Courtesy of Half M.T Studios

リアルタイム アニメーションで暗闇を表現して数々の賞を受賞した短編映画、The Voice in the Hollow

アニメーションは多くの努力の賜物ですが、素晴らしいものを作るために何百人もの人が必要となるわけではありません。

The Voice in the Hollow の場合を見てみましょう。数々の賞を受賞していることから、何か面白いものだということがわかります。また、お気づきにならないかもしれませんが、これは有名なスタジオの作品ではありません。これは専門家たちが集まる小さなチームによって作成された情熱的なプロジェクトです。彼らはリアルタイム ツールを使用してプロジェクトを高速に進め、優れたストーリー展開がなくても息をのむほど魅力的なビジュアルを作成しています。しかしご心配なく。ストーリーも優れています。
 

古くて新しいもの

ディレクター兼 VFX スーパーバイザーの Miguel Ortega 氏と作家兼プロダクション デザイナーの Tran Ma 氏は、前回のプロジェクト、The Ningyo で 「うめきの洞窟」として知られる北カリフォルニアの大洞窟の奥深くで撮影していたときに、The Voice in the Hollow のアイディアを思いつきました。「洞窟で撮影していたとき、あの先は骸骨が集まっているので撮らないように、と本当に言われたのです」と Miguel は語ります。

骸骨にまつわる言い伝え

それは、洞窟の穴から少女が助けを求めているような声が聞こえるという話でした。「科学的な見解では 250 フィートの落差が瓶に似た構造になっているため、息を吹き込んだときのような音がして、それが少女の声のように聞こえていたのです」と彼は語ります。

経験の少ない救援隊志望者は、洞窟がそれほど深くなく、危険な落下がときどき起こるくらいだと考えていました。1900年初頭にこの洞窟が発掘されたとき、その多くが転落死したと思われる骸骨の山が発見されました。その山の一番下にあったのは、1万年前の少女の骸骨でした。

この逸話から Miguel と Tran は、カインとアベルの物語をモチーフに舞台をアフリカに変え、2 人の姉妹を主人公とする The Voice in the Hollow のアイデアを思いつきました。
 

60年代、70年代の犯罪ドラマ、気骨のあるマカロニ ウエスタン、B 級ホラー映画からヒントを得て、Miguel と Tran は当時の暴力的なイタリア映画のような彩度の強いカラー パレットを使用しました。特に Sergio Corbucci 監督の 殺しは静かにやって来る は結末の後味がとても悪かったため、Miguel にとって大きなヒントとなりました。

イタリアの映画監督、Mario Bava 氏の色の選び方は、かなりくすんだ黄色と茶色の世界を鮮やかな赤と明るい青緑色で照らしているかのようです。その赤によって 2 人の姉妹、Coa と Ala を区別することもできます (片方には赤いフェイス ペイントを、もう一方には白いペイントを施しています)。
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リアルタイムにキャラクターを作成する

彼らが作成しているものには完ぺきな前例がなかったため、まずは参照資料から斬新な方向性をいくつか見出しました。彼らは目立つことを考えていたため、これは素晴らしい方法でした。

「この作品を ライオン・キングなどと同じように感じてほしくなかったのです」と Miguel は話します。「私たちは、もう少し幻想的なものにしたいと考えました」
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また、スーパーマン リターンズミストスピード・レーサートランスフォーマー など、VFX の大ヒット作品に携わった経験を持つ Miguel と Tran にとって、幻想的なものとはどのようなものであるかはわかっています。彼らは小さなプロジェクトの経験もあり、未確認生物からヒントを得た短編映画、The Ningyo は大きな話題と呼んでいます。

しかし、The Voice in the Hollow に取り組み始めると、業務の余力に関する制約が発生しました。キャラクターや外観の目標は決定していましたが、限られた人員でどのようにして野心的なアニメーション映画を作成したのでしょうか?

彼らのクリエイティブな選択の多くは、その答えによって決まりました。たとえば、映画のキャラクターたちが木彫りの人形に似ているのは偶然ではありません。「木のように見せることで、誰も虹彩の屈折が間違っているとは言わなくなります」と Miguel は話します。それでも、納得できるデザインが出来上がるまで繰り返し作業する必要がありました。また、Tran は作業中のスカルプトを見せたくないときもあると言いますが、制作後に公開されたいくつもの Gnomon 主催 の BTS セグメントでその作業プロセスを見ることができる のは魅力的であり、彼女の仕事ぶりは的確です。
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実際のところ、キャラクター モデルは ZBrush でスカルプトされ、Substance 3D Painter でテクスチャリングされました。Tran は、フォトリアルなモデルの場合は通常、筆使いをわかりにくくするものですが、この作品のキャラクターは人形に似ているため、ボディへの筆使いを意図的に表示させたと話しています。
また、Miguel と Tran は Coa と Ala のどちらが優れた狩人であるかを、服装によってさりげなく示そうとしました。「Coa の服装をよく見てみると、彼女は (狩りで) 成功していないため、動物の皮が使われていないことがわかります」と Tran は話します。 「一方、Ala のデザインはそうではなく、より自由なものになり、彼女の持ち物はすべて彼女が狩ったものの皮であることがわかります」
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キャラクターが作り込まれると、ほんの数週間しか経験していないツール、Unreal Engine でアニメーション化されました。しかし、その限定的な経験にもかかわらず、Miguel と Tran は UE5 の浅い被写界深度 (DOF) フォーカスなどの機能を使用して、Coa や Ala の小さな外見などの重要なビジュアル キューを強調することができました。これによってキャラクターの特徴的な美しさを捉えるだけでなく、プロジェクトに多くの視聴者が好むストップモーションの外観が加わりました。

アフリカの世界を作る

ほら穴周辺の不気味な地形は、Gaea で作成されました。これは、手動によるプロシージャルな要素と Megascans のアセットを組み合わせるのに役立ちました。大きな穴にそそり立つ尖った柱にも特に注意を払いました。これは悪魔の象徴であり、Coa を闇の運命に導くものとなります。
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The Voice in the Hollow で村が話題の中心になることはありませんが、それでも Miguel と Tran は場面の柔軟性を高めるために完ぺきな環境を作成しようとしました。時間を節約するため、彼らは既成の Megascans アセットとカスタマイズされた Mudbox のスカルプトを組み合わせ、その都度適切なツールを使いながらビルドしました。Miguel は、このプロセスをレゴブロックに例えています。「Megascans アセットを使用しているからといって、いかにも Megascans アセットのように見せる必要はないのです」と Miguel は言います。

初めて見るときは、村やその他の環境が詳細に描かれていることに気づかないかもしれません。既成のアセットを使用しているとはいえ、映像内はカスタムモデルの像や建物で埋め尽くされています。これらは映画の中でほぼ気づかれることはありませんが、全体的な雰囲気には欠かせないものです。「私の授業を受けていると、いつも私が『見えるかどうかは関係なく、感じることが大切だ』と言うのを耳にするはずです」と Miguel は語ります。また、The Voice in the Hollow では、複雑さを感じ取ることができます。
 
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ストーリーの文化的な側面でバランスを取るため、Miguel と Tran はプレゼンテーションについて幅広く考える必要がありました。そのため、1 つの部族や情報から描くのではなくアフリカ全土のデザインについて研究し、これにより特定の美しさにとらわれず、この地域に結びついたさまざまな服装、髪型、ボディ ペイントを選ぶことができました。

また、Miguel と Tran はアフリカの特定の部族を模倣したくないとも考えていました。代わりに、Unreal Engine のマスクを使用してさまざまなバリアントを簡単に作成できる方法でキャラクターをデザインしました。「マスクを作成することにより、服の色を変えたり、ペイントの色を変えたりすることができました」と Miguel は語ります。さらに Tran は付け加えます。「これはバリエーションを増やすことができるとても柔軟なシステムでした。Unreal で構築できる本当に素晴らしいマテリアル システムです」
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Miguel と Tran が美しさを確立すると、次の課題は自分たちに課した過酷なスケジュールを押し進めることでした。彼らは日々、プロのアーティストが集まる小さなチームとして働き、休憩を取るのは授業を行うときだけでした。Tran は、もしこのプロジェクトを従来のパイプラインで進めていたら、おそらく完成することはなく、これも Unreal Engine のリアルタイム ワークフローの生産性のおかげだと認めています。

音声と動的な深さを追加する

アフリカからインスピレーションを得た世界に視聴者がより没入できるように、Miguel と Tran はセリフを英語から東アフリカでは一般的に使用されているスワヒリ語に変えることを決めました。これは言うのは簡単ですが実際には大変なことで、実際に Miguel と Tran は、ロサンゼルスでスワヒリ語を流暢に話す俳優を見つけるのに苦労しました。「何百人もの応募がありましたが、誰もスワヒリ語を話せませんでした」と Miguel は言います。

LA で見つからなければ、アフリカの芸能事務所が解決してくれると思われるでしょう。しかし見つからなかったのです。これを解決するため、オーディオブックの翻訳者にナレーションを頼むと、それが大成功となりました。それまでに演技の経験がなかったにもかかわらず、3 人の俳優によるパフォーマンスは Miguel と Tran を驚かせました。今では Miguel と Tran は、スワヒリ語で語られる唯一のアフリカン ホラー アニメーションを制作しただけでなく、それをアフリカの人たちと一緒に作ったと自信を持って言うことができます。

しかし、問題は他にもありました。俳優たちは別の大陸で暮らしていたため、撮影には何千マイルも移動しなければなりませんでした。そこで、Miguel は自身で Mocap プロセスを行い、ヘッドマウントした iPhone と MocapX でフェイシャル キャプチャを記録して、それを後から Maya で修正しました。

一方、Ala と Coa のボディ キャプチャ データは、プロデューサーである Gnomon の構内にあるプロ用のグリーンスクリーン ステージで、Xsens の MVN Awinda のスーツとグローブを使用してキャプチャされました。当初、Miguel は自分自身をキャラクターの仮アニメーションとして記録しましたが、最終的なアニメーションには、以前 The Ningyo でコラボレーションした Kaitlyn O'Connell 氏に協力してもらいました。このことにより、特に若い女性らしさという面で、より正確で本格的な動きが実現しました。
 
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旅を輝かせる

ライティングとレンダリングは Unreal Engine 5 で行い、ライト ブロッカーを利用して環境内のシャドウの位置を操作しました。最終的な結果をより詳細に制御するため、Miguel と Tran は異なるアプローチを採用しました。

彼らはレンダリング パスをオフライン レンダラやコンポジタで生成するそれまでのワークフローとは異なる、未加工のライティング エフェクトとパスを直接、エンジン内でリアルタイムにレンダリングおよびコンポジットすることにしました。それによるメリットは、すべてを 1 か所で行うことにより、簡単に自由と柔軟性が手に入るということです。また、Lumen については、ダイナミック グローバル イルミネーション ライティング機能が以前のオフライン レンダラに似ていますが、作業品質はさらに向上したため、特に役立つことがわかりました。
 
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リアルタイムに関する重要な情報

このプロジェクトを終え、リアルタイム アニメーションでさまざまなことを試した今となっては、もう古い方法に戻ることはできないと Tran は話しています。「特にストーリーテリングのプロセスで時間を大幅に節約することができました」と彼女は語ります。「応答時間、品質、すべてを即時に確認できることなど、本当に高速になりました」
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壮大な山々がそびえ立つタイトル ショットを考えてみます。昔であれば、それを作成するために数週間かかったでしょう。しかし UE5 であれば、ほんの数日です。より少ないリソースでより多く行うことを常に考えている Miguel と Tran のようなチームにとっては、その即時性が作業の意欲となります。

「他のツールでは、ひらめきの瞬間までに時間がかかることがあります。しかし Unreal を使用すると、もっと簡単にその瞬間が訪れるのです」と Miguel は語ります。「そのせいで、また使ってしまうのです」

    Unreal Engine でアニメーションの作成を開始する

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