ただし、世界中のさまざまな地域に容易に適応できるようなキャンペーンを作り上げることは並大抵のことではありません ― 特に、コストが膨れ上がる状況を避けなければならない場合には。日産は、車種のラインナップを展示するだけではなく、最高の視覚的忠実度で車と環境を効率的に差し替える必要がありました。さまざまな地域の市場それぞれの特性に合わせることによって、最大の効果を得ることを目指していたのです。
このことを実現するために、日産は、独立系クリエイティブ コミュニティの Untold Studios に助言を求めました。Untold Studios は、テレビ放映されている従来の手法でレンダリングされた広告を配信するだけではなく、自動車と環境をフル CG で表現するリアルタイム レンダリング ワークフローを試してみる価値があるとアドバイスしました。この概念実証の演習によって、将来のキャンペーンに利用できるコンフィギュラブルな TV 広告を制作する道が開かれました。
高忠実度の広告ビジュアルとコンフィギュレーターの柔軟性を合体
このアイデント映像の内容を簡単に紹介するならば、エネルギッシュなクリケットのアクションと日産車のダイナミックな特徴を融合させたもの ― ということになります。このキャンペーンでは最終的に約 20本の映像が制作されました。Untold は、従来型の VFX パイプラインのオフライン レンダリングとリアルタイム アプローチを比較検討してみることにしました。リアルタイム レンダリング ソリューションとして Untold が Unreal Engine を使用したのはそのときが初めてでした。これらの 2 つの方法のパフォーマンスを直接比較対照したのは、将来のプロジェクトで使うことになるかもしれないリアルタイム ワークフローの有効性を検証するためでした。この実験によりわかったことは、リアルタイム ワークフローとカメラを通じて作業する従来型のアプローチとの著しい違いでした。従来の作業方式では、レンズの前にあるものしか撮影できません。「Unreal を使うと、突如としてそのようには考えなくなります」と、クリエイティブ ディレクターの Diarmid Harrison-Murray 氏は言います。「考え方が違います ― 360 度になります。」

自動車業界はかなり前から、自動車の購入者のために CG 内の自動車をカスタマイズできるようにしています。これは、オンラインでもショールームのコンフィギュレーターを使うことでも実現されています。しかしながら、それを利用している間はほぼ、CG の自動車は固定した背景に置かれたままであり、動いたりアニメーションがつけられていることはありませんでした。Untold が日産の広告で行ったリアルタイム レンダリングのテストにより、このようなことは一新されました。高い忠実度でアニメーション化された CG 車とフォトリアルな CG 背景を結合させることによって、実写映像と見分けがつかないほどのシームレスで完全に CG 化された走行映像を制作することが可能であると証明してみせたのです。

このことは、自動車業界にとって非常に大きな意味をもちます。ご覧になったように、従来の自動車広告で見られた美しい画像とライティングされた素晴らしい環境がカーコンフィギュレーターの柔軟性と結合されるのですから。これは、Harrison-Murray 氏にとっては驚くべきことでした。「Unreal を使って作業するときに私にとって本当にエキサイティングなことは、その即時性です。ディレクターとして、車を撮影しているのとほぼ変わらないのです。創造性がすべて備わっているならば、本物の映画制作に近づくほどより素晴らしいものを創造できます。CG による映画制作が本物の映画制作に近いものになるときこそが、凄いことが起きるときなのです。」
プロダクションとポスト プロダクションの境界があいまいに
リアルタイム ワークフローによって、CG による映画制作は、オンセットでの映画制作により近くなります。これは、従来の VFX ソフトウェアによって提供される環境と比べた場合、実際のオンセット環境にはるかに近い環境が提供されるためです。「リアルタイムにライトを移動したり、フラグを移動してライトをブロックしたり、セットドレッシングをいろいろと動かし、それらの影響を即座に反映させることができるのです」と、Untold で VFX スーパーバイザーを務める Tom Raynor 氏は言います。
従来のビジュアル エフェクトのパッケージと比較すると、リアルタイム テクノロジーによる VFX の制作プロセスは、指数関数的に加速されます。「Unreal でリアルタイムに達成できることと、従来の方法で 2 時間かかって達成できていたこととの違いは非常に小さかったです」と Harrison-Murray 氏は述べます。「まさに、プロダクションとポストプロダクションの境い目がぼやけてきたのです」。
Untold のチームは、Unreal Engine に同梱されているマルチトラック エディタである Sequencer を駆使して、この概念実証のためのプロジェクトに必要な多くの作業をこなしました。チームは、Sequencer を使用してシーケンスを再生し、特定のショットにジャンプすることによって、カメラを少しリフレーミングしたり、タイミングを微調整するなどの変更を行いました。
レイトレーシングによって、チームは、フォトリアルな反射や影、アンビエント オクルージョンのエフェクトを制作することができました。これらは、いずれも車の見栄えを整えるために重要な役割を果たします。「レイトレーシングを使うと、アーティストはシーンを格段に直感的なやり方でライティングできるようになります。ライトが予期したとおりに振る舞ってくれるからです」と、この映像に従事していたテクニカルアーティストの Mikko Martikainen 氏は言います。
Untold は、ローカル インフラストラクチャをもたない、完全にクラウドベースのクリエイティブ スタジオとして、Unreal Engine をクラウドで稼働させる機会を得て大いに盛り上がりました。チームは、Amazon Web Services (AWS) の新たな G4 インスタンス タイプを使用して、Tesla T4 グラフィックスカードでリアルタイム レイトレーシングのための RT コアを利用できるようにしたのです。Untold Studios でテクノロジーヘッドを務める Sam Reid 氏は「私たちの活動領域においては UE4 が大いなる可能性をもつことがわかりました」と述べています。
同スタジオの次なる一手は、Unreal Engine を異なるハードウェアで試し、複数の GPU を搭載したコンピュータを使うことによってさらに優れたレイトレーシングの仕上がりが得られるかどうかを確認するとともに、クラウドの拡張性を生かしてこの作業のパフォーマンスを上げることにあります。
Martikainen 氏は、アーティストたちが創造的なプロセスにおいてこのゲームエンジン テクノロジーから大きな力を得たことを思い出します。「すべてがリアルタイムであるということによって、これまでに見たこともないレベルの制御をアーティストは獲得しました。まるで、作業中に出来上がり映像を見ているかのようでした。異なるのは、アクションを一時停止してカメラを移動し、ライティングを好きなやり方で調整できるオプションが備わっている点です。」
さらに、これらのワークフローによってスピードと創造的な自由が得られます。それにより、時間のかかる従来型プロセスに慣れていたアーティストたちもリアルタイム テクノロジーへと改宗しつつあるのです。「これまでのオフラインのパイプラインから Unreal に一旦足を踏み入れてみると、もう戻ることは簡単ではなくなりますよ」と Martikainen 氏は言います。「考え方を少し変えて、ワークフローを若干調整する必要は確かにありますが、リアルタイムのパワーは間違いなくそうするに値します。」
コンフィギュラブルなリアルタイム TV 広告の夜明け
自動車のためのコンテンツの作成におけるリアルタイム ワークフローの可能性は無限大です。最終的な収益への効果が大きく変わる可能性があるのです。Untold でエグゼクティブ プロデューサーを務める Ian Berry 氏は、最近開催された Build: Munich ’19 for Automotive のイベント で、その意味するところを簡潔に表現しています。「もしかすると、車の撮影を複数回する必要はなくなります。さらにできることは多数あります。たとえば、エンドレスの走行映像、即座に利用できるショールームのコンテンツ、すべての画面とさまざまなメディアのタイプに合わせて作られた調整可能でパーソナライズされたコンテンツ、インタラクティブなコンテンツを簡単に作成できる方法の開発、より包括的で魅力的なクライアントのエクスペリエンスなどです。そして、これらのすべては最高度のビジュアル性能で実現できるのです。つまり、まったく完璧なイメージが出来上がることになります。」

以上のことは、自動車業界のマーケティングのわくわくするような未来の姿を暗示しています。その未来とは、高忠実度の従来型広告ビジュアルやインタラクティブなカーコンフィギュレーター、オープンで誰もが利用できる民主的なテクノロジーなどが集約されて、初めてコンフィギュラブルでフォトリアルな広告が実現できる世界です。
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