この途方もないタスクを現実のものとするため、Studio Wildcard は War Drum Studios に協力を依頼しました。War Drum Studios は、Bully、Grand Theft Auto、Auralux など、高い評価を受けているモバイル ゲームに携わった経験豊富な開発会社です。ARK: Survival Evolved のモバイル版のリリースは、AAA コンソール級の質を誇るタイトルをモバイル デバイス向けに移植する驚くべき方法の例を示しています。
このアクション アドベンチャー サバイバル ゲームのモバイル版では、PC 版やコンソール版と同じスリリングな体験を味わうことができます。モバイル版は iOS と Android に対応し、壮大な島、80 種を超える恐竜、そして定評のあるオリジナルのゲームと同じクラフト、建築のメカニクスを備えています。AAA ゲームをモバイル版へ移植する場合、メカニクスが簡易化されることが多いですが、ARK: Survival Evolved のモバイル版では、ほぼ同じ体験が得られます。オリジナル版の機能を大幅に減らすようなことはしていません。War Drum Studios はどのようにこの偉業を成し遂げたのでしょうか。CEO の Thomas Williamson 氏とコミュニティ マネージャーの Jordan Kleeman 氏に、アンリアル エンジン 4 を使ってこの壮大なタイトルをどのように小さなプラットフォームに移植することができたのか、お話を伺いました。

妥協のない品質
War Drum Studios が掲げた主な目標のひとつが、デスクトップ版をスマートフォン向けに忠実に再現し、高度なグラフィックという伝統を受け継ぐことでした。しかし、彼らでさえも、大きな犠牲を払わないといけないのではないかと疑ったそうです。「最初は、水生生物や空を飛ぶ生物をサポートできるかどうか確信を持てませんでした」と言っていました。しかし、幸いなことに、解決策は見つかりました。
一部の要素は、スマートフォンでスムーズに動作するように微調整されましたが、デスクトップ版に劣るものではないと War Drum Studio は自信を見せます。移植は 2017 年の PC 版早期アクセス ビルドをベースにしているそうです。「50 平方キロメートルの島と、その周囲の水域はすべて含まれます。省いたのはわずか数か所の洞窟だけです。サイズの制約のため、ボス戦はなくしましたが、オリジナルの PC 版のエングラムに加えて、80 種を超える生物がいます」

ARK のモバイル版をプレイするか、ゲームプレイのスニペットを見てみると、このゲームがビジュアル的に非常に優れていることがわかります。スマートフォン向けゲームのビジュアルに対するハードルが上がります。デスクトップ版と同様に、長い描画距離、イマーシブな昼夜サイクル、見事な水や炎のエフェクトを備えています。開発チームは、モバイル プロセッサーの処理能力を最大限に引き出すことに成功しました。
War Drum Studios はどのようにモバイル版のビジュアルを整えたのでしょうか。開発チームは、それは UE4 のおかげであると述べています。「作業の 95% がエディタ内で行われたと知れば、アンリアル エンジン 4 のファンは喜ぶでしょう。雰囲気や操作感が確立している完成したゲームに取り組む場合、これはそれほど難しいことではありません。アセットの作業が多くなるだけです」。フレームレートをスムーズに保つため、War Drum Studios はいくつかのインテリジェントなパフォーマンス対策を取り入れました。「最初に、各アセット タイプ (恐竜の皮膚、海岸の砂、建築資材) に似せた 20~30 個の単純なマテリアルを作成しました。その後、ゲーム内のすべての MIC を、こうした新しいマテリアルの親として設置し直し、値を調整しました。新しいアセットでは、低いテクスチャ解像度にも対応できるように、ディフューズ テクスチャに加えてサンプリングした詳細なテクスチャを使用します。メモリの節約は、そのほとんどが、この方法によるものです。また、ボスなど、どの要素がメモリに収まらないかを判断できました」。開発チームは、移植プロセスにおいて UE4 がどれほど重要な役割を果たしたかを何度も繰り返してから、次のように述べました。「アンリアルのツールセットがなければ、2 倍の時間がかかっていたはずです」

モバイル版は、わずか 13 人で 1 年程度で移植したことを考えると、いっそう印象的です。「私たちは、プログラミングからアート、QA、コミュニティの管理まで、すべて社内で行っています。プロモーション用コンテンツの制作やリリース計画、サーバー インフラストラクチャの整備については、Studio Wildcard が助けてくれました。役職でいえば、プログラマーが 5 人、アーティストが 3 人、QA 担当が 3 人、コミュニティ マネージャーが 2 人いますが、全員がある程度、他の役割も兼務しています。小規模のチームなので必然的にそうなります」
チームの戦術
このような小規模なスタジオが UE4 を使用するメリットとして、頻繁なイテレーションにより、アップデートを推し進められる点が挙げられます。「チームの規模が小さいため、小回りが利き、短時間で変更を実施できます。たとえば、ある新機能についてコミュニティのメンバーと水曜日にディスカッションしてから、木曜日に実装し、金曜日に QA を行えば、月曜日にはそれをアップデートとしてプレイヤーが各自のデバイスにダウンロードできます」と War Drum Studios は語っています。
移植の作業をこのように短期間で効率的に進められた理由のひとつに、UE4 のブループリント システムがあります。このシステムにより、プログラマーでなくても、わかりやすいビジュアル スクリプティング方式でコードを作成できます。「チーム メンバー全員で共有するのに、これほど適したインターフェースはありません。プログラマー、アーティスト、そして QA 部門が、ブループリントのグラフを操作し、バグを修正し、協力して作業することができました。覚えやすいため、最適な共通言語となります。また、全員が使用できるので、ユーザー インターフェース、ゲームプレイ機能、その他の新しいコンテンツを短期間でまとめることができました」
モバイル版の進化
経験豊富な開発チームは、モバイル開発プラットフォームとして UE4 を高く評価しています。「率直に言って、モバイル対応にしたいハイエンド ゲームがある場合、アンリアル エンジン 4 が最適なツールセットです。まず、スケーリングが簡単です。そして、エンジン フレームワークのあらゆる側面が調整可能です。サードパーティ サービスとの連携は、まだだったとしても問題になりません」。開発チームはさらに、UE4 の使用が長期的な投資として有効であると説明します。「UE4 は定評のある製品です。業界に参入しようとしている独立系のゲーム開発会社なら、考えてみてください。大手スタジオがプロジェクトを個人またはチームに依頼することを検討している場合、どのエンジンの経験を売り込めるのか。アンリアル エンジン 4 なら、セールス ポイントが多数あります。スケーリングに優れていることが知られ、多くの大手で採用されています。また、最先端のテクノロジーに触れ、経験を積むことができます」

ただし、優秀なチームと優れたツールはあっても、War Drum Studios はここに至るまでに複数の課題に直面しました。最初は、グラフィックを多用する壮大な ARK: Survival Evolved の世界を、処理能力に劣るモバイル デバイス向けに忠実に再現することが、大きな犠牲を払うことなく可能であるのか疑問でした。「当初のビルドは、ハイエンドのデバイスでのみ動作し、使用メモリが使用可能な容量を超えていました」と開発チームは説明します。大量の要素を廃止するという安易な解決策も検討されました。「水中の探索を省くことも考えましたが、パブリッシャーであるWildcard が、この問題に取り組むために数か月の猶予を与えてくれました」と開発チームは言います。その結果、問題の解決策を見出すことができました。それは、モバイル版ではレベルのコンテンツのストリーミング方法を変えるというものでした。
PC 版のキーボードとマウスに合わせたコントロールを最適化することで、スマートフォンのタッチ スクリーンでも違和感なくゲームをプレイできるようにするのも課題のひとつでした。幸い、開発チームには、過去にも AAA のコンソール ゲームをモバイル プラットフォーム向けに移植し、このような問題に対処した経験がありました。War Drum は、ここでの成功の理由としてイテレーションを挙げています。「当社のデザイン理念は 1 つのモットーから派生しています。それは、できる限りプレイヤーに親指の位置を意識させない、というものです。多数の仮想ボタンがあると、そちらに注意が向き、ゲーム エクスペリエンスに集中できません。これは ARK のデフォルトのコントロール スキームを見ればわかります。ゲーム内の操作の 95% で、スクリーン上での親指の位置は次の操作に重要ではありません」。開発チームは、タッチ スクリーンで直感的に理解でき、状況に応じて変化するコントロールを多数、実装しました。たとえば、プレイヤーが走っている途中に小さな障害物があった場合は、自動的に飛び越えます。また、プレイヤーがそれぞれの建築を微調整できるよう、元に戻すボタンも追加しました。遊びやすさに関連するこうした微調整により、ARK は最初からモバイル ゲームとして開発されたかのように感じられます。

スマートフォンのプレイヤーも含め、多くのプレイヤーがコントロールを完全に握れる状態を好むことがわかったため、War Drum Studios はそのようなプレイヤーのニーズを満たすようユーザー インターフェースをデザインしました。「自動化を試みたすべてのことについて、スクリーン上のホットバーを含め、専用ボタンのオプションを追加しました」。ただし、ARK: Survival Evolved のモバイル版は熱烈なファンだけのものではありません。開発チームは、ゲームをわかりやすくするための微調整も加えました。「フィードバックを追加しました。たとえば、調理するときや、生物をテイミングするときの残り時間がわかるメーターなどです。生物の繁殖や刷り込みなど、タイマーの多くは減らしました」。また、プレイヤーが死亡したときに装備やブループリントが失われないようにするカジュアル モードも追加されました。これにより、初心者も恐れることなくゲームをプレイできます。さらに、探求 (Pursuit) システムも作成されました。このシステムは、チュートリアルとして、新規プレイヤーはゲームに慣れ、ベテラン プレイヤーは新しいモバイル向けコントロール スキームに適応するのを助けます。探求システムは、プレイヤーが島の中を進む際に目的とガイダンスを示します。

モバイル版は Ancroid と iOS 間のクロスプレイもサポートしているため、プレイヤーが ARK の壮大な世界を一緒に探求できるオンラインの仲間がさらに増えます。これを実現するために UE4 が大いに役立ったそうです。「プラットフォーム間の互換性に関しては、アンリアル エンジンで作業の 95% が完了しました」。さらに次のように加えます。「エンジンのデザインにより、メトリクス、広告サービス、ネットワーキング ソリューションなどの新しいシステムを新しいモジュールと簡単に連携させることができます。アンリアルのおかげで有利なスタートを切ることができて幸運でした」
ARK: Survival Evolved のモバイル版は、モバイル ゲームの可能性を広げる画期的なタイトルとなりました。小規模なチームでも AAA 品質の体験を、比較的短期間で制作できることを証明しています。ARK: Survival Evolved は無料で iTunes と Google Play からダウンロードできます。
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