絶え間なく進化を続ける多数存在するゲームやアプリのエコシステムでは配慮すべきエクスペリエンスに事欠きません。膨大な金額が投じられたゲームとアプリ業界は、コンテンツと競争の両面で活況を呈しています。派手なグラフィックスや気の利いた宣伝文句は大衆を引き付けるかもしれませんが、エンド ユーザー エクスペリエンスに配慮するデザイナーは、ゲームの購買層と本当の意味でつながる製品を生み出します。その結果、デベロッパーの成功につながります。
ゲームとアプリのデザインは非常に重要であるにも関わらず、見逃されがちな開発分野であり、少なくとも然るべき注意が払われていません。
幸いなことに、2016 年 5 月 12 日にノースカロライナ州ダーラムで Game UX Summit が初めて開催されます。このイベントは、業界の最も重要な側面、すなわちエンド ユーザー エクスペリエンスが直面する障害やチャンスに取り組むべく、何もないところから立ち上げられました。最近、エピック ゲームズの Director of UX である Dr. Celia Hodent と、このサミットが非常に重要である理由と出席者のニーズにどのように応えるかについて話をしました。以下がその内容です。
本日はありがとうございます。今回、 Game X Summit が初めて開催されるので、イベントの内容とその重要性をお聞かせください。
基調講演者のひとりである Donald Norman 氏が 90 年代に「ユーザー エクスペリエンス」という言葉を広めました。この分野は業界のデザインとウェブ / アプリ開発に影響を及ぼすようになってきました。UX (ユーザー エクスペリエンス) は、多くの製品をユーザーにとってわかりやすく、使い勝手のよいものにするために寄与してきました。ヒューマン ファクター、ヒューマン コンピューター インタラクション、インタラクション デザイン、ユーザー リサーチ、ユーザビリティなどに関するサミットが数多く開催されています。しかし、私の知る限りでは、UX 全般、特にビデオゲームとアプリの開発を専門とする幅広い UX 分野をカバーしたサミットは今までありませんでした。従って、Game UX Summit は業界内の UX の現状を話し合い、ベストプラクティスを共有し、技術に対する愛と人を引き付けるユーザー中心のエクスペリエンスを広めるユニークな機会になります。
ゲームやアプリという増加の一途をたどる複雑化する世界では、沢山あるコンテンツの中で自分たちのコンテンツを際立たせるデベロッパーの能力に UX デザインはどのような影響を直接及ぼしますか?
成功するゲームやアプリを開発することは、単に機能性やコンテンツだけの問題ではありません。同じ機能や類似のゲーム エクスペリエンスを持つアプリやゲームは無数にありますが、成功するのはごくわずかです。これこそまさに、ユーザー エクスペリエンスがデベロッパーにとって非常に重要なものである所以です。開発プロセスの核に、ユーザーを据えて彼らがどんなものに動機付けられるか、製品とどのようにインタラクションするか、こうしたインタラクションを通して引き起こされる感情を理解します。デザインの意図するものを、ユーザーが最終的に感じられるかを確認します。UX に重点を置いたデザインは、時間とリソースを節約することでもあり、高速なイタレーションとクリティカルな問題をより速く見つけて解決することを通して全体的な開発エクスペリエンスを向上します。
製品が成功を収めるうえでユーザー獲得は重要ですが、継続率も同様に重要です。エンド ユーザーのアクションがデザイナーの意図と一致する楽しい継続的なエクスペリエンスになるために UX デザインはどれくらい重要ですか?
ユーザーにとって魅力的で楽しいエクスペリエンスを継続的に与えることが本当に重要です。これを達成するのは難しいことでもあります。例えば、2013 年の Compuware による研究では、モバイルではダウンロードされた全アプリのうち 80 % を超えるものが一回使用されただけで最終的には削除されています。アプリの削除は、UX が不十分であったことも一因でした。他の例として、無料プレイ ゲーム (free-to-play (F2P) ) があります。ほとんどの F2P ゲームでは最初の一時間で 20% のプレイヤーが離れていくようです。無数の競合相手の中から自分のゲームやアプリを見つけてもらうのは既に難しくなっています。優れたユーザー エクスペリエンスを与えない製品では、熾烈競争のマーケットで生き残るのは至難の業になっています。
プロジェクトの早期に高品質の UX デザインにコミットするということが、開発全体にどのようなメリットをもたらしますか?
UX の原則をユーザー中心のフレームワークに適用することで、問題を早めに見つけ、高速かつ一段と効率的にイタレーションする支援をします。その結果、ゲームやアプリはユーザーの期待以上のものになる可能性が高まります。これは、収益面の増加だけでなく、さらに多くの製品の開発につながる優れたエクスペリエンスを提供することで実現します。
任意の機能の実装前に大きな問題を特定するためにイタレーションする負荷は非常に小さいものですが、ペーパー プロトタイプから初めることもできます。つまり、これが UX デザイナーの仕事です。ペーパー プロトタイプを作り、初心者でテストし、再度テストするインタラクティブなプロトタイプを作ります。最後に、ごく基本的な機能するバージョンを実装し、それを複数回テストします。インタラクションが確定したらアーティストが仕上げをして魅力的なものにしますが、時として起こりうることですがアートと機能がコンフリクトしていないかを確認する最終テストが必要です。面倒に思われるかもしれませんが、実際にはかなり負荷が低く、単純なプロセスであり一段と迅速かつ効率的にイタレーションできます。最終的には時間と経費を節約しながら、プレイヤーにとって一層魅力的なエクスペリエンスを与えることができます。
多くのゲーム / アプリのデベロッパーの間で、 UX デザインは現在、どれくらい優先度が高いと思います?
UX はまだ新しい考え方ですが、ゲーム業界でもトレンドになっています。多くの大規模スタジオではユーザー リサーチは一般的な部署であり、誰もがデータを収集しています。とはいえ、UX に対していまだに多くの誤った考え方があり、特に UX デザインは十分に理解されているとは言い難い状況です。最後になりますが、ビッグ データは紛れもなく重要なものですが、データ サイエンスとデザイン/ ビジネスの仮定を通して、収集したデータを意味あるものにすることはあまり行われません。端的に言うと、UX は成長を遂げているが、ゲーム/ アプリの開発の世界では、その分野はまだ発展途上です。こうした背景から Game UX Summit は知識とベストプラクティスを共有して、UX を推し進める最適な場所になると信じています。
このイベントには素晴らしい登壇者を何人も迎えます。この記事の読者に、登壇者の考えや経験についてご紹介いただけますか?
こうした魅力的な方々をお迎えすることを非常に光栄に思います。このサミットは有名なメンター、熟練ゲーム デベロッパーや著名な学者を招いてUX 分野を幅広い範囲で取り上げます。
Don Norman 氏と Dan Ariely 氏が基調講演を務めます。Don Norman 氏は 90 年代に「ユーザー エクスペリエンス」という言葉を広め、ユーザー中心デザインを推奨してきました。また、デザイナーの必読書、"The Design of Everyday Things" (邦訳『誰のためのデザイン?』) の著者でもあります。
Dan Ariely 氏はDuke University の心理学と行動経済学の教授です。ベストセラー、"Predictably Irrational" (邦訳『予想どおりに不合理』) 」の著者でもあります。この本は我々の決断に及ぼす隠れた力を解説したものです。デザイナーやサービス プロバイダーにとって役立つ情報です。
以下の熟練ゲームデベロッパーもお迎えします。以下、敬称略。Riot Games (Steve Mack )、EA (Ian Livingston)、Massive (Anders Johansson)、Bungie (Jennifer Ash)、Ubisoft (David Lightbown)、 および King (Chris Grant)。彼らは、自分たちが作業したゲームやチームのベストプラクティスとサンプル、UX デザイン、ユーザー リサーチ、アナリティクス、データ サイエンス、UX ストラテジーなどを用いて UX の様々な側面を取り上げます。
ヒューマン ファクター、アクセシビリティ、教育についてお話いただく著名な学者の方々もお招きました。その中には、UX デザイナーであり、アクセシビリティの専門家である Ian Hamilton 氏、NCSU の心理学の准教授である Anne McLaughlin 氏、心理学の准教授であり、遊びを通して子どもがどのように学ぶかを研究している Fran Blumberg 氏、Oxford Internet Institute の実験心理学者であり、ビデオ ゲームに応用される動機付け理論の研究に力を注いでいる Andrew Przybylski 氏、 Sesame Workshop の Joan Ganz Cooney Center のFounding Executive Director である Michael Levine 氏、グローバル ポリシー、教育に関して世界的に著名なリーダーであり、Forbes のコラムニストでもある Jordan Shapiro 氏もやってきます。ご覧のように、内容は多岐にわたり UX の多くの側面を取り上げ話し合います。UX 分野の (さらにそれを超えた) 意見交換、視野を広げ、優れた精神と考えを備えたリーダーと交流する素晴らしい機会です。
サミットの翌日にエピック ゲームズ本社で開催されるマスタークラスの内容を教えてください。
5 月 12 日のサミットだけでなく 13 日にエピック本社で開催される 3 種類のマスタークラスのうちのひとつに参加できるチケットをお勧めします。Jim Brown が Game Design についてのマスタークラスを担当します。Jim は エピックの「Unreal」シリーズと「Gears of War」シリーズでリード デザイナーを務め、20 年という豊富な経験があります。自らの素晴らしい経験に基づき、ゲームデザインと UX の原則とを協調させる方法について語ります。
別のマスタークラスでは、リード デザイナーの Nick Donaldson が、VR と VR 固有の UX の課題についてエピックで開発した VR 体験のサンプル ( Bullet Train や Showdown など) を使って説明します。
最後に、私が UX と心理学の原則、およびそれらをゲーム デザインに適用する方法についてのマスタークラスを担当します。こうしたマスタークラスはすべて 5 月 13 日の金曜日に並行して開催されます。約 4 時間続き、ランチとエピック本社内ツアーも行われます(素敵な UX ラボにも行きます)。
Game UX Summit とマスタークラスで得られる情報や議論で恩恵を受けるのはどのような人でしょう?
私の考えでは、ユーザー エクスペリエンス、ゲームやアプリの開発、ユーザー中心デザイン、GaaS (game-as-a-service)、無料ゲーム、教育ゲームなどに関心がある方々には、今回の Summit は興味深いと思います。Summit では、多様なプロフィール、知識、ノウハウを持った人々が定員 400 から 450 名程度という比較的こじんまりとした会場に集まります。従って、優れた知識を学ぶだけでなく、コーヒーブレークやランチ時に (すべて費用に含まれています) 登壇者や他の出席者とアイデアや意見を交換するチャンスが何回もあります。
Game UX Summit が開発コミュニティにどのような影響を及ぼすことを望みますか?
この Summit が、UX デザイン、ユーザー リサーチ、データ サイエンス、心理学、ゲーム開発という他の分野と連携せずに作業しがちな、様々な分野の既存の壁を打ち破るきっかけになればと切に願います。それぞれの観点から学ぶことも多いと思います。ですから、是非交流を深めましょう!
学生も含めて Game UX Summit チケットに興味がある人は、その入手方法や料金についてどこで調べたらよいでしょう?
イベントのウェブ サイトにすべての情報が掲載されています。イベントにご興味がある方でさらにご質問があれば、どうかお気軽に Twitter (@CeliaHodent) で連絡してください。皆さんのお越しをお待ちしています!
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イベントをお楽しみください。