摩擦の感覚
VR のエクスペリエンスはこれまでになくイマーシブなものになりますが、パンチを打ち込んだときに相手をすり抜けてしまうのでは、それも台無しです。対戦相手が実際に目の前にいて、摩擦や抵抗を感じるわけではないため、これは解決が難しい問題です。こうした理由から、ほかの多くの VR ゲームでは、メレー (近接戦闘) を避け、銃や弓矢で戦うようにしています。

この問題を克服するため、Survios は VR 向けにメレーを大きく変える必要がありました。Survios のリード エンジニアである Eugene Elkin 氏は次のように述べています。「最初のプロトタイプでは、2 つの目標を掲げました。気持ちよくパンチを打てること、そしてパンチを受けたときに大きなインパクトを感じること。ゲームを単純なボクシング シミュレーターではなく映画のようなボクシング体験にするということはすぐに決まりました。プロトタイプ作成の期間は比較的短かったのですが、ゲームプレイのイテレーションを何度か行うことができました。この研究段階の成果として得られた技術的なルールやテクニックを、私たちは『ファントム メレー テクノロジー』と呼ぶことにしました」
Elkin 氏は、パンチが貫通する問題の解決方法を次のように詳しく説明しました。「プレイヤーのアバターは常に 2 人いて、コンテキストに応じて同期したり同期しなかったりしています。1 人のアバターはプレイヤーのキャラクターを表し、コリジョン、ヒットへの反応、ノックダウンなど、ゲーム内の物理に制約されています。もう 1 人のアバター (コード名「ファントム」) は、常にプレイヤーの本当のポジションを表します」分離という巧妙な方法により、プレイヤーは相手を貫通するような感覚を覚えることなく、パンチを打ち込むことができるようになりました。

リード デザイナーの Valerie Allen 氏は、ある SF 漫画を読んでこのシステムの開発を思い付きました。Allen 氏は次のように説明します。「漫画『銃夢』の何巻かに、少女の脳がオーバークロックするシーンがありました。このシーンでは、少女はパンチを放とうと勢いよく前に進みましたが、そのまま床に倒れてしまいました。なぜなら、脳内での行動のイメージが早く進み過ぎて、体がついていかなかったからです。これが『ファントム メレー テクノロジー』の大まかな仕組みです」
アバターは 2 人でも、戦闘がばらばらに感じることはありません。Allen 氏は次のように説明します。「何度かプレイするうちにプレイヤーは順応してきて、現実の側で無駄にパンチを打つのではなく、アバターの腕を自分の腕のように扱い、仮想的な相手のポジションに対して現実のもののように反応するようになります」
ファントム メレー テクノロジーによって、VR の重要な課題の 1 つは解決しますが、Survios はまだ、腕を常に振り回すことでゲームを攻略しようとするプレイヤーに対処する必要がありました。これは楽しくも現実的でもありませんが、効果的である場合はあります。この問題を解決するため、Survios はスタミナに制限を設けました。Allen 氏はこのデザイン理念について次のように説明します。「パンチをひたすら連打すればアバターが疲れるので、プレイヤーはアバターのスタミナが回復するまで防御に専念する必要が生じます。スタミナの調整をテストし、修正すればするほど、ゲームプレイが実際のボクシングの試合のように感じられるようになりました」プレイヤー自身の持久力が非常に高い場合は、仮想スタミナ システムについて不満に思うかもしれませんが、Allen 氏はこのことについて次のように説明します。「アバターがプレイヤーよりも早く疲れ切ってしまうかもしれませんが、顔や腹部にパンチを受けて消耗するのはプレイヤーではありません」
有意義な対戦
持久力の制限により、オンラインの PvP がより楽しくなりました。Elkin 氏は言います。「スタミナ システムは、プレイヤーがブロックや防御を行い、パンチを戦略的に賢く繰り出し、実際のボクシングの試合のようにふるまうよう促す重要なツールとなりました」Creed: Rise to Glory は初めての VR ボクシング ゲームではありませんが、VR ボクシング ゲームがオンライン プレイ機能を備えたのは初めてです。開発の初期段階では、Creed: Rise to Glory にマルチプレイヤー機能は予定されていませんでした。しかし、Survios は、この機能がなければ何かが欠けているような印象を与えるということを早くから理解していました。メレーを中心とする VR ゲームにオンライン PvP を追加して、それをイマーシブで楽しいものにするのは極めて困難です。Elkin 氏は説明します。「技や能力が事前に決められている従来の格闘ゲームとは異なり、PvP で実際のプレイヤーがどのようにふるまうのか予測するのは極めて困難です」Creed: Rise to Glory には全身のアバターが登場する点が、この問題をさらに難しくします。ネットワーク面について、マルチプレイヤー エンジニアの Eva Hopps 氏は次のように付け加えます。「対処しなければならないとわかっていた最大の課題はネットワーク遅延でした。通常の格闘ゲームのように、隠したり、補ったりといったごまかしに頼ることはできなかったため、疲れたときにファントム メレーの動きが鈍くなることを利用して、プレイヤーが遅延に気付かないようにしました」新しい革新的な VR 対戦システムを開発しながらオンライン プレイを組み込むのは簡単なことではありませんでしたが、Hopps 氏は「大部分は Unreal によってかなり負担が減った」と言っています。

ボクシングをリアルに感じられるように、Survios は開発の初期段階からプロ ボクサーに協力を依頼しました。チームは、ボクサーの助言に留意しただけでなく、ボクシングのレッスンまで受けました。「今でも、ボクシングのコーチが週に 2 回オフィスを訪れ、レッスンをしてくれています。デザイナーやエンジニアがリアルなボクシング体験を作り出すにあたり、この経験が重要な助けとなりました」と Elkin 氏は説明します。「マーケティング チームは Buzzfeed と協力して、オリンピックにも出場したボクサー、Mikaela Mayer 選手に最高の難易度設定でキャリア モードをプレイしてもらいましたが、Mayer 選手はゲームのメカニクスと実際のスポーツとの類似性に圧倒されていました」
強烈な打撃
ゲームのリアリティをさらに高め、本気で戦うプレイヤーに報いるため、Creed: Rise to Glory では、VR の加速度計とモーション センサーを利用して、プレイヤーの打撃の強度を調べています。Allen 氏は次のように述べています。「プレイヤーの手が移動した距離とスピードの両方、場合によっては角度もチェックします。パンチを打つためにはそれなりの力が必要になるように値を調整しました。ただし、常に最大限の強さと速さでパンチしなければ威力を最大にできないとプレイヤーが感じることのない程度には抑えました」その結果、Creed: Rise to Glory は、適度な運動になり、シャドー ボクシングのレベルを引き上げるものになりました。ダウンから復活するには、プレイヤーが身体的エネルギーを振り絞る必要があります。これまでのボクシング ゲームの多くでは、復活するためにボタンを連打する必要がありました。Creed: Rise to Glory のやり方は非常にユニークで、プレイヤーの裁量が増しています。Allen 氏は次のように説明します。「プレイヤーが強烈な打撃を受けると、意識が遠のき視野が狭まり、体に戻るためには肉体的な努力が必要です。このコンセプトは気に入っています」Survios の過去の VR レーシング ゲーム、Sprint Vector を参考に、プレイヤーがノックダウンされてカウントが始まったら、暗いトンネルに飛ばされ、腕を振って体に駆け戻る、という仕組みになっています。バックグラウンドでレフェリーが 10 まで数えるのが聞こえるため、強い切迫感があり、VR でしか実現できない方法で、エクスペリエンスが楽しいものになっています。

ほとんどの VR ゲームは、仮想的な手のみをレンダリングします。これは、接点が 3 点しかない場合に、ひじ、胴体、足がどこにあるのか理解するのは非常に難しい場合があるからです。この問題を解決し、プレイヤーの全身をレンダリングするため、Survios は大量のコードを記述し、リアルなインバース キネマティクス (IK) を生み出しました。Elkin 氏は次のように述べています。「体の IK システムは、ここ Survios で何度かイテレーションを行いました。最新のシステムは開発中であり、当社のほとんどのプロジェクトで共有されています。現在は、追跡されている 3 点の入力から最適なジョイント位置を決定するカスタム アニメーション ソルバーになっています。幸い、Unreal を使えば新しい IK ソルバーを簡単に作成でき、非常に助かっています」
Creed: Rise to Glory の中心的な開発チームは約 9 人のデベロッパーから構成されていたことを考えると、Survios は、多くの難しい課題を比較的少ないリソースで見事に解決してきたことがわかります。Elkin 氏は、成功の要因がメンバーの熱意であると考えています。「これ以上に意欲的なチームで仕事したことは今までありませんでした。全員が最初のプロトタイプからプロジェクトを気に入り、時間さえ許せばこのプロジェクトをもっと続けたかったと思っています。ありきたりに聞こえるかもしれませんが、目指したのは、自分たちが心からプレイしたいと思えるゲームでした」

Survios にとって Unreal Engine 4 を使用した VR ゲームはこれが 3 作目ですが、Elkin 氏は、強固な UE4 を基盤に改善に取り組んできたことが、スタジオの成功に大きく貢献していると考えています。「私たちにとっては、プロジェクト間でテクノロジーを再利用できることが極めて重要です。何年もかけて、複数のプロジェクトにわたり、UE4 でカスタム ツール セットを開発し続けた結果、新しいプロジェクトの開発サイクルを大幅にスピードアップできました。エンジンのソース コードへのアクセスと変更が可能であることも貴重です」Hopps 氏が加えます。「UE4 は、プロジェクトが商品になるまで、一貫したツール セットで支援します。プロジェクトがプロトタイプから販売可能になるまで、私たちの側で何かが大きく変化すると感じることはありません」
具体的なツールで言えば、Elkin 氏は UE4 のデバッグ ストンプ アロケーターを高く評価しています。「Unreal は、たちの悪いメモリ ストンプを追跡してパフォーマンスを分析できる、優れたツールを備えています」。マルチプレイヤー エンジニアとして、Hopps 氏は UE4 のプロファイラを評価し、「Unreal ではネットワークを驚くほど簡単に扱うことができる」点に言及しています。
戦いの継続
Creed: Rise to Glory は Survios の 4 作目の VR タイトルですが、Elkin 氏は VR ゲームが未開拓の分野だと主張します。「私たちが今、経験しているのは、80 年代のゲーム デベロッパーが調査、実験し、あらゆることを初めて試していた開拓期と似たようなものだと思っています。現在、デベロッパーは VR でできることとできないことを確信できないでいます。数十年にわたって蓄積されてきたゲーム開発の知識は、ほとんどの場合、VR 開発では役に立ちません。VR は固有種であり、私たちはまだそれを理解し始めたところです。しかし、日々何かしらの新たな発見があり、この段階で VR の開発に携わることができるのは刺激的です」

Survios は Creed: Rise to Glory の初めてのコンテンツ アップデートを発表したばかりです。11 月 27 日にリリースされる無料アップデートでは、フリー プレイと PvP の対戦相手が新たに 2 人加わります。Danny “Stuntman” Wheeler と Viktor Drago は、どちらも近日公開の映画『クリード 炎の宿敵』に登場するキャラクターです。Creed: Rise to Glory の詳細については、survios.com/creed をご覧ください。
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