で長いこと仕事をしてきました。しかし、AR の方が面白いんではないかということで全員の考えが一致したのです。Apple は、6 月の WWDC で 2017 年秋に ARKit をリリースすることを発表しました。私たちはわずか 5 分でこの流れに乗ることに決めました。その 5 分間に何をしていたかですって? アンリアル エンジンが  ARKit をサポートするかを調べていました。

制約

VR から AR への切替で、既に多くの時間がかかっていて、ローンチまで 2 か月しかなかったため、ゲームのジャンルは変えないことにしました。ニューラル ネットワークなどの一部の開発は方向性を変えても役立ちましたが、詳細は後で話します。自分たちの条件と能力を考えて、アップデートされたシーケンサーに賭けることにしました。プレイヤーの部屋に住む部族についてインタラクティブな物語を毎週作ることを目指しました。部族がプレイヤーの方を見て、カメラに反応するようにしたいと思いました。
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リスクも沢山ありました。  AR でどんな感じが良いのかまだルールがわかりませんでしたし、 携帯電話のバッテリーを考えると AR ゲームのセッションが 5 分から10 分を超えると難しいのではと考えました。最初は、広大な地形を見せればいいのではと考えましたが、すぐに AR の画面では現実世界をできるだけ少なく見せる必要があることに気づきました。そこでお気に入りの効果的な方法に頼ることにしました。アンリアル エンジンのマーケットプレイス にある予め作られているアセットを使ってシーン全体を作成したのです。このやり方を強くお勧めします。まず全体の画像を即座に見てから、細部の作業ができるからです。
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チームにはプログラマー以外に、ブループリントで作業する 3D アーティストが 2 名とゲーム デザイナーが 1 名います。こうしたチーム構成から、シナリオとシナリオ間のロジックの遷移を整理して組み立てるシステムを作り、 3 名のチームのメンバーが並行作業し、できるだけ単純に共通システムにシーンを埋め込めるようにしました。3 週間後にベースとなるスクリプトが実装されました。プレイテストを実施し、自分たちのアイデア、新しい魅力的な技術について沢山のレビューに耳を傾け、一般的なフィードバックを集めることにしました。
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ゲームと現実

3 人目のプレイヤーがゲームを試遊しているとき、問題があることに気づきました。プレイヤー全員がゲームの中のかわいそうな人間を 1 秒に 5 回ほどつついていたのです。ゲーム内の小さな少年にリアクションさせて、通常のモバイル操作でズームインできるようにしたかったのです。我々の素晴らしいスクリプトやストーリーの遷移には特に誰も興味がないようでした。これには衝撃を受けました。あと 1 か月しか時間がなかったからです。
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私たちにできることはありませんでした。そのため、当時人気を集めていたPocket God にインスパイアされて、ゲームをインタラクティブなサンドボックスに作り直し始めました。デバイスのライトの推定を利用して、現実世界のライティングを使ってゲーム内で起こったことに影響を与えることができたのは良かったと思います。部屋が暗くなると、部族を眠らせてシーンに蛍を放ちました。これを Twitter に投稿したところ、みんな AR とこの現実世界の組み合わせを気に入ってくれたのです。

ゲームのシステムをかなり遅い段階で考え直すことで、多くのデザイン上の課題が新たに生じました。我々はアニメーション、シーン、遷移など過去 1 か月にゲームで作ったものを何でも維持しようと試みました。こうした様々なものを受け入れるために、ゲームの重要な瞬間に選択ボタンを追加しました。残りの操作は、小さな人々を押すだけです。
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さらなる技術

このゲームは人々を魅了するあっと驚かせる要素にも欠けていました。問題の対処方法はわかっていましたが、スケジュールが厳しかったため躊躇していました。何とか勇気を振り絞って、リスクを取ってゲーム内で現実世界の物体を認識する機能を追加しました。仮想の部族が現実世界の犬に反応したらどんなに楽しいか想像してみてください。彼らが食べたがればバナナを見せてゲーム内で仮想のバナナを受け取ります。 Apple CoreML システムをアンリアル エンジンで自分たちで作ったプラグインを使ってゲームに実装しました。
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Gamescom

Gamescom 2017 に向かう飛行機に搭乗する前に、できるだけ迅速にプレイテストをしました。プレイテストはうまくいき、ゲームに磨きをかける作業を始められるようになりました。物体認識によるあっと驚かせる効果も、とてもうまく機能しました。プレイヤーにとって本当に初めての体験だったのです。ゲームがクラッシュしないように祈りながら報道関係者に披露しました。何もかもうまくいったのは非常にラッキーでした。 VRFocus の仲間達は、ゲームは既に安定していると考えていましたが、自分たちはそれが実際とはかけ離れていることがわかっていました。

Gamescom では報道関係者と会う以外に、アンリアル エンジン チームのメンバーと話すという重要なタスクがありました。iOS 11 のローンチを目前に控えて、Apple はフォーマットを少し変えたのです。自分たちのデバイスでゲームをテストできましたが、Apple のレビュー プロセスを開始するために必要な TestFlight にロードできませんでした。アンリアル エンジン チームと話をし、フォローアップしてもらった後、この問題は解決しました。

PAX

ゲームは日に日に良くなっていきましたし、PAX でデモした時にはさほど手が震えなくなりました。iPhone で写真をズームするのと同じ方法でゲームの物体のサイズを変更するオプションも追加しました。人々がこの機能に気づいて、PAX Seattle 2017 の会場であるWashington State Convention Center の高さまでゲームの中の小さな人々を大きくしたのはとても面白かったです。
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PAX の一週間後に、iOS 11 のローンチ日が発表されました。我々にとってはゲームを 9 月 15 日までにサブミットしなければらないことを意味します。期限に間に合うかみんな心配になって、インターフェースをレビューし、右上隅にクエストの形式でゲームの展開についてのヒントも作りました。これでプレイヤーは自分のやりたい馬鹿げたなことをしたり、「雷を落として木を倒す」といった面白いクエストを行うこともできます。

さらに、部屋によって照明も違うことがわかったので、プレイヤー向けにクオリティ トラッキング インジケータを追加して、トラッキングの改善について推奨することが重要でした。そうしないと、プレイヤーはゲームにバグがあると感じてしまいます。こうしたことが 3D シーン全体が想定したように動かない原因です。

ローンチ

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ローンチ日には何もかもうまくいったと思いました。 自分はサンフランシスコにいてモスクワとキプロスのメンバーがビルドを作りました。 彼らはここ 3 か月の作業の進行でとても疲れていたので、最終ビルドを集めて眠りについていました。私は日の出を見て、ビルドを iTunes にロードしましたが、ただちに拒絶されてしまいました。

複雑な問題が発生して解決方法が不明なときにそれを解くんだという意思を示す特別な表現がロシア語にはありますが、それを自分に言い聞かせました。そうして、キャッシュをクリアし、エディタを再ビルドすることで、必要なビルドを 3時間で作ることができました。iTunes Connect で承認されたのです。期限までわずか数時間残して間に合いました。

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iOS 11 のローンチ後、自分たちのゲームが Apple の App Store のメイン ページにありました。これには大興奮でした。その後、2017 年末に Apple から賞を授与されるなど新たな喜びが続きましたがこの話はまたの機会にします。

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結論

これまで話してきた内容の結論は何でしょう?

  • AR トラッキングのクオリティを表示して、AR でトラッキングを改善する方法をプレイヤーに説明することは快適にプレイしてもらううえで非常に重要でした。
  • ほとんどのプレイヤーは AR オブジェクトはインタラクティブであることを期待します。
  • AR のゲーム セッションは約 5 分から 10 分程度と短い方が良いでしょう。長時間デバイスを持ち続けることはあまり快適ではなく、セッションが長くなるとバッテリーももたなくなります。
  • 壮大なシーンを作るよりは、仮想オブジェクトまたは現実の物体のインタラクションをベースにゲームを作るとよいでしょう。
  • オブジェクト認識、ライトの推定などの新技術はプレイヤーを惹きつけます。彼らは何でも面白いものや技術的なものが好きなのです。
  • 新技術を試すときは注意してください。我々のカスタム認識システムは報道関係者の猫を犬と認識し、その結果平均的な評価になりました。
  • マーケットプレイスでは、プロジェクトのプロトタイプを非常に迅速に作ることができます。是非、使ってください。
  • プレイテストを実施してください。早ければ早い方がいいです。プレイヤーは我々、デベロッパーが感じるのとは別の感じ方でゲームを受け止めます。
  • エンジンのチームとコミュニケーションを取ってください。彼らはできるだけ手を差し伸べたいと考えています。
  • 自分たちが大好きなゲームを作ってください。そうしないと、ローンチを目指す過程でトラブルが発生した場合にあきらめる理由になってしまいます。
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