2019年4月30日
Tyréns が UE4 で都市計画のビジュアライゼーションを作成して町の引っ越しを支援
北極圏であるスウェーデンのラップランド地方にある町、イェリヴァレ市の住民たちはまさにそのような事態に直面しています。イェリヴァレ市にあるマルムベリエト鉱山では鉄鉱石が採掘されていて、その規模の拡大に応じて都市の移転プロジェクトが必要となっています。そのプロジェクトは 10 億アメリカ ドル以上の費用を要し、期間は 20 年ほどにわたると見積もられています。再開発の対象には、約 2,000 軒の住宅、歴史的建造物、オフィス、産業施設が含まれます。高齢者専用住宅、高校、屋内プールなどの公共の施設は、解体されて移設されます。
移転されるイェリヴァレ市の一部。
影響を受ける人にとっては、このような知らせはたいへん困惑しかねないものです。そこで、スウェーデンでトップレベルのコミュニティ開発コンサルタント会社である Tyréns が招かれ、再開発の計画立案を支援することになりました。計画について人々にわかりやすく伝え、そのフィードバックを募ることが求められていました。
1947 年に創業した Tyréns は、都市開発とインフラストラクチャの分野でサステナブルな解決策を生み出すことに取り組んでいます。Tyréns では、その業界では視覚を通じたコミュニケーションが極めて重要であることを痛感していて、長年にわたって、静的なレンダリングとアニメーションを 3ds Max などのアプリケーションで作成し、コミュニケーションに活用しています。
リアルタイム ビジュアライゼーション プラットフォームの作成
2013 年までに、リアルタイム レンダリングの発展を受けて、Tyréns はインタラクティブなビジュアライゼーションの作成を推し進めました。その動機となったのは、時間を節約し、クライアントが希望するビューをすばやく提供したいということでした。当時利用できたすべての主要なプラットフォームを調査した結果、Unreal Engine 3 を選択し、カスタマイズして独自のプラットフォーム TyrEngine を作り出しました。「Unreal はプラットフォームとして卓越していて、進歩の道筋がはっきりとしていました」と Tyréns のビジュアライゼーション エキスパートである Jonas Gry Fjellström 氏は述べています。Gry Fjellström 氏は、前職のビデオ ゲーム業界で培ったリアルタイム 3D の専門知識を買われて Tyréns にやってきました。
イェリヴァレ市の上空に見られる真夜中の太陽。
イェリヴァレ市の再開発は、TyrEngine が初めて使われるプロジェクトとなりました。Tyréns はホワイトボックスの 4D モデルを作成し、既存の建物の解体から、新しい建造物、特定の建物の物理的な移転まで、数年間にわたる変化を示しました。そのビジュアライゼーションは、行政組織の内部で議論の土台として使用されています。 プロジェクトの完了までに町の中心が生まれ変わり、最新の教育センター、スポーツと文化活動のためのホール、アイス アリーナ兼イベント アリーナ、地下駐車場の上にある緑豊かな広場が作られます。Tyréns はそのすべてを一瞬で見せるために、72 平方キロメートルを超える範囲を対象に、完全にテクスチャを適用して具体的に作られた、最終的な町のモデルを作成しました。人々はそのモデルを操作して、フィードバックを寄せることができます。この視覚的なコミュニケーションは効果的で、建設的な対話と幅広い受容につながり、積極性をもたらすことさえできました。 イェリヴァレ市の再開発プロジェクトはまだ進行中ですが、TyrEngine は Unreal Engine に合わせて進化しています。Unreal Engine 4 でブループリントによるビジュアル スクリプティングが導入されたことを受け、TyrEngine はより強力なプラットフォームになりました。「私たちのような小さなチームでも、インタラクションと機能を簡単に作成できるようになり、それを使ってプレゼンテーションを改善できるようになりました」と Gry Fjellström 氏は述べています。
2023 年のプロジェクト完了時には、イェリヴァレ市の中心部はこのようになる予定。
これまで、Tyréns のチームでは、TyrEngine を使って 50 以上のプロジェクトに従事してきました。屋内の小さなビジュアライゼーションから都市開発やインフラストラクチャ開発の大規模なビジュアライゼーションまであり、なかには 120 km の鉄道の線路を含むプロジェクトもありました。
大規模インフラストラクチャ向けのサステナブルな開発
現在進行中の大規模プロジェクトの 1 つは、Trafikverket (スウェーデンの運輸当局) のための 20 km におよぶ新しい道路、トンネル、建物の計画です。イェリヴァレ市のプロジェクトと同様に、リアルタイム モデルは、建設と計画の調整用プラットフォームとなると同時に、人々とのコミュニケーション用の参照モデルとしても機能しています。20 km におよぶ道路建設プロジェクト、The Södertörn Crosslink に 10 か所ある大きなジャンクションの 1 つ
影響があるエリア全体を正確にモデリングするには多くのデータが必要であり、そのことが問題となりました。風景と地形のために航空写真のオルソ画像、既存の建物のために幾何情報、さらに環境のその他の詳細情報が必要です。広大なエリアでそのような情報を集めていくと、シーンはすぐに巨大なものになってしまいます。
スウェーデン南部の鉄道プロジェクト。
Gry Fjellström 氏は次のように述べています。「現実に近付いていくほどに粗が目立つようになります。ですから、『十分に間に合う』レベルの詳細度を見つけることが重要なのです」「営業資料を作っているわけではないので、見た目を良くすることよりも正確であることを追求しています」
現実に見えるデータに加えて、GIS データからの情報も含めています。たとえば、歴史的に重要なエリア、防水エリア、自然保護区などの情報です。計画立案者は、この情報を使って道路の通り道を決めることで、損傷を受けやすいエリアへの影響を最小限に抑えることができます。
また、光と影について検討するために、特定の日時、緯度経度に応じて太陽の位置を正確に設定する UI を追加しました。同様の機能が後に Epic から Unreal Engine 4.21 でリリースされました。
鉄道路線プロジェクトでの跨線橋における太陽と影の検討。
Tyréns が提供する機能はほかにもあります。インタラクティブな計測ツール、BIM アプリケーションから取得する部品名などのメタデータの表示機能、各種タグによるデータ表示の切り替え、トンネルなど地下の特徴を表示できる X-Ray モードでのモデルの表示などの機能を提供しています。
地下にあるオブジェクトの可視化の例。
用途に合わせて拡張できるということが、Tyréns にとって Unreal Engine を魅力的なものとする一因となっています。「C++ のレイヤーがあり、独自のツールやアルゴリズムを追加できるということを気に入っています」と Gry Fjellström 氏は述べています。
予定されている道路の構造を Civil3D で作成し、3ds Max でクリーンアップしてから既存の環境のモデルに組み込むことで、提案する開発のインタラクティブなビジュアライゼーションを正確なものにすることができました。そのプロジェクトは、クライアント、計画立案者、市民に広く歓迎されるものになっています。
Gry Fjellström 氏は次のように述べています。「リアルタイムのモデルは静的な画像やブループリントよりもずっと理解しやすく柔軟であるということに、見た人は常に驚いています。でき上がったものを見せると、保有する専門知識のレベルが異なる人たちや、異なる分野の知識を持つ人たちの間でコミュニケーションできることの威力を理解してもらえます。リアルタイムのモデルがあれば直ちに解決できる疑問でも、その多くは、リアルタイムのモデルがなければ日を改めて確認する必要が生じるでしょう」
エクスペリエンスの Pixel Streaming による共有
Tyréns は、開発についてキオスク PC で関係者に示すだけでなく、Pixel Streaming を使って、iPad やスマートフォンなどの軽量デバイスを使用するリモートの視聴者ともコミュニケーションしています。The Södertörn Crosslink の Pixel Streaming。
Unreal Engine 4.21 で導入された Pixel Streaming を利用すると、ワークステーション品質のコンテンツをほぼすべてのプラットフォームのほぼすべての Web ブラウザにストリーミングできます。ビューアは何かをダウンロードしたりインストールしたりする必要はありません。ただリンクにアクセスするだけでよく、YouTube でビデオを観るのと同じような感覚です。動画の視聴との違いは、ビューアがコンテンツとインタラクションできるところです。エンジンにレスポンスを送り返すこともできます。 Gry Fjellström 氏は次のように述べています。「Pixel Streaming のおかげで、コラボレーション、パブリック コミュニケーション、事業の紹介のための優れたインターフェイスを手に入れることができました。Pixel Streaming は強力なツールであり、特に離れたところにいる人に物事を説明するときに便利です。ビデオよりも使いやすく、短時間で済みます。ビューアには 30 フレーム毎秒で表示され、インタラクションも可能です。TyrEngine でやりたいことをすべてを拡張してくれます」
リアルタイム テクノロジーの前途
Gry Fjellström 氏は、リアルタイム テクノロジーに黎明期から関わり続けています。2013 年に Tyréns で働き始めるまでに 15 年以上ゲーム業界で仕事をしていて、その大半で Unreal のテクノロジーを使用していました。「初めて Unreal に触れたのは Unreal Tournament がリリースされたときです。UnrealEd に出会い、レベルをデザインしたり、インタラクティブな 3D アートを作成したりできるようになりました」と Gry Fjellström 氏は述べています。それ以来、Gry Fjellström 氏は世界中のさまざまなスタジオに勤務してプロフェッショナルとしてゲーム業界で働いてきました。その経歴のなかで、Ubisoft Montreal でのレインボーシックス シリーズやスプリンターセル シリーズなど、大規模な Unreal プロジェクトにも参加しました。では、Gry Fjellström 氏は、将来リアルタイム テクノロジーはどのように使われると考えていて、どのようなことに期待しているのでしょうか?
「外部のデータをますます使うようになり、リアルタイム モデルに機能を追加するようになっていくでしょう」と Gry Fjellström 氏は述べています。さらに、Tyréns では、「リビング 3D マネジメント システム」と呼ぶものの一環として、Unreal Engine 内で建物のデジタル ツインを作成することに取り組んでいるとも説明してくれました。
Tyréns は、地元の大学と協力して、革新的な歯科医院の完全なデジタル ツインの作成に取り組んでいます。新しい進化するテクノロジーのプロトタイプ作成を目指すもので、仮想的な受付係が存在しています。Unreal Engine のマルチユーザー コラボレーション機能とアバターを利用することで、物理的にそこにはいない人たちに医院を紹介することができます。
スウェーデンの革新的な歯科医院のデジタル ツイン。
別の実験では、Tyréns のオフィスにあるデスクの下にセンサーを取り付けて、どの席に人がいるかを判定し、デジタル ツインのモデル内で椅子のモーションをトリガーしています。人の動きを新しいレベルで理解し、建物内での時間の経過に伴う人の動きを可視化することが目的です。
「Unreal の内部でオフィスを移動しているときに、オフィスにある自分の椅子を動かすと、Unreal のなかでも動きがあります。見ているとなんだかおかしな感じがしますね」と Gry Fjellström 氏は述べています。
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