ローグライクな宇宙 3D シューティング ゲーム Everspace 制作ストーリー
2017年9月27日

ローグライクな宇宙 3D シューティング ゲーム Everspace 制作ストーリー

作成 Stu Horvath

 Everspace はどんなゲームですかと問えば、Everspace ファンはこう応えるでしょう「『Freelancer』と『FTL』が愛し合って生まれた子供なのさ!」。ファンのひいき目を差し引いたとしても、確かに Everspace はよくできた新しいタイプの宇宙ゲームと言えます。ナラティブとローグライク スタイルの両方を採用し、手軽に楽しくプレイできるものの、そう簡単には勝たせてくれません。

Rockfish Games のコア メンバー の Michael Schade 氏と Christian Lohr 氏は親友です。2 人は、学生だった 80 年代から美しいデジタル画像を作成し、やがて 90 年代にはドイツの大手 CGI スタジオの 1 つでゲーム エンジンを使って建築ビジュアライゼーションを手がけるようになり大活躍しました。その後 2 人はモバイル ゲームスタジオ Fishlabs Entertainment に移り、『Rally Master Pro』 や『Snowboard Hero』など大ヒット タイトルを開発しました。彼らの最高傑作は、あのスペース コンバット シミュレーション ゲーム『Galaxy on Fire 2』です。2 人はモバイル ゲームの可能性を先取りしてはいましたが、マーケットが無料ゲームへ移行し Fishlabs が業績悪化に陥ることは読み取ることができませんでした。やむなく両氏は PC およびコンシューマーゲーム向けのインディー開発に乗り出しまして、Everspace は見事なカムバックを果たしました。

Everspace は Xbox One / PS4 向けに Steam で好評発売中です。現在 Rockfish Games では、約 10 時間に及ぶゲームプレイの追加に伴い、新たな宇宙船、武器、クエストライン、キャラクターを含む大規模アドオンに取り組んでいます。10 月のリリースに向けた多忙なスケジュールの中、Michael Schade 氏がゲームの誕生および制作について語ってくれました。余計な前置きは省きましょう。Everspace の壮大な制作ストーリーをじっくりお楽しみください。

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宇宙シミュレーションを開発しようとした動機、その魅力について教えてください。

我々は 2004 年から 3D スペース シューティング ゲームを制作し続け、『Galaxy on Fire』 ではプレイヤー数が 3000 万人を突破しました。『Galaxy on Fire 2』および HD 版が広く普及したのを機に、ファンのみなさんの期待に応えるべく PC およびコンソール向けの開発を決めました。さらに、コア メンバーが全員『Wing Commander』と『FreelancerPlus』の大ファンだったので、EVE Online、Elite Dangerous、No Man’s Sky、Star Citizen などのビックタイトルは立ちはだかりますが、このジャンルに入り込む余地はまだまだあると感じました。

宇宙シミュレーションの人気が、特にインディーで復活していますね。そもそも宇宙シミュレーションの人気が落ちた理由は何だったのでしょうか。そして今なぜ復活の兆しを見せているとお考えですか?

1990 年に Chris Roberts が美しい 3D ゲーム体験を始めて PC で実現した『ウィング コマンダー』がすべての発端だったと思います。90 年代半ば、コンソール第 6 世代で GPU が PC に搭載され、『Star Fox 64』、『Colony Wars』、『Descent and Rogue Squadron』など、素晴らしい 3D 宇宙ゲームが続々リリースされました

これには明確な理由があります。レンダリング パフォーマンスに問題があるとしても、ポリゴンを美しい背景の正面の 3D 空間の周りを移動させれば見映えのするゲームが作れるようになりました。しかも、ファーストパーソンやサードパーソンと違って、キャラクター アニメーションを心配する必要がありません。100 MHz CPU、GPU などなく、画面解像度 128 x 128 ピクセル、ゲーム全体の最大ファイルサイズ 350 KB に対応する必要があった 2004 年に、我々が Sony Ericsson / Nokia phones 向けの『Galaxy on Fire』の開発を始めたのも、じつはこのような理由からなのです。

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PC と第 7 世代コンソールのレンダリング機能が急速に改善されて、最新のゲーム エンジンと 3D デザイン ツールがタッグを組んで、ファーストパーソン シューティング ゲームはあっという間にスペース シューティング ゲームを出し抜きました。ファーストパーソン ビューでは、6DOF と全角度から接近する敵が存在する 3D 宇宙空間において、戦闘機のかわりに飛行機が使われているため、複雑さが緩和され方向性も改善されて、プレイ時にイマーシブな体験が味わえたからではないでしょうか。

その時代の最後のメガヒット作は、おそらく『Freelancer』でしょう。その後も素晴らしい宇宙ゲームはありましたが、ヒットに結びつくことはなく、パブリッシャーはこのジャンルに見切りを付けました。皮肉なことに、『Elite:Dangerous』、『No Man’s Sky』、『Star Citizen』が売上を伸ばし、特に 『Star Citizen』はリリース前時点の収益が 1 億 5000 万円を超えたにもかかわらず、確固たる自信を持ってEverspace プリアルファ版を 2 年前にパブリッシャーに持ちかけた時、宇宙ゲームに対する抵抗感は少しも変わっていませんでした。

それでも、宇宙ゲームには確実に広いファン層が存在します。このニッチな層を大手パブリッシャーがかなり長い間避けていたので、インディーがそこを引き受けるのは時間の問題でした。結論としては、10 年間で 3000 万人以上のモバイル プレイヤーが『Galaxy on Fire』を楽しんでプレイしてくれたのですから、我々の目の付け所は悪くなかったのと思います。もちろん Chris Roberts、David Braben、Jean Murray もそのように考えていました。

宇宙シミュレーションにローグライク スタイルをなぜ取り入れようと思いましたか?意外な選択肢のように思いましたが、実際にゲームで見ると抜群の相性を発揮しましたね。ローグライク メカニクスのどのような点に魅力を感じましたか?

我々のコアチームはローグライク ゲームをたくさんプレイしており、いつの間にか大ファンになっていました。ローグライクの宇宙 3D シューティング ゲームというものがまだ存在していなかったので、他の宇宙ゲームとの差別化を図るために絶好のエレメントだと思ったのです。ローグライク ゲームのほとんどは 2D レトロ グラフィックスを使ったインディー作品なので、我々も視覚的な魅力を武器にして新しい何かを提供することで、これまでローグライクをプレイしたことがないプレイヤーを含めて、幅広い購買者層を引き付けることができると感じました。

ローグライク メカニクスで我々が一番好きな点は、ランダム化とプロシージャルな生成によって得られる高いリプレイ バリューです。常に違う状況に放り込まれるので、ゲーム メカニクスを習得し、状況に対するベストな方法の理解をどんどん深めて腕をあげることができます。ローグライク ゲームでは、決断力の速さと即興性が要求されます。ハラハラドキドキしっぱなしなので、疲れてぐったりしますが、難しい状況をクリアできた時の爽快感は格別です。

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ローグライク エレメントに対してナラティブをどのように合わせましたか?

Everspace は遠い未来の話なので、何度も命を落とすゲームにぴったりのクローニング テーマを選びました。プレイヤーはクローン パイロットとなって何度も蘇りますが、コースは実行ごとに宇宙を分割した中から新しく生成されます。Everspace ではローグライク エレメントを説明する必要はありませんが、たまたまそれが我々の伝えたい物語に合っていたので、うまく両方使ったというわけです。

プレイヤーは、死んで蘇るというループを繰り返しますが、プレイヤーが出会うキャラクター達は違います。プレイヤーの使命の本質だけでなくプレイヤー キャラクターの過去が徐々に明らかになるように、フラッシュバック シネマティックスと連動させて、プレイヤーの動きに合うように出会うキャラクターを慎重に配置しました。

一定のローグライクに含まれるロジックの意味合いを利用して、ナラティブの構造体内でそれらを説明するのです。Sci-Fi ではしっくりくる方法のように思いました。

見事な宇宙空間に圧倒されました。どうすればこのような視覚的効果が出だせるのでしょうか? 

ロー スペックの携帯からパワフルなスマートフォンまで、かれこれ 10 年以上も 3D スペース シューティング ゲームを作成してきたので、魅力的な宇宙空間をつくるコツは心得ていました。そして同時に、『Elite:Dangerous』や『Star Citizen』など、豊富な予算と数百名のデベロッパーが作り出すフォトリアリズムに対抗しても意味がないこともわかっていました。それよりも我々が重要視したのは、武器の発砲、大爆発、自然災害などに鮮やかな色、そして目を見張るようなビジュアル FX を使って、アーケード スペース シューティング ゲームのキャラクターにぴったりのアート スタイルを作ることでした。プレイヤーがすぐにアクションを起こしたくなるような衝動を与えるにはどうすべきか。そこで大きなヒントとなったものの 1 つが『Guardians of the Galaxy』でした。

セクターごとにユニークなパレットを使って、宇宙のファンタジーをさらに美しく解釈することにしました。太陽系ごとに 3 つまで太陽の色とセクターの支配ティントを定義します。ローグライクの典型ですが、各セクターのジャンプ ターゲットはプロシージャルに生成されたレベルで、様々なタイプの背景、惑星、星雲、小惑星、宇宙ステーション、難破船、その他にも重要な点が組み込まれています。

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これらのアセットは、特定のルック&フィールを作り出すために厳しい規則に従って結合されています。素晴らしい外観を作り出すために、すべての 3D プロップを標準的なアート パイプラインで作りました。最初は非常に大ざっぱなコンセプト アート サムネイル、続いていくつかのバリアントとプレイテストの複雑さを持たせた 3D ブロックアウト モデル、ヒーローアセットの詳細を定義するコンセプト アート オーバーペインティング、各種シェーダーのテクスチャとマップを作成する 3D ハイポリ メッシュ、最後に 5 つの LOD を使ったインゲーム ローポリ モデルです。

最新の GPU をフルに活用して、最高のビジュアル FX の作成にもかなり力を注ぎました。ここではアンリアル エンジンのブループリントが大活躍しました。Lead and Technical 3D Artist の Marco Unger は、GPU パーティクルをレンダリングするために、あれこれいろいろな種類のシェーダーを楽しんで結合させていました。まるでこの先どうなってもいいかのように。彼が実際どのようにして作ったのかは全くわかりません。ただ、彼の作業デスクのそばに行くと、モニターの中にはいつも素敵なものが見えました。UE4 では最高の VFX を作成するデザイン プロセスが非常に速いので、プリプロダクションの必要がほとんどありません。

そのプロセスはサウンド デザインでも同じですか?

ゲーム開発では、サウンドに対するこだわりがとても低いです。心を奪うサウンド体験は目を見張るようなビジュアルと同じくらいゲームにおいて重要だと我々は考えています。スペース シューティング ゲームでは周囲を取り巻くものがないため、例えばエネルギー兵器や弾道ミサイルを発射シーンするなら、外観よりもサウンドはなおさら重要になります。悪者どもが大爆発で吹っ飛ぶ時に「ドッカーン」という爆発音がなかったら、とても間抜けな感じがしませんか?確かに「宇宙では爆発もなければ音もしません」と気の利いたコメントもありだと思いますが、ジョージ ルーカス氏が聞いたらどう思うでしょうか。

Everspace のサウンド デザインはこのような基本事項はもちろん、他にもいろいろ考慮しています。Sound Director である Gero Goerlich は 10 年以上一緒に仕事をしています。スペース シューティングを依頼することが多いのですが、彼は魅力的な現実世界のサウンドの調査に莫大な時間を費やして、武器、宇宙船のエンジン、シールドチャージ、ダメージの大きさ、警告メッセージ、ピッという音一つ一つが正しくなるまで、我々のサウンドスタジオで徹底して調整し、それを電子サンプルに合体させました。Everspace で使われたサウンド数の合計は、ユニーク サウンドが 900 以上、 60 以上の独自に編集したミュージック トラックは 60 を超えます。そのほとんどは、ゲームの進行に合わせてリアルタイムでブレンドされました。

過去の作品は主にモバイルが中心でしたが、インディーへ移行しようと決めたきっかけは何でしょうか?開発プラットフォームの移行はいかがでしたか?何か貴重な教訓などありましたか?

インディーになる予定はありませんでした。当時働いていたモバイル ゲーム スタジオの経営状態が悪くなり、我々は必死にモバイル ゲーム業界での激変に適応しようとしました。自分が得意なこと、本当にやりたい事は何か、どんなチャンスがあるのか。そのようなことを腰を据えてじっくり考える間もなく、スタジオを辞めなければならなくなりました。

モバイルから PC への移行はスムーズでした。『Galaxy on Fire 2』で PC と Mac 版を作っていたことがあるので、どのようなものが期待されているのか何となく分かっていました。それぞれのデバイス専用エンジンを最強のプラットフォームのハイエンドなクロスプラットフォーム エンジンへの切り替える時は、とても興奮しました。モバイル用レガシーのお陰で、修行を積んで、こうして小さな一歩を踏み出すことができたのだと思いました。切り替え後は、一気にパワーが増え、同時に責任も増えました。PC とコンソール上のゲーマーはグラフィック上のミス、クラッシュ、パフォーマンスの不安定さに対してはモバイルゲーマーに比べて寛容ですが、別の種類の品質レベルを求めます。結局のところ、開発プラットフォームが何であれ、良いアイデアを楽しみと最新のゲームという形にするのが我々の使命なんです。

思いのほか便利だった点、または難しかった点はありますか?

2004 年にモバイルゲームを開始した頃は、3D モバイル ゲームの開発に利用できる技術などありませんでした。我々は独自の 3D モバイル ゲーム エンジンを作らなければなりませんでした。機能は非常に剛健でありながら、パフォーマンスはかなり最適化されていました。スマートフォンのパフォーマンスが急速に向上し、我々のような小規模エンジンチームはアンリアルの特性と機能に遅れまいと必死でした。アーティスト達は懸命に頑張ってくれました。我々が契約した大手パブリッシャーがライセンスを所有していたため、我々はそれまで使っていた技術にお別れして、結局はアンリアル エンジン 4 を使うことになりました。後から考えて見れば、これは我々に起きた最も嬉しいことのひとつでした。

アンリアルを使うと、まったく異なった作業経験をすることになります。メッシュ、テクスチャ、マテリアル、UI エレメント、コード、ブループリントなどがすべてエンジンの中に統合されているのです。Play を押すだけですぐにテストができるので、反復サイクルが非常に短くなります。リリース ビルドのクック回数が多くなり、そこでしか発生しないバグもあるので、変更が反映されて問題が修正されたか確認するために半日待つこともざらでした。

エンジンのアップデートはもろ刃の剣でもあります。素晴らしい機能をがたくさん追加され、バグも修正されますが、同時に新たなバグも導入されたり、我々のリファクタリングを必要とする操作方法が加わる場合もあります。新しいバージョンへのプロジェクトの移行前は、だいたいもたつきます。

アーティストが自分ひとりで実行できる機能の多さには驚きました。テクニカル アーティストは小さなブループリントがあまりに楽しく構築できるので、みるみるうちに腕を上げて、今では自分 1 人で複雑なブループリントを作ることができるようになりました。ブループリントにはあまり関わりたくないと思っているアーティストでさえも、アセットの仕組みを最低限は理解しており、小さな問題を修正することができます。専門オペレーターしか使えない専用ツールを複数台使用することを考えると、大きなメリットです。

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この一連の記事シリーズはエピックのアンリアル エンジン 4 の寛大なスポンサーシップによって実現しました。毎月、Unreal Dev Grant (アンリアル デブグランツ、開発支援プログラム) の賞金受賞者を紹介します。エピックは我々にインタビュー対象を紹介してくれますが、最終版の記事へのフィードバックや、記事の承認には関っていません。