2015.7.22

メトロポリタン美術館のアダム像、アンリアルで復活

作成 Brian Sharon

芸術を定義するのは難しいことです。本来、芸術は型を破るものであり、多くの形状や形式をとります。枠組みがなければ芸術には制限がなく、手に持つ道具と、それを使う人のクリエイティブな創意工夫によってのみ制約を受けます。

さらに、芸術の一部の側面は普遍的に理解され、時代の流れを超えて生き続けます。そうした驚嘆に値するものとして、Tullio Lombardo 作の味わい深い彫刻、アダム像 があります。この作品はルネッサンス時代 (1455-1532) に作られたもので、等身大のこの大理石像は何世紀にもわたり愛されてきました。文字通り、また比喩的な意味でも、堂々と立つこの像は、この時代の最高傑作のひとつです。

人類の完璧さを表現するものとして称賛されたアダムは神の理想的な人間を象徴していました。ですが、人類は完璧からは程遠いものです。2002 年に Lombardo の完璧な男性像は、不運に見舞われました。この不朽の名作がニューヨークのメトロポリタン美術館の床に大きな音を立てて落ちたのです。木製の台座は像そのものよりも傷みが激しく時代の流れを超えるものではありませんでした。一瞬のうちにアダムは体全体の像から破片に変わりました。

これは “The Met” という名で親しまれている美術館にとってのみならず、アート コミュニティ全体に大きな損失をもたらしました。歴史上の名作が永遠に失われたかのように思えたのです。

事故の責任を償う決意で、美術館はオリジナルの外観と形にできる限り戻すという確固たる決意で像の修復に着手しました。十年以上が経過した現在、Lombardo の アダム像は再び堂々と立とうとしています。メトロポリタン美術館が伝統とデジタル メディアを組み合わせた The Return というふさわしいタイトルで胸躍る復活を計画しているからです。

Adam Screenshot 1

ニューメディア アーティストの Reid Farrington 氏がデザインおよび監督し、ライブ アート シリーズ、Met Museum Presents の委託を受けた The Return ではアンリアル エンジン 4 の IKinema の LiveAction 技術を利用し、デジタル アニメーションとリアルタイム パフォーマンス キャプチャーをブレンドし、アダム の歴史を再現します。

「これはひとつの素晴らしい例です。IKinema とエピック ゲームズは、今後こうした非常にクリエイティブな分野でその役割を果たしていくことでしょう!」

と IKinema の Chief Executive である Alexandre Pechev 氏は弾んだ声でコメントしています。「アダムを復活させることは、類を見ない革新的な取り組みでした。LiveAction とアンリアル エンジン 4 によって要求されるリアリズムの水準を達成できたことを嬉しく思います。」

開発に 2 年以上を費やしたこの展示は、デジタル インタラクションの限界を押し上げます。事前に記録されたマテリアルが全くない状態で、このパフォーマンス全体はライブで生成されます。各見学者はパーソナルでユニークな体験をすることができます。

「私のビジョンはアダムにリアリティーを与え、真にインタラクティブな方法で命を吹き込むというものでした。」「モーション キャプチャーのリグとアンリアル エンジン 4 の IKinema LiveAction を使用することで、リアルタイムでアニメーションを動かし、望んでいたリアリズムの水準を実現することができました。」

Adam Screenshot 2

展示には 2 時間にわたるマテリアルの見事な 14 のシーンがあります。見学者はパフォーマンス中に案内してくれる美術館の「説明員」だけでなく、「デジタルのアダム」ともインタラクションします。複雑なパペット システムを操作するトレーニングを受けた 3 組のパフォーマーが仮想ステージに参加します。このパペット システムでは見学者が直接 Adam に話しかけることができます。パフォーマーは展示の間、実際に一日中パフォーマンスする必要はありません。

「LiveAction を使用してリアルタイムのモーション キャプチャー データを UE4 の仮想環境のキャラクターに簡単に統合できたということが、このパフォーマンス制作の実現につながりました」とアニメーション デザイン コンサルタントの Athomas Goldberg 氏がコメントしています。「LiveAction を使用することで、各パフォーマーからのモーション キャプチャーのデータをデジタル アバターにシームレスにリターゲットできました。当然、後戻りしてたまっているデータをクリーンアップできないため、これは不可欠です。」

Goldberg 氏は、インタラクティブ 3D アニメーション分野で 20 年の経験があります。これには、Electronic Arts、最近では Microsoft のBlack Tusk Studios (現在の Coalition) での仕事が含まれます。このような経験が、この革新的なプロジェクトで貴重な貢献をすることにつながりました。しかし、The Return が彼にこの上ない喜びを与えてくれたのは、ライブ ミュージック、シアター、ダンス向けのライティングと美術デザインで深く根差した経歴があったからです。

「インタラクティブ アニメーションとゲーム テクノロジーに対する私の情熱を、ライブ パフォーマンスへの愛と融合させることはずっと私の夢でした。UE4 がリリースされて、この夢がついに手の届くところにきたことがはっきりわかりました」と Golberg 氏は明かします。

大きな野心的プロジェクトにも関わらず、The Return はパフォーマーを含めて 10 名程度の小さなチームによって制作されました。才能あるアーティストとクリエイティブな技術者が何名かいました。その中で、Goldberg 氏は展示で求められる視覚的忠実度を実現するために必要な難しいハイエンドなゲーム関連技術の経験を持つ唯一のメンバーでした。

UE4 の使いやすさのおかげもあり、経験が少ないチームは迅速にコンテンツ制作にとりかかり夢のパフォーマンスをまとめあげることができました。

UE4 によって我々のアートチームはコンテンツ制作に素早くとりかかり、「エンジン内」でまたたく間にリハーサルできました」と Goldberg 氏は話し始めました。「数年前はこの規模のプロジェクトでは数十名の高度なトレーニングを受けたエンジニアやテクニカル アーティストが必要でした。しかも予算金額の桁は我々が対応可能なレベルを超えていました。」

The Return はアートとテクノロジーが手を取り合って限界を超えて、境界をなくし、分野の裾野を広げる他に類を見ない例です。リアルタイムで作業するライブ パフォーマーによって、我々は歴史と再び向き合い、長いこと忘れていた過去とインタラクションすることができます。アダム像は壊れたかもしれませんが、今日ではかつてないほど生き生きとしています。

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