一例をご紹介します。PXO AKIRA が他のバーチャル プロダクション リグと大きく異なる点の 1 つとして、最先端のモーション プラットフォームがあります。
名前が示すとおり、モーション プラットフォームは、自由に回転および傾斜ができる、車両を載せるプラットフォームです。あらゆる形状やサイズの車両に対応できるよう設計されています。小型飛行機の胴体やレーシング バイクを撮影する場合でも、このプラットフォームを使用すれば、車両ベースのシーンにおけるリアリティを高めることができます。
車輪付き車両のタイヤは、プラットフォームに設置された個別のペダルの上に載せることができます。これらのペダルは車のサスペンションに動力を与え、タイヤの回転を完全に制御します。これは、バーチャル プロダクションで車両を撮影する際にしばしば問題となる、「タイヤが回転していないため不自然に見え、そもそも画面に映せない」という課題に対処する機能です。
「当社のタイヤは、サスペンションを作動させて上下に動いたり跳ねたりするだけでなく、車輪自体も回転します。したがって、よりリアルなショットの撮影が可能です」と Elbourne 氏は語ります。
急降下ショット用のロボット カメラ クレーン
ロボット カメラ クレーンは、PXO AKIRA を使用して撮影された車両に動きの感覚をもたらすための、パズルのもう 1 つのピースです。
クレーンは「テクノ ドリー」の上を走行します。これは、世界に 4 台しか存在しない特別なドリーのうちの 1 台です。59 フィートのドリー トラックと、最大 24 フィートのカメラ高さにより、動きとスピードを緻密に制御し、驚くようなカメラワークを実現できます。テクノ ドリーは、システムの他のすべての接続部と同期し、繰り返し再現可能で一貫性のあるカメラ ワークを実現できるようにプログラムされています。
この同期を可能にしているのが、PXO AKIRA の中核にある「Digital Twin」と呼ばれるソフトウェアです。Unreal Engine を搭載した「Digital Twin」は、システムのさまざまな要素すべてを制御するコントローラーとして機能します。クレーン、運転シミュレーター、LED ボリュームと通信し、それらすべてを同期、動作させます。
Digital Twin は、カメラ クレーン、モーション プラットフォーム、周囲の LED ウォールなど、物理的なセットアップ全体を Unreal Engine 上でデジタルに正確に再現します。このデジタル セットアップを活用すれば、さまざまなカメラ アングルを試したり、LED ウォールにレンダリングされた環境を調整したり、車両の走行経路のバリエーションを検討したりしながら、撮影を事前に視覚化することができます。
「従来のバーチャル プロダクションで使用していた環境を、車両、カメラ、クレーン、プレビズのすべての動きと組み合わせて活用できます。同じ Unreal Engine のソフトウェアをそのまま撮影現場に持ち込んで、映画制作全体をコントロールすることができるのです」と Elbourne 氏は語ります。
ショットの計画は、Digital Twin ソフトウェア内の仮想ワールド マップからロケーションを選ぶことから始まります。次に、現実世界の車両の CG レプリカを選択し、サウンド ステージ内に仮想カメラ セットアップを配置します。
LED スクリーンに表示する CG 環境を選択した後、仮想シーン内での移動経路を編集し、ソフトウェア上で車両の動きを微調整できます。モーション プラットフォームは、荒れたダート トラックであれ、摩擦のないレース トラックの路面であれ、その場所特有の運転状況を忠実に再現します。
こうしたクリエイティブなシーンが撮影現場に持ち込まれると、ショットが PXO AKIRA エコシステムを通じて変換されます。ダイナミックなカメラの動きはクレーンへ、CG 環境は LED ボリュームへ、そしてテレインの動きはプラットフォームへとそれぞれ送信されます。
LED スクリーンに映し出される、驚くほどフォトリアルなバックドロップ
車両の動きにリアリティを加えるのがモーション プラットフォームとロボット クレーンなら、環境の見た目をリアルに見せるのは LED スクリーンの役目です。
プラットフォームを囲む LED スクリーンには多様な環境を投影できます。車両にリアルなライティングを当てることで、シャドウや反射も演出され、まるで実際にその場所にいるかのような映像表現が可能になります。
Elbourne 氏によると、LED スクリーンの構成は、映画制作におけるバーチャル プロダクションのセットアップを模倣したもので、従来のグリーン スクリーン技術を改良し、俳優により高い没入感を与える仕組みになっています。グリーン スクリーンのように周囲の環境を想像しながら演技するのではなく、俳優は反応可能なフォトリアルなシーンに没入することができます。
「車を運転していて、周囲に見えるのがただのグリーンやブルーだったとすると、自分がどこにいて、その状況で車が何をしているのかが、実際にはよくわからなくなるものです。バーチャル プロダクションでは、環境やライティング条件、あるいは自分に向かってくるあらゆるものを実際に目で見ることができます」と Elbourne 氏は言います。
LED スクリーンはゲーム エンジンと組み合わせることで、コンテンツをリアルタイムでレンダリングすることができます。これにより、さまざまなシーン要素をオンザフライで調整できるようになり、監督に無限の可能性をもたらします。ゲーム エンジン テクノロジーのリアルタイム性によって、動的なライティングや反射も実現できます。
仮想環境では、ショットを完璧な精度で計画できるほか、Digital Twin の LED ウォールや仮想カメラを設定することで、実際の環境にある本物の車両と同じような光の反射を再現することもできます。すべての設定が整ったら、それをサウンド ステージに送信します。サウンド ステージでは、設定が物理的な LED ウォールとカメラに正確に反映されます。
「LED ウォールは、Unreal Engine で構築したものと同じ環境です。同じライティング条件と同じ反射を投影します。それにより、映画にさらに一層の正確さが加わるのです」と Elbourne 氏は言います。
スタント ビジュアライゼーションと高速チェイス
車両の動きにさらなるリアリティを加えるために、PXO AKIRA には、最後の重要なコンポーネントとしてレーシング シミュレーターが搭載されています。
「すべての監督や撮影監督と同様、芸術的な観点からもう少し調整したいときもあると思います。当社のドライビング シミュレーターにスタント ドライバーを乗せれば、車やボート、飛行機を自分の思いどおりに物理的に動かしながら、その場でアート ディレクションを行うことができます」と Elbourne 氏は言います。
その動きのパターンはモーション プラットフォームに変換されます。そして、シミュレーターが記録された動きをプラットフォームに送信することで、車両のサスペンションを通じてその動きを体感できるようになります。
このワークフローは、難しく費用もかかりがちなスタント ドライビングにおいて、大きなメリットとなります。
「スタント ドライビングは、本当に特別なものなのです。車両の動きを最もリアルに再現できるのがスタント ドライビングだからです。ただ、それを実際の道路上で行おうとすると、許可が必要になり、道路の封鎖もしなければなりません。さらに、そういったことが許可されていない場所にいる場合は、実現自体が非常に難しくなります」と Elbourne 氏は言います。
レーシング シミュレーターでは、スピンしながらのドリフトや、レーシング ラインに沿った走行、さらには田舎道をオフロードで駆け抜けるようなテイクを録画し、それをモーション プラットフォーム上の実車で再生することで、一貫性のあるリアルなモーションを実現できます。