はじめに
こんにちは! 私は Tobias Koepp です。背景アーティストであり、最近オランダの NHTV University of Applied Sciences Breda を卒業しました。International Game Architecture and Design 学部での 4 年間の在学中にワールド作成を専攻しました。卒業プロジェクトでは、広大なオープン環境を制作する場合のアンリアル エンジン 4 (UE4) の可能性を模索したいと考えました。
以下の記事では、私のワークフローの内容、このプロジェクトでの UE4 の利用、『Riverfall』 と名付けた最終製品ができるまでの経緯について説明します。プロジェクト全体の完成までに約 8 か月を費やしました。すべてのモデル、テクスチャ、ワールドの作成はすべて私一人で行いました。教授と指導教官の Neville Marcinkowski 氏が、プロジェクトが正しい方向に進み、スケジュールに沿って実現できるように週一回フィードバックを与えてくださいました。
インスピレーション
このプロジェクトではモデルとテクスチャの制作で新しい技術で自分のスキルを高めながら、ハンド ペイントしたテクスチャを使って、スタイライズされた背景を作成する方法を試しながら学習したいと考えました。最近のゲームの多くはできる限りリアルに見えるようにしていますが、プレイヤーを魅了するためにいまだにカートゥーン的な外観を使用しているゲームも多数あります。私は Blizzard スタイルの大ファンで、今回の背景のインスピレーションを得ました。彼らの作品や他の作品を詳細に検討し、自分のモデルやテクスチャの作成のガイドラインを設定しました。例えば、ポリゴン数を低く抑えて、テクスチャのディテールをペイントしながら、プロポーションを引き伸ばし、シルエットを強調することにしました。
ブロックアウト
このプロジェクトに着手した 2014 年の早期に、UDK でスタイライズした背景を制作することに決めました。当時、UE4 は今ほどオープンで自由に使えるものでありませんでした。私は古いエディタでの作業に満足していました。以前、他のワールド作成プロジェクトで使用したことがあったからです。ハンド ペイントした背景を作ろうとしていたため、リアルな物理ベースのレンダリング エンジンはこのプロジェクトにはまだ必要ないと感じていました。
プロジェクトを 2 つの主要部分に分けて、まず背景のブロックアウトから始めました。Maya を使ってモデルを制作し、構成要素を作成するときに既にモジュール式アプローチを念頭に置いていました。これは後で役立ちます。シーン全体が以前手がけたものよりもかなり大きくなり、どの箇所でも時間を短縮できれば非常に効果的です。
どんなシーンを作りたいか大まかなアイデアはありました。リアルな中世の背景を作ることに決めて、それが街の最初のレイアウトになりました。
エンジン内で可能な限り早い段階で背景をブロックアウトして最初からスケール感を適切に捉えることが重要でした。背景を説得力あるものにするためにさらに必要な構成要素を判断するためです。自分だけで作業していたため、モデリング、コンセプティング、ワールド制作との間で時間をうまくやりくりしてプロジェクトを進めなければなりませんでした。ある意味、やりたいことに対する自由度は高かったのですが、一方でクリエイティブなアイデアが必要な場合に途方にくれるときもありました。幸い、友人たちや先生たちが、レベル デザインの観点から、背景に対してバーティカルなアプローチをとったほうがプレイヤーから見て面白さが増すと指摘してくれました。
数日以内に、かなり大ざっぱですが、バーティカルなデザインの背景を作りました。このために、Maya で作成し、BSP (バイナリ空間分割) で結合した非常にシンプルなモデルと UDK ライブラリにあった一部のデフォルト オブジェクトを使って、背景がどんなものになるかとりあえず作業しました。
スケールを調整し、若干のクリーンアップを行うと、プレイヤーが絶えず山を登りながら探検できる十分に面白い様々な場所のブロックアウトができました。この基礎的なものを必要に応じて拡張し、アートを加えていくレベル デザインのベンチマークとして使用しました。
背景を通してコミュニケーションする
このプロジェクトはそれ自体ゲームに入れるつもりはありませんでしたが、プレイヤーに探検することを意図した背景であることを伝えたいと考えました。背景アーティストとして美しいシーンを作るだけでなく、常にワールドにストーリーを語らせて、視覚的手がかりを与えることでプレイヤーを導くことが重要です。このレベルで利用できるゲームプレイ、カットシーン、ダイアログはありません。そのため、背景とレベルのアーティストとしてのスキルに頼ることだけが、プレイヤーを意図した場所に行かせる唯一の手段です。このようなことをプロジェクトのブロックアウトのフェーズ中に行うようにしました
最初にプレイヤーが見るのは、どっしりとした橋で 2 つの土地をつなげています。これがゴールです。この橋に到達する道はひとつしかなく、それは山を登ることです。この橋の先にあるものがあなたにとって良いものなのか、悪いものなのかはわかりません。ただし、そこに到達すると報いがあることはわかっています。プレイヤーとして旅の途中で橋のもう一方の側について、もっと色々なことに気付くかもしれません。こうした発見は、プレイヤーの探検意欲を高めます。
橋や他のランドマーク的建造物は意図的にスケールアップされています。プレイヤーにワールド内のどこにいるかを伝え、レベル デザインが広いエリアになったり、他のルートがある場合にプレイヤーが自分の位置を確認できるようにします。大きな橋のような建造物の存在によって、ゴールである橋に向かう唯一の方法は山を登ることだけだということを思い出させ、探検後に元の道にプレイヤーが戻れるように支援します。背景内でこうしたことが繰り返し行われると、プレイヤーに説明することなく道をみつける方法を無意識に教えることになります。クリエイターとしてこうしたものを利用して、ワールドで迷子になるという恐れをプレイヤーに抱かせることなく、より複雑な背景にすることができます。
上の例では周囲の背景が一段と複雑になって、交差する道や他の迂回経路が増えても、視線の先に大きな建造物があることで、プレイヤーに目的地を改めて認識させます。こうしたルールに従い、ライティング、シルエット、およびその他のアート理論の実践の効果を理解することで、プレイヤーを探検家気分にさせ、賢くなったように感じさせます。適切に行えば、プレイヤーはオープン環境を移動する際に地図や他の支援技術さえ不要になります。
UE4 への移行
プロジェクトの規模が大きかったために、在学中に 2 つの主要部分に分ける必要がありました。アサインメントの前半部分の最後では、エンジン内でワールド全体をブロックアウトする必要があり、ほとんどのモデルを配置し、背景の全般的な雰囲気を作りました。これが終わると、他のコースやインターンシップがあって、プロジェクトから半年以上離れざるを得ませんでした。背景の規模によって、一定の取り組みが必要になりましたが、自由になる時間には限りがあり対処できません。ですから、しばらくそのままにして新鮮な気持ちで、業界で経験を積んでから戻って、それをプロジェクトの最終的な仕上げに適用しました。
戻ってから多くの出来事がありました。2015 年 3 月の GDC で UE4 無料化の発表があり、誰でも使いやすくなりました。同時に、多くのアーティストや友人が新しいアンリアル エンジンに切り替えるのを見てきました。自分にとっても利用可能な最新ツールを使用するのは良い学習機会になると考えました。アーティストとして新しいことを学ぶのを決してやめるべきではありません。完成は半年先を予定していたので UDK に固執すると背景が時代遅れのものになるかもしれません。
当時 UE4 はリアリスティック レンダリングに関しては頼りになるエンジンであることが示されていました。新たに導入された PBR のワークフローに関しては、スタイリスティックな背景を視覚化する手段として使用できるか少し心配がありました。結局、こうしたツールはビジョンの実現を妨げるものではなく、初めから頭の中で描いた作品を実現するために UE4 を使うことにしました。アーティストとして与えられたツールを一生懸命使って、うまく機能する方法やソリューションを見つけるのが私の仕事です。ですからより良い作品を作るために、この移行をすぐに決めました。
ブランク スレート
UE4 を使ったことはなく、単に古い UDK ファイルを新しいエンジンにインポートするだけではないことはすぐにわかりましたが、自分としては移行することに決めていたので、古い開発キットを使うよりも、この作業によってより良い作品ができると信じてワールド全体を再度作り直すことにしました。
幸運なことに、古いツールセットでの体験と知識を新しいエンジンにうまく移行することができました。改善されたアセット ライブラリは簡単に使用できるものであり、エディタ内のナビゲーションも 3D プログラムで作業したことがある方にとっては非常に使いやすいものです。UE4 でも、.fbx ファイルを利用可能であり、ライトマップ UV やコリジョン モデルなどこれまで使っていたアセットをすべて自分のカスタム ライブラリにインポートすることができました。UE4 ではモデル、テクスチャ、マテリアルを保存したり見つけるのが非常に簡単です。知らないうちに再度ワールドを作り始める用意が整っていました。
プロジェクトの前半ですべての準備作業を行うことは価値があります。再度背景を作り直さなければなりませんでしたが、既に UDK 内にベンチマークとして使うことができるかなり良いレイアウトがあっただけでなく、いずれにせよ再ビルドしなければならないので問題のある領域があれば改善する自由もありました。最終的な変更で必要な調整の余地があったため最終成果物は満足のいくものになりました。半年以上にわたりペンディング状態になっていた自分の作品によって制約を受けることもありませんでした。
モジュール方式を採用
プロジェクトのかなり早い段階でどのようなモジュールを使うか、どの程度使うかを定めていました。このような大きな背景の作業を一人で行うため、構成要素について賢明な選択をする必要がありました。そうでなければこの規模のシーンを決して終わらせることはできなかったでしょう。
こうした制約を踏まえて、構成要素の量とサイズについていくつかの選択をしました。多様な家々が立ち並ぶ村全体を作ることは決まっていました。個々の板や壁から家を作る代わりに、いくつかの大きな主要部分を作り、それを何種類かの方法でつなげて隣同士で外観が似過ぎないように様々な形の家を作りました。建物の大きな構成要素を配置したら、窓や煙突といった小さな構成要素で装飾してさらに個性を持たせて、すべての家々が違うという錯覚をプレイヤーに与えます。
相互に関連性がある背景部分にも同じアプローチをします。ただし植生や岩は繰り返しに対する許容度が高いものです。ソリッドな建造物の要素に比べて回転したり、スケーリングしたりをはるかにランダムに行うことができるからです。信憑性のある生き生きとした背景にするために石、木々、植物の小さなライブラリを作ればいいだけです。
モジュール アセットを使って短縮した時間を他で活用し、必要な場所で固有の構成要素を作成可能です。もちろん、チームやプロジェクトの規模に応じて、どの程度モジュールにするか、個別にするかは大幅に変わります。
マテリアル
どの程度 PBR システムを使うかテストしてみましたが、自分が選んだアート スタイルでは現実のマテリアル設定を再現するのは適切ではないという結論に至りました。すべてのテクスチャをスカルプトし、ハンド ペイントしました。このシーンはマテリアルの写真に頼りたくなかったからです。ほぼすべてのマテリアル情報は既にカラー マップに入っていたため、ディフューズと法線マップだけで構成されるほとんどのマテリアルに対して非常に単純なソリューションを選びました。
モデルにメタルや反射部分がある場合、そのエリアをマスクアウトし、すべてに一定のメタリックとラフネス値を与え、若干のスペキュラリティと反射があるようにしましたが、自分が求めるハンド ペイントスタイルを台無しにしない程度に抑えました。
もちろん、一部のモデルでは複雑度に応じて若干の注意が必要です。幸い、マテリアル ノードのエディタは非常に簡単に使用できて 「wind」 などの特殊なノードを使って波打たせたいモデルのパーツに簡単に動きを適用できます。
テレイン
テレイン作成はアンリアル エンジンのツールの中でも私にとって非常に頼りになるものでした。特に、背景を再度ブロックアウトするために、テレインをレイアウトする際に非常に高速な方法であることが実証されました。既に UDK のブロックアウトがあるため、それをリファレンスとして使用して道や山々を再作成してから木々、植物、石に適用する植生ツールを使用しました。これは非常に高速でインタラクティブなプロセスです。テレインに変更を加えたら植生ツールで配置されたモデルは自動的に再配置されます。こうしてプロジェクトに後から変更を加えてもはるかに影響が少なく、ディテールに気を配る必要なく全体的な観点から考えることができます。
作成したテレインのテクスチャに対して、ランドスケープのマテリアルを作成し、そのマテリアルをグラウンドにペイントすることができました。この方法で、崖、小道、草で覆われたエリアを作成し、プレイヤーが周囲の環境をとらえやすくし、正しい道をたどれるようにしました。マテリアルは非常に単純なセットアップにし、今回は法線マップをやめることにしました。グラウンドにかなりのノイズが加わり背景の他の部分から注意をそらしてしまうからです。追加したシーンのエリアに応じて約 3 種類から 5 種類のテクスチャを様々なランドスケープ マテリアルに追加し、エディタ内のテレインにペイントを開始しました。
まとめ
私にとって UE4 への移行は素晴らしい学習体験になり、次世代のコンテンツ制作に移行する際に恐れることは何もないということを学びました。たった一人のアーティストでもプロジェクト全体を作成可能であり、エンジンは安定性があり、非常に応答性が高く、ワールド作成と制作ワークフローの多くの部分をスピードアップしました。これにより、かなり大きなオープン ワールドを多くの問題を生じることなく作成できました。ビジュアル面での成果に満足しています。エンジンの多くの知識を習得したので、さらに学んでそれを将来拡張していくことができます。もちろん、まだまだ学ぶべきことが沢山あります。
この記事が背景アーティストであり、学生としてアンリアル エンジンに関わった私の体験とプロセスを知っていただくきっかけになればと思います。
制作を楽しみましょう!
Tobias