圧倒的な映像美があふれる長編アニメ映画『Allahyar and the Legend of Markhor』の制作インタビュー
2018年2月13日

圧倒的な映像美があふれる長編アニメ映画『Allahyar and the Legend of Markhor』の制作インタビュー

作成 Dana Cowley

3rd World Studios はパキスタンを拠点とするスタジオで、前回 Unreal Dev Grant を受賞しました。国内外向けの質の高い長編アニメ映画を制作し、大手メディアには取り上げられないパキスタン文化の一面を伝えようとしています。『Allahyar and the Legend of Markho』は、パキスタン北部出身の男の子が彼の友達 Mehru を救うための旅に出る物語。3rd World Studios が初めて手掛けた長編映画です。3rd World Studios のリーダーシップ チームが、トップレベルのゲーム タイトルで積み上げた豊富な知識と経験を活かしてアンリアル エンジンをベースにしたアニメ映画制作ワークフローを開発しました。

『Allahyar and the Legend of Markho』は 3rd World Studios が初めて手掛けた長編映画です。パキスタンで 大絶賛 されたこn映画は、現在グローバルな配信に向けた準備が進んでいます。パキスタン北部にあるフンザ渓谷の壮大な景観の影響を受けた美しい背景をバックに、映画には 100 を超えるキャラクターが映画に登場します。本作品の制作スタッフ数は、アーティスト、アニメーター、エンジニア合わせて総勢 50 名、制作期間は 1 年半です。

長編アニメ映画のレンダリングをゲーム エンジンだけで行った 3rd World Studios の Usman Iqbal 氏が制作過程を語ってくださいました。

まず 3rd World Studios の簡単な紹介をお願いします。創設者とクリエイティブ リードはどのような方なのでしょうか。

3rd World Studios は国内外向けの技術力の高いアニメーション映画の制作を目的として創設されました。 パキスタンの文化と価値を宣伝し、大手メディアに取り上げられない本当のパキスタンを世界に伝えたいと思っています。

創設者である Uzair Zaheer Khan は、映画のディレクターでもあります。Vancouver Film School を卒業後、彼はアニメ テレビシリーズ『Burka Avenger』のディレクターとなりました。3rd World Studios の技術リードおよびクリエイティブ リード達は、全員が複数のトップゲームタイトルや国際放送、あるいはインタラクティブ プロジェクトで経験を積んでいます。

3rd World Studios がアンリアル エンジンを採用した経緯について教えてください。

我々はゲーム業界だけでなく放送業界でも幅広い経験を積んでいます。新しい技術を発掘し、これまでとは異なる制作ソリューションに対して常にアンテナを張り巡らせています。そんな中、驚くべき速さで進化しているゲームエンジンの技術に注目するようになりました。アンリアル エンジン 4 の『A Boy and His Kite』デモが発表された時は大興奮でした。このパワフルなエンジンの驚異的なリアルタイム技術を自分達の制作過程に利用すると、何をどのように改善できるのか。我々は夢中で研究しました。

映画制作に使用するツールセットを 1 年半ほど検討して、公式に映画制作をスタートしました。 従来のアニメ映画用パイプラインを全部見直して、ゲーム エンジンのリアルタイム技術を制作に使用するための要件を満たすようにさまざまな変更をしなければなりませんでした。

この業界で我々に近しい誰もが、映画制作全体へのゲームエンジンの使用に猛反対しましたが、結果は大成功でした。

制作ワークフローについて教えてください。

我々はアンリアル エンジンを映画に必要なライティング、レイアウト、セット装飾のすべてに使用しました。動的エフェクトとビジュアル エフェクトはすべてエンジンで処理しました。そしてモデリングとアニメーションには業界標準ソフトウェアを使用しました。UE4 は PBR ベースのマテリアルに完全対応だったので、これまで使用していたツールを最新のテクスチャリング ソリューションへ切り替える必要がありました。 

『Allahyar』の制作スタッフ数と制作期間を教えてください。

最初のコンセプトから最後のレンダリングまで 1 年半かかりました。 チームはアーティスト、アニメーター、エンジニアで構成され、ピーク時で 45 ~ 50 名でした。

映画の長さと登場キャラクタ数はどれくらいでしょうか?

映画の長さは約 95 ~ 100 分、キャラクター数は、ユニーク キャラクターが 60 ~ 65 で、その変形を合わせると 130 を超えます。 

Allahyar_Pic3.jpg

特に大変だったシーケンスはありましたか?効率かという面で UE4 はどのように役立ちましたか?

この映画の中で最も難しく GPU が集中したシーンは、羽のある鳥と分厚い毛皮で覆われたヤクで構成されるシーンでした。ルック デブを開始した時、タイムライン管理ソリューションはアンリアル マチネのみでしたが、やがて 4.16 のリリースでシーケンサーが追加されワークフローが大幅に改善されました。今ではタイムラインをかなり系統的に管理できるようになりました。スポーン可能なオブジェクト、属性キーイング、マテリアルのオーバーライド、シーケンス ショットの調節も順調に行えています。

一度の撮影で複数のショットを検討し、ディレクターのフィードバックに従ってカメラを変更できるようになりました。 最新版のシーケンサーは高速でさらに安定し、映画制作も終盤に差しかかった頃、シーケンサーが我々の映画制作の恩人であることを実感しました。 

このような大規模プロジェクトにアンリアル エンジンを使うメリットは何でしょうか?

アンリアル エンジンは我々がレンダリングで必要としているものをすべてワンストップで提供してくれます。 

  • マテリアルとライトのある超ハイポリ メッシュをすべてリアルタイムで動かすことができます。 
  • ランドスケープ スカルプト ツールは非常にパワフルなので、オンザフライで変更ができます。最終シーンでも可能です。 
  • 増えてしまったフォルダ、ファイル、アイテム リストの管理には、UE4 のコンテンツ ブラウザ フィルターが重宝します。 
  • マテリアル エディタのパワフルなシェーディング ノードも非常に便利です。 
  • シーケンサーには、シーン、シーケンス、タイムラインを管理するための非常に細かいツールセットが付きました。
  • 技術面では、ブループリントがとても便利でした。

これまでの CG アニメーション パイプラインと比べて、アンリアル エンジンのパイプラインを使うことで創造面にはどのようなメリットがありますか?

アンリアルのビルトイン ツールは、ハイパーリアルから完全に異なるスタイライズドな外観への変更を可能にします。 つまり、リアルタイム機能を使ってさまざまなスタイルのレンダリングを瞬時に検証することができるのです。 

Allahyar_Pic2.jpg

最終レンダリングではどのくらいの FPS で行いましたか?

アンリアル エンジンが映画の最終フレームをレンダリング アウトする場合、ディテール数に応じてシーンごとにレンダリング時間が異なります。  3000 ~ 4000 フレームで構成されている 1 つのシーンを Intel Core i7 6700 プロセッサ内蔵のマシンで NVIDIA GTX 1080 Ti シングルカードを使用してレンダリング アウトする場合、平均して数時間かかります。

アンリアルのお陰で、何か月分ものレンダリング時間を節約することができました。 映画制作レベルの品質ともなると、通常のパイプラインでは 1 フレームにつき平均 3 ~ 4 時間かかる上、複雑なシーンでは急増する可能性もあります。 ですが UE4 を使ったので、レンダリング時間の心配は一切不要でした。 

チームのメンバーはアンリアル エンジンをどのように習得しましたか?

メンバー全員やる気満々でした。アンリアル固有のパイプラインやツールを使い慣れているリード達がオンサイトで彼らの指導にあたりました。さらに、アンリアルのドキュメントとライブストリームは見事に全体を網羅していたので、学習も R&D も非常にスムーズに進みました。

今回の映画制作にアンリアル エンジン 4 を採用した理由は何でしょうか?

この映画の制作に必要なソリューションがアンリアル エンジンにほとんど備わっていたからです。 制作全体のコストと時間を大きく左右するレンダリング時間というものにアーティストは常に頭を抱え、レンダリング時間の短縮のために素晴らしい創造性を犠牲にしてきました。ところが、これまでのパイプラインと比べてレンダリング時間を数分、数時間、その何倍にも短縮してくれたアンリアルのお陰で、我々のアーティストはレンダリングに対する不安から解放されたのです。