2016年9月27日

ロンドンを舞台にした吸血鬼 RPG 『Vampyr』 の世界

作成 Brian Rowe

Dontnod Entertainment は、ジャンルや決まり事に縛られたくないスタジオです。サイバーパンク アクション ゲーム、『Remember Me』 のリリース後、スタジオは高評価を得たアドベンチャー シリーズ、『Life is Strange』 の制作で方向転換をしました。今後、リリース予定のアクションRPG、『Vampyr』 は意表を突いた作品になっています。

ゲームの舞台は変わっても、変わらないものがあるとしたら明確な人格を持ったキャラクターたちを創り出す彼らの才能です。中でも吸血鬼になったかつて人の命を救うことに人生を捧げていた元外科医はとても複雑な人格です。立ちはだかる問題に対処するために、人を殺して強くならなければなりません。

しかし、犠牲者たちは心の通わない家畜ではないのです。過去や感情を持ち、そして犠牲者がいなくなることで喪失感を覚える愛する家族や恋人を持つ人々なのです。善かれ悪しかれ、プレイヤーのアクションは、周囲の町に消えることのない影響を及ぼします。

この魅力的な作品について Dontnod の制作チームにお話しを伺いました。

『Vampyr』、元医師の Jonathan、そしてロンドンを救うためのクエストの物語についてお聞かせください。

Stephane Beauverger 氏、ナラティブ ディレクター - 『Vampyr』 は 1918 年当時を舞台にしたアクション RPG です。Jonathan Reid は、有名な外科医です。欧州での戦争から戻ってきたばかりですが、地元ロンドンは致命的な「スペインかぜ」の流行と戦っていました。帰路の途中で自分の意志に反して吸血鬼になってしまった Jonathan は、誰のせいなのか、ロンドンに何が起こったのか、何故なのかを理解しなければなりません。

前作、『Life is Strange』 のテーマや内容とは非常に異なる本作を制作するのはいかがでしたか?

Dontnod では新作に取り掛かる場合、常にプレイヤーに向けて作る世界観を表現するのに最適なやり方を選んで重点的に取り組みます。我々が作るゲームはすべて特定のテーマに焦点を当てる傾向があるといえるでしょう。『Vampyr』 では、ゴシック文学に登場する吸血鬼の原点に戻りたいと考えました。合理的な科学者が、命を奪う超自然的な殺人鬼になったという二面性をプレイヤーに感じてもらうことに力を入れました。

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Dontnod は、深みのある複雑なキャラクターを生み出すことで知られているますよね。アクションに重点を置いたゲームプレイでプレイヤーとキャラクターとの間で絆を生み出すことは難しいと思いますか?

アクションに重点を置いたゲームプレイの暴力性を、物語とキャラクターの性格に合わせて組み込んでいくことが特に難しいと言えます。幸い、この作品は吸血鬼とプレイヤーが下さなければならない残酷な選択についての物語であり、血、暴力、不思議な能力はこのヒーローのあらゆる面を表すものです。ゲームを通してプレイヤーは暴力にさらされるため、パワフルなやりかたで暴力を表現したくなります。これこそ、ヒーローの運命とアクションを中心としたゲームプレイとの間でつながりを持たせるやりかたです。

このプロジェクトにアンリアル エンジン 4 (UE4) を選んだ理由は?

Nicolas Sérouart 氏、テクニカル ディレクター - 既に 『Remember Me』 と 『Life Is Strange』 を UE3 を使って制作したので、かなり長い使用経験があります。自分たちのニーズに合うようにエンジンをかなりカスタマイズし、変更を加えました。数ある中でも例えば、PBR パイプラインを統合し、独自の FSM スクリプティング システムを作りました。実をいうと、維持管理し、新機能を統合するのがどんどん難しくなってきました。

一部のシステムでは、進化したければ大きな改善を加える必要があるのがわかっていました。例えば、『Life Is Strange』 の場合、Iron Galaxy Studios と Zombie Studios の Xbox One と PS4 のポートを使っていました。当時は非常に満足していましたが、ポートはこうしたコンソールで利用可能なコアを最大限活用していませんでした。次のプロジェクトでは、パフォーマンスを改善するために、エンジンで優れたマルチスレッディング サポートが不可欠でした。

UE4 は我々の将来のプロジェクトに対しては当然の選択であり、投資でした。UE4 を採用するということは、エピックが毎回のリリースで提供する大量の機能を使えるメリットがあり、活発な UE4 コミュニティからの情報も得られます。大事なことは、UE4 への切り替えは以下のような様々なプラットフォームに、事実上対応することになるということです。Linux、 OSX、 IOS、 Android、 DirectX 12、 VR などのプラットフォームです。さらに、ミドルウェア企業からも、よりよいサポートが得られます。

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予想以上に便利だったり、驚いた機能はありますか? それらが制作にどのような影響を及ぼしましたか?

全体として UE4 には多くのパワフルなツールがあり、アーティスト同様、デザイナーにとっても良いワークフローになりました。最大限活用するには、多少の学習と経験が必要になりますが、ブループリントはおそらく最も便利なツールだと思います。

プログラマーにとってはアンリアル スクリプト システムのリリースがあったことで安心したと思います。UE4 では複数のモジュールとプラグインに分けられているため (UE3 のモノリシック (単一) ビルドとは違います)、リンク時間を短縮するのに役立ちました。
チーム全体としては、パッケージ システムをなくして、個々のアセットファイルにしたのは適切な変化だったと思います。過去に UE3 で深刻なパッケージのコンテンション問題が発生したからです。

主人公を吸血鬼にすることで、ゲームのアートと舞台がダークなものになると考えられます。キャラクターや物語が持つ影に埋もれないように、アート制作でどのような決定を下しましたか?

Gregory Z. Szucs 氏、アート ディレクター - これは確かに心配していました。プレイヤーは自由に歩き回り、カメラの向きも変わります。多角的な取り組みをしました。あるアイデアでは、常にフレームのフォアグラウンドにいる主人公とバックグラウンドでコントラストが得られるようにしました。ロンドンの霧は、短距離でも雰囲気作りという点で大いに役立ちました。雨や湿気で、貴重なスペキュラ反射が得られます。

光源を配置する場合、暗い、リムをライティングするシルエットではバックライトを最大限にします。何と言っても、ポスト エフェクト、カラー グレーディングの中で、コントラストを際立たせる Filmic カーブを使いました。

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Jonathan は食事、つまり血を吸うことで自分の能力を素早く高めることができます。スキル ツリーとタレント システム内でこれはどのように機能しますか? 平和主義的なプレイスタイルを選ぶプレイヤーの場合はこうした設定はどのように機能しますか?

Philippe Moreau 氏、ゲーム ディレクター - 血を吸って獲得した XP (経験値) によって、レベルアップして新しいレベルごとにスキルポイント 1 を獲得します。スキルポイントを使って新しい吸血鬼の能力をアンロックするか、既に学習した能力をアップグレードします。

誰の血を吸うかに応じて、様々なレベルの XP を与えられます。もちろん、キャラクターを作成するうえで、プレイヤーを悩ます意地悪な設定にしました。ポジティブな性格、親切、寛大である、あるいは商人など単にゲームプレイ上、重要だという理由から犠牲にしたくないという気持ちになります。当然、こうしたキャラクターは多くの場合、血を吸うと高い XP が得られます。

平和主義者のプレイヤーは、ゲームを進めるうえで葛藤することでしょう。市民を犠牲にしたくなければ、吸血鬼として成長できません。吸血鬼としてプレイすることは、ゲームで大きな部分を占めます。そのため、人間の生活を犠牲にすることが条件になります。吸血鬼としての性質から逃れることはできません。血を吸わないと死んでしまうからです。犠牲が生きていくうえでの基本なのです。

呪われた運命を受け入れたら、それに対処する方法を考えることができます。例えば、自分の平常心を保つために悪者だけを殺す正義の味方としてプレイします。有名なテレビ番組、『Dexter (デクスター、警察官は殺人鬼)』 で Dexter が演じた役に似ています。

Jonathan の医師としての決意は、吸血鬼としての本性と矛盾します。プレイヤーのこうした道徳上のジレンマにどのように対処しますか?

主人公の二面性はゲームのあらゆる場面で表現されています。この二面性がゲームの中心にあります。プレイヤーはゲームの柱である、戦闘、調査、探検をうまくこなすべく努力をします。

基本的にほぼ人間の見た目をした医師として、調査中に出会う人々に吸血鬼としての正体をできる限り見せないようにします。ストーリーの先に進むには人々の助けが必要です。役立つ情報や報酬をあたえてくれるかもしれないため、正体は明かせません。彼らの健康状態を尋ねて治療することだってできます。

最終的に本性を現して血への欲求を満たすように突き動かすのは、進化して強くなりたいという欲求です。

実際、このゲームは自分よりも強い敵に絶えず向き合うようにデザインされています。どの瞬間でも、自分よりも高いレベルの敵に直面すると、来た道を引き返して新鮮な血を求める可能性があります。かつて自分を助けてくれた市民が、こんどは自分の餌食になります。彼らの血のお蔭で、敵と戦うのに十分な強さにレベルアップします。ここで道徳上のジレンマがやってきます。果たして誰を殺し、誰を救うのか?

自分が下す決定によって、どんな吸血鬼になるか、そしてゲーム ワールドがどのように展開するかが決まります。

特に気に入っているゲームの機能はありますか?

進化システムに特に自信があります。敵を殺す代わりに NPC を餌にすることです。他の RPG とは対照的に、すべての NPC には物語、仕事、アクティビティ、関係性、隠す秘密があります。それぞれの NPC が狩りの餌食となる可能性があります。NPC のデスはゲーム ワールドに大きな影響を及ぼします。一定のバランスを維持し、様々な面白い結果を与えるようにデザインするのは難しいことでしたが、とても新鮮なものができたと思います。

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ロンドンを舞台に選んだ理由は? そして、インゲームでロンドンを生き生きとしたものにするために用いたテクニックなどがあったら教えてください。

Gregory Z. Szucs 氏、アート ディレクター - 我々が作り出したロンドンは現実を若干「歴史改変」バージョンにしたものです。多くの部分は、正確に実際のものを表していますが。集められる限り多くの歴史文献にあたり、街の感覚、建造物、道の地形などをできるだけ正確に表すように現地調査も行いました。ロンドンは我々の物語にとって最適な場所でした。吸血鬼伝説のゴシック的、ロマンチックな原点に戻りたいと考えていたからです。舞台を設定するために、窮地に追い込まれた街を考えました。第一次世界大戦中に多くの犠牲者を生んだ街、そしてスペインかぜの大流行で多くの犠牲者を出した街です。産業革命が大きな変化をもたらした場所、偽りの希望や疎外感が生まれた場所です。 ロンドンの地区と社会的階層は非常に興味深いものだと思いました。

『Vampyr』 と制作の情報については、ゲームの公式ウェブサイト をご覧ください。また、 Twitter で @VampyrGame をフォロー、Facebook で Like (いいね!) をクリックしてください。