黒木氏は元々1993年に SNK に入社し、餓狼伝説や龍虎の拳を含む数々のクラシックなシリーズの芸術に携わってきました。その後会社を一時休職されましたが、2014年に復職し、The King of Fighters XIV の芸術に関する指揮を取られた後、2019年のSAMURAI SPIRITS に直接参加されました。
黒木氏はインタビュー中、10年以上もファンが強く待望したサムライスピリッツの新作を作ることに対するプレッシャーについて語られています。また、彼は、キャラクターのバランスを取るためスタジオが行ったことや、ディープラーニングを活用した AI ゴーストを作成する方法についても詳しく説明しています。そして記事の最後では、Unreal Engine への移行と、チームが愛してきたクラシックな 2D キャラクターを美しくスタイリッシュな 3D の世界で再現するために、どのようにエンジンが役に立ったのかについて語っています。 サムライスピリッツ は、シリーズの前日譚およびリブートと呼ばれています。2019年のリリースで達成したいと考えていることについて教えてください。
アートディレクター兼ゲームディレクター 黒木信幸氏:サムライスピリッツは、構想から20年以上経っている IP です。ですから、当然、ネオジオ時代から多くのファンがいます。そして、私たちを支えてくれたファンを大事にするのは当然ですが、シリーズが成長し続けるためには新しい血を入れるのも不可欠です。サムライスピリッツはシンプルでありながら悪魔のように複雑なゲームです。そして、昔からのファンにとってはやりがいのあるものでありつつも、新しいファンにとっては入り込みやすいものを作ろうと努めてきました。
最後のサムライスピリッツから11年が経っています。プロジェクトに対して大きなプレッシャーを感じましたか?
黒木氏:先ほど申し上げた通り、サムライスピリッツは長い歴史を持つゲームです。正直に言うと、シリーズの古参ファンがこの新しいバージョンを受け入れてくれないのではないかという不安がありました。しかし、昔のネオジオのサムライスピリッツに携わっていたデベロッパーたちがこの新しいゲームを賞賛し賛同してくれたときは、とてもほっとしました。このことにより、バージョンのコアの部分が以前と変わらないものになるだろうということ、設計上の選択において正しい方向に進むだろうという自信を得られたからです。

これまでの 13 人のキャラクターと新しく追加された 3 人のキャラクターで、そのデザインとバランスの取り方について、何を工夫されましたか?
黒木氏:正直なところ、元の 13 人のキャラクターのデザインは、設定とバックグラウンドが完全に確立されているため、あまり変更はありません。ただし、20 年前のスプライトから 4K 3D モデルへの移行の間に、当時のノスタルジックな外観を失わないように努めました。そのため、変更された箇所はあるものの、全体的な外観はそのままになっています。
しかし、新しいキャラクターについては、現代的な感性を吹き込み、[fighting game community] の若いメンバーが面白いと感じるものを考え、彼らの感性に沿ったデザインを行っています。
バランスについては、それら新しいキャラクターに特徴を持たせつつも、サムライスピリッツの世界観に馴染むようにしています。新しいキャラクターも、1 回のヒットで HP の 30 パーセント以上を奪うことができます。なので、決して変わっていない要素もあります。
SAMURAI SPIRITS は Dojo を導入しています。これがディープラーニングを使用することで、実際のプレイヤーの AIの「ゴースト」バージョンと戦うことができます。このコンセプトを思いついたきっかけは何ですか?
黒木氏:振り返ってみると、最新で最高のイノベーションとエンターテイメントを組み合わせると信じられないようなものが出来上がると、歴史が常に教えてくれます。例えば、計算機からビデオゲームやリアルタイム 3D レンダリングのオブジェクトへの変化といったことが、仮想空間で何か面白いものを作るのに使われているということが挙げられます。私たちが目指したのは、最新のディープラーニングテクノロジーと楽しいエンターテイメントを組み合わせることです。これらはすべて試行錯誤を繰り返すことで実現しました。
弊社のエンジニアがこのアイデアをゲームに実装し、ゲームプランナーがテストしました。テストには数週間かけましたが、それでもまだ問題はあり、頭を悩まされ続けました。そのため、ゴーストと [これら] 機能は、そうした長期間にわたる努力の賜物です。
サムライスピリッツは、とても深みがあるゲームである一方で、新しいゲーマーにとってもとっつきやすいことで高く評価されています。どのようにしてそのバランスを取りましたか?
黒木氏:サムライスピリッツは、対戦する前に長いコンボを習得する必要がほとんどないため、新しいプレイヤーにとって手軽にお楽しみ頂けるものであると思います。
ただし、コンボなしでゲームをクリアできるわけではありません。ゲームのプロと新しいプレイヤーが同じようにスキルを披露できるようにするために、回避や武器性能の偏りといった要素も入れています。それにより、みんなが一緒に遊んで楽しい時間を過ごせたら、と思っています。

サムライスピリッツには「怒りゲージ」を導入しています。これにより、ダメージを受けたプレイヤーを戦闘中に強くしたり、単一の必殺技にそのゲージ全てを使用できたりします。このメカニズムを入れたきっかけについて詳しく説明していただけますか?
黒木氏:例えば、プレイヤーが Rage Explosion 時のみ「Lightning Blade」を使用できる場合、対戦相手はそのことだけに注目するでしょう。ただし、Lightning Blade や Weapon Flipping Technique を使用するなどといった選択肢もあります。そのため、対戦相手は油断することができません。プレイヤーは Lightning Blade を使用して形勢逆転させることも、使用を控えて攻撃力を高めた状態で戦うこともできます。このシステムを追加したのは、プレイヤーに選択肢を与えたかったためです。
ほとんどのサムライスピリッツ ゲームは 2D グラフィックスを使用しています。UE4 を使用した 3D キャラクター モデルへの移行はどうでしたか?
黒木氏:サムライスピリッツの過去のタイトルで使用されていた 2D スプライトは本当に魅力的なものでしたが、ゲーム業界で注目されるものが変わってきていることから、3D プロ アーティストの需要はかつてないほど [高まっています。]
私たちは、過去のスタイルを再現しようと中途半端なことをするのではなく、最高の 3D グラフィックスを作成して自分たちの出来ることを試すことにしました。そして、実際のところ、UE4 を使用したことでこのゲームの開発はずっと簡単になりました。アセットを作成する際に問題がほとんど発生しなかったことから、アートとテクスチャにさらに集中することができました。UE4 のおかげで、モデルが滑らかで洗練されていることがわかると思います。

サムライスピリッツの特徴は、特に必殺技のような素晴らしい攻撃アニメーションがあることです。こうした見事な視覚効果はどのように作成されましたか?
黒木氏:KOF (The King of Fighters) とは異なり、サムライスピリッツは実際のところ必殺技を決めるのがとても難しく、アニメーションは頻繁にトリガーされません。従って、多少アニメーションを長くしても大丈夫だと判断しました。なので、アニメーションを見るのが退屈になるということはないでしょう。
そして、攻撃アニメーションをほんの少し長くするだけで、とてもなめらかで面白いものになりました。もちろん、長すぎると退屈になることを理解していますので、アニメーションに応じて調整しています。また、プレイヤーにインパクトを与えたいと考えたため、実際に攻撃を受けたときにそれを感じるようにしています。また、それに対して反撃したときも同様にすることで、プレイ時に楽しさを感じられるようにしています。最後に、見栄えが良くなった理由がもう 1 つあります。優秀なアニメーションチームのおかげです!
ある時点では、SNK がよりリアルなビジュアルへ変更を検討していたというのは本当ですか?スタジオは、最終的に完成したアニメスタイルのグラフィックスをどのように決定および開発したのですか?
黒木氏:サムライスピリッツは日本だけではなく、世界中でプレイされているゲームです。そのため、よりリアルな外観にすることを検討するのは合理的といえるでしょう。しかし、開発中のゲームのスクリーンショットをすでに市場に出ている他のゲームと比較すると、私たちのゲームが他のゲームとあまり変わらなくなってきていることがわかりました。そのため、シリーズの良い点として挙げられることの多い「サムライスタイル」が忘れられるのではないかと心配し、ゲームそれ自体を際立たせるものが必要だと判断しました。
その結果、Unreal Engine を使用して日本の伝統的なアートと現代のアニメやマンガのコンセプトを組み合わせることで、今日プレイ可能なサムライスピリッツのスタイルへとなりました。

ビーチ、森林、寺院などの美しいステージでは、ゲームのレベルをどのように設計しましたか?
黒木氏:まず、ステージを設計する際に常に意識していることの 1 つは、それらがただの「きれいな背景」とならないようにしたことです。
格闘ゲームの背景は、キャラクターのように独特なものである必要があります。例えば、赤い空と白い月は幻十郎のステージで間違いなく目立っています。
また、覇王丸のステージは現実には存在しない場所がモデルとなっていますが、富士山、鳥居、海などの日本美術でよく見かける要素が含まれています。ステージに多くの要素を追加することで、それらを明確で新鮮なものにしています。
例えば、プレイヤーが幻十郎のステージで戦ってから家に帰り、ステージのことを「赤い空」と「大きな月」という言葉を使って家族に説明できるようなら、私たちの試みは成功したと言えるでしょう。
こうしたやり方を用いることで、他のファイターと比較して、ステージを新鮮でユニークなものに保つことができると思います。
UE4 がゲームに適した理由は何ですか?
黒木氏:当然ながら、グラフィックやテクスチャを作成するのがはるかに簡単になったということもありますが、本当に便利だったのは、同じソースからの異なるデバイスへのバージョンの作成がとてもシームレスだったことです。少し前までは、デバイスに応じて色とアセットを慎重に変更する必要がありましたが、UE4 では、その作業すべてが事実上なくなりました。

スタジオで UE4 を初めて搭載したゲームですが、エンジンへの移行はどうでしたか?
黒木氏:私はディレクターですが、アーティストでもあるので、そうした立場で物事をよく考えます。そして、既にこの質問に対してある程度答えていますが、簡単に言えば、ゲーム内の忠実度の高いグラフィック アセットのおかげでとても簡単でした。自分がやりたいことを完全に表現できそうだな、と心の底から感じました。
ただし、1 つ言うべきことがあるとすれば、UE4 エンジンは本当に素晴らしいものの、レンダリング品質を落とすことなく、際立って個性のあるアセットを作成するのは依然として困難だった、ということです。
スタジオお気に入りの UE4 ツールまたは機能はありますか?
黒木氏:アセットの整理と追跡がとても簡単なのが良いですね。更新や大量のアセットの管理が簡単ですし、検索機能も非常に強力です。データを探す時に、特に問題なく見つけることができます。
お時間頂きありがとうございました。SAMURAI SPIRITS の詳細についてはどこを見れば良いですか?
黒木氏:こちらこそありがとうございました。詳細は、「サムライスピリッツ の Web サイト」でご確認頂けます。