この新しい分野で頭角を現している企業の 1 つが、大規模な複数人向け訓練用 VR シミュレーションを開発している V-Armed です。参加者は、ほとんど何もない広いスペースを動き回り、ヘッドマウント ディスプレイ、ボディ センサー、銃器の代用品、要所要所に配置された出入り口を利用して、実際に現場にいるかのように、戦術的なシナリオを体験します。
Unreal Engine を使って開発されたこの VR 体験は、環境や人のリアルなビジュアル、効果音、そしてその他の感覚的な手がかりにより、実際の現場と同じ精神的、肉体的な困難を引き起こすようデザインされています。シナリオが展開するに連れて、参加者は体内でアドレナリンを感じることになります。現実の状況と同様に、参加者は互いに声やジェスチャーで意思疎通を図ることができます。指揮官は、任意の角度からリアルタイムでセッションを見ることができ、後で再生して検証することも可能です。
V-Armed の最高技術革新責任者 Elad Dabush 氏は次のように述べています。「V-Armed のビジョンは、訓練の質を高めることです。警察では、実地での訓練には多くの制限が課せられています。たとえば、一部の訓練環境では、一定の高さ以上、一定の方向への銃撃は禁じられています。銃弾が安全な範囲を超える可能性があるからです。VR ならこのような問題はありません。完全な 360 度の 6DOF 環境であり、銃弾はバーチャルです」
リアルな仮想環境の作成
3 年前に V-Armed を設立する前、チームは映画、映像の制作に何年も携わり、数々のテレビ コマーシャルを生み出していました。このときの経験が、参加者から本能的な反応を引き出すために生かされています。V-Armed の開発責任者 Rotem Shiffman 氏は次のように述べています。「テレビ向けの映像を制作していたので、現実のシナリオと同様のストレスや緊張を生み出す要素が直感的にわかります。この緊張は、効果的な訓練のために不可欠なものです」Shiffman 氏は、ユーザーが VR の世界にいることを忘れると、体が現実の世界と同じように反応し始めると言います。訓練の参加者の脳が実際に現場にいると錯覚するためには、VR のシナリオが、視覚、感情、肉体の各レベルで十分なリアリティを備えている必要があります。現実世界の物理特性やライティング、リアルな銃器や制服、真に迫った効果音は、この目標を達成するために使われている手段の一部に過ぎません。
このような体験は、単に高解像度の 3D モデルで環境を細部まで再現すれば生み出せるというものではありません。詳細に再現するだけでは VR の再生速度が低下します。VR でリアルさを追求するには、高速でのアップデートやスムーズな動きのためにフレームレートを十分な高さに維持することが不可欠です。そのためには、詳細なレベルにおいて取捨選択が必要です。
「視覚的な忠実度やリアリティだけでなく、信憑性が重要です」と Dabush 氏は言います。「私たちが対象とするオーディエンスの場合は特に、テクスチャリング、ライティング、シェーディング、全体的な雰囲気が、ポリゴン数よりもずっと重要であることがわかりました。壁や家具が 100% リアルでなくても、ほとんどの訓練の参加者は気にかけません。しかし、手に持っている銃や制服は正確である必要があります。こうしたところでリアリティを実現できます」
細部のリアリティと再生速度の適切なバランスにより、V-Armed のシナリオは、没入型訓練のニーズにぴったりはまりました。「訓練の参加者は、終了後に心拍数が上がった状態で息を切らせて出てきます」と Shiffman 氏は言います。「その声から、実際に現場にいたかのように行動していることがわかります」
最近、V-Armed の訓練セッションの 1 つが ABC ニュースで取り上げられ、上官が訓練の効果や、警察官の行動を事後検証できることを称賛しました。また、現実世界での物資の調達に煩わされることなく、どのような仮想的な場所でも何百人もの警察官を訓練できるという利便性も認めていました。
Scenario Editor を使った訓練の発展
V-Armed は昨年末にニューヨークのブルックリンに事務所を構えましたが、ニューヨーク市警の刑事が偶然その看板を見て立ち寄りました。この幸運なできごとがきっかけで、V-Armed がニューヨーク市警に VR 訓練を無償で提供することになりました。訓練は、米国国土安全保障省と、ルイジアナ州立大学のテロ対策教育アカデミー (LSU NCBRT/ACE) の支援を受けて実現しました。V-Armed は、Unreal Engine 上に独自のシナリオ オーサリング ツール Scenario Editor を開発し、訓練のリーダーが訓練の内容をカスタマイズし、まったく新しいシナリオを環境内で作成できるようにしました。たとえば、特定のタイプの民間人を追加してシナリオを現実に即したものにできます。学校環境なら子どもを、屋外の公園なら多様な年齢、性別の人々を追加できます。
Shiffman 氏は、訓練の参加者に幅広いシナリオを体験させたいというニューヨーク市警の要望に応えて Scenario Editor を開発しました。V-Armed でシナリオを作成するのではなく、ユーザーが自由に作成、変更できるようにしました。学校、倉庫、公園など基本レイアウトを出発点として、指導者が家具、プロップ、アバター、音声と映像による刺激、アクションのトリガーをレイアウトにドラッグ アンド ドロップし、シナリオを作り上げることができます。
「Scenario Editor により、開発経験のない指導者でも、訓練のシナリオをゼロから作成できます」と Shiffman 氏は言います。「たとえば、部屋 A に敵対者と民間人を入れて、参加者が部屋 B に入室したら敵対者が発砲し始めるといったトリガーを追加することで、参加者の注意をその部屋に向けることができます。非常に柔軟であり、幅広い訓練目標に合わせて多数のシナリオを作成できます。さらに、シナリオの展開とともに、オペレーターがリアルタイムでアクションをコントロール、トリガーすることもできます」
システムには分析ツールも含まれ、実地訓練では得られない可能性をもたらしました。たとえば、上から見下ろしたセッションを上官が再生し、特定の警察官またはチーム全体の行動を評価できます。実地訓練では、これは絶対に不可能です。数十人、数百人の警察官が訓練を終えたら、指揮官がパターンを分析し、改善できる点を特定できます。
V-Armed は、数日で出荷、設置できる、システムの携帯型バージョンも開発しました。必要なのは、十分な広さのスペースだけです。
「私たちのビジョンは、この優れた訓練ツールを、必要としているすべての機関に届けることです」と Dabush 氏は述べています。
Unreal Engine という選択
Dabush 氏と Shiffman 氏がリアルタイム テクノロジーを使い始めたのは、まだエンターテイメント業界で仕事をしていた頃でした。「ほかのエンジンもいくつか試しましたが、Unreal では、よりよい結果をより短時間で得られました」と Dabush 氏は述べています。訓練、シミュレーションのソリューションに関しては、低レベルのコードには C++ を使用し、シナリオ固有のコードにはブループリント スクリプトを使用できる点を V-Armed のチームは気に入っています。コードがオープンであるため、迅速なデバッグも可能です。V-Armed は、すべての基本コードを標準の Unreal Engine ビルド上に一連のプラグインとして実装し、作成するすべてのプロジェクトにそのプラグインを付加しています。
「通常はブループリントを使ってプロトタイプを作成し、再利用可能な部分を共有の C++ ライブラリに抽出することで、プロジェクトごとに必要な高レベルのブループリント作業を最小限に抑えています」と Shiffman 氏は言います。「Unreal の 2 階層の開発環境はその点で非常に便利です」
こうした機能に加え、ビジュアルの忠実度と再生速度などの理由により、使用するリアルタイム エンジンが決まりました。「Unreal なしでは、今のような成果は得られませんでした」と Shiffman 氏は述べています。
今後の展望
早期に成功を手にした V-Armed は、VR を活用した警察訓練の未来に大きな期待を抱いています。「PowerPoint のプレゼンを使った学習は過去のものです」と Dabush 氏は言います。「ヘッドセットを装着し、仮想的なアバターから指導を受け、手本を見て、特定の状況に身を置いたことが記憶されれば、それはインパクトを残し、より効果的な学びになるはずです」Shiffman 氏も同意し、警察を対象とする場合のポイントを挙げます。「私たちは射撃技術を教えているだけではありません。発砲するタイミングの判断には、さまざまな要因が関わってきます。そして、発砲しないという判断は、もっと重要です」
組織の訓練のニーズを満たすためにリアルタイム テクノロジーを取り入れてみたい場合は、ぜひお問い合わせください。