時刻は午後 3 時 27 分。この調査系スリラーゲームの中であなたに与えられた時間は 4 時間です。23 名の命が奪われたテロリスト攻撃をきっかけに、イギリス政府は市民の自由を脅かしかねない、とんでもない法律の制定を試みています。あなたはこの騒動を担当する記者として、ゲーム内で発生する事件にリアルタイムで対応します。イギリス市民の運命はすべてあなたにかかっているのです。責任重大です。
White Paper Games は 2015 年に 1 作目となる『Ether One』をリリースしました。1 作目で習得したアンリアル エンジン 4 による開発のノウハウを生かし、2 作目の 『The Occupation』 では非常にユニークな体験を創り出しました。アンリアル エンジンで学んだ教訓、使用するメリット、政治色たっぷりのアドベンチャーゲーのひらめきのきっかけなど、9 人で構成されるチームの中から 5 人のメンバーにゲーム制作の裏側についてお話を伺いました。
『The Occupation』 は White Paper Games の 2 作目のプロジェクトですね。1 作目の『Ether One』 の開発を通して、2 作目の取り組みをスムーズにさせてくれた大切な事は何でしょうか?
Pete Bottomley 氏 (Game & Narrative Designer):『Ether One』で自分達がしてしまったミスを特定することです。これが『The Occupation』の開発アプローチを決める上で重要なステップとなったことは間違いないです。たいていの場合、チーム内のコミュニケーション、生産パイプライン、開発の範囲と予算などの一般的な問題はほとんどのプロジェクトで発生することだと思っています。重要なのは 2 回目は同じミスを繰り返さないこと。そうしなければどんなに慎重にプロジェクトを計画しても問題の発生を減らすことはできません。それを念頭に置きながら、強力な開発パイプラインを作成し、成果が倍になるような要素も組み合わせて、自分達が勝負できるものは何かを理解することができたのだと思います。
5-10 名規模のスタジオで 2010-2015 年の間に数多くの小規模なスタートアップをしたことで、2 作目のゲームの作成方法が今分かるようになってきました。1 作目では絶対に気が付かなかったような難しい問題がたくさん含まれています。例えば資金繰りです。プロジェクトを完成させるための資金が十分ではないため、必死に予算を をやりくりする人は多いと思います (コーヒー 1 杯であっても預金残高を確認したくなりますよね!)。何か行うために最低 20% 増しで工数を見積もるべきであれば、我々は 40% にすべきであると考えました。こうしてゲームの要となる部分に集中することができました。開発関連の決断をする場合、「もし簡単にしたらどのように見えるのだろう?(Ferris, 2017) 」 を思い出しました。 MVP (Minimum Viable Product) などのビジネス用語は創造的な部分を排除している感じがするので気にしないことにしました。その代わり、主要なマイルストーン (週次の開発の見直し) に集中して、短期的な実行が可能でゲームに大きな影響を及ぼす 3 つの要素を特定することにしました。このアプローチを始めたのはつい半年前ですが、オンラインでプレイヤーを 要素に向かき合わせる開発において大きな助けとなりました。

ゲームはリアルタイムで進行します。プレイヤーにどのようなプレッシャーを与えてゲーム体験に没入させるのでしょうか?プレイヤーがくだす決断は非常に重大で今後の展開に大きな影響を与えます。かなりのプレッシャーを感じることになりますか?
Steve Lee 氏 (Game Designer): リアルタイムでゲームのキャラクターとイベントをシミュレーションすることは非常に面白いです。 我々デベロッパーにとってはかなり変わった挑戦 ですし、プレイヤーにとっては 一般的なゲームとは異なる動作方法を体験することができます。我々が気を付けた点は、時間によるプレッシャーのかけかたです。プレッシャーを一定にかけ続けることで、プレイヤーがワールドを探索し、ゲーム システムを試したり、ナラティブで自分の道を見つける時間が足りないと感じるようにしました。これがまさに『The Occupation』の醍醐味です。潜在的な問題に陥らないようにしながら、我々がリアルタイムという特性に求めるものを確実に生かすようにしました。
リアルタイムに求めていたもののひとつが没入感です。プレイヤーは、ゲームのワールドとキャラクターが自分のいる世界を超えて 存在し動いているように感じることができます。没入感はプレッシャーを作るためではなく、 ゲームの進行中に仕掛ける意味のある選択肢、面白い状況、枝分かれした物語の結果を、プレイヤーにとって自然な形で登場させることができます。
ただしゲーム中に特定の回数で行わる任意のキーイベントもあります。調査のためにプレイヤーがスタッフメンバーと一緒に該当施設で開催するインタビューなどです。予定された会議と会議の間の過ごし方はプレイヤーが決めます。本当に起こっていることを人々に直接問いかける絶好のチャンスである会議に確実に参加しながらも、裏でこそこそと新たな手掛かりを探し回ります。そしてその手掛かりもまた、興味深く、意味のある選択肢がダイナミックにそれらしく登場するのです。まったく油断のならない、興味深いゲームです!
『BioShock Infinite』、『Thief』、『Deus Ex』、『Dishonored』 などの超一流タイトルはチームの壮大なインスピレーションの現れだと言われる一方で、メンバーが 9 人の少人数チームですと、何が実現可能なのか現実を見つめる必要があると言われたりします。壮大なアイデアとインスピレーションを持ちながらも、自分達が管理および到達可能な目標に合わせて小さくした時はどのようなお気持ちでしたか?
Pete Bottomley 氏 (Game & Narrative Designer): 大作を作り上げたチームを我々は心から尊敬しています。彼らが達成したことの 10% でも実現できれば我々にとっては偉業です。こうした大作は自分達が遊びながら育ったゲームでもあるので、ワールドのビルトやストーリーテリングを通して完全に没入することができるゲームなのです。部分的にですが、少人数のチームでもこのような大作のゲームを実現することはできます。アンリアル エンジンのブループリント システムを使うと、ゲームのフローに簡単にアクセスしてすぐに確認することができます。ゲームプレイの構造をすぐにプロトタイプして、成功した部分と失敗した部分の確認ができます。達成が少々難しいのはタイトルの最終品質だと思います。9 人のチームの場合、最も影響度が大きいと思われる事に時間を配分しようとする時が最高に難しいです。ある種の制約 (たとえば、限られた範囲のゲームプレイだけを修正するなど) を課すと、プロジェクトの使用変更に振り回されることはなくなります。
本当はフィクションであるにも関わらず、『The Occupation』で描かれるナラティブは現実世界に沿っています。『The Occupation』の制作と開発に意欲をわかせたのは、歴史上または現在の特定の出来事でしょうか?
Nathaniel Apostol 氏 (Audio & Narrative Designer): 特にこの出来事というのではなく、歴史全体からのインスピレーションでした。一般市民と政府が戦うこともあるという考えは、過去の人類の歴史において共感を呼んでいます。この点に我々は興味を感じました。しかも、善と悪の境界が曖昧です。ある人にとって道徳的に正しいことが、別の人にとっては間違っているということです。
移民や強制送還の問題に取り組む場合、一般的に偏見がどのように起るのかを調査します。国の総意はどのような要因によって分かれるのでしょうか?歴史を見れば、人間は、人間の集団の何かについて、(正しくても、そうでなくても) 信じたものを確信するようになった事例がたくさんあります。一般的に人間は、グループまたはクラスに分類された時に人間がもつ最低な部分が自然と現れます。
このゲームを見れば現在の政治情勢とよく似ていることが分かります。数年前に開発を始めて以来、我々の主題と現代の問題の結びつきは強まる一方です。ただし、プレイヤーに対して正直に申し上げるならば、このゲームは現在の政治問題とはまったく関係ないですが、同時にすべて関係しているとも言えます。
『The Occupation』の AI の信頼性を可能な限り高めるために曲線パスシステムというものを導入したそうですが、これはどのようなものですか?また、すべてを統合するにあたりアンリアル エンジン 4 が果たした役割について教えてください。
James Burton 氏 (Character & Technical Artist): 曲線的パスはノンプレイ キャラクター用のアニメーション レイヤーのひとつです。リアルな感じの動きを出すためにキャラクターが Navmesh 上に描画された実際の AI パスから外れて移動できるようにします。つまり、キャラクターは Navmesh パス上の点から点へ移動する時、パスから反れて曲線的な方向転換をを行うことができます。キャラクターが一定速度で次の nav ポイントの方へ方向転換するという、アンリアル エンジン 4 のデフォルト設定を利用しました。これを使って、キャラクターが次のポイントに向かって方向転換する時に パス上をきちんと移動するのではなく、キャラクターの前方にあるベクターの方向へ移動するように AI に指示します。結果、キャラクターは指定ポイントの位置にくるまで方向転換し続けます。
曲線的パスを AI が使うタイミングを知るため、また不測の事態を考慮するためには多少の計算が必要です。これについてはアンリアル エンジンのブログで詳細を説明しています。こちら をご覧ください。
アンリアルは基本的な作業をほとんど行ってくれるのでとても楽でした。我々の場合、原則としてゲームを動かすためのコードを少しだけ追加しました。またアニメーションのレイヤーを追加して、AI が次に転換する方向を向くようにしたり、見た目の改善を行いました。驚きだったのは、我々のアニメーション システム全体の中で、C++ コードの追加または編集が必要だったのはこの部分だけだったということです。その他のレイヤーはすべてアニメーション ブループリントで行いました。アニメーション ブループリントは非常にパワーのあるツールで、自分達のゲームに最適なものが見つかるまで、数多くのメソッドをあれこれイタレートして試すことができます。
『The Occupation』の美しさはグラフィックスを少し見ただけで分かります。アート スタイルで『The Occupation』と比較されるもののひとつが『BioShock Infinite』です。『BioShock Infinite』からは直接的な影響を受けましたか?ゲームのビジュアルの方向性はどのように決めたのでしょうか?
Oliver Farrell 氏 (Environment Artist):『The Occupation』は『BioShock Infinite』のアートスタイルの影響を直接は受けていませんが、Bioshock ゲームの中ではワールドが常に没入感たっぷりに作成されています。これらのゲームは『Dishonored』と共に、プレイヤーに対してどこまで詳細な背景を提供し、どれだけ多くのナラティブをワールドに盛り込むことができるのかということを示す前例となりました。
『The Occupation』のアートスタイルは 1 作目の『Ether One』から自然な形で進化しました。『Ether One』のワールドは、ラインワークの統合してほぼトゥ-ン (セル) シェーディングにして、ローポリ モデルとハンドペイントのテクスチャで構成されています。このアートスタイルが作成されて、少人数のチームでも素早く作業を進めることができました。これが最初の作品だったので全力で作業しましましたが、 我々が作りだせるものには限界がありました。
『The Occupation』を完成させた今、我々はアーティストとしては成長したと感じていますが、以前として少人数のチームが直面する限界 と戦わなければなりませんでした。ハンドペイント テクスチャを継続して使用しましたが、『Ether One』に使ったラインワークは取り除きました。ペイントスタイルをラフネスとメタルネス マップに統合して、全体的にペイント感が維持されるようにしました。平坦なサーフェイス上でより詳細なモデル と 法線マップを組み合わせて『The Occupation』に鮮やかさが増すようにしました。
『The Occupation』で使用したライティングとポストプロセスは、ゲームのビジュアル品質に大きな役割を果たしました。ポストプロセスを使ってワールドにユニークな外観を追加し、冷たく不安定な感情、といったワールドのナラティブが反映されるようにしました。ライティングはワールドの色調を出す上でとても重要です。ゲーム オーバーを固定期間に設定することで、ゲームの各ステージで照らす光のレベルの調節がしやすくなりました。ゲームは午前中に始まるので、プレイヤーがさらに心地よさを感じるように、パワーを感じて思わず何かしたくなるようなライティングにしました。1 日も終わりに近づき、ゲームもクライマックスに差しかかると、不安な色調と暗めのカラーパレットを多く使うようにしました。プレイヤーに与えたい感情の波を調節することができ、ナラティブでは便利な方法です。
『The Occupation』はアンリアル エンジン 4 を採用した 2 つめの作品です。エンジンの知識を身に着けた後、今回は開発が楽になりましたか?
Pete Bottomley 氏 (Game & Narrative Designer): 新設されたインディーが不得意なことの 1 つは、既存のコードベースの再利用とリファクタリングだと思います。彼らはゲームとコードベースを非常に頻繁に変えているように思います。我々もこの点については大反省してます。前作の『Ether One』からコードの再利用はほとんどしませんでした。我々は慎重にした結果、『The Occupation』には時間をかける選択をし、 2 年という歳月をかけて発表に至りました。そして幸運にも 1 作目のタイトルの売上によって、今後スタジオで手掛けるプロジェクトに再利用可能なコードの基礎を作成する余裕ができました。さきほど説明した AI 移動システムなどがそうです。ワールドで AI に異なるタスクを与えて実行させる方法をその時々のゲームプレイと一緒にコード化して、今後のゲーム タイトルで再利用できるように構造化するのです。次のタイトルに向けて今我々はこの作業に取り組んでいます。2 作目で学んだ内容を踏まえて次作はより一層うまく開発できると思っているので、コードをまとめるだけでゲームをリリースすべきなのかという議論はもちろんありました。私個人としては、各ステージで着実に進化するlことが我々のアプローチの成功への道だと思っています。
『The Occupation』の当初のビジョンを振り返ってみて、アンリアル エンジン 4 はビジョンの到達にどのように役立ちましたか?便利だったツールはありますか?
Pete Bottomley 氏 (Game & Narrative Designer):『Ether One』の制作を開始した 2010 年当時、我々はゲーム デザインを作る上で制限がありました。自分達に分かることは、アンリアル エンジンを使用すること、それ用の UDK を持っていることだけでした。『Ether One』はコアなメカニック設定の一人称ナラティブ ゲームで、キャラクターもなければアニメーションもほとんど使っていませんでした。チームにはコーダーも、キャラクター アーティストもアニメーターもいませんでした。求めるゲームの制作に欠けている人材を雇う代わりに、我々はチームの各メンバーが専念したい作業を行うことでゲーム デザインの基礎づくりにつなげました。こうした「ウォーキング シミュレーター」ゲームは技術上の制約を元にして作成されているので、限られたツールセットだけで最高の物語を提供します。しばらくの間プログラマもいなかったので、プロトタイプにはすべて Kismet (UDK に含まれているビジュアル スクリプト システム) を使いました。『Ether One』は、我々がこれらの制約に従い、制約の中でできる限りの仕事をした賜物でした。
『The Occupation』の作業を開始した 2015 年にはアンリアル エンジン 4 にも慣れていたので 『Ether One』を UDK から PS4 向けのアンリアルに移行しました。こうして我々は、ブループリント、AI、ビヘイビア ツリー、アンリアルのシーケンサー、ペルソナと PBR といった非常に視覚的な新しいツールを自由に使えるようになりました。この時点でも我々のチームにはプログラマーやアニメータがいませんでした。チーム 4 名で半年ほどかけて、新たに作成されたコンストレイントの基礎となる新しい機能をすべて学習しました。キャラクター アーティストは 1 名いたので 7 つのキャラクター セットを作りました。ゲームプレイ デザイナーはたった 1 名だったので、お互いがインタラクトする体系的なモジュラー システム作成の道のりは長いように思いました。ワールド内のほとんどの音楽は物語風にプレイしたかったので、固定時間長のコンストレイントを使って、新しい Audio Occlusion ツールでリアルタイムでワールド全体でプレイすることができるラジオステーションを作成しました。
『The Occupation』の情報はどこで見ることができますか?
ほとんどの主要なソーシャル プラットフォーム上で White Paper Games を見つけることができます。直接連絡をご希望する場合は こちら から連絡先をお知らせください。お待ちしております。