VR タイトルをデザインするにあたり、Archiact は、VR というメディアの特徴がどこにあり、その強みをどのように生かせば人を魅了できるのかについて熟考しました。リード ゲーム デザイナーである Ian Rooke 氏は次のように述べています。「最大の違いは、VR では自分の体を使って物理的に動ける点です。親指の器用さだけを競うのではなく、身をかわし、身を屈め、反射神経を最大限に使います。VR でシューティング ゲームを開発するということは、こうしたゲームプレイを念頭にデザインすることを意味します。プレイヤーの動きが多いほどイマーシブになります」
VR では、イマーシブな感覚と新しいメカニクスがもたらされますが、開発のハードルは高くなると Rooke 氏は指摘します。「克服する必要がある課題がたくさんあります。プレイヤーの気分が悪くならないように、フレームレートとカメラのモーションは常に意識します。また、ゲーム内でのプレイヤーの動きを、実際の体の動きと 1 対 1 で対応させる必要もあります。プレイヤーが腕をふれば、それがゲーム内での動きと完全に一致することが期待されます」と Rooke 氏は説明します。それができていなければ、戦闘がぎこちなく感じられて、イマーシブではなくなります。Rooke 氏は次のように付け加えています。「プレイヤーが 2 台のコントローラを操っているが、ゲーム内では両手で 1 つの武器を持っているという場合は難しくなります。あるいは、メレー (近接戦闘) を行うゲームで、プレイヤーが固い物体に切りつけるとき、実際の腕の動きを止めるものはありませんが、ゲーム内では刃が当たった瞬間に何らかの抵抗があるはずです。多数のプロトタイプを作成し、試行錯誤を繰り返すことになります。この点は従来のコンソール向け開発とそれほど変わりませんが、VR ではメカニクスに満足するまでに時間がかかり、また最初からやり直すことが想定よりも多くなるかもしれません」
各所からのインスピレーション
長年愛されてきたゲームプレイと最新テクノロジーを融合した Evasion は、ギャラガやスペース インベーダーなどの古典的なアーケード ゲームからインスピレーションを得ています。「VR でプロジェクタイル (発射物) を避けたり、ブロックしたりするというコンセプトが気に入りました。連射タイプの武器によるダメージをただ受け入れるという風にはしたくありませんでした。降り注ぐレーザー光線を避けながら進むのは本当に楽しいものです。そこで、昔ながらのシューティング ゲームだけでなく、最新型の弾幕系ゲームも参考にしました。このゲームプレイは、Doom や Destiny などのゲームで採用されている、高速の激しい射撃戦闘とよくマッチします。プレイヤーを圧倒的に不利な状況に置きながら、大勢の敵と渡り合えるような強力な武器を与えるようにしました」と Rooke 氏は述べています。
プレイヤーは、エリートの優秀な兵士である 4 つの「Vanguard」クラスのいずれかとして、強力な SF 武器を使用します。Rooke 氏は次のように述べています。「ほとんどの敵は、単独では大きな脅威ではなく、プレイヤーを止めることはできません。ただし、数の暴力に訴えてきます。敵の数がとにかく多く、絶え間なく襲いかかってくるのです」
ブロックの楽しみ
Optera と呼ばれる昆虫のような敵のエイリアンのプロトタイプを作成するとき、Archiact は VR シューティング ゲーム Space Pirate Trainer を参考に、いくつかのドローンからプレイヤーに向けてプロジェクタイルを発射するようにしました。「その後、攻撃をかわすだけでなく、シールドでブロックできれば面白いのではないかと考えました」と Rooke 氏は言います。そうして追加したシールドは、ゲームの主要な防御のメカニクスの 1 つになりました。Rooke 氏は続けます。「シールドを試してみたのは自然な流れでした。避ける、屈む、防ぐ、撃つ、という一連の繰り返しは、シンプルで楽しいものでした」Rooke 氏によると、銃撃戦と武器は、ここから次のように発展したそうです。「メカニクスを仕上げていくうちに、どんどん楽しくなってきました。一時的なパワーアップとして、プレイヤーがいくつかの武器を獲得できるようにしました。すでにあったパワー コアやヘルス コアと同様に、空中にあるウェポン コアを入手できるようにしました。ウェポン コアによって強力な武器が手に入りますが、弾数に制限があります。弾がなくなると、デフォルトの武器に戻ります。武器のパワーアップには、スプレッド ショット、バースト射撃、自動連射、レーザー、チェーン ライトニング オーブ、動きの遅い核兵器が含まれました。それがデモ版になりました。デモ版ではクラスは 1 つで、武器のパワーアップは複数ありました」
クラスの活用
プロトタイプは 1 人のキャラクターから始まりましたが、アーリー ビルドをデモ版としてから、さまざまなプレイスタイルや考え方に応じた複数のクラスをテスターが求めていることがわかりました。Rooke 氏は次のように説明します。「サポートや回復役のクラスを希望する人もいれば、目の前にあるものは何でも破壊したい人もいました。そこで、それぞれの武器の特徴を出発点に 4 つのクラスを作り出しました。スプレッド ショットは Warden の主な攻撃手段になりました。核兵器の威力を弱めたものがグレネード ランチャーになりました。レーザーとデフォルトのブラスター銃は Striker のヒントに、バースト射撃は Surgeon のヒントになりました。そしてもちろん、チェーン ライトニング オーブから Engineer クラスが生まれました。各クラスは、Tether Lash メカニクスにより、それぞれ独自の方法で敵を始末します。また、それぞれに、オンラインでチームメイトを回復させるときに適用される独自のサポート バフがあります」
4 つの異なるキャラクター クラスそれぞれについて、楽しく、バランスがとれたものにする必要がありました。Rooke 氏は言います。「各クラスの DPS (1 秒あたりのダメージ) 出力に注意が必要です。また、各クラスはそれぞれシールドの大きさと体力値が異なります。Warden は最も体力値が高く、シールドも最大です。近距離では大きなダメージを与えることができますが、長距離では戦いにくくなります。Striker は射撃が速く正確で、ほかのクラスよりも掃射の性能に優れていますが、シールドと体力値は最小です」
プレイヤーは、選択するクラスにかかわらず、複数のミッションでたくさんの敵と対決することになります。Archiact は、VR がプレイヤーの動きを仲介できるという点を、ゲームプレイと挑戦の中心に据えました。「成功するには、サバイバル ゲームと同じように懸命に戦う必要があります。移動と回避の方法を覚え、向かってくるすべてのプロジェクタイルに気を配ることに慣れたら、コツをつかんできた証拠です」と Rooke 氏は述べてから、さらに加えます。「ミッション 1 は、面白く、しかし難し過ぎないようにしました。プレイヤーは時間をかけて、武器を使いこなし、チャージ ショットや Tether Lash メカニクスを利用して敵を始末することに慣れていくことができます。敵を倒し、パワー コアを集めて武器をレベルアップさせるというループを身に付けることが鍵です。ミッション 2 になると、アクションがもっと激しくなります。このミッションは、トレーニング期間の終わりと考えることができます。このミッションを切り抜ければ、残りのキャンペーンに挑む準備が整っています。その後のミッションでは、敵も『エリート』が登場し、倒すのが次第に難しくなっていきます。そこに、さらに厳しいボス戦が挟み込まれます。難易度は (リリース時には) 1 つだけであるため、最初の数ミッションで上達することが鍵となります。コツをつかむまで何度か繰り返すことができます。それは予想されていることでもあります」
ゲーム内で環境を破壊できるということが、ミッションをよりイマーシブなものにしています。Archiact は、UE4 と連携する Apex 破壊システムを利用して、これを実現しました。Archiact のソフトウェア エンジニアである Thomas Edmunds 氏がこのアプローチのメリットを挙げています。「このシステムによって、破壊できるものの見た目を大幅にカスタマイズできただけでなく、各プラットフォームと LOD (詳細度) に合わせて最適化できました」Edmunds 氏はさらに加えます。「これは重要な点でした。破壊可能な物体のなかには、描画の負荷が高いものもありましたが、パフォーマンスのために『クール』な要素を犠牲にしたくなかったからです」
最高のパフォーマンス
Evasion は、高いプロダクション バリュー、優れたアニメーション、詳細な背景を備えていますが、インディー スタジオである Archiact にはアーティストが 5 人しかいなかったため、ここまでたどり着くのは容易ではありませんでした。ゲームは VR の厳しいパフォーマンス要件を満たすよう最適化しなければならないことが、問題をさらに難しくしていました。VR ゲームは、高解像度でレンダリングする必要があるだけでなく、非常に滑らかに動作する必要があります。さもないと揺れが発生します。プレイヤーによっては、これが原因で酔ってしまいます。Archiact のシニア モデラーである Austin Huntley 氏は、次のように説明します。「定められたパフォーマンスの枠内に収まるよう気を配る必要がありました。PS4 の VR で一貫して 60fps で動作するには、ゲームのあらゆる側面を注意して細かく観察し、パフォーマンスのコストを削減し、最小限に抑える必要があります。そのために、妥協点を探り、問題点に対して独創的な解決策を見つけることになります。透過処理はその一例です。シールドは、1 つの大きな平面ではなく、細くフェードした複数のグリッドで作成し、透明なエネルギー シールドに見えるようにしました」
VR の厳しいパフォーマンス要件を満たすため、Archiact は既成概念にとらわれずに物事を考える必要がありました。たとえば、Evasion には、開かれた屋外環境のレベルがありますが、弾丸や敵が多いため、ドローコールが多くなり過ぎるおそれがありました。この問題を克服した方法を Huntley 氏は次のように説明します。「多くのメッシュ インスタンスに加えて、共有アトラス マテリアルを使用して、マテリアルとメッシュのドローコールを減らしました」
最適化をゲーム デザインにインテリジェントに融合したことも効果的でした。Huntley 氏は次のように述べています。「初期の段階で、敵のパフォーマンスと、画面上のあらゆる敵の組み合わせのコストに対して目標値を定めました」この点で先を見越して考えておいたことが、次のように役立ったと言います。「パフォーマンスの予算に応じてスポーンする敵の数を制限することで、どのような戦闘状況でも、敵のパフォーマンスの一貫性を維持し、予測しやすくすることができました」
Evasion では、フルボディのアバターを使用することで、ゲームのビジュアルを向上させ、よりイマーシブなものにしています。これは注目に値する点です。接点が 3 点しかないため、ほかの多くの VR ゲームでは、単純にバーチャルな頭と手をレンダリングしようとします。Archiact では、リアルなフルボディを実現するため、IKINEMA によるインバース キネマティクス (IE) を利用しました。Edmunds 氏は次のように加えています。「UE4 の柔軟なアニメーション ブループリントによって、ロコモーションと詳細なアニメーションを組み合わせてブレンドできました。たとえば、IK モデルに引き金を引かせることができました」Evasion が、従来型の VR モーション コントローラに加えて PlayStation VR の Aim Controller のような独特な周辺機器もサポートしていることを考えると、この実装は特に有効でした。Edmunds 氏は次のように述べています。「各プラットフォーム向けに、片手と両手のアニメーション セットをサポートすることもできました」
シミュレーション酔いを軽減するために最も重要なのは、フレームレートを高水準で一定に保つことですが、それとは別に、自由に移動できるようにすると気分が悪くなってしまうプレイヤーもいます。これは、ジョイスティックによるロコモーションが原因で目と内耳の同期が乱れるために発生する、望ましくない作用です。幸い、Evasion には、通常どおり走って撃ってを繰り返したいプレイヤーも、VR にまだ慣れていないプレイヤーも対応できるように、複数の移動方法が用意されています。Rooke 氏は次のように述べています。「人はそれぞれ異なり、VR において、それは避けて通ることができないことです。胃が丈夫な人もいれば、そうではない人もいます。特定のグループの人々をターゲットにしていると宣言するのではなく、アクセシビリティのオプションを複数用意して、誰もが快適にゲームをプレイし、満足できるようにすることがベストだと判断しました。従来のゲームのように駆け回る体験を VR にも求める人が増えているため、もちろん自由に移動できるオプションも用意しました」このオプションができる限り胃に優しいものになるように、Archiact はいくつかのトリックを使いました。「このオプションを快適にするために重要なのは、カメラ モーションを安定させ、スムーズに保つことです。掃射や後退の際には、脳の想定に合わせて動きをゆっくりにします。これが酔いを防ぐために重要なことです」と Rooke 氏は述べています。
このフリー モーション方式にうまく対処できない人のために、Archiact は革新的なダッシュ ステップ オプションも用意しています。「これは代替手段としてうまく機能します」と Rooke 氏は言い、さらに加えます。「滑るようなカメラ モーションではなく、小さなジャンプを繰り返して前進する感じです。この 2 つのオプションにより、ほとんどの人が快適にゲームをプレイできるはずです」より独創性でイマーシブなオプションとして、プレイヤーがその場で足踏みできるモードも組み込まれています。「自由に移動するのと似ていますが、その場でジョギングしているかのように、プレイヤーの頭が上下する動きが必要になります」このメカニクスにより、内耳と目がよりよく連携するようになります。Rooke 氏は次のように説明します。「これにより、世界を実際に駆け回っているかのように感じることができ、不快感をさらに軽減できます。これは楽しく体を動かす手段にもなります」
アンリアルの実現
ソフトウェア エンジニアの Edmunds 氏は、VR のプロダクション用エンジンとして、UE4 を次のように評価します。「Unreal Engine 4 は VR の開発によく適しています。完全な VR フレームワークの中で作業ができると同時に、プロジェクトのニーズに合わせて自由に変更を加えることもできます。各 VR プラットフォームのサブシステムがうまく収められていて、プロジェクトの進展に伴い、避けられない『エッジ ケース』に直面したときには自由に変更できます」
Edmunds 氏は、ブループリントとエンジン内の整合性と拡張性の組み合わせが開発に役立ったと強調します。「あらゆるツールがエンジンに組み込まれているため、ワークフローが大幅にスピードアップします。被破壊アセットとクロス アセットもエディタ内にツールがあり、非常に便利でした」
ソフトウェア エンジニアの Jake Moffatt 氏は、スタジオでブループリントを広範囲にわたって使用したと言います。「私たちのシステムの多くはブループリントのデフォルト値の中で大きくカスタマイズが可能です。UPROPERTY を使用して、複雑なデータ構造をデザイナーが使いやすい形にしています。ミッションのスクリプトにもブループリントを活用しました。ミッション固有のイベントをつなげる多数のカスタム ノードがあります。その多くでブループリントの Async Action パターンを使用したことで、ミッションのスクリプトが直感的に読みやすいものになりました」
オンラインの Co-op はゲームの重要な要素の 1 つであるため、Archiact は Unreal Engine 4 のネットワーク機能に頼りました。「帯域幅を使い過ぎないように、開発中に UE4 の Network Profiler ツールを活用しました」と Moffatt 氏は述べています。
Evasion は、PlayStation VR、Oculus、Steam に対応しています。Edmunds 氏は UE4 によってゲームを簡単に移植できたと指摘します。「Unreal Engine 4 は、プラットフォームの違いの多くをうまく抽象化してくれます。ただし、VR の開発においては、こうした違いに応じて異なるゲームプレイ システムが必要になることがあり、ものによっては『抽象化しない』必要もあります。さまざまな入力システムと、VR のためのプラットフォームごとの要件に対処することは大きな課題でしたが、Unreal のサブシステム フレームワークによって管理しやすくなりました」
Evasion を体験してみたいという場合は、Steam から購入できます。また、Oculus と PlayStation のストアでも入手できます。Evasion の詳細については、www.evasionvrgame.com をご覧になるか、Twitter または Facebook @evasionVR をフォローしてください。
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