Unreal Engine が提供する無料のオープンソース シミュレーターCARLA はこのような状況で役立つものです。CARLA は自動運転システムの開発、トレーニング、妥当性確認をサポートするために一から設計されました。
オープンソース シミュレーターの誕生
CARLA の最初の構想は、現在の CARLA のチーム リーダーを務めるリサーチ サイエンティスト Germán Ros 氏とバルセロナのコンピュータ ビジョン センターの Antonio M. López 教授の初期の研究から生まれました。Ros 氏は 2013 年以降自動運転車に関連するプロジェクトに携わっており、Lopez 教授は自動運転システムの分野における数十年の経験がありました。2015 年、バルセロナ大学で博士号を取得したロスは、Lopez 教授の指揮の下自動運転環境 SYNTHIA の開発に着手しました。2016 年の最初のリリース以来、SYNTHIA は研究コミュニティ、特に認知関連のプロジェクトの間で知られるようになりました。ただし、SYNTHIA の基盤であるリアルタイム エンジンのライセンス制限により、この最初のチームはプロジェクトを自由に配布したり、ソース コードへのアクセスを提供したりすることができませんでした。
ラスベガスで開催された CVPR (コンピュータ ビジョンとパターン認識国際会議) で SYNTHIA をプレゼンテーションしているときに、Ros 氏と López 教授は Intel の Intelligent Systems Lab の主任研究員兼ディレクターの Vladlen Koltun 氏から誘いを受けました。Koltun 氏はチームの成果を賞賛しつつもの、同様のシステムを万人が利用できるようにしたいと考えていると明かしました。Ros 氏と López 教授は全面的に同意し、Intel を主要スポンサーとした CARLA プロジェクトが始動しました。
新チームが Unreal Engine を選択した主な要因は、CARLA を自由に配布したいと考えていたからです。さらに Unreal Engine は無料で、すべてのソースコードを利用できます。Ros 氏は次のように述べています。「チームは、すべての人が CARLA を共有できるようにしたいと本当に考えていました。あらゆる要素を誰でも修正できるようにしたかったのです。そのためには、CARLA を完全にオープン化し、エンジンのすべてのソース コード、プラットフォームのソース コード、そしてあらゆる要素にアクセスできるようにする必要があると考えたのです。完全にオープン化すると、さまざまなユース ケースやシナリオに適応できるため、コミュニティに貢献できると確信していました」
チームは新しいシミュレーターを一から構築し、SYNTHIA で得たインスピレーションと教訓を取り入れました。当時、Ros 氏はトヨタ研究所に勤務しており、さまざまなツールを使用するシミュレーション プロジェクトに携わっていました。Ros 氏がこの研究から得た教訓も CARLA に影響を与えました。
Ros 氏は、トヨタがオープン ソース イニシアチブをサポートしていたおかげで、トヨタ研究所時代に CARLA に取り組むことができました。「この経験からさまざまなものを得ることができたので、誰もがこのイニシアチブに満足していました。ツールが機能しなかった場合、その理由を突き止めます。ツールが実際に機能したら、ツールを使用します。つまり、チームの全員がメリットを得ることができるとても良い環境でした」と、Ros 氏は語っています。
CARLA は 2017 年の Conference for Robot Learning (CoRL) で初めて正式にリリースされました。CARLA は、自動運転への関心の高まりに伴い急速に発展しているコミュニティで好評を博しました。現在、CARLA には約 25 名の世界各地のメンバーからなる専任の開発チームがあり、2~3 か月に 1 度のペースで継続的に新リリースを公開しています。また、CARLA のユーザー ベースは産学両方の業界の 1,600 名以上のアクティブ ユーザーを擁しています。Ros 氏によると、現在、自動運転を研究しているほぼすべての大学が何らかの方法で CARLA を使用しており、また、研究開発部門を所有しているほぼすべての企業が CARLA を使用しています。CARLA をメインのシミュレーション プラットフォームとして使用している企業もありますが、そのようなすべての企業は使用についての情報を公開しているわけではなく、「企業秘密」として保持することを望んでいます。
自動運転車の研究開発の民主化
CARLA 開発の初期から、チームは自動運転車の民主化を実現するためには、オープン ソース モデルが重要であることを理解していました。Ros 氏は次のように述べています。
「自動運転の進歩を資金が潤沢な巨大企業に任せるだけでは十分とはいえません。自動運転を実際に促進、迅速化するためには、この取り組みに研究者や中小企業も参加しなければなりません。私たちは自動運転の実現を望んでいます。自動運転は重要で、多くの命を救い、生活を改善すると確信しています。では、いち早く自動運転を実現するにはどうしたらよいでしょうか。それには、コミュニティでのコラボレーションが必要となります」
「CARLA の主な目標の 1 つは、この問題を解消することです。すなわち、小さな国の小さな大学の小さなチームが、多くの車両や大量のデータを一切利用できなくても、自動運転の最先端の研究開発に参加できるように、この取り組みの一部を民主化することです。このシミュレーターを誰もが共有できるようにすると、新しいアルゴリズムとソリューションの作成に役立ちます」
CARLA の 2 つ目の目標は、時間や予算に余裕がない人や、人材を確保できず人員が揃ったシミュレーション チームを構成できない人に、一から構築するのではなく、既存のプラットフォームを利用して構築する機能を提供することでした。
Ros 氏は次のように述べています。「おそらく、自動運転プロジェクトに携わる人物が、集中すべきことは、自分のシミュレーション チームを作ることではありません。十分に優れたツールを入手し、必要に応じて拡張することができれば、20 名のエンジニアで構成される自分のシミュレーション チームを編成する必要はありません。CARLA を取得して CARLA 上で作業できるので、雇う人員も わずか 1~2 名で済みます」
最後に、チームは CARLA が共通言語の役割を果たすようになることを望んでいます。Ros 氏は次のように続けます。「例えば、独自の内部シミュレーターを使用しているとしましょう。きわめて高度なツールで、まったく問題ありません。ですが、ある時点で競合他社と共有しなければならなくなったり、成果を当局と共有しなければならなくなります。このことからも、オープン ソース ツールを使用すべきだといえます。オープン ソース ツールは指定する必要のあるすべての基準が指定されています。また、オープン ソース ツールを使用すれば、コミュニティにデータを透過的に送信することで、現在のステータスをコミュニティで把握できます」
「これこそが、アセットからコードやその他のあらゆる要素に至るまですべてを利用できるオープンソース形式で CARLA を提供することに決定した理由です。商用利用を含め、CARLA を使用すると必要な処理を何でも実行できます。目的は何であれ、自由に CARLA を取得することで、CARLA を使用して自分ができる最大限の作業を実行することができるのです」
妥当性確認と検証のニーズへの対応
自動運転コミュニティは健全かつ活発に活動していますが、メンバーがすべての答えを得るにはまだやるべきことがたくさんあります。このような状況において、CARLA が役立ちます。Ros 氏は次のように述べています。「現在のこの分野は混迷しているといわざるをえません。2016 年には、誰もが自動運転は 2019 年までには実現するだろうと考えていました。自動運転を実現するためには、数兆マイルのシミュレーションさえやってしまえばよいと考えていたのです。その後、妥当性確認や検証などについて検討を開始して初めて自動運転の本稼働までの道のりはまだ長いと気付いたのです。このためシミュレーションが、研究開発、研究開発サイクル テストの迅速化、アイデアの検証、きわめて迅速なアルゴリズム開発において、ますます役立つようになりました。」
「自動運転の研究に携わる人たちがフルスタックの検証と妥当性確認におけるシミュレーションがやや複雑であることにようやく気付いたのです。おそらく、何兆マイルもの走行に対応できなかったり、当時は何兆マイルもの走行シミュレーションの必要性が理解されなかった可能性もあります。Waymo、Uber などの一部の企業は、この種のフルスタックの検証を実行できる強みがありました。しかし、その他の OEM やティア 1 企業は、依然として、検証を行うためのツールの適切な組み合わせを決定しようとしている段階にあります。」
検証は、NHTSA (国家道路交通安全局) や米国運輸省などの立法機関によって管理されています。しかしながら、このような機関でさえ、効果的かつ安全に検証を実施するための適切なツールとメトリックを決定するうえで手助けを必要としています。CARLA チームはこのような機関と検討を重ねてきました。
Ros 氏は次のように述べています。
「CARLA を使用して、私たちは立法機関がこの定義をどのように策定するかを理解し、見出すことができるようにサポートしようとしているところです。やりがいのある作業ですが、まだやや混沌としています。というのも、実際このツールを使用してスタックの妥当性をどのように確認するのかという問題がまだ残っているからです。私たちは今のところ、研究開発のプロセスに役立っていることに満足しています。 CARLA により、実車で行うと数か月~数年かかる作業を迅速に試すことができるようにしたからです。シミュレーターを使用すると、このような作業を迅速に実行できるだけはありません。実車に実装した場合に発生する問題も把握することができるのです」
CARLA Autonomous Driving Challenge (CARLA 自動運転チャレンジ)
自動車両ソフトウェア スタックの公正な妥当性確認と検証にさらに貢献するため、CARLA チームは CARLA 自動運転チャレンジに着手しました。CARLA 自動運転チャレンジでは、参加者の自動運転エージェントが、道路交通法に違反することなく事前に定められた経路に従って目的地に到達する必要があります。この経路に沿って、エージェントは NHTSA が収集した衝突前の交通シナリオに基づいてモデル化された困難な交通状況に直面します。例えば、予期しない障害物の回避、悪路条件による制御喪失からの制御の回復、交差点における赤信号での横断などです。このチャレンジでは、同じ経路、交通状況、気象条件で参加者をテストすることで、異なるスタック間で公正に比較することができます。これは、OEM や新興企業が現在 NHTSA に対して行うことができる自発的な報告とはまったく対照的です。この自発的な報告では、OEM や新興企業は過去 1 年間に自社の車両が実行した内容に関するさまざまな統計を宣言することができます。
Ros 氏は次のように述べています。「これらの数値を確認して、比較しようとしたり、シーンの概要を把握しようとしても、数値が較正されていないため、比較することも概要を把握することもできません。例えば、小さな企業が 1,000 マイルで運転への介入が 5 回であったと宣言したとします。この数値は確かにあり得るでしょう。ただし、その 1,000 マイルはどのような状況だったのでしょうか?この企業の車両が、きわめて理想的なシナリオで、信号機がなく、車もほとんど通らないブロックを周回しているだけだとしたらどうでしょうか?このような結果を、200 マイルで 45 回運転介入があった他の企業の人物が行った結果と比較するにはどうすればよいでしょうか?この 200 マイルはより困難な条件であったと考えられます。おそらく、トレーニング用の条件で実施されたのでしょう」
CARLA 自動運転チャレンジは好評を博し、今年の授賞式は、機械学習と AI の主要カンファレンスの 1 つである CVPR で行われました。
最新リリース:さらにリアルな歩行者
CARLA の価値の重要な部分は、都市のレイアウト、建物、車両、歩行者といった無料で使用できるアセットにあります。チームがバージョン 0.8 と 0.9 の間でプラットフォーム全体の設計を一新した際に、歩行者は一時的に利用できなくなりました。7 月に発表された最新の 0.9.6 リリースでは、再び歩行者を利用できるようになりました。それだけでなく、まったく新しい AI レイヤーが追加され、新たに子供のキャラクターも導入されました。さらに、既存のモデルのバリエーションが増え、スケルトン階層内のすべてのボーンを制御する新たなインターフェースが実装されました。Ros 氏が特に気に入っているのはこの最後のインターフェースです。Ros 氏は次のように続けています。「非常に複雑に動作させることができるんです。このインターフェースは、予測分野を改善するなど、人間と機械の相互作用の分野で大いに役立つでしょう。予測は AV スタックの最重要モジュールの 1 つです。次の 5 秒または 10 秒で歩行者または車両がどのように動作するのかがわかる必要があります。現在のフレームと 2、3 または 5 つ前のフレームから、その歩行者が次にどのように動作するかを予測できなければなりません。歩行者は道路を横断するつもりでしょうか?それとも歩道で待機するでしょうか?これを予測するには、きわめて高度な手がかりが必要です。歩行者に、ボディー ランゲージを伴う非常にリアルな方法で動作させる必要があります。完全な骨格コントロールによりこれが可能になります」
CARLA チームはこれからも間違いなく多くの役立つ機能を搭載していくでしょう。そのために、CARLA チームは、CARLA を使用したり、変更したり、 CARLA を基盤として使用したいすべての人に最高のシミュレーターを提供できるように日夜取り組んでいます。しかも CARLA は無料です。
Unreal Engine 4 の詳細にご興味がありますか?こちらをクリックしてお問い合わせください。当社からご連絡のうえ、ご説明いたします。