これらが評価の証しと言えるなら、Cubic Global Defense は十分に成果を上げています。Cubic は、米国と、35 か国以上にわたる連合軍に向けて、革新的でリアルな訓練用ソリューションを開発しています。その実績として、数十年にわたり、兵士や警察官の訓練用シミュレーション ソリューションを提供し、世界の安全確保に貢献しています。

「UE3 の経験がある人材を、映像とゲームの業界から何人か採用したばかりでしたが、当時 UE3 はまだ国防総省 (DoD) 向け訓練の業界に広まっていませんでした」と説明するのは、Cubic の VP 兼 CTO の Andre Balta 氏です。「彼らは入社してから、その頃社内で使用していたエンジンよりも Unreal 3 がいいと教えてくれました。ただ、Unreal 4 も開発が進んでおり、話によればそれは画期的なものになる、とのことでした」
そこでチームは、「Rocket」というコードネームで開発されていた UE4 のアーリー ベータ版を入手しました。社内での評価はすべて好意的なものでした。
「Rocket に触れた開発者全員が『これがすぐに必要だ』と私に言いに来ました」と Balta 氏。「開発者の熱意と、Rocket の可能性を考えると、彼らが求めているツールを与えるためにできる限りのことをしないわけにはいきませんでした。『熱意』の面では、アーティスト、エンジニア、デザイナーの全員が私のオフィスを訪れ、そのすばらしさを語っていきました」
Balta 氏とチームは、引き続きこのベータ版を、UE3 を含め、その当時に入手できたほかのゲーム エンジンと比較評価しました。Balta 氏は、それが同一条件での比較なのか聞かれたそうです。「そこで私は、まったくそういう次元ではない、と言いました」と Balta 氏は笑います。「しかも、それはまだベータ版でした。現在の Unreal Engine は、完全に別格です」
チームは、Epic が公開した UE4 のロードマップ、エンタープライズ向け機能の展望、そして強力なサポートとドキュメントにも期待していました。こうして決定が下され、プロダクション全体が Unreal Engine 4 に切り替えられました。
仮想沿海域戦闘艦の作成
Cubic では、UE4 を導入してから、幅広い DARPA プロジェクトや大規模な演習の制御および管理アプリケーションに使用してきました。これらは、以前は 2D のみで行っていたものです。導入の判断の真価が問われ、UE4 が別格であることが実証されたのは、米国海軍向けのプロジェクトでした。このプロジェクトでは、設備管理技術者の訓練のために、それぞれ数百か所のスペースがある 400 フィート級の沿海域戦闘艦 2 隻を作成する必要がありました。 チームは、約 50,000 個のアセットと約 30,000 個のインタラクティブ コンポーネントを扱うことになりました。「人工的な環境として、想像を絶する規模でした」と Balta 氏は言います。「エンジンはこの規模に対応できるものでなければなりませんでした」
それだけでなく、電球の明るさから、隔壁のペンキの色まで、すべてを可能な限りリアルに再現する必要がありました。これを実現するために、チームは Faro から 2 台の位相差方式レーザー スキャナーを購入し、乗組員の制服も含め、戦闘艦全体をスキャンできるようにしました。こうして得られたポイント クラウド データは、精度が誤差 2 cm 以内に収まり、色の情報も含まれました。このポイント クラウドを 3ds Max か Maya に取り込み、メッシュやテクスチャに変換してから、UE4 に取り込みました。
Balta 氏は、UE4 が FBX などの一般的な 3D 形式をサポートしていることが、一般的な 3D コンテンツ作成ツールを組み込んだ堅牢なアセット パイプラインを作成するために重要であるとしています。UE4 では、物理ベースのマテリアルとフォトリアルなリアルタイム レンダラを利用して、戦闘艦の実際の内装や外装、乗組員を正確に再現することができました。
シミュレーションは、視覚的であると同時に物理的である必要もありました。バルブや銃器はフォトリアルであるだけでなく、現実と同じように機能する必要がありました。バルブを回す場合は、漏れや、システムの圧力変化など、2 次的、3 次的な影響を確認できる必要があります。
アート環境とシミュレーション モデルの規模が、チームにとって課題となりました。戦闘艦の複雑さに対処するために、チームはレベル ストリーミング システムを採用しました。ユーザーがあるスペースに入ると、そのスペースと、隣接するスペースだけがロードされるというものです。
大人数のアート チームが第 1 段階のアセットを提供するまでに半年以上かかりました。この段階で戦闘艦の 80% が完了している必要がありました。それから、ゲームベースの学習の原理が加えられました。この第 1 段階では、1,500 時間分のイマーシブ コンテンツの生成が必要でした。平均的な AAA ビデオ ゲーム キャンペーンが 8 ~ 15 時間であることを考えると、この仕事の巨大さがわかります。努力は報われ、クライアントは結果に大満足で、この 5 年間でさらに数件の追加発注がありました。また、この製品を紹介するビデオまで制作されました。
ゲーミフィケーションによる訓練の有効化
以前は、DoD 向けの訓練とシミュレーションにゲーム エンジンを使用することに反対する声がありました。「よく聞かれたのは、ゲーム エンジンでは物理を高い忠実度で再現することはできない、ゲーム エンジンでは高い忠実度のシミュレーションはできない、飛行力学も無理だ、動力装置の圧力曲線にも対応できない、そして適切なステート マシンがない、といった声でした。そして正直なところ、当時は、こういった声もあながち間違いではありませんでした」

Cubic には、乗り越えるべき障害がほかにもありました。当時は、訓練にゲームの原理を取り入れる価値が理解されていませんでした。エクスペリエンスに知識を埋め込むことが効果的な教育の方法であると実証できるかどうかは Cubic にかかっていました。ビデオ ゲームをプレイするときは、武器の使い方はチュートリアルを通じて学ぶのではなく、ゲームプレイを通じて覚えます。同じ原理が訓練にも当てはまります。
Balta 氏は次のように述べています。「ゲーミフィケーションの利点のひとつは、ゲームがエクスペリエンスにうまく適合することです。経験を積み、レベルアップすると、それに合わせてさまざまなことがレベルアップしていきます。エクスペリエンスがアクションに合わせてカスタマイズされるのです。何か得意なことがあれば、それをより難しいものにするシナリオが用意されます」このコンセプトは訓練にも応用できます。特定の状況をマスターし始めたら、投入する障害や手続きを増やして、スキルを強化できます。
「Cubic が、ゲーミフィケーションをこの業界に取り入れやすくしたと感じています」と Balta 氏は述べています。「ゲームのように感じられるようにしてありますが、訓練の重要な要素はカバーしており、目標が訓練のニーズによって決まることに変わりはありません。Cubic の見方は、革新的なアニメーション スタジオが映画に取り組む方法に似ています。特定のビジュアルや効果を生み出したいという欲求がテクノロジーの進化を促し、その新しいテクノロジーがビジュアル クオリティの可能性をさらに広げていきます。Cubic の場合、訓練がテクノロジーへの挑戦となり、テクノロジーがきっかけとなって新しい形の訓練が生まれています」

「業界内で 1 本の道が開けたかのようです。インストラクショナル デザイナーとソフトウェア エンジニアのチームにただ『ゲーミフィケーションを学んできて』と指示することはできません。両者と話が通じるテクニカル デザイナーが間に入る必要があります。もっとも、Unreal 4 を導入する必要があったので、テクニカル クリエイティブを採用せずにその訓練を開発することはなかったとも言えます。すべてがつながっているのです」
スーツ & ネクタイと短パン & T シャツとの出会い
Cubic の変革の物語では、人的資本が特徴的なテーマです。Cubic が UE4 を導入したとき、業界はまだかなり保守的な「スーツとネクタイ」の世界でした。しかし、Cubic は、必要なスキルを習得するためにゲームと映像の業界から人材を採用する必要がありました。これらの業界の人々は、スーツとネクタイよりもパジャマを着ている可能性が高く、ジーンズよりましな格好をすることはまず期待できません。この 2 つの文化を融合することが、プロジェクトの成功のために不可欠であり、Cubic にとって特に重要な課題でした。
「キャリアのほとんどをゲーム業界で過ごしてきた 3D アーティストを、海軍や陸軍で 20 年間くらい過ごした退役軍人である専門家と話をする必要がある業界にどうやって連れてくるのか。基本的に交わらないこの 2 つの文化をどうしたら融合できるのかという課題がありました」と Balta 氏は言います。
その答えは歩み寄りにあります。「ドレス コードをビジネス カジュアルからカジュアル寄りに変える必要がありました。また、勤務時間を柔軟にし、テクニカル クリエイティブをサポートし、10 種以上の異なるスキル セットの持ち主同士が円滑にコミュニケーションできるように、オフィスの仕切りを取り払いました。ただし、契約や条件、責任があることも説明しました。また、お客様の訪問があるときは、この環境を快適と感じてもらう必要がありました」
幸い、この業界でも、訓練とシミュレーションにおけるゲーム的側面や、それに伴う文化が以前よりも受け入れられるようになっています。
「4、5 年前なら、『ゲーム』と口にしないよう、スタッフに注意する必要がありました」と Balta 氏は言います。「Cubic ではスタジオを 1 つ買収し、別に 1 つ設立しましたが、業界の風潮を鑑みて、公には『スタジオ』とは呼んでいませんでした。現在はだいぶ慣れてきたようで、契約書のタイトルに『ゲーミング』と記されていることすらあります」
変革を促すブループリント
Unreal Engine へのシフトは別の点でも Cubic の組織に影響を及ぼし、Balta 氏はその点に大きな期待を寄せています。Balta 氏によると、従来、DoD 業界は主に 3 つのスキル セットで構成されました。それは、事業開発、プログラム管理オフィス、エンジニアリングで、これにはあらゆる種類の製品開発が含まれます。
「Unreal のブループリントを利用すれば、エンジニアでなくても、デザイナーや対象分野の専門家が、ビジュアル スクリプティング ツールを使ってコンテンツを作成できます。これは 2 つの面で大きな意味を持ちます。1 つは、テクニカル クリエイターが DoD 業界のエンジニアと対等に話ができるようになることです。もう 1 つは、退役したばかりの軍人が、ブループリントを使えば、忠実度の高いテクノロジーを習得してゲーム デベロッパーになり、意識せずにコードを記述できることです。Unreal Engine 4 によって業界が変革されています」
Balta 氏によると、Unreal は、製品開発のあらゆる手段に対応するエンジンになっています。エンジニアリングだけでもなければ純粋なアート開発だけでもなく、コンテンツとイマーシブなエクスペリエンスを作り出すことに力が注がれています。そして、これが Cubic の組織を変えました。「今では、顧客に共感できるデザイナーが多くいます。Unreal Engine は組織の変革に大きな影響を与えています」と言います。
今後の展望
Cubic は、現状に甘んじず、リアルタイム テクノロジーを使って訓練とシミュレーションを改善する新しい方法を引き続き探っていこうとしています。Balta 氏は、UE4 は特に Live, Virtual and Constructive (LVC) 訓練の分野に有効であると信じています。
一例として、Cubic の演習制御ソフトウェア CATS Metrix があります。このソフトウェアを利用すると、兵士と車両に GPS とレーザー シミュレーターを装着して地上訓練行い、インストラクターがリアルタイムで監視、制御、評価できます。コントロール センターでは、作戦行動、戦闘、コミュニケーションを監視、記録できます。




「業界では、忠実度の高いゲーム エンジンの導入を強いられ、その結果、私たちはテクニカル クリエイティブの採用を強いられました。そのテクニカル クリエイティブがゲーミフィケーションの問題を解決し、現在はゲーミフィケーションの原理を実訓練にまで拡張しようとしています」と Balta 氏は言います。「このようにすべてがうまくつながっています。この業界に 10 年近くいますが、このような動きに関わり、変化を目の当たりにできたことに喜びを感じています」
訓練とシミュレーションに関する独自のニーズに UE4 を使ってどのように対応できるのか、関心を抱かれた場合は、ぜひお問い合わせください。