画像提供:アメリカ国立公園局

アメリカ国立公園の壮大な洞窟をリアルタイム 3D で探検

2021年2月22日
Blase LaSala 氏は、パーク レンジャーから国立公園局の契約職員となり、全米各地を訪れ、洞窟群をスキャンし、調査や観光のためのリアルタイム視覚表現を制作しています。当初は手作業で洞窟の記録を残していましたが、レーザー スキャナーを手にし、Unreal Engine をダウンロードしたときに、状況が大きく変わりました。
国立公園局の洞窟技術者の仕事は、ありきたりのものではありません。一般公開ツアーのために洞窟を保守、保護することに加え、地中深くの未開拓の場所を訪れ、記録することを指示される場合もあります。

Blase LaSala 氏は、地球科学の学位を取得してから最初の数年は、国立公園局 (NPS) の洞窟技術者 (物理科学技術者とも呼ばれる) として、公開ツアーのルートで参加者が自然に及ぼす影響を最小限に抑える取り組みを行っていました。また、離れた場所にある地下系統の探検、調査を行う機会もたまにありました。LaSala 氏は次のように述べています。「基本的には洞窟の管理人でしたが、それ以外の時間に、洞窟内で誰も見たことがない場所の地図作りを手伝う機会がありました。それが一番気に入っていました」

ある日、LaSala 氏がレーザー スキャナーを手に入れると、想定外の方向にキャリアが進み始めました。LaSala 氏は次のように述べています。「若い頃は Unreal Tournament をプレーするのが好きで、コミュニティが作成するマップや MOD のベータ テストに熱中していました。レーザー スキャナーで生成できるデータを見たとき、仮想環境に変換できるかどうか試してみたいとすぐに思いました」
画像提供:Brooke Kubby氏
LaSala 氏は現在、3D デジタル洞窟ツアーの第一人者としてアメリカで全国的に有名になりました。LiDAR スキャナー、フォトグラメトリー、スーパーコンピューター、Unreal Engine を使用して、洞窟をスキャンし、動画や仮想現実エクスペリエンスを制作し、科学者や関心のある一般人が息をのむような秘められた世界を見渡せるようにしています。
 

多くの国立公園にはすでにバーチャル ツアーがありますが、そのほとんどは限られた視点からの写真や動画から構成されます。3D のバーチャル ツアーは細部をとらえ、複数の角度から見ることができます。損傷を心配することなく繊細な生成物をクローズ アップして観察できます。

LaSala 氏はこの 1 年間に、何マイルにも及ぶ洞窟の通路の仮想エクスペリエンスを作成してきました。新型コロナウイルスによる規制で NPS の多くの洞窟が公開休止となるなか、その自然の驚異をいつでも見られるようにしました。

こうしたインタラクティブな環境は、洞窟ツアーを一般に提供するだけでなく、科学分野コミュニティにも役立ち、地球学者はこのビジュアルのみから総合的な調査を実施できます。さらに、身体的制約があったり、閉所に精神的不安を感じたりして、実際に洞窟に入ることができない人々も、各自のコンピューター上で、教育、鑑賞の面で実際に訪れた場合と同様の効果を得ることができます。
画像提供:アメリカ国立公園局
Unreal Engine によるリーマン洞窟の表現 (未加工)

3D の習得:タピオカの洞窟

LaSala 氏は、洞窟技術者という仕事のあらゆる面に満足していましたが、特に気に入っていたのが探検でした。NPS での仕事の一環として、熟練の洞窟探検者が数人で地図を片手に未知の場所に足を踏み入れ、体をくねらせて狭い通路を通り抜け、水をかきわけ、既知の洞窟の入り口を目指します。

「暗闇で文字通り泥の中を這い回ることがあります」と LaSala 氏は笑います。「国立公園局の管轄となる洞窟群には、長さ 100 マイル (160 キロメートル) を超えるものがあり、泊まりがけで数日かかることもあります。朝、目を開けても、目を閉じていたときと変わらない暗さなのです」

こうした探検の目的は、地図を作るために通路の記録を作成し、測量を行うことです。チームは、水晶、繊維石膏、動物の骨など、特徴的な部分の写真を撮り、壁面や造形物の様子を手でスケッチしました。

LaSala 氏は、こうした探検に出かけるとき、収集しているデータをもっと効果的に記録、共有する方法があるのではないか、また何らかの方法で自身の好きなビデオ ゲームと洞窟探検を組み合わせて、実際の様子をもっと忠実に伝えることができるのではないかと考えていました。LaSala 氏は次のように述べています。「地図でもいいのですが、仮想的に体験できる方法はないだろうかと考えました。3 次元で表現できれば、調査と科学のために役立つはずでした」
画像提供:アメリカ国立公園局
リーマン洞窟の画像、Unreal Engine から直接出力
LaSala 氏は 2014 年の冬をサウス ダコタ州のウインドケーブ国立公園で過ごしました。そしてそこで初めてスキャニング装置を手にしました。ウインドケーブ国立公園では、近くのオグララ・ラコタ カレッジから借りた Leica HDS スキャナーを利用できる状態でしたが、そのデータを十分に活用できていませんでした。

「ウインドケーブの GIS スペシャリスト、Kevin Kovacs 氏がこの装置を使用する機会を与えてくれました」と LaSala 氏は言います。「私が強い関心を持っていることを見抜き、やってみることを許してくれました」

LaSala 氏は Leica 独自の Cyclone 点群データ処理ソフトウェアとともに、MeshLabCloudCompare を使用して、スキャナーの生データを OBJ 形式の 3D モデルに変換しました。

「テクスチャはありませんでしたが、試しに Unreal Engine に放り込んでみました。タピオカでできた洞窟のようになりましたが、どの地点かを認識することはできました。概念実証としてウインドケーブのスタッフに見せたら、良い反応が得られました」と LaSala 氏は述べています。
3D の洞窟のビジュアライゼーションの進化。左から右に、2014 年に初めて作られたウインドケーブの未加工の「タピオカ」スキャン、2019 年のティンパノゴスのスキャンから作られたリアルタイムのグレースケール環境、2020 年のスキャンと写真から作られたリーマン洞窟のフルカラー リアルタイム表現

学業と初めてのプロジェクトの同時進行

同じ頃、ユタ州のティンパノゴス洞窟国定公園は LiDAR を使って洞窟を記録できる人を探していました。地球科学の経歴、洞窟の地図作りのスキル、スキャニングの経験から、LaSala 氏は適任でした。

この仕事では、初冬に FARO Focus の LiDAR スキャナーを担ぎ、雪崩の通り道となった険しい山道をジグザグに登ってから、湿度が 100% に近い極寒の洞窟に入る必要がありました。LaSala 氏は、自身の手に委ねられた装置に当然の敬意を払い、この任務に臨みました。LaSala 氏は次のように振り返ります。「スキャナーはまるで乳児のように大切に持ち歩きました。1 日のスキャニング作業のあとは、冷えないようにヒーターの横に置きました」
画像提供:Brooke Kubby氏
2 週間のスキャニングで、1 マイル (1.6 キロメートル) 超の通路に対して 220 億点からなる点群データが得られました。これは、鉛筆と同じ直径の鍾乳管が見える程度の高解像度です。データは 1 テラバイトを超えたため、バーチャル環境は処理が煩雑で、実行に特殊なソフトウェアが求められました。

プロジェクトは成功と受け止められましたが、LaSala 氏は、探検のスリルと洞窟の特徴がもっとうまく伝わる形でデータを活用したいと考えました。最終的に、このプロジェクトを自身の学問上の取り組みであるアリゾナ大学での修士論文と組み合わせ、2019 年には、修士号を取得するとともに、ティンパノゴス洞窟国定公園にある 3 つの洞窟の 3D デジタル ツアーを完成させました。点群データは、大学のスーパーコンピューティング クラスタを使用して、Misha Kazhdan 氏によるオープンソースのメッシング アルゴリズムで処理しました。LaSala 氏は、独自の「エンドツーエンド」ワークフローが評価され、鉱山工学、地質工学学部の優秀修士学生として表彰されました。

この業績は Unreal Engine なしでは不可能だったと LaSala 氏は言います。「私はコンピューター サイエンスや 3D モデリングを学んだことはありません。知っているのは、テラバイト単位のデータを Unreal Engine が理解できる形式に変換する方法だけです。そのあとは Unreal Engine がすべてやってくれるのです」と LaSala 氏は述べています。

カラーでリアリティが向上

この成功を足がかりに、LaSala 氏は洞窟をスキャニングし、3D バーチャル ツアーを制作する会社を立ち上げました。そして 2020 年初めには、ネバダ州のグレート ベースン国立公園にあるリーマン洞窟のツアー動画シリーズを完成させました。

このプロジェクトでは、LiDAR とフォトグラメトリーを使用し、ビジュアルの忠実度の面で大きな進歩を遂げました。ティンパノゴスの 3D シーンがモノクロであるのに対し、リーマン洞窟の動画は 10 万枚の写真から色を忠実に再現できました。バーチャル ツアーの参加者は、よりリアルな体験ができるようになっています。
画像提供:アメリカ国立公園局
リーマン洞窟の画像、Unreal Engine から直接出力
加えて、数テラバイトのモデルは、1 マイル (1.6 キロメートル) の通路にわたり 1 センチ未満の精度を実現しています。法線マップ、グローバル動的ライティング、LOD を利用してリアルタイムで実行されます。LaSala 氏は次のように述べています。「指の爪より大きいものは何でも見えます。生成物や空間を以前に見たことがあれば、それを認識できます。写真と比較して、適切に表現されていることを確認しました」

LaSala 氏はさらに、リアルタイム テクノロジーが急速に進化したため、現在の作業では、ソフトウェアの限界ではなくスキャナーの限界に近づいていると加えます。「このようなことは初めてです」と LaSala 氏は言います。「以前は、ソフトウェアの処理能力を超えていたため、スキャナーのデータのほとんどを破棄する必要がありました。Unreal Engine では、そのような妥協をせずに済みます」

インタラクティブなシミュレーションについては、Unreal Engine の VR テンプレートとファーストパーソン テンプレートが使用されました。「テンプレートがあらかじめ用意されていて助かりました」と LaSala 氏は述べています。ティンパノゴス向けには、現地で楽しめる VR 体験も制作されましたが、残念ながらパンデミックの影響でまだ一般公開されていません。最後にテストしたときには、Intel 6900K プロセッサーと GTX 1080 Ti グラフィック カードの組み合わせでこれらの Unreal Engine プロジェクトが 90 fps で動作することがわかり、LaSala 氏を喜ばせました。「新しいハードウェアではどれだけ高速で実行できるか想像してみてください」と LaSala 氏は思いを巡らせます。

LaSala 氏は、データを適切な形式にすれば、手間がかかる処理は Unreal Engine ですべてできることを高く評価しています。「テンプレート、テクスチャ、自動 LOD が連携して機能します。テラバイト単位の生データを Unreal Engine が取り込み、すべて自動的に最適化できます」と LaSala 氏は述べています。

洞窟スキャニングの未来への展望

スキャニングとリアルタイム テクノロジーはまだ地球科学者の間で普及していませんが、LaSala 氏は、これらが調査と問題解決のために重要なツールとなると期待しています。「洞窟を 3 次元で見て、操作できると、これまで見ることができると考えもしなかったものが見られます。実際には手の届かない生成物や地形に接近でき、繊細な生成物の損傷を心配せずに何度も訪れることができます」
画像提供:アメリカ国立公園局
リーマン洞窟の画像、Unreal Engine から直接出力
洞窟のスキャンとメディア制作を継続しながら、LaSala 氏は現在、ノーザン・アリゾナ大学で、Teki Sankey 博士の情報地質学研究室の一員として博士号の取得を目指しています。情報地質学では、LiDAR スキャナー、マルチスペクトル センサー、ハイパースペクトル センサーなどのリモート センシング装置から一連のデータを取り込み、統計分析、地形の推定、ビジュアライゼーションに利用します。当然、LaSala 氏は新たに獲得したスキルを生かしています。「Unreal Engine により、こうしたデータ セットを視覚化、操作する方法が大きく変わります」と LaSala 氏は言います。

Unreal Engine 5 については、LaSala 氏は、日常的に扱っている数十億のポリゴンを含む 3D モデルの最適化に新しい Nanite 機能を使用することを楽しみにしています。「どこまでできるか試すのを待ち切れません」と LaSala 氏は言います。

LaSala 氏は、Unreal Engine を使ったビジュアライゼーションが簡単であることが知られるようになれば、科学分野での利用が広まると提案します。「私は専門家ではありません。汚れを気にせず地面を這い回ることが好きな元パーク レンジャーです」と LaSala 氏は言います。「私が Unreal Engine を習得できるのであれば、誰でも可能です」
画像提供:Brooke Kubby氏
注:ここに示す Blase LaSala 氏の見解は LaSala 氏個人のものであり、必ずしも国立公園局の見解を示すものではありません。

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