2016年3月24日

The Artful Escape of Francis Vendetti の世界

作成 Stu Horvath

誰か他の人になってみたいと思ったことはありますか?

ありますよね。誰だって思うはずです。

ステージ上でパフォーマンスしたことがある人は誰でも観客を前にすると別人になるといいます。日常の人格が消え去って、演者と観客との一種のコラボレーションによってフィクションのスターが生まれます。

魔法にかかったようなものです。これこそ、Beethoven & Dinosaur が手掛けた近日リリース予定のゲーム、The Artful Escape of Francis Vendetti の着想の中心となったものです。このゲームのリード デザイナーである Johnny Galvatron 氏はこの分野の知識があります。

オーストラリアン フットボールが盛んなオーストラリアのジーロングで、デヴィッド ボウイ、トーキング ヘッズ、ヴァンヘイレン、プリンス、Devo (ディーヴォ) を日常的に聴いて育った彼がバンドを組むのは当然の成り行きでした。初めてベースを手にしたのは 13 才の時です。その後まもなく初めてバンドを組みました。

いくつかのバンドを経て、ワールドツアーで The Galvatrons のフロントマンを務めていました。数年後には、引きこもって小説を執筆していました。現在はビデオゲーム制作に取り組んでいます。

Johnny は忙しいスケジュールを縫って The Artful Escape of Francis Vendetti とクリエイティブな人々の絶え間なく変わる人格について語ってくれました。

The Galvatrons のバンド活動の経緯を教えてください?

 

私は当時大学でコンピューター アニメーションを専攻していました。卒業から一週間経った The Galvatrons の 4 回めのコンサートの後、ワーナー ブラザーズと契約を結びました。それから 4 年間のことは記憶が曖昧です。ワールドツアーに出ました。スタジアム、大規模フェスなどで演奏し、いくつかヒットを飛ばし、テレビのゲーム番組に出演したり、演奏したりして、ビキニ姿のモデルとレーザータグ (Laser Tag、レーザーの銃を撃ちあう鬼ごっこ) までしました。本当ですよ。Def Leppard とツアーを回り、Kiss や The Police とフェスで演奏し、ロンドンでは Justin Hawkins と一緒にパパラッチに追い回されました。ハロウィーンにストリップ クラブで火災報知器を鳴らしたら、全裸に近いバンパイアが道にあふれました。何回か逮捕されたこともあります。バンドにありがちですが、解散することになり、音楽からは遠ざかりました。私はツアー向きの人間ではありませんでした。その後数年間は小説を執筆し、家からほとんど出ませんでした。

ツアーをやめた理由は特にありますか?

 

ツアーの大変さを一言で説明するのは難しいことです。家族や友人たちと離ればなれになるし、毎日酔いつぶれて大きな気分の浮き沈みもあります。バンドに属するということは待ち時間が 23 時間あるようなものです。本当に。きっとそれが自分には無理だったんだと思います。バス、飛行機、トラックを乗り継いで、薄汚れたホテル、さらに汚いホテルをめぐるんです。

ロックンロールからゲーム開発へと転身したいきさつを教えてください。

 

大学でコンピュータ アニメーションを専攻したもののその分野には進みませんでした。レコード契約締結によって進路が決まったからです。The Galvatrons の活動中と解散後に様々なゲーム サイトやジャーナル向けに記事やレビューを執筆しました。その後、自然にゲーム制作の道へと進むことになったのです。

ゲームのどういった点にひかれてこの世界に戻ってきたんですか?

 

ビデオゲームとの関わりは、音楽への愛と似たような気持ちによるものです。ヘビメタを聴く人々は、クラシック音楽愛好家がストラビンスキーやベートーベンを聴くのと同じ理由、すなわち荘厳なものを求めるから聴くのだという論文を最近読みました。

私のお気に入りのゲームは、Journey (風ノ旅ビト)Kentucky Route ZeroGone Home といった、すべて独特の雰囲気を持った優れた作品です。雰囲気はゲームで最も重要なものだと思います。そうした理由から Sword & Sworcery (スキタイのムスメ:音響的冒剣劇)、広大に広がる Shadow of the Colossus (ワンダと巨像) が好きです。またそのドラッグ トリップ レベルが以後のゲームに影響を及ぼしたオリジナルの Max Payne (マックスペイン) も好きです。

ご自身の大学時代の作品はありますか?

 

ないといいんですけど。

Beethoven & Dinosaur についてお聞かせください。

 

Beethoven & Dinosaur はアーティスト、ミュージシャン、プログラマーからなる小規模集団であり、The Artful Escape of Francis Vendetti を制作するために集まりました。各自がそれぞれの分野で数年の経験を積み、成功を収めていますが、今回の作品は集団として初めて取り組んだプロジェクトになります。注目すべき貢献者の一人として作曲家の Josh Abrahams がいます。Josh は、映画監督の Baz Luhrmann 氏と Ang Lee 氏の映画音楽を手がけたことがあります。

The Artful Escape of Francis Vendetti はどのようなゲームですか?

 

The Artful Escape of Francis Vendetti は、ティーンエイジャーのミュージシャンの話です。ステージ上の人格に影響を与える多次元の旅に出ます。Francis はコロラド州の Calypso の町に住んでいます。今は亡き伝説のフォーク シンガーの甥っ子で、ゲームは彼のデビューパフォーマンスの前夜から始まります。地元の期待が Francis の心に重くのしかかります。繁華街のレストランは大勢の客を見込んでいます。会場のオーナーは Francis がバーを全盛期のように復活させてくれなければ怒り狂うといっています。偉大な叔父、Johnson Vendetti が大酒を飲むファンで店をいっぱいにし、観客を魅了してくれた全盛期のようにです。Francis の親戚たちも、愛する今は亡き友がステージ上で甦るのを待ち望んでいます。問題は、偉大な叔父は、コロラドの自然や川、広大な土地を題材に曲を書きましたがフランシスは星たちに囲まれて曲を作り、曲調が違っていたことです。

ショーの前日、Francis は Calypso の同窓生であり、ライティング エンジニアとして働く Violetta に出くわします。彼女は Francis に助けになりそうな人を教えてくれます。Lightman’s Telescope and Reptile Emporium の経営者である Lightman です。スターのプロデューサーであり、音楽に深い造詣があります。彼のショップはさえないダイナーの中にあり、ジュークボックスから Victor Young の “The High and the Mighty” の音楽が流れて、元の場所に戻ります。ここの人々が Francis を Calypso の古びたものの背後に潜む世界に導き、新しい人格に影響を及ぼします。

トレーラーのビジュアルはすごくシュールですね。何にインスパイアされたんでしょう?

 

何でも与えられるのではなく、Francis は閉ざされた多次元の道を進むことになります。高校時代の数学の教科書のように数字であふれているけど別世界の冒険への想像力をかきたてられる世界にしたかったんです。幅広い混沌としたカラー パレットがほしいと思いました。あらゆるロジックを無視したランドスケープやクリーチャーです。

The Galvatrons のバンド時代の経験が、The Artful Escape に影響を与えていますか? Francis にどの程度、自伝的要素が反映されていますか?

 

そうですね。The Artful Escape of Francis Vendetti は私が高校時代に音楽業界に対して抱いていたイメージに近いと思います。魔法の世界への扉が突然開き、その先に宝物があるような世界です。別人になる解放感を表現しようとしているのかもしれません。

Francis の叔父さんがフォーク ミュージシャンだというのには驚きました。どうしてフォークを選んだんですか?

 

このゲームは、幻想的リアリズムを持った sci-fi ゲームです。フランシスがパフォーマーとしてアーティストとして成長する姿を中心に制作されています。内気で戸惑い気味のティーン エイジャーのミュージシャンの考え方を変えていくのです。Francis には、Glam、 Ziggy Stardust、 Ace Frehley のようなキャラクターになってほしいと思いました。コロラドを舞台にすると、当然の流れとして叔父はジョン デンバーやボブ ディランのようなフォーク シンガーという設定になりました。Francis は、叔父の音楽は日常生活の中から見出したものだが、自分の音楽は空想の世界のものであると気づきましたが、それはそれでいいと思いました。

Unwinnable.com の第一回の Revving the Engine インタビューは、Dead Static Drive のデベロッパーである Mike Blackney を迎えて行いました。彼もオーストラリア人であり、Kentucky Route Zero がお気に入りで、米国を舞台にゲームを作っています。ゲームの舞台に米国を選んだのは何故でしょう? 米国が持つ文化的重みがオーストラリアにあると思いますか?

 

それはいい質問ですね。アメリカ人は他の西側の英語圏の文化が抱く米国への憧れを理解できないと思います。我々のポップ カルチャーのほとんどは、米国からきたものです。だから、オーストラリア人の心の中では (無意識でも)、アメリカは夢の世界なんです。ほとんどの物語が起こる場所です。ビートルズがアメリカ人のアクセントで歌うのに少し似ています。若い頃、スティーブン キングの小説を沢山読みました。その登場人物の多くは、コロラド (特にボルダ―) に住んでいるか、そこを通りすぎていきました。ですから、そこに神秘的なものを感じるんです。

Kentucky Route Zero (KRZ) と言えば、The Artful Escape のいくつかの要素はこれによってインスパイアされたとまでは言わないものの何らかのヒントを得たのでしょうか (閉ざされた魔法のような道路、シュールなビジュアル、音楽に重点を置いたなど)? この考えは合っていますか?

 

意図的ではありませんが、実際に Kentucky Route Zero はお気に入りです。似たようなものを参考にしたからでしょう。文学におけるマジカル リアリズムへの愛を共有しているのかもしれません。私にとっては、村上春樹、David Mitchell 、China Miéville を意味します。

村上春樹の 『ねじまき鳥クロニクル』 では登場人物は道を進み井戸に潜っていきます。一方、『海辺のカフカ』 では、登場人物は不思議な別世界との境界にある山奥の小屋を訪れます。また、『IQ84』 では、タクシーを途中で降りて高速道路の非常階段を下りて他の世界に入っていきます。村上作品の登場人物たちはジャズやクラッシック音楽にも親しみを持っているようです。

David Mitchell は村上春樹のニューウェイブの作家と呼ばれていて、その著書で、Cloud Atlas の Robert Frobisher などのミュージシャンを印象的に描いています。私の人生でお気に入りの本である、David Mitchell 著の Number 9 Dream の主人公、三宅エイジが、第一章でジョン レノンの真似をする短いシーンがあります。明らかに、The Artful Escape of Francis Vendetti に影響を与えたのは私の音楽体験です。

Mitchell の作品もシュールなアドベンチャーであり、同じ物語の中でスタイル、トーン、声などが頻繁に変わります。Chine Miéville は秘密のドア、隠された世界、都市の中の都市など私の趣味を完璧に表しています。

なぜアンリアル エンジンを選んだのでしょう? The Artful Escape は (Dead Static Drive のようなものも)、「アンリアル エンジンっぽい」というタイプのゲームではありませんよね。

 

アンリアル エンジンの素晴らしい点は、すぐに使えて見栄えが良いことです。アセットを作成し、シーンに入れてみて、いくつかライトをつければ、半分ほどできあがります。実に素晴らしいです。スプライトも非常にうまく処理し、マスクも見栄えよく仕上がります (他のエンジンでは深刻な問題でした)。スプライトはシャドウをキャストし、受けます。何もかも素晴らしいです。3D シューティング ゲームの見栄えをよくした機能は、The Artful Escape のビジュアルを作り上げたアセットと同じです。エンジンに起因する課題は、まだ取り組み中です。現時点では十分な 2D アセット、特にアニメーションがありません。こうした問題に対処したり、更新を待つのはやっかいですが、エンジンを新たな方向に推し進めています。うまくこなすために大変な仕事をする準備をしなければなりません。

Dev Grant 受賞はプロジェクトにどんな影響がありましたか?

 

受賞によって、Kickstarter で広範囲のプロモーションをする前にゲームプレイに多くの労力を注ぎ、システムを制御する時間がかなり増えました。時間をかけることで良いゲームは素晴らしいゲームに変わります。

受賞は本当に夢のようでした。ゲームの制作をしていてアンリアル エンジンのアプリケーションの起動画面のインターフェースに Unreal Dev Grants の案内を見つけました。どんなゲームかを説明し、どこまで作業が進んでいるかを書いた電子メールを送りました。数か月経って、受賞を知らせる電子メールをもらいました。一週間後には賞金が口座に振り込まれていたのです。

 

The Artful Escape of Francis Vendetti の Kickstarter キャンペーンが今週終了します。このプロジェクトに対するチームのビジョンを実現する支援をするために、ゲームのページ をご覧ください。

 

Unreal Dev Grant のUnwinnable とのパートナーシップ  で詳しい情報をご覧いただくことができます。この記事のようなコンテンツをさらにご覧になるには Unwinnable を購読してください。