十三は、気持ちが通じているティーンエイジャーのメアリーとチームを組み、探偵と自警団の役割を引き受けます。 二人は一緒に、さまざまな敵と戦います。その中には、彼の強制的な肉体改造の背後で糸を引く邪悪な巨大企業もいます。
『ノー・ガンズ・ライフ』には、リッチなビジュアル、社会批評、乾いたユーモアに満ちています。最近、東京に本拠を置くサイクロングラフィックスは、この漫画をアニメシリーズ化するように依頼されました。そして現在、このアニメは日本と米国の放送網で放映されています。
シリーズの制作にあてられる時間が数か月しかなかったため、チームは Unreal Engine で背景を作成することにしました。 そのおかげで、チームは、原作で描かれているディテールに満ちたサイバーパンク世界を忠実に再現しながら、同時に制作時間を短縮することができたのです。
サイクロングラフィックスで VFX スーパーバイザーを務める加藤道哉氏に話を伺い、この興味深い UE4 の使い方について尋ねてみました。
『ノー・ガンズ・ライフ』がアニメ化された経緯について教えてください。
このプロジェクトのお話は、マッドハウスから頂きました。同社は、50年近くの歴史をもつアニメーション スタジオであり、SF とハードボイルドを最も得意としています。同社は、『ノー・ガンズ・ライフ』の絵柄が非常にクールであり、コミックも面白く、アニメ化したら素晴らしいシリーズになると考えました。そのマッドハウスから私は、このアニメをどう作ったら魅力的な作品になるかと尋ねられました。私は、原作の世界観がサイバーパンク的であり、非常にゲーム的であったことに気がつきました。また、ストーリーを通じてシーンの物量の種類が少ないこともわかりました。プリプロ期間も制作期間も非常に短いという条件下でしたが、作品を魅力的にするためには緻密な背景が必要な作品だと考えました。
このアニメでは、手描きのアニメ キャラクターと Unreal Engine でレンダリングされた CG 背景を融合させました。 もちろん、やろうと思えば、すべてを CG で作成することもできましたが、日本特有の魅力的な手描きアニメのスタイルで『ノー・ガンズ・ライフ』を描きたかったのです。
背景の作成に Unreal Engine を選んだ理由を教えてください。
緻密なモデリングによって作成された背景は、レンダリング時間がネックになりそうでした。そこで、高品質のレンダリングと迅速な納品のためには、Unreal Engine を使うことにしたのです。Unreal Engine は、既に組み込まれている機能が充実しています。使いやすく、各 CG 要素のセットアップを手軽に行えます。UE4 は、制作プロセスに柔軟性をもたらしてくれます。
私たちの目標は、短期間で原作コミックの緻密な世界観を表現することだったので、カスタマイズの柔軟性と高度なクオリティの表現を可能にする Unreal Engine は、まさに理想的なツールだったのです。また、非常に直感的に操作できるので、すぐに学習できる点も非常に魅力的で、ワクワクさせてくれるツールです。
Unreal Engine を使ってアニメの背景を作成するプロセスについて教えてください。
原作では、世界観がすでに非常に詳細に表現されていたため、原作コミック自体をストーリーボードとして利用することによって時間の節約を図りました。つまり、モデル化する必要のあるオブジェクトを脚本の段階でもリスト化できたのです。制作に充てられる時間が限られていたため、すぐに Unreal Engine を使用してモデリング作業とシーンのセットアップを開始しました。一方、絵コンテ スタッフにはモデリング仕様書に沿って演出プランを設計してもらいました。
私たちが手掛けるプロジェクトの第 1 段階では、元素材をレンダリングし、コンポジットソフト上でカラーグレーディングなどを経て、世界観を構築したものをイメージボードとして演出陣に提示しています。イメージボードの前の段階で、原作コミックから建築などのデザイン、プロップ デザインなどはクリアしているので、ライティングやグレーディングなどの微調整だけで問題ないのです。
シーンが確定したら、あとはコンテの演技に合わせて、Unreal Engine 上にカメラをカットごとに配置していきます。ダミーのキャラクターも配置できるようにセットアップして、キャラクターのレイアウトとカメラの背景アングルを、演出陣と CG デザイナーが同時に一緒に決めていきます。1人の CG デザイナーで 1日に 300カット分のレイアウトと背景を同時に出力が可能になりました。
カメラのアングルが決まったら、アニメーターが線画を描くのですが、私たちのパイプラインでは、セルにアニメーターが手描きします。『ノー・ガンズ・ライフ』は、背景が非常に複雑で絵が描きにくいので、アニメーターたちのために、ブループリントでシェーダーを用いて背景を線画として出力しています。カメラ (カット) ごとのレンダリングは非効率なので、Excel をベースにレンダーバッチプログラムを開発しました。
手描きが完了したら、最終的にコンポジットで CG 背景に手描きのセルを配置しなければなりません。これは、コンポジットソフトで行っています。CG 背景の質感を調整するためには、Unreal Engine からフォグやオクルージョン、カラーマスクなどの要素を同時に出力し、リアルタイムにそれらの要素を調整することができます。
従来のアニメの工法では 2D 背景のワークフローは、レイアウト確定後から描き始めます。そのやり方を取るならば、この新たな手法を用いることによって、緻密なクオリティを維持したまま、驚異的な時間短縮が可能となります。
私たちにとって、Unreal Engine によるパイプラインの利点は、フットワークの良さと圧倒的なハイクオリティなグラフィック スペックにつきると思います。数人の CG デザイナーでわずか半年のうちに 4,000 カットも背景を完成しているのですから。これはもの凄いことだと思います。
Unreal Engine は今後のプロジェクトにどのような影響を与えるとお考えですか?
むしろ、我々が Unreal Engine の機能を使い尽くせるところまで辿り着けていないので、将来のプロジェクトに向けて、もっとリアルタイム技術のポテンシャルを引き出せるように努力しなければなりません。昔、アニメがゲームに影響を与えたように、今度は Unreal Engine のようなゲームで培われた技術がアニメに影響を与えてくれる時代になりました。これまで日本独自のアニメ・ゲーム文化が成熟していったように、この先、双方の良さを取り入れて表現の新しい融合が生まれていく様子を目にすることはとても楽しみなことです。
革新的なリアルタイム テクニックを使って制作プロセスを高速化するためには、ぜひ Unreal Engine をダウンロードして、その可能性を探求してください。