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KID A MNESIA を制作する:Radiohead の新しいバーチャル展覧会に関する独占インタビュー

ほぼすべての主要な音楽出版社から ‘2000 年代最高のアルバム’ と評価されるほどのレコードであれば、そのストーリーに対する定説が固まっています。数十年にわたってファンの間で話題のまとになり、その熱狂的な支持から神話化され、これらのアルバムはストーリーとして解釈されてきました。ストーリーの一部は、ときには音楽のサービスで、またあるときにはストーリーのサービスで、すべてが語り尽くされたように思えるまで、紐解かれ、あらゆる角度から消費されました。

このような場合、特に大きな記念日を目前にして、Radiohead はどのようなことをすべきでしょうか?プロジェクトの意味と向き合い、最終的に、伝え残したこととは何かを決めるにはどうすればよいのでしょうか?

Radiohead にとって幸運なことに、これら 2 枚のアルバム (Kid A と Amnesiac) は本来謎めいた作品であるものの、好評を博しました。これは、一部には、状況を一切説明しなくとも、聞く人を惹き込む力があるためです。この開放感が探求することのすばらしさをもたらし、サウンドの渦とビートに浸りたいと考える聞き手の期待に応え続けているのです。また、作品を支えているアーティストにとっても、ユニークな機会をもたらします。自分の作品が解釈されないとき、あるいは少なくとも特異なものであるとされる場合、作品の文脈を再び自由に提供できることで、ファンに作品への新たな解釈の糸口を提供し、より広い空間を提供することができます。
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現在、PC、Mac、PS5 で絶賛公開中の KID A MNESIA EXHIBITION でファンは特別な時間を体験できます。[namethemachine] と Arbitrarily Good Productions が、Radiohead と Epic Games の協力を得て、開発した新しいバーチャル ミュージアムで、21 年の時を経て刷新された 2 つのアルバムとそのアートを鑑賞するチャンスが得られます。この展覧会プロジェクトのアイデアは、実世界で実施される予定であったものの、構造的な問題 (輸送用コンテナがロイヤル アルバート ホールに「激突」してしまうなど) やパンデミックにより中止になりかかっていました。このプロジェクトを消滅の危機から救ったのは 1 つの行動でした。チームは、残された道は 1 つしかないと考え、Unreal Engine に注目したのです。
現在に至るまで、Thom Yorke でさえ、制作した作品を理解するのに苦労しています。Thom は、「僕たちは作品を作り上げた。ただし、作品が何であるかについてははっきりわかっていないんだ。

これが率直な感想です。アルバムと同じように、 展覧会 も簡単に答えが得られるものではありません。これは、残忍な人物や異質な存在などを思わせる迷宮です。この残忍性や異質な存在は、 当初の構想 でも常に重要でした。プレイヤーが絶えず変化する部屋の中を進んでいくと、無限に拡がる空洞、鉛筆の森、パーティクル ペインティングが出現し、さらに Radiohead ファンがその時代に期待するすべてのクマ、ミノタウルス、棒人間が現れます。実は、それもポイントの一部でした。そのポイントとは、Thom Yorke と Stanley Donwood が手がけた大量のアート作品を、新しい作品に生まれ変わらせることです。同時に、長年プロデューサーを務める Nigel Godrich が、アルバムのオリジナル マルチトラック レコーディングに手を加え、時にはほぼ分子レベルで、サウンドを再構築しました。
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その結果、魅惑的で、重層的、時には少し不気味でさえある仕上がりになりました。私たちも、KID A MNESIA EXHIBITION をとても気に入っています。

この作品に敬意を表し、この作品を制作したチームにインタビューし、このプロジェクトのインスピレーションとなった要素、意図、そしてこのプロジェクトで役立ったツールの詳細について伺いました。インタビューをお楽しみいただけると幸いです。
 
このプロジェクトの内容を簡単にお聞かせください。

クリエイティブ ディレクター、Sean Evans 氏:
Kid A / Amnesiac の時代は Radiohead にとってとりわけ多くの作品をリリースしていた時期で、Radiohead、Stanley、Nigel によって膨大な量のアートワークと音楽が作成されました。このアートワークの多くは、音楽的なクリエイティブ ブロックの時期に制作されました。このことが、Thom がビジュアルの制作に没頭することにつながったのです。この展覧会では、忘れ去られたエイリアンの遺跡の中で、当時のアウトプットを網羅しています。この展覧会は、絶望を感じることなく道に迷ったような感覚を覚える バベルの図書館 と迷宮を組み合わせた美術館にするつもりでした。プレイヤーは、時折、圧倒されるような感覚を覚えるものにしたいと考えたのです。ですが、このデザインを実現する正しい道筋はなく、かといって行き止まりもありませんでした。

Arbitrarily Good Productions、ゲーム ディレクター、Chelsea Hash 氏:Thom はこの展覧会を「起こりるはずのない未来に捕らわれた」と表現しています。
楽曲をどのように使用したのかについて概要をお聞かせください。また、どのように楽曲を取り入れていったのでしょうか?
    
Sean Evans 氏:
2019 年に Nigel が自分が構想を練っていた手法について私に少し話してくれたのを覚えています。とても魅力的な内容でした。複数の楽曲が互いに融合し合い、ときには、むき出しの要素の中を漂い、またときには楽曲から楽曲へと素材をミックスするものでした。それが、この展覧会制作のきっかけとなりました。Nigel は、これを実現させる方法についてかなり明確なコンセプトを持っていました。

そこで、オーディオのコンセプトに合わせてこのプロジェクトの構造を構築しました。オーディオ デザインの多くは、視聴者の頭を拳で殴るようなものではなく、ギャラリーのような雰囲気を持たせたいと考えました。これは素晴らしいアイデアでした。このアイデアによって、全体の流れをコントロールし、空間をもたらし、山や谷を加えることができたのです。
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ピラミッドの中の大空間については、Nigel と Thom が「How to Disappear Completely」、「Pyramid Song」、「You and Whose Army」の 3 曲をフィーチャーした部屋にしたいと希望していました。私たちがデザインした部屋は巨大で、六角形をベースにしていたので、Nigel は 6 ポイントのサラウンドで曲をリミックスすることを思いついたのです。このアプローチは、効果てきめんでした。プレイヤーが空間を動き回ることで、曲のさまざまな要素が聞こえてくるのです。このアプローチが成功したことで、このアプローチを他の楽曲や空間にも拡張することができました。たとえば、ピラミッドの中にある「Treefingers」などに適用しています。この曲にはマルチトラック音源がなかったのですが、Nigel が他の要素を使用してサラウンドでミキシングすることができました。
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[namethemachine]、プロデューサー、Matthew Davis 氏:最初のブリーフィングでは、「爆発した楽曲」という概念を聞かされました。つまり、レコードとフロアの両方にたくさんの素材があり、すべてを構成要素に分解して特定の方法で配置することは、その素材に宿る精神を忠実に表現するだけでなく、体験を構築するために不可欠であるということです。

ユーザーが体験しているときに、感情を伝えたり、特定の雰囲気を表現するために、どのようにライティング デザインを駆使されたのでしょうか?

Sean Evans 氏:
私たちは、伝統的な美術館のようなライティングではなく、長い間忘れ去られていた神社をイメージしたライティングを追求しました。このイメージは、伝統的なライティング、プロジェクション、照らし出されたサーフェスを組み合わせることで、実現することができました。このプロジェクション技術は私たちのチームが開発したもので、びっくりするほど高価なものではなく、1 つの部屋の中で膨大な数のサーフェスに使用することができます。とても効果的なんですよ。ライトティングされたアートワークにも効果的です。暗い廊下を歩いていて、アートが道しるべになっているのは素晴らしい演出です。

Carlos Garcias [Arbitrarily Good Productions、シニア テクニカルアーティスト] が行ったもう 1 つのカスタム ライティングは、ビデオ スクリーンに光を投射させるというものでした。これは、The Televisions の部屋や Pixel Warehouse でご覧いただけます。大きなスクリーンがシーンをダイナミックに照らし出します。

また、雰囲気を変えるためにもライティングを使用しました。たとえば、ピラミッド内にいるときは、あらゆるものが照らし出され、ライティングが無限に広がっています。ただし、進むにつれてだんだんと暗い部屋に入っていきます。まず、Green Phosphor (緑のドット マトリックスの文字が壁に描かれている空っぽのような部屋) に入り、次に Empty Basement (真っ暗な巨大な空っぽの空間) に入っていくのです。このようなライティング フローはすべて、サウンド デザインにも反映されています。
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これのレベル デザインなどの要素については、どのようなアプローチを使用したのでしょうか?また、マップはどのように作成し、どのようにそのフローを可能にしたのでしょうか?

Brett Lajzer 氏、 テクニカルディレクター、Arbitrarily Good Productions:
展覧会内の多くの部屋や空間は、現実の建物の一部であるため、その建物と同じ物理的な空間を構成するように意図しています。ただし、中にはまったく存在し得ないものもあります。私たちは、堅牢なストリーミング システム、ポータル、テレポーターなど、さまざまなツールを使用して、この問題や制約をクリアしていきました。

非常に早い段階で、プレイヤーの周囲にある部屋だけをロードするシステムを開発しました。これによって、同時にロードする必要がない限り、部屋をオーバーラップさせることができるようになりました。また、ポータルとテレポーターによって、物理的につながっていない空間を連続しているように見せることができるようになりました。ピラミッド (内側と外側) と曲がりくねったギャラリーの 2 つのエリアでは、この手法を最も多く使用しました。ギャラリーが無限に広がっているように見えるのは、この手法によるものです。

Chelsea Hash 氏:Unreal Engine による壮大なプロトタイプのプリビジュアライゼーションとグレーボックス テストは、Radiohead のクリエイティブ グループと密に連携を取りながら Sean が開発しました。これらを活用したことで、きわめて有名な空間の環境をさらに洗練させる作業を、制作のかなり早い段階で確信を持って開始できるプロセスを設定することができたのです。壮大な抽象的空間と伝統的な空間とのバランスとペースを把握することで、技術的な問題を内容で解決することができました。長い廊下は、落書き用のキャンバスになったり、エフェクト用に暗くしたり、音楽や人で満たしたりすることができました。これは、プレイヤーに特定の感情を想起してもらうことができるように、ツールキットのすべてのツールを駆使して、コンクリートの倉庫から進化させて、徐々に外皮で覆ったり、隠された状態にしたり、混雑した状況にしたり、孤立させた状態にしたりしました。
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特定の感情を呼び起こし、空間を変化させるために、色はどのように使用されたのでしょうか?

Sean Evans 氏:
Chelsea と私は、非常に意図的に色を視覚的な道しるべとして使用しました。部屋ごとに配色が異なるため、プレイヤーは、自分の現在地を認識し、徐々に慣れていきます。これは、ライティングとも連動しています。この展覧会全体に、ごく初期の段階からこういった思考プロセスが組み込まれており、すべてのスキームがペース配分され、マッピングされています。

それぞれの部屋は、どのようなものから着想を得たのでしょうか?

Sean Evans 氏:
すべての部屋に、抽象的なものであってもテーマがあります。先ほどもお話しましたが、全体的なマップは迷宮、およびバベルの図書館に関する や文章の影響を受けています。六角形はこの図書館からヒントを得ています。バベルの図書館は、同じ大きさの六角形の部屋だけで構成され、各部屋をつなぐ廊下もない架空の空間です。長い廊下が必要でしたので、その考えにはあまりこだわりませんでした。

部屋の大部分は、その部屋を彩るアートワークを中心にデザインされています。これらのアートワークは、Thom、Dan、Christine Jones が手がけたキュレーションに基づいています。ピラミッドに入る前の 1 階の部屋は、物理的に存在し得る空間だと感じてもらえるようなデザインになっています。ピラミッドの中に入ると、この空間はより空っぽで、存在し得ない空間に感じられるように意図されています。
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Ghost Chamber のように、開発が進むにつれて変異していく部屋もあります。これは、この部屋の最初の概念実証デモのバージョンですが、この部屋は大幅に変更されました。Thom のロボット ボイスのコーラスやゴーストのアニメーションを加えることで、部屋に命が吹き込まれたのです。また、The Paper Chamber のように、原画を忠実に再現した部屋もあります。スケッチブックのページや走り書き、歌詞のシートなど、大量のアートが登場します。基本的には、壁も床も天井もすべて紙で覆てしまおうとしました。同じようなことを、The Televisions の部屋でも考えました。短編ビデオを大量に再生するので、古いテレビやビデオデッキを床から天井まで積み上げました。Paper Chamber と The Televisions は、あわせ鏡のようなものです。 

ピラミッドの内部は興味深い空間になっていて、Infernal Geometry をベースにしています。Dan が話した奇抜なアイデアは、部屋の壁の数が変化し続けることで、プレイヤーがその部屋に入ると頭が混乱するような感覚に陥らせるというものです。壁の数の変化はわかりずらいのですが、ピラミッドの内部で映像が切り替わるたびに、壁の数が変化していきます。エレベーターを降りると、プレイヤーは伝統的な美術館の空間に降り立ちます。Rotunda は、展覧会のすべてのアートワークが展示されている無限のギャラリーです。インデックスのような役割を果たします。コペンハーゲンにある Rundetaarn を参考にした美しく心安らぐ空間です。その次の部屋、Landscape Gallery は、パリのオランジュリー美術館にある モネの間 にヒントを得て制作しました。
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制作では Unreal Engine をどのくらい使用されたのでしょうか?また、Unreal Engine 以外で制作して、融合させたのはどのような要素ですか?

Chelsea Hash 氏:
環境とキャラクターは、Maya などの従来の DCC ツールを使用して開発しましたが、レベル デザインのイテレーションとレベル シーケンスは、すべて Unrea Engine で制作しました。

キャラクター制作はどのようなプロセスで行われたのでしょうか?

Chelsea Hash 氏:
まず、Radiohead の素材カタログにある共通のテーマとキャラクター表現に基づいたブリーフを作成しました。次に、チームは、アニメーション、レンダリング、リアクションを実験的に組み合わせて開発を進め、多数のキャラクターがその空間の状況を反映できるようにしました。重要だったのは、プレイヤーがランダムでなく、豊かなバリエーションを感じることができることでした。

スケルトンの共有を使用してキャラクターを開発したことで、コアとなる動作をアセット間で共有し、デザイナーが空間のペルソナにマッチしたオプションをすばやく設定することができました。また、キャラクターは設定されたパスを移動して、スポーン システムは、所定のエリアに手で配置された NPC がいくつ出現するかを記録しています。このシステムを使用したことで、思い通りのトーンを確実に維持することができました。プレイヤーは部屋を移動したり、再度最初から終わりまでプレイしたりするたびに、新たな場所で新しい NPC に出会うことができるからです。

Arbitrarily Good Productions、アソシエイト プロデューサー、Devon Chapman 氏:このプロジェクトでのキャラクター制作は、非常に手探りを積み重ねたプロセスでした。目標は、当時の Thom と Dan のクリエイティブなエネルギーを、この新しい抽象的な環境にフィットする要素に変換することでした。スケッチからインスピレーションを得て、そういった要素が 3D でも納得のいくものとなり、プレイヤーの感情を刺激できる方法を見つけようとしました。Radiohead の棒人間、クマ、ミノタウロスなど、新しいけれども、ファンにはおなじみのキャラクターが登場します。
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この展覧会では、特に森への小道と「How to Disappear Completely」シーケンスで、優れたパーティクル ワークがありますね。このパーティクル ワークの制作プロセスについてお聞かせください。

Sean Evans 氏:
このパーティクル ワークを実現する方法について構想はあったのですが、私は Niagara には精通しているわけではありません。Unreal 外で別のパーティクル システムを使用して機能させることはできましたが、エンジンでパーティクルを飛散させる方法についてはまったく分かりませんでした。最終的に、作成したパーティクル システムの静止画を LIDAR データとしてインポートする方法を見つけて、インポートしたものを Unreal で使用して Chelsea と Niagara に精通したスタッフにペーシングとスケーリングを見せました。

ですが、Commodore の部屋のターミナル テキストは、ランダムなワード コラプションをループ処理できるカスタム Niagara システムで制作しました。

「How To Disappear Completely」に設定されている LIDAR アニメーションのペインティング シーケエンスは、すべて Niagara で実行しています。これは、ペインティング テクスチャからパーティクル カラーを生成し、カラー テクスチャ自体からノイズ、ベロシティ、変位プロパティをキー設定して行いました。これらの値は、すべてシーケンサーで制御しています。
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先程少しお話しいただきましたが、今回の展覧会には素晴らしい部屋がたくさんありますね。いくつかをご紹介いただけますか?

たとえば、Pixel Warehouse はどのように制作されたのでしょうか?まだご覧になっていない方もいらっしゃると思いますが、時間が止まったような素晴らしいイメージバースト エフェクトが表現されています。

Sean Evans 氏:
この部屋は直前になって追加しました。Pixel Warehouse は Pyramid Atrium と対をなす部屋で、Pyramid Atrium は、明るい赤っぽい部屋で、昼間の光が差し込み、緑や木があります。一方、Pixel Warehouse は、冷たくて暗く、人工的な空間です。直前になっての追加ということもあり、比較的シンプルな実装でありながら、大きな反応が得られるようなエフェクトを空間に追加したいと考えていました。部屋を一変させるようなエフェクトです。環境チームがブロックアウトで行ったファースト テイクには驚きましたね。
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この部屋は、すばやく完成して本当に楽しく作成できました。他の部屋向けに組み立てた映像再生コントロールを活用して、すべてブループリントで実行した軽量セットアップであったため、実装は調整できる余地がありました。このことが、より高度なインタラクティブ体験である理由の 1 つです。初期のプリビズの部屋は、より映画的な観点で制作されましたが、この部屋はゲーム的な観点から生まれました。

The Televisions の部屋はどうですか?映像をどのように選択して、取り込んだのでしょうか?

Sean Evans 氏:
The Televisions は、映像のコンセプトに沿って制作した空間です。Kid A および Amnesiac がリリースされた当時、Radiohead はこういった短編のビデオ クリップを大量に発表していました。Shynola が制作したものもあれば、Chris Bran が制作したものもあります。また、一部は当時のウェブキャストから抜粋したものです。この部屋は、この展覧会が実世界の空間で実施される予定として企画されていた際のものです。ジャンク ショップをベースにしています。こういった部屋を Unreal で制作するのはおそらく不可能だと思われます。

最終的には、マクロとミクロで機能する部屋を制作したかったのです。この部屋も、環境チームとエンジニアが非常に骨を折って制作した部屋です。素晴らしい部屋です。後ろ側に立って部屋をグリッドとして見ることもできますし、すぐ近くに寄ってテレビのピクセルを見ることもできます。
Brett Lajzer 氏:この部屋の最大の課題は、多くのシステムで合理的とされるよりもはるかに多くのビデオを再生する方法を考え出すことでした。この場合、72 種類の映像の「ストリーム」がありました。そこで思いついたのが、映像をグリッド状に事前にコンポジットするシステムです。これは、1 つの 4K ビデオ ファイルとして実装されました。このファイルでは、部屋のあちこちのテレビにマッピングし、パフォーマンスに大きな影響を与えることなく再生できます。このシステムでは、複数の異なるマッピングに対応できます。各スクリーンに独自のコンテンツを表示したり、特定の 1 つのブリップを複数のスクリーンにまたいで表示したりできます。
Chelsea Hash 氏:テクニカル アーティストが、Unreal Engine のカスタム アセット データ システムを使用して、さまざまなプリセット モードをエディタで直接作成することができました。そのため、複数のモニターにまたがる映像の組み合わせを備えるモードでは、そのデータはマテリアル UV オフセットにベイクされました。これにより、環境チームは、最も印象的で芸術的な方法でテレビを飾り、CRT ビデオ システムとクリエイティブ ディレクションを信頼して、マッピングを行うことができました。他の選択肢としては、よりプロシージャルな TV アレイのスタッキングや、より一般的なデータ主導のセットアップがあります。
    
The Paper Chamber はどうでしょうか?

Chelsea Hash 氏:Paper Chamber は、興味深いことに Niagara ではなく、すべてインシェーダーで実装され、Houdini で処理されて各ページにピボットと UV データが提供されています。UV の制作指示が厳密なものであるため、メッシュベースのアプローチであることがわかります。
 
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紙の乱気流のベイクや、紙の端の不均一な飛散などの複雑性のため、膨大なマテリアル パラメータ コレクションとマテリアル インスタンス パラメータの設定が必要でした。まず見栄えを向上させること、次に制御可能にすること、そして 3 番目にシーケンス可能にする必要がありました。

それとは別に、アート表現そのものを改良することで、ランダムに毎回異なるアートを表示できるようにしました。そのために、床から天井までのモードでもあまりピクセル化されていない 4K アトラスへのマッピングや、ページの裏の非ミラー化、高品質な PBR ペーパー テクスチャ セットへのコンポジットなど、パフォーマンスで工夫を重ねました。

これらのコントロールを簡略化し、アート ディレクションやコントロールが可能な要素に確実に落とし込むことが、このプロセスの鍵を握る部分でした。
Matthew Davis 氏:Paper Chamber は、より楽しいオーディオの挑戦の 1 つでした。というのも、この体験の他の場所で使用されているほとんどすべての手法を、この 1 つの部屋で使用しなければならなかったからです。オーディオビジュアル体験の多くは、 ダイエジェティック と非ダイエジェティックのサウンドの融合を活用しており、音楽は多くの場所で両方の組み合わせになっているため、これらのコンポジションに浸っている感覚を生み出すのに役立っています。

この部屋のアイデアは、「In Limbo」のメロディーの構成要素が「構築された」部屋を表し、リズム セクションとリバーブが「解体された」空の部屋を表している、というものでした。そのため、約 15 分間のプロシージャルなシーケンスで部屋がダイナミックに吹き飛んで再構築され、紙の竜巻が部屋の中を渦巻く中、2 つの音楽の状態をクロスフェードするように、構成的にもミックス的にもすべてがうまくいくようにする必要がありました。Wwise でリアルタイム パラメータコ ントロール (RTPC) をプログラムし、その時の部屋の解体具合や風向きによって RTPC を動作させるようにしました。同じ RTPC で、アイドル状態、吹き飛ばし、再形成などさまざまな状態を持つ SFX (紙のはためき、風など) のビンもコントロールしました。その結果、常に変化するサウンドの嵐となったのです。

最後になりましたが、「You and Whose Army」シーケンスに使用されている、あの素晴らしいゾエトロープについてお聞かせください。
 
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Sean Evans 氏:デモを作るとき、ピラミッドの内部をゾエトロープにすることを思いついたんです。ですが、そんな複雑な仕組みを考えている時間がなかったので、棚上げになっていました。

Empty Basement シーケンスを開発することになったとき、「Pyramid Song」にトーラスの形を使おうとか、円形のフォーメーションではどのような状況になるかについての話になりました。そのとき、Stanley がゾエトロープについて切り出し、ゾエトロープがいかに素晴らしいか、そしてこの奇妙な古い技術の詳細について説明してくれました。私は Stanley のアイデアに飛びつきました。カスタム Mocap のフレームを取得し、放射状の配列にインスタンスに分割することで、Unreal の外部で 3D ゾエトロープのコンセプトのモックアップを作成しました。不格好ではあるものの、このエフェクトはうまくいきました。Chelsea に見せることのできる十分な量のラフ カットができると、Unreal 内でブループリントを開発し、このアイデアを 1 レベルアップさせました。それは、あらゆる種類の能力を提供するものでした。アニメーションを入れ替えたり、メッシュを入れ替えたり、スケールをアニメートしたり、その他あらゆる種類の変数を使用することができます。その他の部分は、アート ワークから開発された 3D キャラクターと、当然ながら、音楽がモチーフになっています。殺伐とした感じに圧倒されますが、決してあきらめず、立ち向かう。そんな素晴らしい楽曲です。

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